冥津之国 1
ぐっと涙を飲み、地獄に来て一年。無事私たち白装束達は、戦士になった。
あのあと、駐屯地で集団寮生活を始めて、前世の知識でいうなら、自衛隊のような生活が始まった。
朝起床のラッパではなく、上官の怒号で起きる。朝食は、硬い乾燥した、私には理解できない何かを食べて、訓練場まで走る。訓練場では、自衛隊だと銃の訓練とか、何かを救助する訓練とかだけど、ここでは違う。訓練場というのは名ばかりで、実際は森だ。しかも魑魅魍魎が蔓延る、もはや現世の森とはかけ離れた魔境に投入される。一週間。そうして、駐屯地へ帰るという生活を、ずっとしていた。また、勿論脱落者もいて、生存率は約八割だ。
今日は初陣だ。
戦が楽しみで仕方ないという、血走った目を抑えきれずに、上官が怒鳴る。
「野郎ども、お前らは今日が初陣だ」
「命を削って祖国に貢献しろ」
「「はい」」
「よし」
私たち常闇ノ國は、世界全体で見ると、吹けば飛ぶような小国で、その小国が隣国の冥津之国に侵略戦争を仕掛けるというのだから、私たちが派遣されるのは当たり前である。
戦が始まる。この獄雷川が、二つの国の国境線で、相対する二つの軍隊。川の蒼きと紅き空に見守られる。さらさらと流れる川のような静けさに一石が投じられる。
バリバリバリバリ
うちの上官の雷が冥津之国の軍に突き刺さる。
圧倒される轟音が響き渡る。
必然。始まりの合図となり、二軍が突進する。
私は、馬に跨っている敵の中将首をもぎ取りに、川へ一直線に向かう。
私は周りとは違い、水の魂印と無属性の魂印を結び、自分で作った水渡の術をし、私しか使えない専用の足場で、味方より足早に敵軍へ近づく。そして、無属性の魂印で、身体を強化する。
敵軍は相手の中で抜きん出て近づいてくる私に、集中砲火を浴びせる。火の玉が飛んできたり、投げ槍が投げられてきたり、見えない風の矢も飛んできたりしたが、全て水の魂印で盾を作って防ぐ。
「あの、自ら抜きん出てきた阿保を撃ち殺せっ」
自らの焦りを隠しきれない様子で、敵将が叫ぶ。
複数の鉛玉と、矢が飛んできたが、私は私に飛んできた全てを刀で叩き切ったつもりであったが、少し見逃していて、一発の鉛玉が頬をかすめてしまったようだ。
唖然とする敵軍を尻目に、悠々と川を渡り、風の魂印を結び、風の足場で敵軍を飛び越える。そして目的の中将の近くまで行く。水の斬撃を飛ばして、首を掻き切ろうと思い、斬撃を飛ばしたが、流石に一筋縄では行かなかった。
ガキンッ
魂のエネルギーを乗せた剣に斬撃はへし折られたようだ。敵兵が、自然と中将の近くの空間をあけて、私と中将との一騎討ちが始まる。
刀と剣とを構えて、それぞれの刀身が空の色を写す。
互いに示し合わせたかのように、刀と剣を振りかぶり、目にも止まらぬ攻防が始まる。
中将が、馬に乗って風を切って来る。私も走り、剣と刀が相まみえ、鍔迫り合いを演じる。キリキリと力が拮抗する。が、均衡はすぐに崩れる。中将の馬があまりの力によろめき、剣もよろめく。今だ。今結んでいる、無属性の魂印により多く魂力を注ぎ、この隙に中将の腹部を捉えて、グサッとはならないようだった。中将は剣の腹を使い突きを逸らした。隙だらけの私を見逃す訳はなく、中将は剣を振りかぶり、
グサッ
私の鎧の肩の関節の隙間に、剣を叩きつけて、叩き切る。
私の肩から、血が吹き出る。虚ろになる視界。私はこの程度で死ぬのか。このたった一合の如きに倒されるのか。もし、ここで諦めてしまったらどれほど楽なのだろうか。この戦場でぐったりと寝そべって、死力を尽くして戦った、名誉の士として死ねるではないか。
傷口が一際強く痛む。
いやまだだ。まだやれるのに弱気になってどうする。中将はふらつく私を見て少しばかり油断をしているだろう。要は心意気だ。魂を燃やせ。
再び中将はこれを好機だと油断したのか、馬で突進してきている。あえて私は動かず、剣と鍔迫り合いをするのを避けて、その相手の勢いで首を掻ききる。
勝負は決したようだ。
中将の生首からは声にならない叫び声を発しているような顔をしている。近くにいた兵は唖然として、もはやその場から一歩も動けず、ただ統率の取れないただの鳥合の衆へと化す。
この生首は、それこそ万金に等しいと言えるだろうが、こんなものを集めて一体どうするのだろうか。私には特に魅力的に見えないが、それこそ相手の剣刀を奪ったほうが金になりそうな気にもなる。
なかなか傷口が痛むと思いつつ、どうでもいいことを考えながら私は一時撤退する。




