1-2 元「神童」の青年
サトウヨワシです。
後付けとかあるんで大変だと思います。
どうぞお楽しみ下さい
少しだけ太陽が登り始めたときに俺は目を覚ました。光が窓から俺を刺してきたのだ。眠気はないが、体を起こすことに少し抵抗がある。だが、再び眠りにつくことを許さない存在がいつの間にか俺の部屋に侵入っていた。
「早く起きてください、朝食の準備はしておりますので。」
俺に呼び掛けるこのメイドは、朝になると必ず俺を起こしに来る。そして、いつもの言葉を投げ掛けてくる。
「クラウド様、少しはデュラン公爵家の一員としての責任を感じてください。弟君のレオ様は既に学校に向かう準備が出来ております。」
朝から小言ばかり言われるが、これが1年以上続けばなにも感じなくなる。むしろ、余裕すらも持ち合わせている。
「太陽神に愛されている勇者様と巷では姉妹に欲情している噂が流れているクズを比べないでくれ、勇者様に失礼だろ。」
俺が軽く返答すると、メイドは相変わらず冷めた表情で何かを呟いている。おそらく、俺に対する文句だろうが気にしてはいられない。
「朝飯はいらない。学校に向かう途中で、ルムトの店に寄るから。」
「では、速やかに学校へ向かう準備をしてください。昼食を用意しているので、ランチ時にお召し上がりください。」
「それもいらん、毒でも入っていたら面倒だからな。」
いつも通りの会話を済ませ、外へ出る準備をして部屋を出る。玄関に向かう途中で、他の使用人が俺に殺意のこもった視線を指してくる。仕事をしながら出来るなんて、さすが公爵家の使用人達だ。器用で有能な人間しかいない。
そして、玄関につくと魔動車が準備されている。だが俺のために用意されたものではなく、姉妹に用意されたものだ。俺は、魔動車の横を通りそのまま学校に向かう。
あの鳥籠のような建物から出れただけで、足取りが軽くなった。1時間位歩くことなど造作もない。それに学校で俺が所属しているクラスは、遅刻をしても評価に響かない。なので、飯を店でゆっくり食べても誰にも迷惑をかけないのだ。
ルムトの店であるローベリーは、ルムトが趣味で営む最高に男心くすぐる秘密基地のような場所だ。朝と夜は開いているが、昼は閉まっている。
ルムトが気に入った客しか入れないようにするためだ。いわゆる一見さんお断りということだ。
店に着くと、ルムトが挨拶をして来る。
「おはよう、いつもの肉サンドとオレンジジュースは用意しているよ。」
「助かるよ、もう腹が空いていたんだ。カウンターに銀貨置いていくよ。釣りは邪魔だからいらない。」
「毎度のことだが、君は無駄を嫌うんだね。人間味溢れていて、僕はおもしろいと思うけど。」
「俺は怠惰ですぐ人に発情する色情魔らしいからね、面倒なことはしたくないんだよ。」
「噂っていうのは怖いね、僕やルーベンスさんみたいに君の事情を知っている人は一切信じることはないだろうけど。王宮の人間達が、噂を否定していないから広がっているだろうし。」
「俺はどうでもいいがね、そもそも噂が流れているのは、俺の努力不足だろう?後、王宮の人間は大抵忙しいからな。しょうがないことだろ。」
俺は癖の強い店主と話しながら、
塩と胡椒のシンプルな味わいの肉サンドを頬張る。口の中に残る油をオレンジジュースで流し込み、体全体に浄化魔法を使う。
「相変わらず使い方が貴族らしくないね。生活魔法を使いこなすのは庶民の多い冒険者や傭兵だけだろ。」
「俺はプライドがないからね、使えるものは全部使う。貴族様どものように余裕がある訳じゃないしな。」
「ランチはどうする?こっちに来て食べるのかい?」
「いんや、買い食いするよ。東の道路で屋台の種類が増えたんだよ。しかも、珍しい異国の調味料が使われているらしい。楽しみだね。」
俺は世間話?をしながら、店を出る準備をする。これから学校に向かうと考えるともう少しここに居座りたいが、ルムトや他の客の迷惑になる。重い両足を無理矢理あげて、店を出る。
無心になって歩いていると、いつの間にか校門の前に到着している。ここで校門を堂々と歩くのは、馬鹿か天才のすることだ。俺は、馬鹿なので校門を堂々と歩く。
いつものゴミみたいな視線を感じながら、教室に向かう。教室に向かうと教室前の廊下で悪友達と会う。この悪友達とは同じEクラスでもとくに長い付き合いである。そして、成績はほとんど最下層でもある。実質Fクラスと呼ばれている俺ら6人組は、一部の教師以外からは嫌われている。俺の評判もそれの一つだが、俺らが不真面目な態度だというのが大きい。
「君が最後だね、色情魔クン。」そう悪態付くのは、紅い髪が特徴のナディア·ルールだ。この女はルール伯爵家随一の天才炎魔法使いと呼ばれていたが、努力を嫌うとても残念な性格をしている。授業に対する態度が悪いという理由で、成績は下がる一方だ。それでも炎の魔法の扱いは現役の魔道部隊の隊員を凌ぐほどだ。
「お前が学校に来るか来ないかで賭けをしてたんだぜ。結果は俺とミストの勝ちだったから不機嫌なんだよ。」俺の肩に腕を回しながら嬉しそうに話す男はサウス·シトロエン。シトロエン侯爵家の三男であるこいつは、身体能力が高く近接戦闘が得意である。だが天は二物を与えず。こいつは頭がすこぶる悪いのと、魔法の才能が無い。
だから、実技100点筆記無効という極めて稀な結果で入学試験を合格した残念な人間なのである。
「貴様は遅いんだよ、この俺様ですら授業中には来ていたぞ。」この上から目線で話しかけてくるイケメン野郎はプラン·バイスマン。バイスマン公爵家の次男で槍術の名門で育ったエリートである。この男は珍しい人間で、成績自体は悪くない。入学早々にこの学校の槍術部で乱闘騒ぎを起こしたので、素行不良と判断された。性格は傲慢だが周りからは『不器用な優しさがある』『悪い人間ではない』とかなり信頼されてる。あとモテる。
「でもそれがクラウドだよネ、自由気ままだから見ていて楽しそうだし。」俺に対する態度が柔らかいこの女は、ティファ·ネッシモ。ネッシモ商会の唯一の女性であり、こいつも問題児である。こいつの恐ろしいところは、金に関する事に強いことだ。実際にコイツは入ってわずか2ヶ月で学校内に言いなりの配下を持っている。どいつもネッシモに金を借りて利息分すらも払えなくなった情けない奴らばかりだ。だから、使い道がなくなるまではネッシモの奴隷だ。おそらく、こいつがEクラスにいるのは生徒会に目を付けられないようにするためだろう。
「私は信じていたからね、クラウドは遅刻はするけど休みはしないことをね。」そして、Fクラスと呼ばれている俺らの中でも唯一まともな女性であり学校一可哀想なこの娘がミスト·アクアである。
この娘は被害者である。アクア伯爵家は美男美女の家族であり、水の精霊王の末裔でもある由緒正しい貴族である。その血を継ぐミストは、学校に入学した時はSクラスでレオと同じだった。しかしミストを見に来る人間が多すぎて、授業の妨げになるという理由でAクラスになった。がそこでも問題が発生した。Aクラスのとある男子生徒がミストの婚約者を自称し始めたのである。そいつの立場が高いこともあり、周りの人間はミストをくっ付けようとした。その異常な状態に気付いた教師陣は、すぐにAクラスから別のクラスに移動させることにしたが移動先に迷った。ミストは誰に対しても心を開かずに味方が出来なかった。唯一親しい友人だったのが同じ伯爵家であるナディアだけだった。その結果、味方がいるEクラスに来たのである。この娘は特に俺に対する態度が厳しかった。それが当時の俺に対する世間一般では正しい行動でもあった。近づく度に魔法をかけられていたし、舌打ちをしたりもされた。未遂に終わったとある事件をきっかけに、態度を軟化してくれるのだが単純で騙されやすいところが危なっかしい。
「遅刻しても誰にも迷惑をかけていない、そもそも誰も俺に対して何のアクションを起こさないだろ。」
「貴様に来てもらわないと困る人間はいるぞ。貴様が知らないだけでな。」
「そんな人間がいるわけねえだろ、お前は嘘を付くのが下手なのがなぁ…」
「悪いところが出てきてるヨ、二人とも顔は悪くないのニ。勿体無いヨ、写真は売れるのニ…」
『なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ、おい。』
「取り敢えず茶番は良いから、教室に入ろうよ。」
「そうだぜ、あんまりユキ先生を困らせんなよ。」
「年上好きがなんかいってるわ。」
「最高だろうがよ、あの太ももは。」
俺らがくだらない話をすると、時間は早く進んでいく。この時間は、俺が休める貴重なものだ。
三時間目の終了ベルが鳴り響くと同時に、俺らは教室の中に入る。俺は一番後ろの窓に近い席で惰眠に貪る。今日は柳のジジイの授業が無いので、自由なのである。ランチで行く予定の屋台の料理を楽しみにしながら瞼を閉じる俺、クラウド·デュランなのであった。
サトウヨワシです。
先にネタバレすると、クラウドとデュラン家は血の繋がりがありません。
そこら辺の経緯は徐々に明かされていきますんで楽しみに待っていてください。
それじゃ、次でお会いしましょう。




