表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ルートを回避した聖女ですが、乙女ゲーム終了後に王太子の再婚相手になりました  作者: 杜咲凜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

19. 大聖女が祈ったもの side エリシア


 エリシアは、恋に強く執着する性質ではなかった。

 誰かを独占したいとか、そばにいてほしいとか、

 そういう感情が、どこか遠い。


 それよりも先にあるのは、困っている人を助けたいという衝動。

 傷ついたものを癒したいという願い。


 ――たぶん私は最初から、人としての感覚が、少し薄かったのかもしれない。


 のちに振り返って思う。

 大聖女として覚醒した際、女神の意識に触れ、その感覚は、はっきりとした確信に変わった。


 学園へ入った理由も、恋や社交ではなかった。

 領地の発展のため。

 民を守る力がほしかった。


 そこで、自分が光の魔法を使い、すべてを浄化できる「大聖女」と呼ばれる力を持っていることを知った。


 嬉しさより、戸惑いが先に来た。

 上流社会の作法も知らず、女神に祈る言葉も拙い。

 どう振る舞えばいいのか、分からなかった。


 そんなエリシアのそばにいたのが、一人の女子生徒だった。

 田舎の子爵家の娘。

 穏やかで、少し距離を置いた話し方をする人。


 ――イネス。


 最初は、ただ話しやすかっただけ。

 けれど、彼女は不思議だった。


 魔を払う術に詳しく、戦い方を知っていて、それでいて、決して前に出ようとしない。

 強いのに、目立たない。

 賢いのに、誇らない。

 手を差し伸べるのに、見返りを求めない。


 だからエリシアは、安心して隣にいられた。


 同じ頃、学園ではよく噂を聞いた。

 「公爵令嬢イネス」の話だ。


 伝説の聖女。

 女神のような美しさ。

 光の力を持ち、預言さえ扱う。

 社交の場に現れても、ひらり、ひらりと誰とも深く交わらない。

 王太子さえ袖にする――そんな話まであった。


 エリシアは思った。

 それはきっと、遠い世界の物語なのだ、と。


 エリシアの隣にいるイネスは、子爵家の娘で、小さな傷に気づいて薬を塗ってくれるような人だ。

 光り輝く「伝説」ではなく、静かに寄り添う、優しい光だった。


 ただ、時折、視線を感じることがあった。

 それは王太子だった。

 気になって、声をかけた。


 さらに時を重ね、王太子と恋愛の話になったとき、

 エリシアは驚いた。


 確かに、彼が「公爵令嬢イネス」に憧れを抱いていること。

 けれど、それは恋というより、手を伸ばすことすらできない光への、敬意に近いものだった。


「近づく自信が、ないのです」


 その言葉が、あまりにも人間らしくて、思わず笑ってしまった。


 完璧な王太子だと思っていた人が、こんなふうに弱さを隠さず話すなんて。


 それから少しずつ、話すようになった。

 彼の弱さを知るたびに、エリシアは支えたいと思った。


 彼を支え、一人の人間として肩を並べて生きていけたら。それが、恋だったのだと思う。


 プロポーズを受けたとき、自分の未来を知った。


 魔を払えば、呪いを受ける。

 長くは生きられない。


 それでも、つかの間でも、愛したかった。

 愛されていたかった。


 だから、結婚した。


 幸せだった。

 本当に。


 けれど、心残りがなかったわけではない。


 もし私がいなくなったら。

 この人を、人として見てくれる存在は、残るだろうか。


 ふと思い浮かんだのは、学園で出会った友。

 子爵令嬢のイネスだった。


 彼女は、魔を払うために協力してくれた。

 戦い方を教え、知識を共有し、決して前に出ず、支えてくれた。


 卒業後、彼女は領地に戻り、旅に出たと聞いた。

 もう会えないかもしれない。


 それでもエリシアは、手紙に書き残した。


 ――もし私がいなくなったら。

 ――ルイ王子と、この国を、

 ――どうか支えてあげてほしい。


 彼女へ向けて書く手紙は読まれるかわからない。

 でも、彼女へ送ろう。

 

 そして、呪いは進行していく。

 最期のとき、一番の気がかりは、ルイ王子だった。


 あの子が、愛されて育つこと。

 父を誇りに思えること。


 そして、願った。


 どうか、この国を。

 ジュエルを。

 心から支えてくれる人が、いつか現れますように。


 それが、エリシアの、最後の祈りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ