表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ルートを回避した聖女ですが、乙女ゲーム終了後に王太子の再婚相手になりました  作者: 杜咲凜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

11.家族として



 その夜の出来事は、王宮に大きな混乱をもたらした。

 表向きには、何事もなかったかのように処理された。


 王子は無事に保護され、王太子妃も軽い怪我のみ。

 しかも自力で帰還した。

 結局、誰が犯人だったのかは、その時点では明らかにされなかった。


 早急に警備体制の見直しが行われ、関係者の洗い出しと処理は秘密裏に進められる。

 それだけ聞けば、よくある“未遂事件”だ。


 けれど、王宮の内側にいる者たちの緊張感は、増すばかりだった。

 あれは、ただの襲撃未遂ではない。


 狙いは明確だった。

 王位継承者であるルイ王子と、その後見となりうる存在――イネス王太子妃。


(……私が、狙われた理由)


 自室の窓辺で、イネスは夜明け前の空を見つめていた。

 状況を整理し、これから起こり得ることを考えていると、眠る気にはなれなかった。


 新興貴族は金鉱を発見し、その資金をもとに商業圏を急速に拡大している。

 力を持ち始めた家系ほど、古参の上位貴族を排除したいと考えるものだ。


 そして同じく古参である上位貴族の中にも、表向きは王家に忠誠を誓いながら、内心ではイネスたちの家を疎ましく思う者がいる。


 (アルデンヌ家。そして、私。)


 政治的に見れば、現在もっとも王家に近しい存在であるアルデンヌ家は、邪魔なのだろう。

 忠臣であり、聖女や魔法士を育成する塔とも深く繋がり、王太子からの信頼も厚い。


(……排除したい、わけね)


 理解はできる。

 理解できてしまうからこそ、胸が冷えた。


 これまでイネスは、できるだけ騒動から距離を取ってきた。

 誰とも深く関わらず、運命にも踏み込まず、

 この世界の決められた流れを、少し離れた場所から見ていればいいと考えていた。


 けれど、今回ばかりは、それが許されなかった。


 ルイ王子の顔が、脳裏に浮かぶ。

 怯えながらもイネスを信じて走った背中。

 そして、心から慕ってくる小さな手の温度。


(……守ると、誓ったから)


 誰に命じられたわけでもない。

 最初は役割として果たそうとした。

 けれど今は、ルイ王子を守りたいという気持ちが、はっきりとある。

 それは親心であり、家族としての想いであり――

 そして、あの人を悲しませたくないという感情だった。


 コンコン、と控えめなノック。


「どうぞ」


 入ってきたのは、ルイ王子だった。

 侍女に付き添われてはいるが、表情はいつもより硬い。


「……イネス」

「どうしました?」


 王子は一瞬、言葉を探すように視線を彷徨わせ、ぎゅっと拳を握った。


「……ぼくのせいで、いたくなった?」


 胸が締めつけられる。

 イネスはすぐに膝を折り、目線を合わせた。


「違います」


 はっきりと、否定する。


「ルイ王子が無事だったから、私は安心して帰ってこられたのです」

「……ほんとう?」

「ええ。約束します」


 王子はじっと見つめ、やがて小さく頷いた。


「……じゃあ」

「はい?」

「また、そばにいてもいい?」


 迷いはなかった。


「はい、もちろんです」


 その瞬間、王子の肩から力が抜けた。

 ほっと息を吐く音が、やけに大きく聞こえる。


 王子が侍女とともに部屋を出ると、廊下の先にジョエル殿下の姿があった。

 何も言わず、ただ立っている。

 けれど、その視線は、先ほどのやり取りをすべて見ていた。


 王子の姿が消え、二人きりになる。


「……眠れなかったか」

 静かな声。


「いいえ。少し気分が高揚してしまっただけで」

 首を振る。


「それに……殿下やルイ王子を心配させたことを、反省していました」


 彼の視線が、わずかに揺れる。


「もう、私だけで判断してはいけないと考え直しました。

 それは、王太子妃として甘かったということです」


「……」


 息を整え、イネスは言葉に力を込める。


「いえ、王太子妃としてではなく――」

「……」

「家族として、ジュエル殿下とルイ王子のために、自分自身を大切にしなければなりませんね」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥で何かが静かに定まった。


 ジョエル殿下はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。


「……君は、美しいな」

「いえ、殿下にはかないません」


 微笑んで答えると、彼は少し照れたように笑った。

 けれど、その目に宿る温かさは、これまで見たことのないものだった。


 これまでは、ルイ王子を守る守護者としての役割。

 だが、もう他人ではない。


 家族として。

 そして、これから一緒に未来を作っていく者として。


 イネスは、ジュエル殿下の傍にいるという決意を、静かに、しかし確かに固めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ