case3 四度の告白《おもい》は果たされる(6)
樹くんに犯した過去の過ちを謝罪したいと言った麻緒ちゃん。
私は確かに彼女の友達ではあったけど、今では樹くんの恋人だ。そんな彼に深すぎる心の傷を付けた彼女を許すことはできない。
きっかけは些細な嘘だとしても、それによって引き起こされた いじめは、残酷にも樹くんを傷付け続けた。
麻緒ちゃんはそんな状況で、恋人として彼に寄り添わなければならない立場であるハズだった。
彼の誘いを断ってまでいじめっ子たちと遊んで、それで好きだなんてどの口が言ってるんだろう?
「麻緒ちゃんが樹くんに負い目があって、そのことについて謝りたいこともちゃんとお話がしたいことも分かったよ。でも、樹くんは麻緒ちゃんと関わりたくないって言ってるの」
「うっ……」
「そんな状況で無理矢理詰め寄ってまで謝って話をして、麻緒ちゃんはどうしたいの?どうして欲しいの?取り付く島もないと思うんだけど……それでも、話がしたいの?」
「……うん」
私の問いかけに俯きながら、麻緒ちゃんがゆっくりと頷く。それではただの独り善がりでしかないことは分かっているのかな……
彼女がすべきなのは話でも謝罪でもなく、そっと樹くんの傍から離れて、彼から来てくれることを待つことだ。
無理矢理近付くことじゃない。
「そうして無理矢理詰め寄って、なにか進展があるのかな?樹くんをいたずらに傷付けるだけにしか思えないけど、それでもなにか意味があるのかな?麻緒ちゃんは、どうして欲しいの?」
「それは……」
答えられるはずがない。だって謝る事で自分がスッキリすることが目的なのだから。
もはやそれは自慰行為に変わりなくて、その先には何もない。
全てが自分なんだ。ただ楽になりたいだけ。
何も答えられない彼女に私は頭を下げた。
「お願いです、これ以上樹くんを傷付けないで下さい……樹くんは馬門さんと関わりたくないって、そう言っているんです。あなたにされた事に深く傷付いたから」
「っ……」
私は彼女の友達としてではなく、樹くんの恋人として "馬門さん" にお願いした。
彼女は苦しそうに顔を歪めるが、かといって否定も肯定もできないようだ。
「樹くんはもう、馬門さんと話がしたくないって、関わりたくないって言っているんです。あんなに怯えて、怒っている樹くんをもう見たくありません。馬門さんの自分勝手な気持ちに樹くんを巻き込まないで下さい……お願いします」
「あぁ……うぅ……」
私の懇願に馬門さんは胸に手を当てながら、少しだけ後ずさりして顔を歪める。
小さく声を出しているそれは呻くように聞こえ、何かしらの葛藤があるのだと思うけど、私は彼女に同情することもできない。
どんな理由があったとしても、許されないことをした人にかける情けなんてないのだから。
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あれから一週間、驚くほどに麻緒からの接触はなくなり、落ち着ける日常を取り戻せた。
奏がヤツになにを言ったのかは知らないが、助かったことは理解できるし、とても感謝している。
今日は休日で、奏とデートの約束がある日なので彼女を迎えに家までやってきた。
家に着く直前にメッセージを送ったためか家に着いてインターホンを押したところですぐに彼女が出てきた。
「おはよう樹くん!」
「おはよう」
扉を開けた奏がキラキラとした笑顔でこちらに駆け寄って来る。彼女の私服は初めて見たが、めちゃくちゃ可愛い。
「──すっごい可愛いね。とても似合ってるよ」
「っ……!ありがとっ♪」
褒められた奏は、顔を真っ赤にしてニッコリと微笑んだ。その笑顔にとても満たされるような気持ちになる。
清楚で落ち着いた雰囲気の彼女に似合った、明るくも落ち着いた色合いのワンピースが魅力的だ。
「樹くんも今日はすごくカッコイイね。いつもカッコイイけど、今日は一段と素敵でドキドキする」
「えっ、あっありがと」
確かに今日は早起きして、奏の隣に立っても恥ずかしくないように姉さんや燈璃にも助言を貰いつつ服装も髪型も決めたのだ。
二人とも頑張ってこいと応援してくれたよ。
「それじゃ、行こっか」
ここで立ち話ばかりをしてはせっかくのデートの時間が減ってしまうので、彼女に手を差し出した。
「うん!」
奏は差し出された手をギュッと握って、それに合わせて俺はゆっくりと歩き出す。
デートプランと言うほどではないが、彼女と二人で行きたい場所は決めてある。
人生で初めてのデートだけど、それを奏と楽しめるのは本当に幸せなんだと思う。
まだ付き合い初めてひと月は経っていないけど、それはつまり彼女との楽しめる事がたくさんあるということだ。
思い返すと、もし四回目の告白をしなかったらこの機会はなかったと思う。
麻緒が俺に近付いてきても、きっとその事に未だに悩んでいたかもしれない。
本当に諦めなくて良かった。
だからこそ、俺は奏を大切にしたい。
四度の告白はこうして幸せの形になったんだ。




