case3 四度の告白《おもい》は果たされる(4)
行為を終えて服を着た後、俺たちのいる部屋にやってきた奏のお母さん。
俺の靴に気付いた彼女は奏に誰か来たのかと問いかけてきた。
もしそれに答えるのなら、俺のことも説明しなければならなくなる。
一瞬の不安に困っていた奏を元気付けるために、彼女の背中に手を添えた。
覚悟を決めた彼女はドアを開けた。
「おかえりお母さん」
「ただいま、あら……こんばんは」
「こんばんは。はじめまして、奏さんとお付き合いさせてもらってます。御堂 樹です」
俺に気付いた奏のお母さんに、ぺこりと頭をさげて自己紹介をする。第一印象は大事だからね。
「はい、丁寧にどうも。私は奏の母です、いつも娘がお世話になってます」
俺の挨拶に返すように、奏のお母さんは頭を下げて挨拶した。
邪険にされたりしないか心配だったが、杞憂だったようで安心した。
「それにしても奏ったら、こんなに素敵な彼氏ができたなら教えてくれても良かったじゃない」
「うぅ、だって恥ずかしかったから……」
奏はそう言って頬赤く染めながら、お母さんから目を逸らす。
照れているその姿がとても可愛い。
しばらくの間、奏と彼女のお母さんと話をしたあとその家を後にした。
家に帰って夜を明かし、その次の日の学校にて、転校生がやってくるという話が耳に入る。
友人たちと話しながら、いったい誰が来るのかとあれこれ話をしていた俺を襲ったのは、最悪な気分だった。
件の転校生というのは馬門 麻緒というヤツだ。中学時代に俺が地獄を味わった、その原因。
再会なぞ当然したくないし、よりにもよって同じクラスというのは非常に気分が悪い。
それから休み時間、ヤツから何度も声をかけられてうんざりしていた。
話がしたい、聞いて欲しいとごちゃごちゃ言ってくるヤツにげんなりしつつ、やっと放課後を迎えて急いで奏の元に向かう。
一瞬でも麻緒の近くにいたくないのだ。
「大丈夫?顔色が悪いけど……」
「大丈夫、ではないかな。ちょっとしんどいことがあって…」
奏と顔を合わせて早々、彼女から心配の言葉を掛けられてしまった。よほど状態がよくないらしい。
「え、何があったの?聞いても大丈夫?」
俺の背中に手を添えながら、奏は覗き込むようにして俺の目を見つめて優しくそう言った。
その優しさが胸に沁みるが、かといって内容が内容だけに言いづらくもある。
「あぁ、んー……」
「樹……」
「げっ」
奏に正直に話そうか悩んでいるときに、後ろから話しかけてきたのは麻緒だった。
絡んでくるなというのに、どうしていちいち絡んでくるというのか。
「え、麻緒ちゃん?」
「あれ、奏ちゃん……?」
話しかけてきた麻緒に気付いた奏が、なぜかその名前を呼んだ。
互いに名前を呼びあっている様子から、決して浅い仲ではないのだろうというのは想像に難くなかった。
「麻緒ちゃん、樹くんのこと知ってるの?」
「そう……だよ。だってウチ、樹と付き合ってたんだもん」
「え……?」
中学時代、確かに麻緒とは付き合っていたがそれは正しい形と認識ではなかった。
少なくとも、その結末は最低だった。
「何が付き合ってただよ、嘘告だったくせに」
「違うよ!ウチはずっと樹のことが……」
「ちょっと待って」
俺の言葉に麻緒が言い返そうとしたところで、奏が半身で俺を庇って遮った。
その背中に安心感を抱き、黒く渦巻いた感情が和らいだ。
「ごめんね麻緒ちゃん、樹くんが困ってるから話はまた後日にしてほしいの。お願い」
「でも!」
麻緒としてもなにやら言いたい事があるのだろうが、俺としてはもう話がしたくない。
少なくとも、今の俺の精神状態は極めて悪く、これ以上ヤツの相手はできない。
「そんなに話がしたいなら、まず私を挟んでくれないかな?直接はやめてほしい」
「うっ……ん。分かった」
奏の言葉に麻緒は苦しながらも納得したようで、顔を歪めながらもゆっくりと頷いた。
彼女を先に行かせ、俺たちは遠回りをしながらゆっくりと家に向かった。




