case3 四度の告白《おもい》は果たされる(3)
観月さんと付き合いはじめ、それから数日が経過した。
家の方向は別なので下校くらいしか一緒にいられないものの、それでも放課後の時間を楽しんでいた。
今日も同じく彼女を家まで送り届けたのだが、その別れ際でのこと。
「明日、良かったらその……静かな場所で二人きりになりたいです」
観月さんは上目遣いでそう言った。その頬は赤く、どこか艶っぽい。
その雰囲気と言葉から、何を意味しているのかすぐに分かった。
「うん、俺も同じこと考えてた」
正直なことを言えば、ずっと考えていた事だ。
俺も年頃の男であるならば、そういった欲があるのは当然だろう。
俺の言葉に観月さんの顔の赤みはより濃くなり、くぐもったような声を出す。
「じっじゃあ明日、学校が終わったらその……良ければ家に来てくださいっ」
まっすぐに俺を見て放たれたその言葉は、もはや意図など探る必要もないものだ。
きっと勇気を振り絞ったのだろう、それが分かるからこそ彼女に対する想いが溢れる。
その気持ちのままに、うん と答えてその唇を塞いだ。
そして翌日、その時を静かに待ち続け、やっとこさその時がやってきた。
いつも通りの一日のはずなのに、妙に長く感じたのは楽しみだからということだろう。
楽しみを前にすると心が浮つくものだ。
「どうぞ……」
「お邪魔します」
観月さんに促され玄関をくぐり、緊張しながらその後ろに続く。
彼女の背中を見ていると思わず抱き締めたくなってしまうが、焦ってはいけないと我慢している。
「ひゃっ!」
「あっ、ごめん……」
……我慢している、していたんですよ。
しかし観月さんを求める気持ちがあまりに強く、その両手が思わず彼女を包んでしまっていた。
「いっいえ大丈夫ですっ。その、私も我慢出来そうにないので……」
それから数分と経たず、俺たちは何も纏っていなかった。
観月さんの部屋にあるベッドに座り、俺の膝上に彼女が座っている。
まだ事は始まっていないものの、一心不乱に互いの唇を貪っていた。
「はぁっ……樹くっんっ……!」
息は荒く、その両手は俺の頬に手を添えながら獣のように、感情のままにしているその様は、普段の落ち着き払った彼女から考えもつかない姿だった。
「観月さん、好きだよ」
「んっ……やですっそれ……」
「え?」
昂った気持ちが抑えきれず彼女への気持ちを口にしたのだが、何故か嫌だと言われてしまった。
驚きのあまり頭が真っ白になってしまったが、次に紡がれる言葉におかしくなった。
「やだっ名前で……かなでってくれなきゃやだぁ……っ!」
胸に顔を埋めながらのその願いは、俺のオブラートの如く薄く残った理性の壁を悉く溶かし尽くした。
彼女を抱き締めて横になり、彼女の耳元に顔を寄せてそっと囁く。
「大好きだよ。奏」
「はぅ……好き、私も樹くん大好き!」
あれからそこそこ時間が経ち、すっかりヘトヘトになった俺たちはずっとキスを続けていた。
恋人繋ぎをして、重なり合ったまま触れ合うようなキスを、余韻として楽しんでいた。
持ってきたソレを一箱全部使い切ることはなかったが、それでも一回一回の行為は強い満足感を抱いたと思う。
ひとしきりキスをした俺たちはシャワーを浴びて、今は奏の部屋に戻って服を着たところだ。
「えへへ、樹くん大好き♪」
「ありがとう。大好きだよ奏」
「やん♪」
服を着た後でも抱き着いてくる奏はいつもより溌剌としている。肌もツヤツヤだ。
付き合い始めてから数日で魅力に磨きがかかった彼女に、俺はどうしようもなく心を奪われてしまっていた。
「……?あっ!」
奏としばらくイチャイチャしていると彼女がいきなり声を上げた。そういえば何か音がしたような……?
「ただいまー。奏、誰か来てるの?」
「あっ、おかえりお母さん!えっとね……」
どうやら先程の音は奏のお母さんが帰宅した時の音だったようで、彼女は部屋の扉をノックして声をかけてきた。
奏は狼狽しながらこちらをチラチラと見ているが、俺たちの関係を隠すことでもないだろう。
そう思い彼女の背中に手を添える。
「あ……」
奏は俺の目を見つめ、 んっ と声を出してコクリと頷いた。




