case3 四度の告白《おもい》は果たされる(2)
ここは校舎裏、観月さんを連れてここに来た。
彼女に想いを伝えて、この気持ちに終止符を打つために。
「ごめんね、いきなり呼んじゃって」
「ふふっ、全然良いですよ」
何を言おうとしているのか、気付いているのではないのかと思う。それなのに、どうしてだ?
なんでそんなに、穏やかな笑顔で佇んでいるんだ……?
「それでね、今回来てもらったわけなんだけど……」
「はい♪」
緊張の瞬間かと言われれば、意外とそうでもない。
存外心は落ち着いているのか、続きの言葉はするなりと出てきた。諦めの心が肩の力を抜いてくれているのだろう。
「好きだよ、観月さん」
「……はい♪」
それは最後の告白。気持ちに一区切り付けるために放った言葉であった。
しかし彼女は、あまりにも魅力的なほどの笑みで頷いた。まるで待ち焦がれていたのかというほどの笑み。
「だから俺と、付き合って欲し──」
「はい、喜んで♪」
……?
一瞬理解ができなかった。今までの告白を断ってきたハズの彼女が、食い気味に頷いたくれたのだ。
嬉しいというより、困惑が強かった。
「今まで断ってしまってごめんなさい。樹くんの告白は嬉しかったんですけどその……私、怯えてたんです。臆病だったから、心の準備が出来てなくて、断っていたんです」
まるで弁明するように、今までの事を話している。突然のことに置いてかれてしまっているが、観月さんの言葉はなんとか聞けている。
「でも、諦めずにいてくれたことがすごく嬉しくて、それで勇気を貰えました……ありがとうございます♪」
そう言ってニッコリと笑った彼女に見惚れ、それでもすぐにはっとした。
諦めていたもんだから、困惑はしたままだが。
「いやその……俺も、嬉しいよ……こちらこそありがとう」
「ふふ……♪」
観月さんの自然な笑みがとても綺麗で、それを見て心が踊るが、思わず後頭部を掻いてしまう。
晴れて彼女とは恋人関係になった訳だが、どうにも現実味がないというか、感じられない。
「樹くんが告白する前から、ずっと好きだったんです。私のことをちゃんと見てくれる樹くんがずっと好きで、一緒に本を読んでいる時間が幸せでした♪」
とても嬉しそうな彼女から語られるソレは本当の事なのかと、嬉しいものの困惑してしまうものだった。
それくらいに諦めモードだったのだ。
「……えい!」
呆然としている俺の腕に、観月さんが抱きついてした。柔らかなモノが ふよんと押し付けられる。
「困らせてばかりでごめんなさい樹くん。でも、日が暮れてしまうので今日は帰りましょう」
「あっ、あぁうん」
彼女は放心状態を抜け出せていない俺の腕を引いて、校門に向けて歩き出す。
その間もずっと腕を抱いたままで、おかげで随分と周囲の視線を集めていた。
それからしばらく歩くこと十分ほど経っただろうか?
観月さんはずっと俺の手を抱いたままだが、突如として足を止めた。
「樹くん。改めて、私はあなたのことが好きです。大好きです……お付き合いしてくれますか?」
それは突然の告白……というより、本当に改めての告白なのだろう。先程のやりとりで互いの気持ちは知っているわけだしな。
彼女の頬はほんのりと赤く、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳は潤んでいるように見える。
彼女からそう言われたのなら、俺の答えは決まりきっている。
「喜んで!」
「嬉しい!」
俺の答えに観月さんはすぐに抱きついて唇を重ねてきた。
目いっぱいに身体を押し付け、しばらくの間動くことはなかった。
彼女はゆっくりと唇を離してこちらの目をじっと見つめているが、離したのは唇だけで身体はそのままだ。
改めてこの状況を理解してみると、今まで小さかった心臓の音が途端にうるさくなった。
なんとなく顔も熱い。
「うふふ……顔が赤いですよ♪」
「まぁ、ね。すっごいドキドキしてるし」
「え?わっ、ホントだ」
観月さんは俺の胸に手を当て、その鼓動を感じそう言った。
「ドキドキしてるなんて、私と同じですね♪ずっとこうしたかったですから♪」
「そっか……俺も、ずってこうしたかったから、幸せだよ」
そう言うと彼女は、声にならない嬉しそうな悲鳴を小さく上げて、俺の首元に顔を埋めてきた。
ぎゅううと抱き締める腕の力がまたつよくなり、当てられたソレの柔らかさがより強く感じられた。
「もう少しだけ、こうしてたいな……」
それは本当に小さな呟き。抱き合っていても尚、辛うじて耳に届いたその声は明確な彼女の意思を宿らせていた。
敢えて聞こえないフリをした俺は、何も言わずにその背中を撫でた。
互いに何を言うわけでもなく、じっとその時間を大切に噛み締めたのだった。




