六十三話 ちょっとした思い出話
観月とは本の話をすることはあったが、話をする回数を重ねていくうちに段々と彼女の胸中や過去のことを聞く機会が増えた。
そういう話から、少しずつ彼女を知るようになって、段々惹かれていったわけだ。
例えば、観月は親の期待に応えるために勉強を頑張っているのだとか。
『正直言うと、大変ですし疲れます……でもお母さんにもお父さんにも喜んで欲しくて、だから頑張れます……まぁたまには息抜きもしますけど』
観月のそんな言葉に俺は " 肩肘張りすぎないようにやればいい " だなんて、そんな無責任な言葉を言ったっけ。
『そう……ですね。たしかに、無意識的に肩肘張ってしまっていたのかもしれません。もし疲れた時はまた御堂くんに話を聞いてもらいたいです』
それなのに、観月は笑いながらそう答えてくれた。懐かしい記憶……でも一年前なんだけどね。
しかし、高学歴で稼ぎのある親に追いつくためにはそれなりの努力も必要で、でもそれが実を結ぶとも限らないし、先の見えないことだからしんどいと思う。
学業にだって専念したくても、変に絡んでくる異性もいるって言ってたし、それもしんどさに拍車を掛けていたんだろう。
ひどく疲れていることが見てとれた。
だから、少しでもその鬱憤を吐き出して欲しかったんだ。だから話を聞いたりしていた。
特定の誰かとそう仲良くならない彼女と図書室にて二人で喋る。その中には本の話が多分にあったけど、たまに愚痴やら鬱憤やらの話を聞いていたのは俺だけだ。
あの時はそれが少し嬉しかったっけ、今じゃどうでもいいけど。
よく彼女は告白される度に疲れた表情をしていた。
『はぁ……また告白されてしまいました。私よりいい子なんて沢山いるのに……』
今考えれば完全に嫌味だが、それでもその言葉は本音だったのだろう。そもそもいい思いもしていなかったから、ただ不愉快だったんだろうね。
そういえば一度だけ聞いたことがあったっけ。
どうしてそこまで告白を拒むのかを。
『だって私は相手のことを知りませんし、それに身体目的なのは分かってますから……せめてそういうのは隠して欲しいですし、もう少し順序を踏んでからそういう事をするべきだと思います。だから、あまりがっつかれるのはちょっと怖くて……』
ということだったらしい。じゃあなんで槍坂と付き合ったんだという話だけど、それについて前になんか色々言ってたな。忘れたけど。
こうして思い返してみると、どうして俺とあそこまで仲良くしていたのかが分からない。
俺だって中学の時の出来事で女性を信じきれなくて、一定の距離を空けていたとはいえ、それでもやっぱり男だ。
異性に対しては人並みに興味があるし、だから観月を好きになった。
俺が彼女をそういう目で見ていないわけがないし、そうなれば避けられてもおかしくなかったわけで、何だかんだ彼女は人を見る目がなかったのかもしれない。
だって俺が告白するまで距離を置かなかった訳だしね。しかもそうなったのも四回目の告白の後だ。
それまでは同じように図書室で会って話をしていたという、なんともチグハグな事になっていた。
それだけ人間ってのは複雑なんだろうなぁと、今になってぼんやりと思う。
去年の文化祭の時期だって、色々と男子生徒に絡まれてはその事を俺にボヤいていた。
一緒に回りたいだのデートしたいだの、文化祭のノリにかこつけて付き合って欲しいだの近寄ってくる連中が出てきたのだとか。
『御堂くんはそういうことがなくて助かります。やっぱり私はこの時間が好きです、落ち着きますから』
文化祭が終わったあと、図書室で喋ったあの時に観月が言っていたことだ。
そんなこと言われれば嬉しくもなるし、その気持ちが強くなれば好きにもなるだろう。まぁ向こうはそんなこと予想していなかったみたいだし、俺の勘違いだった訳だけどさ。笑えるよ。
……と思ったけど、観月は俺の事を好きっていってたから結局勘違いじゃなかったのか。なんだか混乱しそうだな。ますます笑えてくるな。
今年の文化祭はまた彼女は告白されたり絡まれたりなんだろうか?そんなこと俺が気にすることじゃないか。
去年は俺も楽しめなかったが、今年は紗奈さんがいるしいい思い出ができたらいいなと、なんとなくそんなことを思った。




