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四度の告白《おもい》は砕かれるー今更好きだと言われても  作者: 隆頭


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四十話 諦(麻緒)

 俺は確かに脱げと言ったが、どうせこいつはなんだかんだ言いながら拒むだろよ。もちろんそれで良いし そうじゃなきゃ困る。

 しかし麻緒は、揺れた瞳で俺を見据えながら顔を赤くし、ゴクリと唾を飲み込んで服に手をかける。

 制服ではなく私服であるから、比べると今の服の方が脱ぎやすそうで、上着のボタンをプチプチと外してすぐにソレを脱ぎだした。


「はっぅえっ、ちょっ…?」


 まさかの奇行に驚きマヌケ声と面で固まっている俺を気にせず、麻緒は上着を脱ぎもう一枚の服に手をかける。ハッとなった俺はすぐに彼女に近付いてその手を掴んだ。 

 目に涙を溜めながら俺を見るが、その手には力が入っている。


「冗談に決まってるだろ、脱ぐんじゃないバカ!」


 俺はそう言って彼女の服を拾いそれを渡す。

 もし俺が見境なく襲うような人間なら受け入れてしまうとでもいうのか?もっと自分を大事にして欲しい。いくら脱げと言ったとはいえ本当にやる奴があるか!


「だって、樹はウチに脱いで欲しいんでしょ?」


「そんなもん本気にするとは思うわけないだろ、言っただけだ」


 付き合っていた当時はあれだけ俺に好意を示さなかったクセに今更真剣味を帯びやがって、それならどうして俺はあんな目に遭わされたんだ。


「じゃあどうすればいいのさ、どうすれば樹と一緒にいられるんだよ!」


 悲しそうな表情で声を張っているが、そんなことは知ったことじゃない。

 諦めるしかないだろうな。


「諦めろって。お前はあの時散々好き勝手やっただろ、今更真剣なふうで何言ってんだ!」


「っ…ごめん……」


 いっそ諦めればお互いに楽になるというのにいつまでもこっちに執着してくるのが不愉快で声を荒らげてしまう。しおらしく謝っているがそれがより俺の神経を逆撫でる。

 とはいえこれ以上影響されるのも下らない、そう思って深呼吸して心を落ち着けた。


「早く服を来て家に帰れ、さっきのは悪かった……もう少し頭を冷やしてくれ、俺はお前の顔を見ているのが辛いんだ」


「っ……うん」


 それにそう言われた麻緒は服を着ている。

 上着の袖を通したところで俺は家に向けて歩き出した。


「じゃあな、ゆっくり休め」


 そう吐き捨てて麻緒から意識を逸らした。



───────────



 立ち去っていく樹の背中を見て、とても悲しく寂しい気持ちになる。

 相変わらずその首筋にはキスマークらしきものがあり、例によって風呂に入ったようないい匂いがしていた。

 ウチが樹に望んでいることを、また七瀬ななせさんとシたんだ。羨ましい。


 彼が脱げと言うのならウチは喜んで脱ぐし、犯したいというのなら喜んで……

 あんな先輩に絆されそうになった意志の弱いウチが樹に出来るのはそれくらいだから。


 でも樹はウチの顔を見ることが辛いと言った。それはつまり、それだけウチのことを嫌がっていることを示してる。

 それだけ嫌われてしまったのだ、思えば当然でもある。自業自得。


 それでも樹が服を脱いだウチを放置せず、改めて服を着るまでそこにいてくれていたのは間違いなく彼なりの優しさだ。でもそれだけで、別にそれを見てどうこう思ったわけでは無いだろう。せいぜい驚いたとか、自分の言葉に負い目を感じてるくらいか。

 そりゃ薄着の女性が外にいれば目をつける人もいるだろうから、些細なこととはいえそれが心配になったんだろう。


 樹は優しいからね……ソレにつけ込んだ最低なウチが最低も最低であることは百も承知だ。

 それでも別れ際に気を遣うような事を言っていたところに樹の本質を感じる。

 人に 脱げ だなんて、樹の性格的に本気になって言えるわけないからね。本当に優しくて可愛らしい男の子。依存してしまうのも仕方ないと、またバカなことを考えてしまう。


 本当にやるべきなのは彼の指示とかを聞くことではなくて、距離をとることだけなんだ。

 本当は分かってた、それでも樹に近付いていたのはただ好きな人に近付きたかった、構って欲しかったというだけ。


 過去のことで怒られた時はどう答えれば良いのか分からなかったけど、それでも口を聞いてくれることがなんだかんだ嬉しくて。

 ……何やってるんだろう、ウチは。


 いつまでも子供みたいに駄々を捏ねて樹を振り回して、困らせて……

 しかもそんなことを心のどこかで少し喜んでた。もっと見たいと思ってた、樹の表情ことを。


 向こうから話しかけてくれたわけでもないのに無理やり話しかけて押し付けて、挙句にこんなことを繰り返すのは……もうやめないといけない。

 じゃないと樹が苦しむ、どれだけウチが苦しくても彼はもっと辛かったんだ。それに比べれば大したことじゃない。


 この寂しさも悲しみも、ちゃんと受け入れよう。樹に嫌われてることも、関わるべきじゃないことも。

 ……もう友達にさえなれないかもしれない事だってそうだ。


 彼が声を掛けてくれるならそれに喜んで応えよう。でも無理に近付くのはダメなんだ。


 それに、樹がこんな場所で本当に脱げと言うわけがない。そんな当たり前の事さえ気が付かないほどに、ウチは周りが見えなくなっていたのだと思った。

 このままではいつまでもあの頃のままだ、もっと冷静にならないといけない。じゃなきゃ、また同じ過ちを繰り返してしまうだろうから。


 大好きな樹への好意を振り払うのには時間がかかると思うけど、目を覚まさないと。

 

 そう思ったウチは、家に帰って涙と共に自分の初恋に別れを告げた。

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