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四度の告白《おもい》は砕かれるー今更好きだと言われても  作者: 隆頭


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三十八話 諦(観月)

「うへぇ、(たつき)くん容赦なさすぎ」


「えっ」


 何がなんだか分からない俺は紗奈(さな)さんの言葉に困惑するしかなかった。

 俺そんなに変なこと言った?


「だって私が樹くんに声をかける前って観月(みづき)さんとよく喋ってたでしょ?」


「あぁ、そういえば」


 すっかり忘れていたが、元々は観月に振られたのが紗奈さんとの始まりだったね。傷心の俺を慰めてくれた彼女には感謝しかない。


「だからさ、その事をすっかり忘れたような態度を、しかも好きな人にされたら誰だってショックだと思うよ。ましてや昨日あんなの見せたんだし」


「あー」


 鈍感な俺は紗奈さんの言葉の意味をようやく理解した。

 観月にとって、俺と話していた時間というのは大切なものだったと(自分で棒に振ったが)。

 彼女からすると、俺と事が好きだと言うのに昨日、紗奈さんとのキスを見せつけてショックを受けている所に、その大切な思い出が相手にすっかり忘れ去られていたのはショックだった。

 自分で棒に振ったとはいえ、その思い出が俺と彼女の間で共有されていることがせめてもの救いだったのに、それを完全に忘れられていたのはもうどうしようもないほどに悲しかったんだろう。

 俺は彼女に無関心であると、言外に告げた訳だからな。


 せめてあの時のようにと思っても、その '' あの時 '' はもう独り善がりだった。そりゃあ大変だね、でも自分で選んだ行動が今の結果に繋がったのだから受け入れて欲しいね。


「ま、気が向いたは話してもいいか」


「どうでも良さそうだね」


 紗奈さんは顔を引き攣らせながらそう言うが事実なので仕方がない。

 むしろいつまでも未練タラタラなのがおかしいのであって。


「当たり前でしょ、あんな事されたんだしさ。それに今は紗奈さんが大好きだから」


「〜〜っ!っもう、私も大好き!」


 素直な想いを彼女に告げるとそれが嬉しかったらしく紗奈さんは笑顔で俺の胸に飛び込んできた。


 今日も……スるか!



 ──────────────────



 溢れる涙を拭いながら走る。

 私に四回も告白してくれたのに、樹くんはもうその時の気持ちも完全に忘れているようで、私たちが作った思い出ももう無かった事のようにしていた。


『 俺たちってそんなに喋ってたっけ? 』


 なんて事のないようなふうで彼から告げられた言葉は恐ろしい程にありのままで、わざと言っているようでもなかった。

 本気で彼は私に興味を失っている。


 四回も告白してくれたのだから、きっとまだ樹くんの中に私はいるはずなんだ。

 少しくらいはと思って話しかけたけど…もうダメみたい。


 本当は彼に告白された時、喜んでいたんだ。ずっとずっと心の奥の隅で。

 だから気付かなかった、無意識だったから。

 いざ彼と距離をとってみるととても味気なかった。それこそ槍坂(やりさか)先輩では満たせない心の潤いみたいなものがあって、樹くんとの時間は私にとってかけがえのないものだった。

 それほどまでに当たり前の存在で、だから好意なんて考えてもなかった。

 ただの友達、でもかけがえのない友達だった彼に告白されて困惑した私は、自分の好意になど気付く訳もなく '' あんな事 '' を思ってしまった。

 今思えば不誠実なのは私で、どうしようも無いくらい最低だったのもそうだ。


 ちゃんと私に向き合った上で好意をくれた、その純粋な気持ちを私は稚拙な思い込みで踏み躙ったのだ。

 どうしようもないくらい距離の離れた心は、きっともう元には戻らないだろう。

 本当の本当にかけがえのない樹くんという素敵な男の子を、どうして私は……


 しかしどんな後悔をしても、涙を流しても彼は戻ってこない。私のことを好きだと言ってくれた樹くんは。


 だからもう、諦めよう。

 この溢れる涙と一緒に、樹くんへの気持ちも思い出も…流さなきゃいけないんだ。


 これは、どうしようもないほどに浅はかな自分への罰。当然の帰結。

 どれだけ好きだと言っても、それはただの独り善がりでしかなくて。

 二度と報われることはないものだった。

 でも、私はまだマシなんだ。樹くんのほうがずっと辛かったに違いない。

 彼からすれば、私は『私自身が普段から嫌っていた人種』と恋仲になった挙句それを見せつけた。しかもあんな悪口まで一緒になって言った様なもの。

 最初は特に否定をしなかったのだから当然。


 ここまで考えたら、さすがに分かる。私がやるべきなのは好意を押し付けることではなくて、距離をとる事なんだ。

 もう……やめよう。


 でももし、また樹くんとお話ができるなら、その時はきっと………

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