二十九話 密会を盗み聞く
「話って何かな?」
夜空をバックに、爽やかムーヴをかましている槍坂が、麻緒にそう尋ねた。こんな時間に一体何を?
槍坂の言葉を聞くにまだ会ってすぐらしい。
「えっと、先輩って御堂くんって知ってますか?御堂 樹っていうんですけど」
「あぁ……知ってるよ」
麻緒の質問に対し先輩がしてそう答えるが、俺は鋭くなったその目を見逃さなかった。
今 俺のいる方向は麻緒から見て斜め左後ろの茂みだ、ソレはまぁまぁ大きく人一人隠れるくらいは造作もない程度の大きさ。辺りは暗いので、彼らからは目を凝らさないと、こちらは見えないだろう
街頭に照らされたその場所で奴らは向かい合うようにして立ち話をしている。ベンチに座らないのは、この公園からベンチが撤去されてしまってる為だ。
経年劣化とかイタズラとかで壊れたんだって、まぁどうでもいいか。
「先輩と樹って、何かあったんですか?昨日先輩とウチが一緒にいたことで色々と言われちゃって……」
「へぇ、なんて言われたか教えて貰ってもいいかな?」
そう言った槍坂に麻緒が今日の朝、燈璃に言われた言葉、そして麻緒が俺と関わろうと過去を交えて話している。バカかコイツ、軽々と話せるもんじゃないだろう。
しかも言い方に語弊があるような言い方だ。
" ウチは樹と前に付き合ってたんですけど、色々あって別れちゃって、それから口が聞けてないんです。それで、仲直りしたくて話しかけたんですけど、昨日ウチが先輩と話してたから何企んでるんだって…… ''
だってさ、まるで俺が悪いことしたみたいじゃん。その色々が肝心だろうバカが。
「あー、そういうことね……彼、実は奏のことが好きだったらしいんだけど、俺があの子と付き合ったから、なんていうか…」
槍坂がわざとらしく気まずそうに答えているが、お前も嫌な言い方するな?
喧嘩売ってきたお前が問題であって、別に観月と付き合うのだってショックだったけどさ、それだけなら目の敵にする訳じゃねぇっての。
「えっ、そうだったんですか?っていうか、つまり嫉妬……?」
「あんまり言いたくないけど、そうなのかな?彼とは話をしたことが無いから……」
まぁわざわざ自分の不利になるような事を言う奴はいないということだろう、槍坂は白々しくそういった。麻緒もバカだ、なにも学んでないんだなやっぱ。
「樹、もしかして失恋した腹いせ?それでみんなの前であんなこと言うなんて、意味分からない……なんでそんなこと」
「そうだね、俺も分からないよ。出来るなら仲良くしたいくらいなのに」
あまりにも愚かな妄想を重ねる麻緒と白々しい槍坂、見ていて凄まじくイライラしてくる。
しかし、こう見ていると別に麻緒と槍坂の間には特に何かあったわけじゃない?
それなら観月も?しかし彼女に関しては情報が……
「──先輩は優しいんですね、どうして奏ちゃんは別れちゃったんだろう?」
「あれ、聞いてない?」
え?別れた?別にヨリを戻したって訳じゃないのか?それならちゃんと話を聞いても良かったのか……悪いことしたな。
「聞いてないです、流石に気まずくて…」
「そうだよね、俺もちゃんとは知らないんだけど、タツキくんだっけ?彼と色々あったみたいで……」
「え?」
え?初耳……とはならねぇぞクソが、十中八九嘘だろ、彼女は槍坂の悪口に辟易したから別れたはずだ。
少なくとも槍坂よりは信用出来る、彼女は変なことをしたが嘘はついたり誤魔化したりした訳じゃないからな。俺が勝手に疑っていただけだ。
「えっ、じゃあ先輩は巻き込まれただけなんですか?」
「そうだね……あっ、でもこの事は内緒で頼むよ?」
よくもまぁここまで白々しくできるもんだ、感心するよ。感心しすぎて腹立ってくるくらいにな。
「それはそうと、馬門さん、さぁ?」
「はい…」
話を終えたと思ったら、いきなり麻緒に何か言おうとしている。ガラッと雰囲気が変わった。
彼女はそのことに気が付いていないのか、そのまま続きを待っている。
すると槍坂が彼女の肩に手を置いた。
「もし良かったら、俺と付き合わない?」
あれがヤツの本性か。
──麻緒、どう返す?




