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十三話 燈璃の怒り

「はじめまして、馬門まかど 麻緒まおです、よろしくお願いします」


 聞きたくない声、見たくない顔が黒板の前でそう言った。その視線は時折 俺に向く。

 あまりの衝撃に身体が震え、ふつふつと怒りが湧いてくる。いや、どちらかというと恐怖かもしれない。


 今度はどうやって人を嵌めるつもりなのか…。



 一時限目の授業が終わると壱斗いちとがこちらにやってくる。


「大丈夫かたつき…って大丈夫じゃなさそうだな」


 彼は俺の様子を見るなり状況を理解した。


「…もしこっちに来たら、許さねぇぞ…あのクソ女が…」


「っ…」


 俺の無意識の呟きを聞いた壱斗が息を飲む。

 あれだけ苦しめられたんだ、昨日のことを考えると何かアクションがあるはずだ。

 昨日のアレはもしかして今日の布石?

 反省しているフリをして油断させようって魂胆であろうことは間違いない。


「樹、絶対守ってやるからな」


 そう力強く言ったのは燈璃あかりだ。

 彼女も怒りをあらわにしている。


「ありがとう、燈璃」


「良いってことよ!」


 彼女はそう笑いながら俺の肩に手を回す、彼女なりに元気付けようとしてくれているのは明らかだ。持つべきものはやはり友達だな。




 こうして授業が終わり、紗奈さなさんと帰ろうと二人で教室を出る。

 しかし目の前に立ち塞がったのは観月みづきさんだった。なに今更?


「あの、今から少しだけ良いですか?樹くん…」


 なんの事だか分からないが、俺は麻緒ヤツから少しでも遠くに離れたいのだ。

 ここで時間を食っている暇はない。


「悪いけど急いでるから」


「あっ…」


 そもそもあんな突き放すようなことをされて彼女の要望に応えるほど俺の心は広くない。

 ただでさえ麻緒ヤツのことがあって嫌な気分だったのだ、更に気分が悪くなるのは容易に予想できた。


 まったくどいつもこいつも…嫌になってくる。



 紗奈さんと別れて自分の家に向かう。

 その道中でまたもや嫌な奴と顔を合わせることになった。


「樹…ごめんね、今更」


 昨日よろしくまた麻緒まおが俺の前に姿を現した。やけにしおらしいが、それがより不審に見えてしまう。なんだコイツ。


「待って!あの時のことをちゃんと謝りたいんだ!」


 下らないであることは予想がつき無視して歩き出す俺の手を、彼女は掴んでそう言った。

 その瞬間ゾワッと鳥肌が立ち凄まじい不快感にその手を振り払う。おぞましい…。


「なにが謝りたいだよ…お前のせいで散々な目にあったってのに、さっさと逃げていったお前のなんて信じられるわけないだろ!こぉの嘘つきがぁ!」


「っ…!」


 それは心の底から出た叫びだった。

 彼女はそれを聞いて酷く辛そうな顔をした。あまりにも白々しくて吐き気がしてくる。


「俺を騙して、酷い目に遭ってるのを見てそりゃあ随分と楽しかった事だろうな?」


「それは違くて、ウチが樹のことを好きだったのは本当!でも…その…」


 麻緒は何か言葉に詰まっているがどうせロクなものでは無いことはよく分かる。


「とっとと失せろ気持ち悪い」


「う…」


 俺がお前の思い通りに動くと思ったら大間違いだ、そう思い足早に立ち去る。

 また下手に関わってあの時の二の舞になるなんてごめんだ。



 あれだけ突き放しても尚、麻緒は俺の前に現れる。しかも今度は教室でだ。


「樹…あの…」


「やめろよ」


 俺に話しかけてきた麻緒を止めたのは燈璃だ、隣には壱斗もいる。二人は彼女に対し強い敵意を向けている。


「また樹を騙して傷付けるのか?」


「ちっ違う!」


 燈璃がそう言うと麻緒は必死になってそう言った。


「信じられると思うのかよ。あの時、樹をハメていじめられるように仕組んだくせに!」


「そっ…れは…そんなつもりじゃ…」


 燈璃の言葉を否定しているが、それならば納得いく理由を教えて欲しいものだ。


「皆に良い顔して!気に入らないってだけでたった一人の人間をいじめるように仕組んで!自分は高みの見物決め込んでる奴が!そんなつもり無いだって ! ? ふざけるな!」


 今まで燈璃から出ることのなかった声、怒りに染った表情からどれだけ彼女が許せないと思っているのかが分かる。


「お前のせいでどれだけ樹が傷付いたと思ってる!本当に酷かったんだからな!」


 止まる気配のない燈璃だがそれを制止する気は毛頭ない。

 彼女の言葉から麻緒が行ったことがみんなに伝わり、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。


 俺と違い燈璃は明るい性格もあって割と好かれている。

 そんな人間があそこまで激昂するとなると、周りの目から見ても異常であると分かる。


 馬門まかど 麻緒まおは転校して早々孤立することになった。

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