十一話 女性不信
これは中学の時話だ。
「麻緒、今日は一緒に…」
「ごめん樹、友達と帰るね」
彼女はそう言ってさっさと帰ってしまった。もうこれで四回目だ。
「もう諦めろって、お前なんかが馬門と付き合ったとかいう噂だけでも贅沢だって」
そう言ってヘラヘラと笑っているコイツは、俺が麻緒と付き合っていることを嫌がっている男だ。
あの噂が流れてから色んなヤツらから今みたいなことをごちゃごちゃ言われたものだ。
でも麻緒が俺の事を好きだと言ってくれたからそれを信じた。でももしかしたら…なんて気持ちも浮上してくる。
聞く価値もない男の言葉を無視して家に帰る。
先日、俺の彼女となった馬門 麻緒は人気者だ。
男女問わず友達がおり人懐っこくて愛想が良く、お調子者なところはあるが優しい性格。
決して美人とは言えないものの可愛らしい顔立ちであり、飾らない地味さが逆に関わり易さに繋がっている
それがみんなからの彼女の印象。
だから彼女と付き合いたいと考える男は数知れない。
もちろん俺が彼女と付き合ったと広まった時、大半の人間が俺を目の敵にし始めた。
だが麻緒の手前、誰もが口を噤んでいた。
しかしどこからか、俺と麻緒は義理で付き合ってる関係みたいな噂が流れ始め、それによって周りの連中が堰を切ったようにように皆が文句を言い始めた。
"お前が身を引け''だの''麻緒に迷惑''だの、最終的には''女をつけ回す犯罪者''だの言われた。
しかし俺は噂ではなく麻緒を信じようと思ったんだ。
でもそんな思いを打ち砕くように、三人の男子と並んで笑う彼女を見つけた。
名前を呼ばれれば笑顔で応え、手を繋いで楽しそうに笑い声をあげていた。
いつからか、俺の前ではそんな姿を見せることはなくなって、それに加えてあの噂。
この光景でトドメを刺された俺の心は彼女に対し怒りが湧いてくる。
俺との時間よりそんなヤツらとの時間が大事なのかと…。
俺は麻緒の目の前に出た。
「俺と帰るよりソイツらと帰りたいってか?」
まさか俺がここにいるなんてよそうできなかつたのか、ひどく驚いたようなリアクションを見せる。
「いやこれは違うんだよ!明日またちゃんと説明するからさ、今日はこれで!」
そう言って逃げようとする麻緒の肩を掴み説明を求める。
「待てよ、まだ話は…」
「っ…いやっ!」
麻緒は俺に触られるのが嫌だったらしく、俺の手を振り払って後ろに下がった。
そんなに俺のことが嫌いなら、どうしてあんな嘘を吐いたんだ?
「テメェ!やっぱり最低なヤツだな御堂!」
麻緒と一緒にいたヤツらがそれを見て俺を殴ってきた。
彼女はヤツらの後ろにいて、俺はといえば殴られたあと思い切り蹴り飛ばされ、その衝撃で尻もちをついた後に追撃で思い切り踏みつけられた。
クソ女はそれをずっと見ていただけ。
内心面白くて仕方なかったに違いない。
女は便利だよな、自分が少し被害者面しただけで皆が気に入らないヤツを攻撃してくれる。
その時俺は、軽い女性不信になった。
母も燈璃も、そして麻緒。
どいつもこいつも信用するべきじゃ無かったんだ。このクズ共め。
「自分が好かれないからって女に八つ当たりするなんてな、やっぱ噂通り頭がおかしいな」
「ははっ、その通りだな」
散々俺を蹴ったコイツらはご満悦といった表情でそう笑った。
「こんなヤツほっといてもう行くぞ」
「お前はそこで死んどけよ、コイツは俺らの彼女だからな!」
ヤツらは俺に見せつけるようにベタベタと、しながら立ち去って行った。
最後まで麻緒は一瞥もくれることは無かった。
「樹?どうたの!?」
ボロボロの姿のまま家に帰ると、母が驚いたようにそう声を上げた。
「別に、思い切り転んだだけだから気にしないで」
今は誰とも関わりたくないから、そう言って自分の部屋に籠る。
別に母は麻緒と一緒だとは思っていないが、どうしても心から信じられなかった。
次の日 学校に行くとそれはもう酷かった。
「出た、麻緒に振られたのを逆ギレしたヤツじゃん」
「マジか、お前あんな事あったのに来たの?キメェなお前」
教室に入って早々そんなことを言われるが、それを無視して自分の机に行く。
散々落書きをされた自分の机に。
俺へのいじめはまだ始まったばかりだ。
「おい樹、大丈夫なのかよ」
散々殴られた俺の元に、燈璃がやってきてそんなことを言った。
「触るな」
俺の肩に置かれたその手が不愉快で、燈璃睨みつけそう言った。
「っ…たつき」
何かを言おうとしているが、何されるか分からないのですぐに距離をとる。
人…ましてや女なんて下手に信じればこういう事になると、そう思い込んでいたから。
「お前ら何やってやがる!」
「うぇっ!栄渡じゃん逃げろ!」
いつも通り殴られる俺を見つけた晴政が凄い速度でこっちに来る。
「樹!大丈夫かよボロボロじゃねぇか!アイツら…」
晴政は俺を労うように背中を撫でる。
「大丈夫だ、気にすんな」
「嘘つけ、そんな風に見えねぇよ」
心配してくれる彼を他所に俺はその場から離れる。
いっそ味方がいない方が楽だったと、そう思い始めていた。
親に言われるがまま、学校に行く。
行く価値もないのにいじめられる為だけに行くソレになんの意味があるのかはわからないが、もう既に俺の頭から思考能力が無くなりかけていた。
つまるところ、学校に行けと言われたから行っただけの状態だ。