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十話 心の傷と絆

「完全に嫌われちゃってるなぁ…」


 そう自嘲気味に笑ってみるが、心は重い。

 あの時彼が好きだったのは間違いなくて、その後のウチの行動が良くなかったのは間違いない。


 今更関わる権利なんて無いこともわかってるし、それが彼を傷付けることも分かってる。

 でもさっき彼を見つけた時、咄嗟に声をかけてしまったんだ。

 なんとか話を聞いてもらおうと喋りかけてみたけど、取り付く島もない。というかもはや目の敵にされていた。 それも当然だけどね。


 せっかく彼は受け入れてくれたのに、ウチのやらかしで傷付けた。



あの時のウチの言葉でどんどんおかしくなってしまった。



『ぃいやいやっ、たつきとは付き合ってあげてるだけだよ。うん!』


 友達から茶化されたから、恥ずかしくなって咄嗟に出た台詞。

 それがまさかあんな事になるなんて思わなかった。


 誰が言ったのかは分からないけど、ウチの言ったその言葉を曲解したのか変な噂が流れた。


 "御堂おんどう たつきは慈悲で付き合ってもらっているも分からない頭のおかしい奴''


 そんな完全に悪意のみでできた噂が流れ、もちろんすぐに彼からその事について、どういう事かと聞かれた。


『その噂は知ってる、もちろんウチの告白は本気だよ。樹のことはちゃんと好きだから、噂なんて気にしないでよ』


 自分のいた嘘で彼を不安にさせてしまった事に罪悪感を感じながらも、ウチはそう言った。好きなのはホントだからね。

 もちろん彼はその言葉を信じてくれたし、それを裏切らないようにと思ったのだけれど…。


 いつしか彼をいじめてもいいという流れがクラスに流れ始めた。

 始まりは嘘をネタに侮辱するような話から、最終的に彼を変人扱いする流れができ始めた。


 彼は犯罪者などとのたまう人も現れて、大変な状況だった。

 どれだけウチが止めても、皆はまるでおもちゃを見つけたかの如く彼を責めたり罵倒した。

 ウチがどうとかじゃなく、ただ彼を攻撃したいだけなのだということをその時は気付かなかった


 一方ウチは、周りからどんどん人が集まる。

 ウチを心配する人や、それにかこつけて付き合おうという人まで様々。

 自分の身の回りのことに精一杯で、彼のことを見ていなかった。


 いつしかウチは、どんどん憔悴しょうすいしていく彼に気付くことなく自身の人間関係を優先したのだ。

 そうしてウチは放課後に、他の男子たちと歩いているところを彼に見つかった。

 当然彼はその場で問いただしてきた。その時ウチは本当に最低なことをしてしまった。


『俺と帰るよりソイツらと帰りたいってか?』


『いやこれは違うんだよ!明日またちゃんと説明するからさ、今日はこれで!』


 そう言って逃げるウチを彼は逃がさなかった。


『待てよ、まだ話は…』


『っ…いやっ!』


 逃がすまいと彼はウチの肩を掴んだが、後ろめたい事があってその手を振り払ってしまう。

ハッとした時には既に遅かった。


『テメェ!やっぱり最低なヤツだな御堂!』


 一緒にいた人たちはそれに乗じて彼を殴った。

 複数で彼をリンチして、ウチはそれを見ていることしかできなかった。怖かったんだ、その矛先がウチに向かうのが。


『自分が好かれないからって女に八つ当たりするなんてな、やっぱ噂通り頭がおかしいな』


『ははっ、その通りだな』


 彼らはボロボロになった樹を見て笑う。


『こんなヤツほっといてもう行くぞ』


『お前はそこで死んどけよ、コイツは俺らの彼女だからな!』


 ウチはそのまま手を引かれるままについて行くことしか出来なかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの日、クソどもにボコボコにされた俺はフラフラと家に帰り、親に心配されたが転んだだけだと誤魔化した。もう誰も信じられなかったから。


 次の日学校に行くと、その時の話が広まってしまい完全にいじめの対象になって、机や教科書も汚されたり上履きや靴を隠されたり、そんな事が始まった。

 もちろん暴力もあったしあのクソ女とベタベタして見せつけてくる輩もいた。もう好きにしてくれって感じだったけどな。


 そんなことが続き、俺はすっかり異性に対し恐怖感を抱いていた。もちろん燈璃あかりに対してもそうだ。あの時は申し訳なかったな。


『おい樹、大丈夫なのかよ』


『触るな』


 俺を心配してくれた彼女の手を振り払い、そう吐き捨てて逃げる。信じるとかよりなにより、怖かったんだ。

 それをネタにいじめがエスカレートすると思っていたから。今になって考えると完全な八つ当たりだ、本当に申し訳ない。


 それから針のむしろとなった俺を見かねた壱斗いちと晴政はるまさたちが、奴らの行為に怒って止めてくれた。

 それでも止まるのは一時的なもので、彼らがいない時は結局いじめられる。

 いつまでも続くそれに耐えきれなくなった俺は、感情のままに暴れ回った。恥ずかしい記憶だよ。


 机を振り回し、椅子を放り投げてヤツらを本気で殺そうとしていた。

 もちろんすぐに教員クソどもに止められて、異常者として隔離されしばらく学校に来るなと言われたが今でもその扱いは納得していない。


 しばらくして元のように学校に通ったが俺は一時も安心できなかった。

 皆が一様に俺を睨むが、あの時のことに怯えているのか近付いてこなかった。情けないヤツらだった。


 もちろん壱斗たちは俺の傍にいてくれたけどな。感謝しかないよ。


 あれだけの事があったのにどうして俺が観月さんや紗奈さんと関わることができたのかと言うと、この時に俺を慰めてくれた燈璃の存在があったからだ。

 俺にどれだけ拒絶されても気にかけてくれる彼女にすごく助けられたのだ。


 本当に良い友人を持ったものだよ俺は。

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