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九話 嫌な過去

「よっ、おはよ」


「おはよう壱斗いちと


 教室に入って席に着くと壱斗が後ろから挨拶してきたので、それを返す。


「随分 七瀬ななせと仲良くなったみたいだな」


「え?」


 そうだろうか?あまり意識していないのでわからないが。


「周りから見てりゃ分かる。昨日よりお前ら…なんつーか、いい感じだぞ」


「へぇ…」


 昨日は帰りに彼女が手を繋いできたからそれも関係しているのかも?

 紗奈さなさんは俺のために怒ってくれた人だから、それに影響を受けているのもあるのかもしれない。どちらにせよ嬉しいことだ。


「よぉーたつき、おはよっす!」


 後ろから元気な声が聞こえてくる、あの元気なヤツだ。バンッと思い切り背中を叩いてくる。

 ちょっと痛いが、いつものことだ。


「おはよう燈璃あかり


「おっす燈璃」


 俺と壱斗で挨拶を返す。

 というかコイツ、なんかニヤニヤしてないか?


「……どーしたんだよ」


「なんでもねー♪」


 彼女は白い歯を見せて返した。

 なんか不気味だ…変なやつ。まぁいいけど。


 今日 最後の授業を終えて、紗奈さんと向かうのは図書室だ。

 彼女が俺と一緒に本を読みたいと言ったので、俺としても最近行けてなかったしそれも楽しそうと思い快諾した。


 図書室に着き二人で本を読む。

 お互いの好きな本を読んでみたり、まだ読んでいない本を見たり…好きなように過ごしているといつの間にか良い時間になっていた。


「楽しかったし、また来ようね♪」


「そうだね」


 ニコニコとしている紗奈さんがそう言ってくれた。嬉しい限りだ。


 彼女と帰る途中、視線を感じてその方向を向くとそこには観月さんがいた。こんな時間まで何してなんだろう?

 そしてなぜか隣にいるはずの先輩がいなかった。


 まぁそれは俺が気にするところではないので彼女から視線を外す。

 何が言いたそうではあったけれど、今は紗奈さんとの時間を楽しみたいのだ。


「どうしたの?」


「なんでもないよ」


 いけないいけない、女の子と一緒にいるというのに他の女の子にうつつを抜かしてはいけないね。

 今は紗奈さんと一緒にいるんだし、それ以外は気にしないようにしないと。



 彼女と別れるころには先程のことはすっかり忘れ、お互い笑って手を振って別れたのだがここで嫌な人と出くわした。


「あれ、樹?」


「っ…」


 久しぶりに見たその顔に、思わず顔を歪めて後退る。


「どうしたの?せっかくだし喋ろうよ」


 ソイツは白々しくも俺にそんなことを言ってくるが、普通にありえないし不愉快だ。

 俺は踵を返して早足で歩き出す。家までとおまわりになるが、アイツとは顔を合わせたくない。

 たった一瞬会っただけだというのに、ゾワゾワと背筋に怖気が走り鳥肌が立つ。

 強烈な胸焼けに思い出す怒り。

 ここまで嫌悪感を抱く相手なぞ彼女くらいだろう。感心するよ、悪い意味で。


「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 そそくさと逃げる俺を追いかけてきたヤツが俺の肩を手を置いてきた。


「っ…!」


 あまりの不快感に声が出ず、ただ振り払うことだけで精一杯だ。おぞましい…あまりにも。


「ぅっ…そっそんなに邪険にしないでよ、ね?あの時のこともちゃんと謝りたいし、少しでいいから話を聞いてくれる?ね?お願い!」


 そう言って人懐っこい笑顔を向けてくるが、それに絆されたお陰で俺は嫌な目に遭ったんだ。

 もうその手には乗らない、というか通用するわけがない。


「……ざけんな」


 苦し紛れに出た言葉はそれだけだ、体が萎縮しきってしまい言葉すら思い通りに出てこない。

 彼女は呆然と立ち尽くしたまま、何も言わなかった。安心したよ。


 二度とそのツラを俺の前に見せないでほしい。


 そう念じながら俺は振り返ることも無く家に向かった。



 中学の時に仲良くなった女の子。

 彼女は男女問わず人気があり、俺もよく喋っていて楽しかった記憶がある。その時は。

 どうしてかわからないが彼女は俺と関わる時間が多く、二人で下校することもあれば、休日には出かけることもあった。

 それくらい仲良くさせてもらったよ。

 別に恋愛感情があった訳ではなく、他のヤツにはない魅力があって、何となく引き込まれていたところはある。

 壱斗からもよく 付き合うのか?とからかわれたものだ。その気は全然無かったけどね。


 ただある日、彼女から告白されたんだ。


「樹って面白いよね。なんか分からないけど、他の子といるより樹といた方が楽しいや……もし良かったら、ウチと付き合ってくれない?」


 照れたようにはにかむ彼女にその時はドキッとしたし、その告白は嬉しかった。

 特に意識していなかった女の子から告白されれば、驚いたりもするだろう。

 ただ俺は愚かにも、その告白を受け取ってしまった。それが一時であれ地獄の始まりだったことも知らずに。

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