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家族怪議  作者: 星来香文子
知らないおじさん

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知らないおじさん(1)


 約二年ぶりの帰省だった。

 某ウィルスの流行により、一人暮らしをしていた私は、毎年盆と正月、あとは何かしら用があるときには普通に帰省していたものだが、実家はとんでもない田舎にあり、お年寄りも多い。

 何しろ祖母は高齢で、私を介して感染させてしまったらと考えたら、とても帰る気にはなれなかった。

 だいぶ落ち着いてきたということで、母の勧めもあり帰ることにしたのだ。

 祖母の米寿のお祝いをしたいというので、デパートで買ったプレゼントと駅でしか売っていない限定のお菓子を抱えていたため、結構な大荷物である。


「あらあら、こんなにたくさん! 言ってくれれば、駅まで迎えに行ったのに」

「いいのよ。久しぶりに私以外誰も乗ってないバスに乗って、貸切みたいで快適だったから」


 昼前には実家に着いた。

 カラッと晴れた洗濯日和で、庭に洗濯物を干していた母は私の荷物を見て驚いていたが、ど田舎の一日に二本しか走っていないバスはガラガラで、荷物の多さで迷惑をかけることはまずない。

 それに運転手の井浦いうらさんは、私がこの村を出て行く前の高校生の時から知っている。

 あの人は常に安全運転で、快適だった。


 バス停からこの家まで歩いてくるのは少し大変ではあったけれど、日頃の運動不足の解消と思えば、そこまで苦ではない。

 これから母の手料理をたらふく食べるのだから、その前に少しでも痩せておかなければならない。

 効果があるかわからないけれど……


「それより、お腹すいた。何か食べるものある?」

「そう言うと思った。お好み焼き焼いてあるから、チンして食べなさい。でも今夜は夜が本番だからね、あまり食べ過ぎるんじゃないよ。軽くにしなさい」

「はーい」


 二年前とあまり変わらない母の姿にホッとしつつ、荷物を元自分の部屋に全部降ろして、祖母がいるであろう居間に向かった。

 軽く挨拶してから、洗面所で手を洗おうとしたけれど、居間に入った瞬間、知らないおじさんと目があった。


「おばあちゃんただいま。えーと、お客さん?」


 誰か来てるなら、事前に言ってくれればよかったのにと母を少し恨む。

 四、五十代くらいの白髪混じりの髪を綺麗に七三分けにしている、妙に色の白い人だった。

 この村の人たちの顔なら、すぐに顔と名前が一致するはずだけど、全く記憶にない。

 そもそも、このど田舎に住んでいるおじさんは美容には無頓着なので、みんな日に焼けて浅黒い。

 どこか遠い親戚が、祖母の米寿を祝いに来たのだろうかと首をかしげるが、親戚のほとんどがこのど田舎か、他の別のど田舎に住んでいるはずだ。

 都会の方に住んでいるのは、私と同じ孫の代くらいしかいないはずだと思った。


「何言ってるの、ゆいちゃん。タカちゃんに向かって」

「……タカちゃん?」


 祖母は、ニコニコと微笑みながらそう言ったが、まったく思い出せなかった。

 私が知っているタカちゃんは、三軒先にある代々村長をしている家の息子さんか、その隣に住んでいる母方の又従姉妹の旦那さんくらいだった。

 あとは、生まれるずっと前に亡くなった祖母の弟のたかしさん。

 たまに祖母が子供の頃の話をする時に登場する。


「誰……?」

「もう、結ちゃんったら、冗談はよしてちょうだい。ふふふ」


 祖母もタカちゃんと呼ばれているそのおじさんも、私が冗談を言っていると思って笑っているようだった。

 本気で誰だかわからないのだが、まったく信じてくれない。

 こうなったら、母に聞くしかないと庭に戻って、まだ洗濯物を干していた母に訊ねてみたが、答えは同じだった。


「タカちゃんはタカちゃんじゃない。何を言っているの? ふふふ」

「いや、だから、タカちゃんって、どこのタカちゃん?」

「結ったら、そんな変な冗談言わないの。家族だからって、そんな風に言っちゃダメよ?」

「家族……!?」


 いや、知らない。

 私の家族は、祖母と父と母。

 それから、父の妹である叔母だ。

 叔母は役場で働いているので、この時間は家にいない。

 タカちゃんなって知らない。


「え、もしかして、幸恵さちえ叔母さんの再婚相手?」

「は……?」


 私がそう言うと、腹を抱えて笑い、涙まで流している。

 こちらは真面目に聞いているのだが、やはりまったくまともに取り合ってもらえない。


「もう、結ったらどうしたの? あの幸恵さんが、再婚なんてするわけないでしょう? あははは、おかしい、ふふふふっ」

「いや、じゃぁ、誰なの? 私、知らないよ! あんなおじさん!」


 何度聞いても同じで、夕方に帰って来た叔母にも訊ねたが、母と同じだった。


「タカちゃんはタカちゃんでしょう? 何? 結ちゃん、都会に行っておかしくなった? あははは」

「いや、だから……知らないんだってば」

「もう、冗談ばっかり言ってないで、もうそろそろみんな来るだろうし、テーブル出すの手伝ってよ。あぁ、あと、人数分の座布団と食器もいるわね」


 祖母の米寿の祝いには、親戚一同が集まることになっている。

 タカちゃんが何者かわからないまま、私はその準備の手伝いをさせられ、他の親戚たちが次々とやって来ても、タカちゃんは祖母の隣に座っているだけで、何もしなかった。

 それどころか、親戚達と気さくに話している。


 叔父夫婦も叔母夫婦も従兄弟も再従姉妹も、みんな「タカちゃん、タカちゃん」と呼んで親しげにしていて、私だけが誰なのかわからずに疎外感を感じている。

 一体、このおじさんは誰なのか、誰も教えてくれなかった。


 親戚一同に混じって、酒を飲み交わし、母の作った手料理を食べるこの知らないおじさんが、ただただ、気持ち悪くて仕方がない。

 せっかくのお祝いの席だというのに、母手作りの大好きな春巻きも、この日のために叔母さんが特注した大きな四角いケーキも、何を食べても美味しいとは思えなかった。






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