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家族怪議  作者: 星来香文子
家族怪議

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家族怪議(4)


 私なんかよりずと大人で、年上だった井浦さんは、今はもう私より年下にしか見えない。

 この一切変わらない容姿も、井浦さんが神の使いで、この村を救いにきた救世主であるということへの信憑性がます要因となった。


 相変わらず私は実験の過程で出た死体の処理を任されていて、他の信者たちはそのことには一切触れなかった。

 私から死臭がするからなのか、井浦さんの助手という立場のため遠慮されているのか、友人も恋人もできないでここまで生きてきた。

 けれど、とっくの昔に唯一の肉親だった母も死んでしまったから、天涯孤独となった私の家族は、この村の人たちであることに変わりはない。

 我々は家族。

 だから、家族を守るために、この穢れた土地を綺麗にして、神様から与えられるはずだった富を取り返す。


 日本経済の低迷によって、こんな田舎では暮らしていけないと村を出て行った人もいたけれど、残った人たちはみんな、その時が来るのを待っていた。

 やっと()が見つかったと、村人たちは井浦さんに協力して、その兄候補をまんまとあの家へ連れてくることに成功。


 村で一番若くて可愛い女の子を使って、架空の人物・三島みしま結衣ゆいを演じてもらった。

 各種SNSのフォロワーは全て金で買った。

 写真や動画もそれらしいものを作り、動画配信者として人気があるように工作。

 何より、行方不明の兄を探してるという嘘を信用させるために、一部、真実も混ぜた。


「人を騙すのには、真実と嘘をごちゃ混ぜにしてしまうのが一番効果的です。混ざり合うとねぇ、何が本物かわからなくなっちゃうんですよ」


 それは、村の老人が振り込め詐欺にあった時に、相談を受けて助けた井浦さんが言ったことだ。

 井浦さんの助手として、長い間側にいるせいか、色々な雑学というか、知識が身についていた気がする。


 でも、どうしてだろう?

 こんなに長い間、近くにいるのに、私は、井浦さんの実験がどういうものなのか、全く知らない。

 人が死ぬような危険なことをしているということしか、わかっていなかった。



 * * *



「————さぁ、みなさん。これで漸く全てが揃いました」

「やはり、兄が足りなかった……そういうことですね」

「ええ、家族には大切な役割です」

「さすが、教主様!」

「頑張った甲斐があったなぁ!!」

「そうだそうだ!! 俺たちは、よくやった!!」


 最後のピースだった()をようやく手にれて、山坂の畑に集まった村人たちは喜んでいた。


「これで、すべてみなさんの元に戻ります。神も人も、この豊かな自然も、奪われ、穢された地を清めることができる。みなさんの協力があってこそ、ようやく、全てが元に戻れるのです」


 井浦さんが主張し続けてきた、この土地を清め、神に返す。

 そうすれば、奪われる前と同じように、村人みんなに神のご加護が……


 中には嬉しさのあまり泣いている人もいた。

 私は、井浦さんの傍でぼうっとその様子を見ていた。



 これで終わった。

 やっと、この村は本来の姿を取り戻すことができる。

 よかった。

 これでもう、死体を畑に埋めるのも終わりだ。


 死体は重くて、持ちづらくて、臭くて、処理が本当に大変だった。

 今、みんなが踏み荒らしているその畑に、たくさんの死体が埋まっている。

 清められた神域。

 その下に、実験のために死んだ人間の死体が埋まってる。


 これで全部終わるんだ。



「それでは、そろそろ始めましょうか」


 井浦さんは集まった村人に円を作るように指示をした。

 丸く大きな円の間に、村の男たちが家から運んできた()を放り投げる。


「やめろ!! 一体、何をするつもりだ!!」


 両手両足を縛られていながらも、必死に()は抵抗した。

 何の説明もなしに、村人たちに囲まれているのは少し可哀想だとも思ったけれど、これは全部、全部、この土地を綺麗にするための儀式。

 これで最後だからと、井浦さんは村人たちが見ている目の前で、実験を始めた。


 不思議な現象だった。

 井浦さんが何か呪文のようなものを唱える。

 日本語なのか別の国の言語なのかはわからない。

 けれど、そうすると晴れていた空が雲でいっぱいになって、青から灰色に変わる。

 雨が降り出し、大地に水が染み込んでいく。

 雷も落ちた。


 すると山頂の方から地鳴りのような、大きな叫び声のような咆哮が聞こえる。

 生暖かい強い風が吹く。

 中心にいた()は、風が吹いた山の方を見つめ、顔面蒼白になっている。

 目を大きく見開いて、何か、とても大きな何かと対峙しているようだった。


「や……やめ…………っ!!」


 恐怖に怯えている。

 きっと、見えているんだ。

 そこにいる、何か、恐ろしいものが。



 もう一度、咆哮が聞こえたあと、()の姿はそこになかった。

 片足だけを残して。



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