兄を探しています(5)
『————さぁ、みなさん。これで漸く全てが揃いました』
『やはり、兄が足りなかった……そういうことですね』
『ええ、家族には大切な役割です』
『さすが、教主様!』
『頑張った甲斐があったなぁ!!』
『そうだそうだ!! 俺たちは、よくやった!!』
意識を取り戻した時、聞こえていたのはいなくなったマネージャーさんの声と、全く聞き覚えのない、その他大勢の声だった。
両手両足を縛られ、警官の制服を着た骸骨と二人きりにさせられている。
なんとか声が聞こえた窓の方へ這って、上体を起こして外を見ると、年齢も性別も様々な人々が、マネージャーさんに向かって涙を流しながら、祈るように両手を擦り合わせていた。
『これで、すべてみなさんの元に戻ります。神も人も、この豊かな自然も、奪われ、穢された地を清めることができる。みなさんの協力があってこそ、ようやく、全てが元に戻れるのです』
何を言っているのかも、この状況も全く見当がつかなかった。
だが、マネージャーさんのことを教主様と呼んでいるのは理解できた。
つまり、これは何かの宗教団体の集まりか?
マネージャーさんが、その教主?
よく見れば、大勢の人々の一番先頭に、三島さんがいる。
三島さんも、信者?
あの人は、お兄さんを探していたはずじゃ……
いや、確かにここに、お兄さんが……
改めて、警官の制服を着た骸骨を見て、そこで俺はやっと気がついた。
お兄さんが行方不明になったのが、一年前だというのなら、この骸骨はありえない。
制服や衣服はわかるが、帽子は白骨化の過程で床に落ちるだろう、普通。
こんな綺麗に被っているのは不自然だ。
まるで仕組まれていたみたいに、整いすぎている。
もしかして、俺は騙されていた?
そうだとして、これは一体、なんの目的があって?
俺に何をさせたいんだ?
教主と信者のやりとりを聞いても、なんでこんなことになっていかさっぱりわからない。
『■■、祖母、■、■、兄、姉、妹そして、■……』
向こうは俺が意識を取り戻したことには気がついていないようだ。
何かずっと演説をしているのだが、雑音がまた入り出してしまって、聞き取りづらくなってしまった。
お祓いの効果は、完全に切れている。
『すべての■役■が揃っ■■そ、この儀式は■■く実行される』
どうにかして、この部屋から出よう。
まずは、この縛られているのをどうにかしなければと、刃物のようなものはないかと、部屋中をぐるりと見回した。
そこで再び、床に落ちている数枚の紙と冊子を見る。
手が使えないので、冊子の方は中身が見れなかったが、映画の脚本のようだ。
紙の方は、山坂美子さんの設定資料と書かれていた。
つまり、山坂美子さんは、架空の人物————なのか?
かなり昔のもののようにも見えるが……
『そ■て今日、我々は兄を手に入れた。約束は果たされます』
『■■■!!』
『■■てまし■!!』
信者たちが何を言っているのか全く聞き取れないが、ものすごく盛り上がっている。
よくわからないが、これだけ聞き取れないということは、かなりやばい状況であることだけは確実だ。
さっさとここから逃げよう。
滝のように汗が流れる。
刃物になりそうなものさえあればと、探し回ってようやく見つけた鏡を、できるだけ音が鳴らないように床のカーペットに鏡面を押し付けて破った。
まさか、ロープで縛られるなんてそれこそ映画のような状況に自分がなるなんて……
擦れて痛いが、どうにかこれを解かない限り、命はないだろう。
ああ、耳鳴りがひどい。
吐きそうだ。
「……はぁ、よし、これで————」
なんとか手首のロープを外すことに成功して、次は足だと思ったその時————
「え!? もう、■■てる!?」
ガチャリとドアが開いて、見知らぬ男が入って来てしまった。
俺と目があって、男は窓を開け、叫ぶ。
「大変です!! もう目■覚ま■■ます!! 井浦さん!!」
マネージャーさんは窓から顔を出して、にやりと笑った。
「おや、意外と■■■ですねぇ、先生」
俺の記憶は、ここで途絶えている。
生前の記憶なんて、そんなもんだ。
【兄を探しています 了】




