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家族怪議  作者: 星来香文子
姉さんの日記

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姉さんの日記(4)

「僕も偶然とはいえ、驚きました。もしかしてと思って聞いてみたら、まさか親戚の育男いくおおじさんが隣の部屋に住んでいたなんて」


 井浦は恐ろしいほど他人の懐に入るのが上手かった。

 突然自宅を訪ねてきた俺を友人は不思議がっていたが、井浦のおかげで居間に案内され、しかも、茶菓子まで出されている。

 玄関先で少し話すだけだと思っていたのに……


「祖母が亡くなってから、すっかり疎遠になっていましたけど……母から遺品の整理は祖母の兄弟で協力してやったと聞いています。それで、育男おじさんと話していて、祖母の日記の話を聞いたんです」


 井浦は、自分を梅子姉さんの孫ということにしたのだ。

 俺からしたら、従兄弟の子供にあたる……という感じで、口裏を合わせた。

 さすがに、友人も俺の親戚がどうなっているかなんて、全く知らないし、何より井浦の口が上手で、妙な疑いを持たれることもなかった。


「僕は祖母が大好きだったんですが、何しろ小さい頃に亡くなってしまったのであまり生前の祖母がどんな人生を送ってきたのか知らないんですよ。なので、まだ日記をお持ちでしたら、ぜひ、僕に譲っていただけないかと思いまして」

「なるほど、そういうことでしたか」


 友人は少し考え込んだ後、ちらりと視線を俺の方へ向ける。

 そこで井浦に合わせて、にっこりと微笑んでみせると、友人は小さくため息をつきながら言った。


「もう大丈夫そうで安心したよ。葬儀の時はすまないね、いっくん。君が何をしだすかわからなかったから、処分してしまったと嘘をついてしまった」


 少し昔の明るさが戻ったようで良かったと、友人は日記を取りに自分の部屋へ。

 井浦は小声で「どうやら、うまくいったようですね」と笑っていた。

 こんな簡単な嘘で、すべて上手くいく。

 日記さえ手に入れば、あとは……


 ニヤついてしまう口元を隠そうと、俺は煙草を口に咥える。

 だが、井浦に止めらてしまった。


「煙草は控えた方がいいと思いますよ」

「は? なんでだ?」

「この家を見て、気づきませんでした? おそらく、ご家族の中に妊婦さんがいます」

「妊婦……?」


 茶菓子を出してくれた友人の妻は、さっき出かけて行くのを見たし、今はこの家に他の家族はいないはずだ。

 それなのに、いったい何故そう思うのか見当もつかなかったが、井浦は飾ってあった家族写真を指差しながら続ける。


「娘さん夫婦と同居なさっているのは、この部屋を見ただけで明らかですし、あそこ————家族写真の横の棚に出産を控えている女性が読むような本がいくつか並んでいます」

「……確かに」


 どの本も真新しい。

 友人は俺より早くに結婚していて、子供も娘が確か三人いたはずだ。

 一番上の子はもう子供がいてもおかしくないくらいの年齢だった。


「最近は、喫煙は妊婦には悪影響であると思われているようですし、この家からは煙草の臭いは一切しません。おそらく、灰皿も置いてないでしょう。妊婦さんが帰ってきて、煙草の臭いがしたら機嫌が悪くなるかもしれないでしょう?」

「……娘の機嫌まで取らなきゃいけないのか?」

「大事なことですよ。もし日記に書かれている儀式に不備があったら、本も必要になるでしょう? ご家族が家に上げるのを嫌がってしまう可能性もありますからね」


 日記だけ手に入れば、それで十分だったが、一理あると思ってしまった。

 煙草を吸うのを諦めたところで、友人は梅子姉さんの日記を持って戻ってきた。

 俺はついに、日記を手に入れたのだ。



 早速家に帰り、井浦と二人で日記の内容を確認した。

 必要なものは、俺が記憶していた通り、蘇らせたい人と同じ年頃で背格好の生きた人間だ。

 それに蘇らせたい人間の一部を入れて、五日間放置する。


 俺が間違ったのは、その放置している間、決して姿を見てはいけないというところだった。

 生きた人間と蘇らせたい人間の一部を箱に入れて、蓋をして、よく混ぜる。

 そのあとは、五日間、何があっても決して蓋を開けてはならかった。


 ついどうなったかが気になって、様子を見てしまったのが失敗の原因だったのだろう。

 それと、確実に成功させるためのポイントは、その生きた人間にある。


 できれば、霊感のある人間が好ましい。

 日記にはそう書かれていた。


 この儀式は、梅子姉さんが嫁いだ家に代々伝わるものだそうだ。

 一番下の弟である俺の父を可愛がっていた梅子姉さんが、あまりに気落ちしていたのを不憫に思って、旦那が儀式を実行してくれたらしい。

 そのおかげで、父は蘇り、大人になって、俺が生まれて父になった。


 優一も蘇って、大人になって、いい女と結婚して、いつか孫を俺に抱かせて欲しい。

 生きていれば、そういう当たり前の人生がきっと来る。

 俺も友人のように、孫の誕生を喜べる日が、きっと……


「それにしても、霊感がある子供なんて、どうやって見つけたら……」


 次こそは確実に、儀式を成功させたい。

 そうなると、問題はそこだ。

 俺が考え込んでいると、井浦があっさりと答えを出した。


「簡単ですよ。できるだけ、子供が多く集まる場所に行ってください」

「え……?」

「公園だとか、休日なら、デパートなんかでもいいですね」


 井浦は懐から奇妙な文字が書かれた紙を取り出すと、それを俺に手渡す。


「そこで、この札を子供の目に入りやすい場所に貼ってください」

「……なんの札だ?」

「ちょっとした呪文がかけられている札です。この札に興味を示したように、じっと見つめている子がいれば、その子は霊感がありますよ」


 井浦がそういうので、俺は言われた通り、次の日曜日に家族連れで賑わうデパートのおもちゃコーナーにその札を貼った。

 そうして、見つけた優一と同じ年頃の男の子を一人、優一の遺灰と一緒に箱の中に入れる。


 日記に書かれていた呪文らしき文も念のため唱えながら、五日待った。

 何もかも、梅子姉さんの日記に書かれている通りに。





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