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2 「最悪の初体験」

 帰り道。袋を持って歩いていると走っていく子ども達から「くさい!」と、カグヤの心を傷つける言葉を放たれた。

 それはそうだろう。袋には血と肉の匂いがしてくる。無理もない。カグヤは立ち止まり、袋を置いて浴衣の匂いを嗅ぐ。


「くさいか?……分っかんね」 


 外はまだ明るい。カグヤが狩りに出たのは朝の十一時だ。狩りをする理由はアマネの手伝いと暇つぶしだ。

 アマネは狩人で動物を狩り、さまざまな飲食店に肉を売っている。ニートになったことを許してくれた両親に感謝をして申し訳程度に仕事の負担を減らすよう手伝っている。 


「っと。着いた。ただいまー」


 家に着き、中へ入る。 


「……」


 返事はなくどこかへと出かけたのだろう。リビングへ行くと二人はいない。テーブルに袋を置いて自分の部屋へと入る。


「手入れしないと」 


 机の中から青い液体が入った小さな瓶を一つを取り出して庭に向かう。帯から鞘ごと出して鞘から白銀の刀を抜刀する。地面に座り刀を置く。刃こぼれや錆はついていないが念のために手入れをする。

 手入れは簡単で瓶の蓋を開けて刀の両面に液体をかけると刀身が青く染まる。そして、一瞬で白銀の刀身に戻る。


「無理にしなくてもいいけど一応ね。よし」 


 刀を軽く一振りして鞘に収める。瓶を拾い自分の部屋へと戻る。時計を見ると午後の一時。カグヤは空になった瓶を机の中に入れ、刀を机の上に置き、ベッドに横になる。


「ふいー、お腹すいたー」


 白い天井を見ながらゆっくりと瞼を閉じる。二人が帰ってくるまで寝ようとしたときに家のドアが開く音が聞こえる。カグヤは瞼を開けて起き上がり音を立てずに部屋から出る。


(ママとパパじゃない。強盗か?)


 足音で分かる。ナギサとアマネの足音は分かるようになっている。ニート生活のおかげなのか生まれつきなのかはカグヤ自身、分かっていない。

 人数は一人。足音を立てずにリビングへと向かう。そこには一人の男がうろうろしていた。


(最悪だ。はあ……)


 カグヤは足音を立てて男に近づく。男は驚き、慌ててナイフをカグヤに向ける。


「近づくなっ!こ、これで!殺す!ぞっ!」


 声は震えていて体も震えている。普通ならカグヤがそうなるのだが、カグヤは無表情で男に近づく。


「き、聞こえなかったのか!?」


「殺せばいいじゃん。ほら」


 立ち止まり、カグヤは両手を広げて自分を殺すように促すと男は後ずさりする。


「正気かっ!?」


「えーと、一応聞くけど強盗?」


「あぁ、そうだよ!」


「へー、そっか。強盗は初めて?」


 両手を下げて右手を腰に当てて聞く。


「そんなっ!わけ……ないっ!何回もしてきたっ!」


「おー、ベテランじゃん。にしては、震えすぎでしょ」


「黙れよっ!」


 いつまで続くのか分からない茶番に呆れていると男は口を抑え始めた。テーブルにある袋の匂いを我慢していたのだろう。


「あーっと、ごめん。くさいよね。そこに袋あるじゃん?その中に肉入ってるんだ」


「ににに、肉!?はっ!?なんで!?」


 なにか勘違いをしているのか、男は顔を青ざめている。


「えー、驚きすぎ」


「うるさいっ!このっ!サイコパス野郎っ!」


「サイコパス?俺が?」


「ひいっ!?」


 男はナイフを落として座り込む。この状況になると男ではなくカグヤが悪人みたいになる。


「うーん、あっ。肉って人肉じゃないから」


「は?そんなの嘘だっ!嘘に決まってる!」


「はあ、どうしよう……」


 信じてもらえず項垂れるカグヤ。男はただ震えているだけ。カグヤはナイフを拾い、テーブルに置く。どうしようかと考えた結果、導き出された結果を行動に移す。


「なんか飲む?」


「は?」


 それは、男を落ち着かせることだった。


×××


 カグヤと男はテーブルに向かい合ってソファに座っている。袋はカグヤの部屋に置いてある。


「落ち着いた?」


「……あぁ、大丈夫だ」


 コップに注いだ牛乳を飲んで一息つく男。顔色は少しよくなっている。


「強盗は初めてだよね?」


「……そうだ」


「なんで強盗なんてするの?」


「それは……金だろ。それしかない」


「お金か。貧乏なの?それとも誰かのために?」


 カグヤの質問に考える男。


「違う。貧乏でもないし誰かのためでもない。多分、人生に刺激が欲しかったのかもしれない」


「それで強盗って……やばいね。仕事はしてた?」


「不動産屋で働いてたけど、自分に合ってなかったから退職した。転職しようにもどこにしようか悩んでる」


 真面目だった。カグヤの家で強盗が初めてでよかったとカグヤは安心する。男は真面目で考えすぎだ。


「冒険者になれば?」


「え?冒険者?」


 なぜ、強盗してきた男に転職先を考えているのか分からない。


「刺激が欲しかったんでしょ?冒険者って魔物と戦うからさ。死ぬ可能性はあるけど」


「冒険者……そうか。そうだな。俺、冒険者になる!」


 男は立ち上がり、両手を強く握り締める。だが、確認したいことがある。この男が戦えるかだ。


「魔法は使えるの?戦闘方法は?」


「魔法は使える。戦闘方法は分からないが、別に魔物と戦うだけが冒険者ではない。植物採取の依頼があるかもしれない」


「たしかに。最初は簡単な依頼のほうがいいね。んじゃ、転職先決まったってことで。このことはなかったことにするから。ナイフしまって冒険者協会に行ってきたら?」


「いいのか?」


「いいから。早く行きなよ」


「ありがとう!」


 男は頭を下げてナイフをしまい、家から出ていく。


「疲れたー」


 カグヤは瞼を閉じてソファで寝た。

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