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ダメダメ眠り剣士  作者: 相川悠介
第一章 ニート剣士
19/39

19 「教師からニートへ②」

 講堂ではノスが、全生徒にフラエイ家の件について話していた。


「昨夜、何者かが、フラエイ家を襲撃した」


 その言葉を聞いた生徒達はざわめき始める。


「マジかよ。フラエイ家が……」


「誰なんだろう?怖いね」


 不安、恐怖などが、生徒達を襲う。無理もない。学園の生徒が死んだのは初めてだ。ノスが一回、手を叩くと、生徒達は静かになる。


「今朝、調査をしたが、手がかりはなく、死体だけが屋敷にあった。これは推測だが、返り討ちにあったと思っている。フラエイ家が何者かを殺そうとしたが失敗した。そして、その何者かが、フラエイ家を襲撃した」


 ノスは生徒達にこのような事件が起こらないように注意する。


「憎悪や復讐心で誰かを殺すという行為はやめることだ。話は以上。皆、気をつけるように」



 カグヤの研究室では、()()についての会話が続いている。カグヤとエレメンは、どうしようかと顔を見合わせる。ルークはというとカグヤの右肩を突いている。


「教えてよー」


「うーん、どうする?言う?」


「言いましょう。隠し続けても、最終的には言うことになるので」


「おっおっ?教えて!」


 ルークはカグヤの右肩を突くのをやめる。カグヤは刀を持ってきて、ルークに白銀の刀身を見せる。


「どう?」


「え?……あー、竜の体液?」


「正解。()()っいうのは竜の体液。手入れのときに使ってるんだ。すぐに刃こぼれがなくなるし、錆もなくなる」


「なんでそれを隠してたの?危ない物ではないのに」


 刀身を見ながら言うルークに、カグヤは視線をエレメンに移す。エレメンはカグヤの視線に頷く。


「深い理由とかはないです。なんとなくです。カグヤさんが、あなたと戦い終わった後に、その刀が壊れかけていたので、竜である私の体液をあげたんです。永遠に壊れないようになりますから」


 エレメンの言葉にルークは難しい表情をする。


「そんなことしなくても、僕が……」


「ダメ。魔法だと一定時間なんだ。だけど、エレメンの体液をかければ永遠。まあ、俺は心配性だから、エレメンには申し訳ないけど、体液を貰い続けてる」


「なるほど。それでさ、気になるんだけど……体液って、血だよね?」


 カグヤとエレメンは一瞬黙り込んだが、頷く。


「体液で血以外になにがあるってのさ」


「そうですよ。私の血です」


「うーん、そうだよね。ごめんごめん」


 ルークは苦笑しながら謝る。カグヤとエレメンは安心したかのようにため息をする。カグヤは刀を鞘に収め、テーブルに置き、ソファに座る。エレメンは時計を見て、カグヤの肩を叩く。


「カグヤさん、もうすぐじゃないですか?」


 カグヤは時計を見ると授業が始まる十分前だった。


「えっ?マジか。んじゃ、行ってくる」


 カグヤはソファから立ち上がり、ドアを開けて、慌てて訓練場へ向かう。ドアは開いたままで、エレメンが閉めようとしたが、ルークが「待って」と言う。


「どうしました?カグヤさんが戻ってくるまで寝ていたいのですが」


「授業観察しようよ。どんなのか気にならない?」


 ルークは剣技の授業に興味津々なのだろう。エレメンは反対しようとしたが、最終的に行くことになると嫌でも分かり、諦めたように頷く。


「分かりました。行きましょう」


「よし!」


 二人は研究室から出て、ドアを閉めて、隠密魔法を使い、カグヤを追う。



 訓練場には、ウェルと生徒達が集まっていた。


「遅いな。もうすぐなのだが……来たか」


 遠くから走ってくるカグヤ。ノスの元に着き、手を合わせて申し訳なさそうな表情をする。


「すいません。だらけてました。たはは……」


「いや、遅れてないから大丈夫だ。時間ぎりぎりだがな」


 チャイムが鳴り、カグヤの教師としての最後の授業が始まる。授業内容は前回と同じで、木刀で素振りをして、二人組になり、手合わせをする。

 しかし、ワイドがいなくなってしまい、一人だけ余ってしまう。これでは一人だけ手合わせができない。


「素振りはそこまで。次は手合わせだが……カグヤ先生と手合わせしたい者はいるか?カグヤ先生は今日で教師を辞めることになった」


 生徒達はざわめき始める。


「早くない?」


「カグヤ先生、なにかしたのかな?」


 カグヤはウェルにげんなりした表情する。


「ウェル先生、なんで……」


「今日がお前の教師としての最後の授業だろう?最後くらい、生徒と手合わせしたらどうだ?」


「手合わせ……俺と?そんなの誰が……」


「はい、カグヤ先生との手合わせをさせてください」


 カグヤが困惑していると、一人の女子生徒が手を挙げていた。生徒達は、手を挙げている女子生徒に驚く。


「アリス様……分かりました。カグヤ先生、お願いします」


「えっと……はい、分かりました」


 アリスの真剣な表情にカグヤは諦めたような表情をして、アリスとの手合わせをすることになった。他の生徒達は、すでに二人組を作っていた。


「それでは……始め!」


 木刀を持ち、構えているアリスにどうすればいいか迷うカグヤ。もしも、フレイス王国の王女であるアリスを傷つけてしまったら、フレイス王国の国王陛下の怒りでなにをされるかと不安と恐怖を感じながら、カグヤも木刀を構える。


(あー、どうすればいい?防御と回避だけすればいいか?でも、アリス様は真剣だし……うわー、どうしよう)


「ふっ!」


「おわっ!?と」


 突然の剣戟を避けて、木刀を構える。アリスは攻撃をやめることなく、カグヤを襲う。

 カグヤは防御と回避を繰り返すことしかできない。


(アリス様は真剣だ。仕方ない。俺も真剣にやらないと失礼だもんね)


 覚悟を決めたカグヤはアリスに木刀を振る。防がれるが、カグヤは木刀を振り続ける。 

 アリスは防ぎ続けるが、カグヤの剣戟が強力で反撃することができない。アリスは後ろに飛び、一気にカグヤとの距離を詰め、木刀を振り下ろすが、カグヤの下からの強力な木刀の振りでアリスは木刀を手放してしまう。


「参りました。私の負けです」


「ふいー」


 アリスは負けを認め、カグヤは息を吐く。

 疲れを感じていないカグヤにアリスは近づく。


「流石ですね。カグヤ先生は強いです」


「ん?あ、ありがとう?」


 突然のアリスからの称賛の言葉に戸惑うカグヤ。

 アリスはそれだけ言うと木刀を拾いに行った。


「なんなんだ?まあいいや……ん?」


 違和感を感じて周囲を見渡すカグヤ。ウェルが近づいてきて、「どうした?」と聞いてくる。


「すいませんが、アリス様の手合わせを代わりにしてもらっていいですか?誰かに見られてる感じがするので」


「見られてる?」


「とにかく頼みましたー」


 カグヤはウェルと生徒達の場所から少し離れて、誰かを探す。カグヤは大体の予想はついている。



 遠くから授業を見ているルークとエレメン。隠密魔法で誰にも見つからないと安心している。


「カグヤさんに見つかると思いますよ?カグヤさんって気配を感じるの上手ですから。他の人なら見つかることはないと思いますけど」


「いやいや……大丈夫でしょ」


「不安なんですけど……あ、カグヤさんと……あれは」


「どうしたの?カグヤ君の手合わせの相手の人、知ってるの?」


 エレメンは思い出そうと瞼を閉じるが、思い出せなかったのか、瞼を開けて首を横に振る。


「忘れました。ですが、どこかで会った気がします」


「え?そうなんだ」


 そんなことよりを考えていると、カグヤが近づいてきた。二人は見つからないと安心していたが、カグヤは二人の頭に手を軽く当てる。


「授業観察?」


「そんなところだよー」


「ええ、そうなりますね」


 カグヤはため息をする。


「見てても面白くないよ?授業って楽しくないから。俺はそう思ってる」


「そうだけどさー、いいじゃないか。授業観察ぐらい」


「私は寝たかったんですけどね」


 ルークは笑顔で、エレメンはうんざりとした表情をしている。


「授業が終わるまで研究室にいて。分かった?ルークは我慢して。エレメンは寝てていいから」


「はーい」


「ありがとうございます」


 二人はカグヤの研究室へ戻って行った。



 カグヤが戻るとチャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。


(よーし、俺はもう教師じゃなくなったぞー)


 カグヤは生徒達の前に立つ。


「本当に短い間でしたが、ありがとうございました。皆さん、これからも頑張ってください」


 生徒達に頭を下げる。すると、生徒達から拍手をされた。


「カグヤ先生、ありがとうございました」


 最後にウェルから感謝の言葉を貰った。

 こうして、カグヤは教師を辞めることができた。

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