18 「教師からニートへ①」
学園へ着き、カグヤ達五人は馬車から降りて、ノスは学園長室へ、カグヤ達教師四人はそれぞれ自分の研究室へ戻り、休憩となった。
ちなみに、メビウス、ウェル、ロノにはカグヤが教師を辞めることを話した。三人は驚いたが、カグヤが教師を辞める理由に納得してくれた。
カグヤはドアに鍵を挿して開けようとするが、鍵は開いている。まさかと思いドアを開ける。
「不法侵入は感心しないな」
カグヤの研究室でくつろいでいるルークとエレメン。ルークはソファに座り、オレンジジュースを飲んでいて、エレメンはベッドで横になっていた。
「君との仲だ。これぐらいは許して。あと、オレンジジュースありがとう。美味しかった」
「だあー、そうかい。エレメン、どう?寝心地は」
「さっっいこうですー」
空になった瓶を見せてくるルークに呆れ、瞼を閉じて、寝てしまいそうなエレメンに寝心地を聞くと緩い声が聞こえてくる。
「鍵はかけてあったはずだけど……無理矢理開けた?」
「鍵がかかっていても、僕なら簡単に開けられる。ドアを壊して入った。ね?簡単でしょ?」
「開けたんじゃなくて壊したのか。ドアの修復は完璧。君はなんでもできるね。羨ましいよ」
「なんでもってわけじゃないけどね」
ドアの鍵を閉めて、しっかりと修復されていることに安堵し、冷蔵庫を開けるとオレンジジュースが一本しか残されていなかった。
「んー?ルーク、二本飲んだ?」
「一本だけだよー」
「ということは……」
冷蔵庫を閉め、ベッドで幸せそうな表情で寝ているエレメンの頬を突く。しかし、起きない。
「ん……へへ……」
「起きてー、じゃないと……ルーク、どうすれば起きると思う?俺には思いつかない」
ルークは「さあ?」と、彼も思いつかないというより、考えるのがめんどうなのだろう。カグヤはエレメンの寝顔を見て、起こすのをやめることにした。
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、ルークと向かい合うようにソファに座る。
「俺がいなかった間、どこでなにしてたの?」
「しばらくは、ジェイ君のところにいたよ。キサラちゃんが、君に会いたがってた」
「俺にか……ジェイとキサラは元気?」
「うん。二人とも元気。心配してる?」
「どうかな。まあ、元気ならいい」
ジェイ•ロアスト。彼を一言で表すなら、オカマだ。周りからは変人だと思われているが、カグヤ、ルーク、エレメン、キサラは変人とは思っていない。
他にもそう思っている人物はいる。彼はトレヒットという飲食店の店長である。
キサラはカグヤ達三人が見つけた少女で、彼女は捨て子であり、家名は不明。カグヤ達に見つかるまで、一人で街を彷徨っていた。
カグヤ達はキサラと一緒にトレヒットに向かい、ジェイに匿ってもらうようにした。彼女はそこで店員として働いている。
「最後の仕事が終わったら会いに行くか」
オレンジジュースを一気飲みして、空になった瓶をテーブルに置く。ルークは賛成らしく頷いている。
「りょーかい。エレメンちゃんはどうなんだろ?」
「一緒でしょ」
「だよねー」
二人は寝ているエレメンを見て、そう思う。
「今のうちに片付けとかしよ。ルーク、手伝って」
「分かった。暇だし」
「俺が渡す物全部燃やして……ほい」
「はいよー」
カグヤは学園関連の書類や空になった瓶をルークに渡す。ルークは渡された書類や瓶をテーブルに置き、人差し指を向ける。
「着火ー」
ルークがそう言うと書類や瓶は一瞬にして灰になった。普通なら魔法には詠唱を唱えながらするものだが、無詠唱で魔法を使う者がいる。
「火魔法にしては、火が出てないように見えたけど」
「一瞬のことだからね。瞬きしたら火が消えてた。そう思ってくれればいいよ」
「ほーい。それで空中に浮いてるのは煙だよね?」
灰の上には煙が集まってできている。室内に広がらないようにルークが煙に指を向けている。
「そだよ」
「外に出すか……と、その前に」
ドアを開けて外に誰もいないか確認する。チャイムは鳴っているが廊下には誰もいない。カグヤはルークに振り向き頷く。
ルークは指を外に向けて煙を外に出す。
「よし、これで終わり。あんがとさん」
「はーい」
ドアを閉めて鍵をかける。ソファに座り、時計を見ると、まだ、朝の七時過ぎだ。
剣技の授業が始まるのは午前十時からだ。
「んー、はあ……いい寝心地でした」
ベッドから降りて、ソファに座るエレメン。欠伸をして、テーブルにある灰を見て首を傾げる。
「この灰は?」
「必要じゃなくなった物の灰。エレメン、正直に言って。オレンジジュースは飲んだ?」
「あ……ごちそうさまでした」
「それはどうも」
カグヤは項垂れてため息をする。
「そうだ。エレメン、あれが無くなったから頼んだ。瓶は家にあるから」
「あれって……ああ、あれですか。分かりました」
カグヤは立ち上がり、ゴミ箱を持ってきて灰を入れる。ルークは会話に出ていたあれという言葉に疑問を抱く。過去に二人に聞いたことがあるが、適当に誤魔化された。
「ねえねえ、あれってなに?」
「あー、うん。そうだね」
「んー」
「答えになってないよ。教えてよー」
二人は誤魔化し続ける。