12 「頼もしい友達」
時は遡る。ウェルをてきとうに追い払った後、寝ようとしても眠れない。原因はワイドだ。フラエイ家は悪質だと知り、必ずユズリハ家になにか仕掛けると思ったカグヤはベットから降りて、カバンから縦に長い長方形の金属の板を出す。片手で使えるサイズで黒色。表面はガラス素材で作られている。右にある電源ボタンを押して起動させると画面が光る。
これは魔法器具で世界で三人しか持っていない連絡機器。名前はムメイ。
「面倒ごとは任せるか。戦うの好きだもんね」
画面に表示されている番号を電話先の相手の電話番号を打つ。番号は順に1、2、3とシンプル。ムメイからプルルルッと、奇妙な音を出している。耳にムメイを当てる。
ポンッと鳴り、ムメイから電話先の相手の声が聞こえる。
『カグヤ君!君からかけてくるなんて珍しいね!僕は嬉しいよ!』
元気な声で話してくる男性。カグヤは声が頭に響いて頭を抑える。
「う、うん」
『それでそれで!僕になんの用かな。もしかして、また三人で旅!?もちろん僕は賛成だよ!』
「残念だけど違うね。でも、旅は俺の頼みを受けてくれたらしようかな。どうしようかな?」
『受けるよ!よしっ!』
食い気味に頼みを受けてくれた。することがなくて暇なのだろうか。
「んじゃ、頼みを言う……」
『あっ!ちょっと!……カグヤさん、頼みは無しで』
男性はムメイを取られ、ムメイからげんなりとした少女の声が聞こえる。
「君か。えー、困るよ。旅はもうしたくないから?」
『そうですよ。カグヤさんは本当にしたいのですか?』
「いや、したくない」
正直なところ、旅はごめんだ。
『でしょう?だから、頼みは無しで……』
それは困ると思い、とある行動をすることにした。絶対に彼女に効く 。
「うーん、柔らかいなー、このベッド。それに枕も最高!ああ!柔らかい!」
『え?カグヤさん?ちょちょ!え?え?』
「あー、最高だ」
ベッドに座ってわざとらしく言う。実際、カグヤはこのベッドで寝ると幸せを感じる。
『うー、ずるいですよ!それで私を……んー!分かりました!頼みを受けます!だから……』
「分かってる分かってる。じゃ、頼みを言うね」
『はい!』
やっと話が進むことに安堵する。早く通話を終わらせたくて仕方ない。
「今夜、俺の家が襲撃される。だから、それを阻止してほしいんだ。いいかな?」
『あっ!……襲撃?なにかしたの?』
再び男性の声が聞こえる。
「それは……後で言うよ。うん」
『分かった。それと確認したいことがあるんだけど……襲撃してくる人達って殺してもいい?いいよね!』
明るい声で物騒なことを言う男性にカグヤは引く。
「いいよ。あっ、君は空間を創れるよね?」
『創れるよ。なんで?』
「周りにバレないようにだよ。それと危ない」
『なるほど!』
「よし。じゃあ、君の創った空間で襲撃してくる人達を殺してね」
『分かった!……私はなにもしなくていいんですか?』
少女が聞く。カグヤはもう一つの頼みを考えた。
「公園で待機かな」
『分かりました』
「それと彼に変わって」
『はい……なにかな?』
「フラエイ家って知ってる?」
『知ってるよ。面倒な家系でしょ?』
うんざりしたように言う。彼も知っていたようだ。
「そうそう。襲撃のためにフラエイ家は必ず俺の情報を探す。君は俺の情報をフラエイ家に言って」
『はいはーい!了解!』
「あっ、それと襲撃を阻止したら公園にいる彼女と合流したら、一緒にフラエイ家、全員を殺して」
『うん!分かった!』
「じゃ、頼んだよー」
『はーい!』
通話を終了して、ムメイをカバンに入れる。長時間の通話で疲れて喉が渇く。
「飲み物……買いに行くか」
カバンからお金が入った袋を取り出して研究室を出る。外はまだ明るく、生徒達は授業を受けている。
「一応、気配消すか」
誰にもバレないように学園を出て、商店街へ向かう。
商店街は平日でも賑わっていた。ここでは、犯罪は一回も起きたことがない。カグヤは平和な商店街だと思っている。
「えー、飲み物は……っと」
八百屋に入り、並べてある飲み物を五本買う。全てオレンジジュースだ。ここの八百屋は商品が他の店より安い。
「さーせん。これください」
「はいよ。銀貨三枚」
「はいはい、ほい」
「銀貨三枚。ありがとねー」
八百屋の店主の女性に銀貨三枚を渡して飲み物が入った袋を持って学園へ戻る。
無事に自分の研究室に戻り、冷蔵庫に飲み物を四本入れて冷やす。ソファに座り、一本のオレンジジュースの蓋を開けて飲む。
「ふいー、うまっ」
渇いた喉を冷えたオレンジジュースが潤す。あまりの美味しさに一気飲みしてしまう。空になった瓶に蓋をしてテーブルに置く。
「はー、疲れた。体力落ちたね。最悪ぅー」
過去に旅をしていたときが、カグヤの全盛期だと思っている。別に強くなりたいわけではないが。
しかし、弱くなっているのは少し嫌だと思っている。旅をすると約束してしまった。彼だけには失望はされたくないと思っている。面倒なことになるから。
「まあ、そのときはそのときでいいか」
疲れをなくすため、ベッドに横になり瞼を閉じる。