1 「今とあの頃」
下手ですがよろしくお願いします
ーとある男性の過去。
「テストで0点だと?ははっ!見たことがない!こんな出来損ないがいたとは!」
教室で一人の男子生徒が白紙の解答用紙を持って笑っていた。周囲にいる生徒達はざわつく。
「返してよ」
そんな周囲を気にせずに一人の男子生徒、カグヤ・ユズリハは頬杖をついている。
「なんだその態度は?返してくださいだろ?あぁ?」
カグヤの態度にイラつき怒る男子生徒。
「……仕方ない」
椅子から離れて男子生徒の腹に拳を強く当てる。
「ぐっ!?」
その場で腹を抱えて床に膝をつき手から解答用紙を落とし、それをカグヤが拾う。自分の解答用紙を見て自分に呆れる。
「白紙の解答用紙も悪くない。君はどう思う?」
「貴様っ!誰に手を出したのか分かっているのか!」
男子生徒がカグヤを睨みながら怒鳴る。ゆっくりと立ち上がろうとする男子生徒の側頭部を強く蹴る。
「っ!?」
「うるさいよ。それに人を馬鹿にするのはダメって親に教わらなかったの?……気絶しちゃったか」
倒れている男子生徒の頬を叩くが意識は戻らない。生徒達はさらにざわつき、中には悲鳴をあげる者がいた。
「ダメか。まぁ、そのうち起きるからいいか」
カグヤは椅子に座り、自分のバックの中に解答用紙を入れて机にうつ伏せになる。
そのとき一人の男性教師が教室に入ってくる。
「どうした?って!なにがあった!セレガス君!大丈夫か!」
倒れている男子生徒の名前はグラノ・セレガス。彼は貴族であり、平民のカグヤを日々、馬鹿にしている。そんな彼にカグヤは鬱陶しいと感じていた。
「……レス先生」
「セレガス君!よかった……」
グラノはゆっくりと起き上がり側頭部を抑える。男性教師、レス・エナンスは安堵した。
「レス先生……カグヤが俺に暴力を」
「なっ!?ユズリハ君が?皆、本当なのかい?」
生徒達は頷く。レスはうつ伏せになっているカグヤの体を揺らす。
「ユズリハ君。起きて」
「……うっす。レス先生。どしたんですか?」
起き上がり真剣な表情をしているレスを見る。
「ユズリハ君……君がセレガス君に」
「うるさかったので仕方なくです」
レスはカグヤの両肩に手を乗せる。
「ユズリハ君、暴力はダメだ。分かったかい?」
「分かりましたよ。えーっと?ごめんねー」
グラノをうとうとした目で見て緩い声で謝る。グラノは歯ぎしりをして睨む。
「セレガス君、許してやってくれ」
「……分かりました」
昼休憩、カグヤは学園にある芝生広場に座って持ってきたハムとレタスが挟んであるサンドイッチを食べていた。
「やっほ。カグヤ」
カグヤに近づいて来たのはカグヤの数少ない友人である銀髪に緑の瞳の女子生徒、メビウス・キャルンク。初めての出会いは魔法学の授業だ。二人組になって取り組むときに一緒になり、それから友人という関係になった。
メビウスはカグヤの隣に座る。
「メビウス。昼飯は?」
「もう食べた。それより、あの人に暴力はダメだよ。貴族の中でも厄介な家系だから」
「へえー、そうなんだ。初めて知った」
サンドイッチを食べながら呑気に言うカグヤにメビウスは肩をすくめる。彼女も貴族だが、平民を下に見ることはなく平等に接している。他にもメビウスのような貴族はいる。
「今回のテストも0点とは、さすがね」
「あんがと。褒めてくれるなんて」
カグヤは授業中は居眠り、テスト期間が近くなっても勉強をしないというダメな人間だ。
「どういたしまして。なんで剣技のときだけは真剣なのかしら」
「さぁ?自分でも分かってない……ごちそうさん」
食べ終わったカグヤは仰向けになり空を見る。紫の瞳の視界には青空が映っている。暖かい空気に涼しい風。カグヤの黒髪とメビウスの銀髪がなびく。このときに寝るのが一番いいと思っている。
「眠気が来ないのが残念だな」
「このあとも授業あるんだから、寝ないでね」
「分かってる……寝ちゃったら起こして」
「はいはい」
そんな会話をしながら昼休憩をした。
下校の時間。生徒達が帰っている中、カグヤは学園長室にいる。そこには一人の男性、学園長であるノス・ナルフが椅子に座っていた。
「予想なんですけどー、俺、退学っすか?」
冗談混じりにへらへらと目を閉じているノスに話しかける。ノスは目を開け、机に置いてあった白い封筒をカグヤのほうに差し出す。なにも書かれていない。カグヤは封筒を開けて入っていた紙を見る。
「予想通り。退学かー、今日の出来事ですよね」
紙にはカグヤが学園から退学する内容が書かれていた。
「あぁ、そうだな」
ノスにも今日、起きた出来事が伝えられて知ったのだろう。
「そうですよね。まぁ、いいですよ。俺は学園にいても勉強はしないし、する気もない。邪魔者が消えて学園長も安心したんじゃないですか?」
「……」
ノスはなにも言えずに黙っている。
「権力ぅ……ですか?」
「……」
ノスは頷く。
「なるほど……そうですか。うんうん。学園長、今までお世話になりました。んじゃ」
カグヤは紙を封筒に入れて封筒を持って学園長室から出ていく。
帰り道。
「怒るかな?……どうだろ」
一人、呑気に歩いているカグヤは両親の反応を気にしていた。
「謝って許されることじゃないよな……はぁ」
家の前に着き、深呼吸をして家の中へと入る。
「ただいまー」
「おかえり……どうしたの?」
返事をしたのはカグヤの母であるナギサ・ユズリハ。おっとりとした性格でカグヤを甘やかしている。
「えっと、パパはいる?話があって」
「ええ、いるわ」
「それはよかった」
リビングへと入り、カグヤはソファに座る。ナギサはカグヤの父であるアマネ・ユズリハを呼んでいる。
「あなたー、カグヤが話があるってー」
「おう。待っててー」
穏やかな声が聞こえてくる。アマネもナギサと同じくカグヤを甘やかしている。ソファで待っているとアマネが来た。ナギサとアマネはカグヤに向かい合うようにソファに座る。
「おかえり。カグヤ。話ってなにかな?」
「……これ見て」
カグヤはカバンから封筒を出してテーブルに置き二人に差し出す。アマネが封筒を開けてナギサと一緒に見れるようにして手紙の内容を見ている。アマネが手紙をテーブルに置く。カグヤは二人から目を逸らす。
「……カグヤ、学園生活は今まで楽しかったかい?」
アマネが優しく聞いてくる。
「……楽しくなかったよ」
勇気を出して二人を見て言う。二人の表情はなぜか安堵した表情をしていた。
「本心が聞けてよかったわ。学園から帰ってくると元気なさそうだったから」
「カグヤには元気でいてもらいたい」
想像と違った反応にカグヤは呆けている。
「怒らないの?退学だよ?」
「怒らないよ。大丈夫」
「パパの言うとおり。私も怒らないわ」
二人の言葉を聞いたカグヤは苦笑する。
(優しすぎるよ)
ー現在。
「最高ー」
カグヤは近くの公園の中心部にある広い草原に仰向けになっていた。退学してから二年が経過してカグヤは十九歳になっていた。ちなみに働いていなくニート。
服装は紺色の浴衣に灰色の帯を巻きつけている。
「平日はいいねー。仕事とか学園で誰もいなくて邪魔されない」
月曜日。それは仕事や学園がある人には嫌な日だろう。だが、カグヤは平日など関係ない。やることは家で寝てるか、散歩して公園で寝るか。それともう一つ。
「今日の狩りも楽勝。後で刀を手入れしないと」
カグヤの近くには大きな袋と刀が置いてある。袋からの血と肉の匂いが嗅覚を刺激する。
刀は黒い鞘に白銀の刀身が納められている。鍔の形は円形で茶色に染まっていて柄は紫に染まっている。今ではカグヤの愛刀だ。アマネと一緒に武器屋に行き、買ってもらった。
ゆっくりと立ち上がり、カグヤは帯刀して袋を持ち家へと向かう。
「ニート最高ー」
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