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短編集

魔法少女になんてなりたくなかった! TS転生した主人公は何故か後天的に魔法少女になってしまう。

掲載日:2025/02/20

 魔法少女をやっていていいことなんて、筋肉がついたことくらいだ。


 もしかしたら魔法少女って、変身して戦うことで、効率の良い筋トレをしているだけの存在でしかないのかもしれない。


 そんなしょうもないことを考えている私が、今何をしているのかというと――


「これで……終わり!」


 近くに出てきた怪人を、私の魔法少女らしからぬ肉弾戦でボッコボコにぶっ飛ばし、消滅させたところだ。今回の戦いは私と怪人との力量の差が大きく、私の圧勝だったので、そんなしょうもないことを考える余裕があった。


 私が倒した怪人から、シュウウと灰色の煙がモクモクと立ち上る。


 この煙は怪人が正しく浄化された証拠のようなものだ。


 煙が晴れると、そこには特に何の変哲もない少年が地面に伏している。


 怪人とは元々は実態のないものなのだが、普通の人間の負の心に呼応して、その人間に乗り移る性質がある。乗り移った後はその体を変化させ、世間一般でいわれているような怪人となり、暴れ出すのだ。


 怪人へと変化すれば、怪人に意識が乗っ取られ、不思議な力を使えるようになる。


 大抵の怪人は、密かに抱えていた元々の人間の欲を無理やり満たすような行動をする。周りの迷惑など考えずに強引にだ。


 さらに怪人は普通の武器などの攻撃が全く効かない。いわばほぼ無敵のような存在なのだ。


「ふぅ……なんで怪人ってやつは、魔法少女しかダメージが与えられないのかねぇ……」


 私はため息を吐く。


 そんな無敵の怪人にどうやって対処するのか――そう、魔法少女だ。


 魔法少女にしか怪人にダメージを与えることができないし、さらに言えば、魔法少女が倒すことでのみ、乗り移られた人間は浄化され普通の姿に戻る。


 その後、浄化された人にアフターケアをして負の心を晴らしてあげるまでが、一般的な魔法少女の主な活動だ。


 まあ私はアフターケアは苦手なので、他の人に任せっきりなのだが……


 得意なことはぶん殴ることだけです! 後片付けは任せました!


ヒューヒュー!

かっこいい!

ドレス姿似合う!

流石魔法少女だぜ!

目の保養になりました!

おじさんあつくなっちゃった!

結婚してくれー!

姫ちゃん素敵!

闇堕ち魔法少女様かっこいい!


 遠くから私の戦いを見ていた野次馬共がお祭り騒ぎをしだす。戦いが終わると弾けるように騒ぎ出すのはいつものことだ。騒いでいる連中にはおっさんと若い女性が多い。


 私は魔法少女としては変わった格好と戦い方をしているせいか、おっさんと変な女に好かれやすいようなのだ。


「おい最後のやつ! 誰が闇堕ち魔法少女だ! 変な呼び方するんじゃねぇ! あと姫って呼ぶな!」


 私はファン達に抗議する。


 だが、ファンはツッコミくらいとしか思っておらず、喜ぶだけだ。あのー、ファンなら言う事聞いてくれませんかね?


 私は少々変わった魔法少女なせいか、色々な呼び名で呼ばれている。その中には不名誉なものも沢山ある。


 ちなみにお姫様という意味で姫ちゃんと呼ばれている訳では無い。私の本名が「姫」というのだ。


 星川姫――それが私の名前。


 姫という名前は気に入ってないので、私のことは名字で呼んで欲しい。お姫様に憧れているような女の子じゃないのだ。しかももう中1だし、お姫様扱いされるのは流石に恥ずかしい。


 私は普通に本名を呼ばれているが、本来は変身前の魔法少女の正体がバレることなんてない。


 だが、私の場合は少し他の魔法少女と違う事情があり、すっかり正体が浸透している。


 そのことについて内心苦い思いを感じていると、戦いが終わった私に、フードを深くかぶったチンマイ女の子がテクテクと近寄ってきた。


「帰ろ」


 この女の子は私の大好きな唯一の親友。名前はユリア。どちらかというと無口で、話す言葉がいつも少し言葉足らずなのが特徴だ。私と同い年で、身長はかなり小さめ。常にムスッとした表情かつ、目つきがデフォルトで悪い。


 身長は小さいけれど、顔や表情が原因で普通にしていても見下されているように見えてしまう。そのせいで周りから浮いた存在になってしまっているが、マイペースな性格故、本人は全くそのことを気にしてはいない。


 ユリアは魔法少女と怪人についての研究が趣味なので、私が戦っているのをよく観察できるよう、いつも私が戦っているところの近くにいる。



 私達は二人でピッタリと並んで帰る。歩いているとき、何故かいつも私が右側で、ユリアが左側だ。大概その並びなので、逆だと少しきまりが悪い。 


 私は中学一年にしては大きい方なので、小さいユリアと二人で並んでいるとかなりの身長差がある。


「おまたせ~、帰りにあそこのハンバーガー屋に寄ろうぜ」


「うん」


 私は魔法少女の変身を解き、ドレス姿からギャルっぽく着こなした制服姿に戻る。

 

 ちなみに制服は改造してかなりのミニスカートにしている。理由はただ一つ。そのほうが可愛くて好きだからだ。


「相変わらず――」


「それ以上は言うな。私もなりたくてこうなったわけじゃないから」


 ユリアの言うことを遮り、言い訳をするように早口で喋る。言いたかったのは、私の変身後の魔法少女らしからぬ格好のことだろう。


 私の変身姿は何故か露出が多く、背中のパックリ空いた黒のキャバドレスに、両耳に大ぶりのピアスをつけたセクシーな格好なのだ。


 こんな格好のせいで、私を闇堕ち魔法少女なんて呼ぶ人もいる。


 普通の魔法少女の衣装は、もっと色が明るくてフリフリしたような可愛い格好なのだが、どうしてか私の衣装はとってもシンプル。ほんと、私だけなんでこんな衣装なのだろうか……


 ちなみに魔法のステッキすら私はない。だから肉弾戦をすることしかできない。


「私は正式な魔法少女じゃないから仕方ないだろ」


「面白い」


 ユリアは私が心底興味深いようで、目を輝かせながらそう呟く。


 こんな珍妙な姿になった原因は、私が正式な魔法少女ではなく、後天的に魔法少女になってしまったからだろう。


 この世界の魔法少女は、生まれながらにして自分が魔法少女であると自覚している。後天的に魔法少女になることなんてない。


 だから、私のように後天的に魔法少女になるなんてことはありえないことなのだ。


 じゃあなんでお前は魔法少女なのかって?


 ……知らねぇよ! なんか魔法少女になってしまったんだよ!


「おそらく姫に前世の記憶があるのが原因」


「姫って呼ぶな! ったく……なんでこうなったかなあ」


 ユリアの言葉に突っ込みつつ、私は頭をポリポリ掻きながらため息をつく。


 そう。私には前世の記憶がある。まあ前世の記憶があるだけの普通の女の子だ。


 前世は日本という国に暮らしていて、娯楽小説を読むのを趣味としている普通の社会人の男だった。


 私と前世の男とでは、趣味や性格、性別までもがまるっきり違うし、世界すらもまるっきり違うので、前世の知識なんてまったくと言っていいほど役に立たない。


 前世との唯一の共通点といえば、前世の男は妹属性を、私は実際の妹を愛しているということくらいだろう。


 なので、前世の記憶があろうが、今の私にはなんの影響も与えないと思っていたのだが……どうやらそうではなかったらしい。


「偶然条件が同じになってしまったのだと自分は推測している」


「偶然ねぇ……」


 普通魔法少女が変身するには、魔法少女たちにしか見えない“フェアリー”という小さくて可愛いらしい動物のような生き物と、魂を完全に一体化することで変身できる。


 そのフェアリーは少女と魂を一体化するプロのような生き物らしく、フェアリー無しに変身することは絶対にできない。


 でも、私はフェアリーなんて見えないし、実際私の周りにいるということでもないらしい。


 ある出来事がきっかけで、私がたまたま前世の自分と気持ちが完全にシンクロし、偶然二つの魂が完全に一体化して変身してしまった、というのが親友の推測だ。


 異なった二つの魂が完全に一致するなんてそうとう稀なことらしく、理論上ぎりぎりありえはするが、実際に起こることを想定するようなものではないらしい。


 で、その一体化した感情というのは…


「ムカつきって……ふふ」


「いいだろムカついちまったんだから! しょうがねえよ」


 ユリアが控えめにニヤニヤと笑っているところを、私は肩で小突く。


 いやぁ……あのときはついブチギレちゃったなぁ……まさかあんなことで魔法少女になるとは……


 あのときのことを思い出すと、恥ずかしくて悶えてしまう。


 別に悪いことをしたわけじゃないし、やったことの後悔は一ミリもしていないのだが……少々無謀なことをしてしまったことは確かだ。


 危険なことはしないでと、結果的に愛する妹を泣かせてしまったので、個人的にはあの出来事は黒歴史なのだ。


 だから、あまりその時のことを語られたくない。



 会話の流れを断つために、強引に話題を変えることにする。


「私も変わってるけど、ユリアも相当めずらしいだろ」


「自分は普通の研究者。親がちょっと奇人なだけ」


「ちょっとじゃねえだろ! 親が悪の組織のボスだなんて、私以上に珍しいからな!」


「母はタダの目付きの悪いコミュ障の研究者」


「世間からは完全に悪の組織だと思われているけどな」


 私はユリアからユリアの母のことを聞いているので真実を知っているが、世間はユリアの母を完全に悪の組織のボスだと勘違いしている。 


 ユリアの母は、悪そうな格好、ニタリとした笑い方、強い怪人がいる現場に必ず現れて何かをしている、魔法少女を全く相手にしていない、謎の技術力などなど……勘違いされる要素がたんまりある。


 しかもだ、ユリアの母は世間にどう思われようが全く気にしないタイプの人間なのだ。勘違いを正そうとしない。まさにゴーイングマイウェイ。


 その娘であるユリアも正直似たようなところがある。ユリアは自分のことを「ただの研究者」だとほざいているが、全く普通ではない。確実に私以上に変わった存在だ。


 下手したら魔法少女である私より強い可能性だってある。そんなことを思ってしまうほど、ユリアは不思議で、底が見えない存在なのだ。


「じゃあ、姫は魔法少女なのに悪の組織の娘と仲良くしちゃう、悪い人なんだね」


「うるせー! 親友がたまたま悪の組織のボスの一人娘だっただけだろ! あと姫って呼ぶな」


 ユリアとは中学の同じクラスで初めて出会った。

 

 その当時、ユリアはクラスで明らかに浮いていた。ユリアの奇妙さに、周りはどう関わっていいかわからなかったのだろう。


 教室でも深くフードを被っているし、人とコミュニケーションを取ろうとしないし、なんか変な機械をずっと教室でいじっているし、見た目こわいし……まあ当然っちゃあ当然だ。


 そんなユリアに、私はどうしてかとても惹きつけられた。大げさに言えば一目惚れだ。どうやら私は“はみ出し者”に惹かれる傾向があるようだ。

 

 そんな私はどうしてもユリアと友達になりたかったので、ユリアに猛烈に構いにいき、なんだかんだあった末、今では親友だ。


「あの時の姫、自分を口説いてるみたいだった」


「そんな熱烈だったかなぁ。全力だったのは否定しないけど」


 昔を思い出すように答える。


 ユリアが言うには、その当時の私の誘い方が直接的すぎたらしい。


 熱烈なアプローチを毎日のようにされたことは、マイペースなユリアでも流石に恥ずかしさを覚えたらしく、最初は仕方がなく私と友達になったらしい。


 まあ今ではユリアも私のことを親友だと認めていると思う。だって、めったに人を褒めないユリアが、私には褒め言葉をくれるのだ。


 ガサツで大げさで単純なところが姫のいいところだって何度も言われたし……


 あれ? よく考えたらこれって褒め言葉か? うん。まあ、いいところって言ってるし褒め言葉だろう!


 でも、まさかそのときは悪の組織のボスの一人娘だとは思わなかったなぁ……

 

「まあ悪の組織のボスの一人娘だろうと、生まれなんてくっそどうでもいいんだけどね。ユリア、愛してるぜ!」


「ほんと、ガサツで大げさで単純」


 ユリアが呆れたようにぼやく。この答え方は嬉しくて照れているだけだろう。親友の私にはお見通しだ。



「でもさー。やっぱり後天的に魔法少女になった私より、ユリアのほうが変わってると思うんだよね。だってユリアには宇宙人の血が混じってるんだろ」


「べつに普通」


「普通じゃねーよ」


 ユリアの大昔の先祖は、遥か遠い宇宙から飛来した宇宙人らしい。優れた技術力をもっていたらしく、その技術力と優れた思考能力を、ユリア達一家は引き継いでいる。


 あまりにも進歩しすぎている技術力があるので、ユリアの周りでは、なにもない空間からものを取り出したり、不自然にものが浮いていたり、オートでよく分からない物質で構成されたシールドを貼ることができたりなど、ありえないようなことがよく起きている。


 そんなユリアだからこそ、底が見えないと感じることがあるのだろう。


 ただ、いい部分ばかり受け継いでいるわけではない。コミュニケーション能力や、マイペースさ、ファッションセンス、悪そうに見える顔や表情まで、しっかり遺伝してしまっているのだ。


 ただまあ、私からしたらユリアは変な技術力があるだけの、変わった女の子という認識でしかなく、技術力が凄いとかはただの個性としか思っていない。


 本当に心から、ただユリアが面白いやつという認識しかない。難しいことは考えないのが私流。シンプルイズベスト。


 でも、頭が良すぎるせいか、馬鹿な私にはちんぷんかんぷんなことを時々言うのだけはやめて欲しい。真理の追求だとか、四次元の視点だとかは、私に言われても理解不能だから。


 そういう話の中で、唯一私がふんわり分かったことは、ユリアには普通の人の一秒が十秒に感じる特徴があるといったことくらいかな?


 なんか体の電気信号を光に変えて高速化したとかよく分からない説明をしてた気がするが、案の定よく意味不明だったので詳細は覚えていない。


 それがどれだけ凄かろうと、私にとってはただの頼れる頭の良い親友でしかないのだから。



「あそこ見て」


 ユリアが前方の右斜め前方向を指差す。


 なにかと思い指を指した方を見ると、見たくないものが目に入った。


「うっわ……おいおい……あんな旗嬉しそうに振るんじゃねーよ!」


 そこには【姫ちゃん世界一キュート!】と書かれた旗をブンブンと振り回している集団がいた。他にも応援うちわだとか、私の戦うところを象ったTシャツだとか、ファングッズのようなものを身に付けた人たちがたくさんいる。


 こういう人たちがいっぱいいることから分かるように、この世界の人間は皆、魔法少女のことが大好きだ。皆、暮らしを守ってくれる魔法少女を「ヒーロー」のように思っているのだろう。


 まあそれにしたって私のファン達は少し過激なのだが……そこは見ないふり。


 だけどさあ。そういう事情があるのにしても、ちょっと魔法少女は世間から好かれすぎだと思う。私なんてぶん殴ってるだけだし、そんなに好いてもらわなくてもいいのに。


「ほんと、勝手にグッズ作るのとかやめて欲しい」


「仕方のないこと」


 私は内心でため息をつく。


 仕方がないことねぇ……


 魔法少女は応援されると、いつも以上に力を発揮することができる。だから、推しの魔法少女のグッズを持つことを、世間は推奨している。


 そのせいで、世の中には魔法少女のファングッズが溢れている。


 普通の魔法少女ならどれだけ熱心に応援されても、どれだけ好かれていても実生活に影響はない。なぜなら、絶対に変身前の正体がバレないから。


 なぜ普通の魔法少女の正体がバレないのかと言うと、「フェアリーの力」が原因らしい。


 フェアリーには認識をずらし、元の存在の正体をバレないようにする不思議な力があるのだ。まあなんとも羨ましいことだ。


 だからこそ、魔法少女にグッズ制作の許可なんて取らなくとも、元の正体は絶対にバレない。それに、魔法少女側にとってはただのありがたいことなので、わざわざ許可を取らなくてもいいってわけだ。


「というかさぁ……普通の魔法少女ってずるくね? 私にもフェアリーよこせよ!」


「……どんまい」


 ユリアが可哀想なものを見る目で私を見てくる。おいそんな目で見るな。よけい悲しくなってくるだろ。


 フェアリーなんて見たことも感じたこともない私は、世間から正体がバレバレだ。本名から背格好まで全て知られている。


 私はさあ、魔法少女は正体が分からないからこそ、堂々と戦えるのだと思うのだ。


 だって、正体がバレているのにも関わらず、わざわざ変身するの、すっごく恥ずかしいもん。変身しないと怪人にダメージを与えられないから、しかたないんだけどね。


 まあ最近はそんなことにも慣れてきたので、逆に堂々とすることにしている。


 それに、正体がバレているといるということで、良いこともある。私は食べることが好きなので、差し入れをもらったりする機会が多いのは嬉しい。


「でもぶっちゃけさー。私に応援なんていらないんだよね。応援なくても勝てるし」


「それでも応援したいのがファン心理」


 ほんと、私だけでも応援なんてやめてくれないかねぇ……


 どうやら、私は他の魔法少女と比べて戦闘能力が高いようで、周りの応援無しで勝つことができてしまう。


 だから本来私を応援する必要なんてないはずなのだが、強い魔法少女ということで、何故か沢山のファンができてしまったのだ。


 どうも私のファンは必要が無くとも応援したいようで、たくさん私のグッズを作ったり買ったりしやがる。


「正直魔法少女になっただけで、これだけ世間に注目されるとは思わなかったわ」


 私は少しだけ愚痴をこぼした。


 今までは、私がギャルのような派手な格好を好んでしていることもあり、どちらかと言うと悪いイメージを持たれることが多かった。


 格好のイメージ通り、実際素行が良い方ではない。でも、悪いと言っても、平気で授業をサボったり、遅刻が多かったりするくらいだ。これは私がズボラで面倒くさがりなだけで、積極的に世間や親に反抗したかったってわけじゃない。


 どちらかというと、ギャルっぽい格好はファッションとして楽しんでいるだけだ。実際学校指定の地味な制服より、この格好のほうが絶対おしゃれだし。


 まあ私はそう思っているが、世間では学校指定の制服をしっかり着ているほうがいい子に映ることも分かる。


 だから、今までは褒められることなんて家族以外にはそうそうなかった。私は他人に褒められなれていないのだ。


 そのせいで、いきなりこんなにたくさん褒められると、どうしても照れてしまう。ほんと、あまり注目しないで欲しい。


見て! 姫ちゃんテレてる! 可愛い!

ホントだ! おーい姫ちゃんこっち見てー!


 ファン達が私をもてはやす。怪人が倒れたことでみんなテンションがあがっているのか、絡み方が少々鬱陶しい。


「おいユリア! こっちを見てニヤニヤするな!」


「ふふっ」


 テレている私をユリアがからかうような目でニヤニヤと見てくる。


 でもユリア、こういうことを他人事だと思ってないか? 実はユリアも他人事じゃないんだよ。だって……


あのちっこい子いつもサポートありがとう!

姫ちゃんのパートナーも素敵!

目つきの悪い少女……ありだな!

一緒にいる娘、ちっちゃくて可愛い!

ダメな魔法少女ですが、あなたのお陰でなんとかなっています。

あの子が姫ちゃんの飼い主か。あんな世話の焼ける娘を世話するなんて、すっごくいい子なんだろうな。

目つきの悪いロリ! 大好物です!


 そう。飛び火してくるのだ。


 ユリアは色々雑な私をサポートしてくれる人と認識されているので、私が魔法少女になってからは、怖い見た目に反して愛される様になった。


 やーい、ユリアもテレてやんの~


 ユリアも私と同じように、怖がられることはあっても好意を持たれることに慣れていない。褒め言葉に慣れていないという点に関してはお揃いだ。


「さっさと離れよう」


「そうだね」


 私達二人の意見は一致し、そそくさとこの場所から離れることにした。


―――――――


 ファン達から逃げるように走り抜け、なんとかしてハンバーガー屋にたどりついた。


 セットメニューを注文し、席で待つ。


 戦った後はいつも以上に腹が減る。はやく来ないかなあ。



 ちなみにだが、この世界は健康志向がやたらと強い傾向があるので、ジャンキーなハンバーガー屋はほとんどない。


 そんな中、この店は人目につきにくい場所にあり、こっそりとジャンキーなハンバーガーを売ってくれる。だから私はここを「脱法バーガー屋」と呼んでいる。


 そんな店なので、ここには街中のはみ出し者が集まってくる。私の大好きな場所だ。


「はぁ。そんな好かれるようなことしてないのにねぇ……全人類、私に向ける好意は、全て妹様に向けるべきだと思うよ。うん絶対そうすべき。だって、私の妹様こそ全宇宙一可愛いんだから」


「姫は言うことがいつも大げさ」


「姫って言うな! いやいや……大げさじゃないって!」


 私の素晴らしい意見に対し、呆れたように言うユリア。


 私には妹が一人いて、その妹は世界一可愛いのだ。敬意を評して妹様といつも呼んでいる。私の父も私と同じくらい妹様が大好きなので、よく一緒に妹様を溺愛している事が多い。


 私なんかより、妹様のほうにファンがつくべきだと思う。私より圧倒的に可愛いし。


 だから、さっきの姫ちゃん世界一キュートという旗も間違っているのだ。“妹様全宇宙一キュート”に変えるべき。ほんとに世の中の人達は見る目がないわ。


「光ちゃん。確かに可愛い」


「でしょ! ユリアも見る目あるね!」


「でも溺愛しすぎ」


 非難するような目で私を見るユリア。溺愛しすぎと言われてもしょうがない。だって実際全宇宙一可愛いのだから。


 ちなみに光というのは私の妹様の名前だ。妹様は性格も素晴らしく、小学生ながら私の家族の中で一番しっかりしている。私の自慢だ。


「そう見えるだけでは」


 ユリアがそう小声で呟く。


 ユリアが言いたいのは、私達星川一家は、妹と犬以外の皆が変わり者すぎて、普通の妹が相対的に可愛く見えるだけだ、というようなことだろう。


 まあ、私の両親が変わり者であることは否定しない。我が家の愛犬、サモエドのりんたろうですら、私達家族の奇人ぶりに引くことがあるくらいなのだ。


 私は両親からしっかり愛情を向けられて育てられた実感があるし、両親の性格に慣れてしまったので、そこまで変な人だとは思っていないが……他人から見たらそう見えるのも分かる。


 ちなみに私の家族構成は父母私妹犬の五人家族だ。ユリア曰く、私の家族のまともな順は、妹様>りんたろう>私>父>母になるらしい。


 私が我が家の愛犬よりまともじゃないと思われていることに対しては、特に反論はない。なぜなら我が家の愛犬が賢すぎるから。


 お手、おかわり、待てなんかは一発で覚えたし、嫌なことがあった日は何も言われなくとも寄り添ってくれる。下手したら私の苦手な算数は、りんたろうのほうができるんじゃないかと思うこともある。それくらい我が家の愛犬は賢いのだ。


「違うって! 実際可愛いし、優しいし、自分の芯がある凄い人なんだって! 私の推測では、おそらく天使の生まれ変わりなんだと思うんだよな」


 私が大真面目にそう言うと、ユリアはまた始まったよというような表情で私を見る。


 たしかにしょっちゅう妹のことを喋っているけど、唯一の親友なんだからそんな顔で見なくていいのに。


 そんなことを思っていると、注文した商品が来たので二人で食べ始める。私はガツガツ食べ、ユリアはよく分からない機械をいじりながら、ちまちま小さく食べている。


 これもいつものことだが、ユリアはマルチタスク能力が非常に高いので、なにか作業していてもなんの問題もなく会話は成立する。


 私は二つのことを同時にできないタイプなので、ユリアのそういうところを見るたびに凄いなぁと感心させられる。



 私達二人は、ハンバーガーを食べながらダラダラと他愛のないことを駄弁った。学校の先生への文句や、ユリアの家族の話など話題は尽きない。


 中でも一番会話に熱が入るのは私の魔法少女の話だ。


「ていうかやっぱり私だけ正体が隠せないのおかしくない! 私だけアフターケアが全然ないじゃん!」


「フェアリーがいないんだから仕方がない」


「ったく……魔法少女になったっていいことないな」


「私は面白い」


「他人事だと思って楽しみやがって……」


 ユリアは私が後天的に魔法少女になったことが面白くて仕方がないようだ。


 ユリア曰く「怪人や魔法少女には未知な部分が多く、面白い。だから元々研究していた」そうだ。そんなユリアの身近に私という未知な存在がいるというのは、ラッキーなことなのだろう。



「私も高校生になったら魔法少女に変身できなくなるのかねぇ」


「特殊な事例だから不明。でも、高確率でなれなくなるはず」


 普通の魔法少女は個人差はあれど、だいたい中学生くらいに魔法少女として活動し始め、高校生になる頃には魔法少女に変身できなくなる。


 どうやら魔法少女とは少女の間しか変身できないという、絶対的なルールがあるらしい。


 ということは……約三年間は魔法少女として生きていかなければならないってことか……三年か。長いなぁ。


 まあ後ろ向きに考えても仕方がないか。ユリアの楽しそうな顔が見れるだけでも幸運だと考えようかな。



 少し思考を寄り道するが、私は常々、中学生くらいの女の子が怪人と戦うなんてどうなのと思っていた。


 ちなみにこの考えはこの世界では主流ではない考えで、こんなこと堂々と言うと、異端な思考の持ち主だと思われるだろう。なぜなら、怪人には魔法少女しかダメージを与えられないし、大人が戦ったところで怪人にはなんの影響もなく、ただただやられるだけだからだ。


 で、そんな考えを持つ私は、「私が戦うことで他の魔法少女が楽になるのなら、まあいいか」というモチベーションで活動している。


 でも、せめてバイト代くらいは出ませんかねえ……ああ、出ない? はいはい言われなくてもわかってますよ。


 こんな金にもならない活動を誰にも褒められず続けているなんて 、普通の魔法少女は凄いわ。

 

 普通じゃない私は、あまり気負わず、テキトーにがんばりますかね。


――――――


 魔法少女をやっていていいことなんて、空を飛べるようになって移動が楽になったことくらいだ。


 もしかしたら魔法少女って、どうしてもトイレにすぐ行きたいとき、素早く駆けつけることができるというだけの存在でしかないのかもしれない。


「レーダーに反応あり。いつものようにお願い」


 ユリアと放課後公園でダラダラ喋っていると、ユリアの持っている「怪人レーダー」に反応があった。


 ちなみにこの怪人レーダー、なんとユリアが作り出したものだ。普通の中学生はこんなもの絶対に作れない。改めて思うが、ユリアは天才だ。


 まあ普通の魔法少女はフェアリーに怪人が出たことを教えてもらえるので、私くらいにしか必要がないものなのだが……


「オッケー。さっさと終わらせますかね」


 いつものように私はドレス姿に変身し、ユリアを背負う。


 ユリアには私と怪人が戦っているところを見て、生の情報を収集したいという研究意欲がある。だから、いつも私はユリアを背負って一緒に現場に連れて行く。


 私が空を移動するスピードはかなり早い。普通の人は空を飛んでいる魔法少女の背中に乗って移動なんて怖いと思うのだが、ユリアは平然としている。


「ほんと、私達の語らいを邪魔しないで欲しいよ」


「自分はもっと怪人に出てきて欲しい」


「ユリアはデータを取りたいだけでしょ!」


 私の体感では、怪人は1週間に1回位の頻度で出てくる。


 怪人は何故か暗くなると出てこない。昼行性だとか、暗闇が見えないだとか、いろいろな説はあるが、実際の理由は不明。だから、そういうものなのだと思うことにしている。

 

 私はそれについて少し不満がある。


 なぜなら、妹様とショッピングに行ったり、ユリアとダラダラ遊んでいたりする時間に、よく怪人がでてくるからだ。中学生の放課後は、遊ぶためのなにより大事な時間。それを台無しにしないで欲しい。


 だから私は怪人が出たらさっさとそこに向かい、できるだけ秒殺するようにしている。時間がもったいないからね。


 ただし、時間がもったいないからといって、他の魔法少女に任せっきりにして放置するのもなんか気持ち悪くて嫌だ。トイレをして流さないでいるのはなんか嫌じゃん? 私にとって他の魔法少女に任せて放置というのは、それと同じ感覚だ。


 そういう気持ちになるのには、子供に戦いなんてさせるべきではない、という私の考えが元になっているのだろう。だからこそ、私の手の届く範囲くらいは戦ってあげたい。


 そんなことを考えながら空を飛び向かっていると、レーダーに反応があった場所に着いた。


「ここは……ショッピングモールにでたのか」


「終わったらショッピング」


「いいね! 色々見て回ろうか」


 のんきにそんな会話をしながら中に入る。まるで緊張感がないが、まあいつも通りだ。

 

 楽しいショッピングのためにさっさと怪人なんて片付けてしまおう。そう意気込みながら目的地へ向かう。


 ショッピングモール内は人が多いので、少し騒がしい。騒がしいのだが……人が多い割に悲鳴などは聞こえてこない。それどころか、何故かある種の落ち着きさえ感じられた。


「あれ? どうしたんだろう? いつもとなんか様子が違うね」


「おそらく誰か他の魔法少女が先に戦っている」


「なるほどね」


 ユリアに言われて合点がいった。


 どうやら避難はある程度終わっているようだ。これだけ避難が迅速に終わっているということは、そういうことだろう。


 私達が着くより先に魔法少女が戦っているなんてことは、今までなかったことだ。


 ユリアの怪人レーダーはやたらと性能が良く、フェアリーが怪人を認識するよりも早く反応する。さらに私の空を飛ぶスピードは、他の魔法少女よりも圧倒的に早いらしい。なので、いつもは他の魔法少女より私のほうが早く目的地に着くんだよね。


 そんな私達より早いということは、元々魔法少女がショッピングモール内にいたのだろう。



「あれは、水の魔法少女と炎の魔法少女かな。最近よく合うね」


「自分達と同じ区域に住んでいると推察する」


 あの魔法少女二人組は顔見知りだった。名前は知らないので、炎、水と魔法少女の特徴で呼んでいる。


 あの二人は、いつも私が怪人を倒した後、遅れてやって来る。よく見ると思っていたが、同じような場所に住んでるからよく合うのか。なるほど合点がいった。

「私、炎がちょっと苦手なんだよね。いっぱい注意してくるし」


「大体姫が悪いから仕方がない」


「姫って言うな! まあそうなんだけどさあ」


 炎は、「あんまり戦いで周りのものを壊すな」とか、「怪人を倒した後ほったらかしにするな」とか、「変身前の格好の制服のスカートが短すぎるし、そもそも制服を改造するな」とか、いろんなお小言を言ってくる。


 どうやら炎は育ちがいいらしく、そういうことを注意せずにはいられない性格らしい。あと多分お嬢様だ。偉そうだし髪の毛もなんかふわっと巻いているし、なにより今どき自分のことをわたくしって言うタイプだし。


 炎は苦虫を噛むような顔で私のドレス姿を見ているので、私の魔法少女のセクシーな格好についてもよく思っていないはずだ。ただしこれについては本人でもどうしようもないことなのは分かっているのか、言葉にはされていないが。


 おそらく炎は魔法少女であることにプライドを持っており、炎なりの魔法少女としての理想像がしっかりあるのだろう。


 どうせ「魔法少女は清く正しく、みんなの憧れる存在であるべき」というようなのが理想なんだろうな。


 でもさあ、そんなこと、私に求められても困るんだよ。さーせんね、ホント。



 ちなみに水の方はというと、話しかけられたことがないので特にどんな人物かは知らない。


 何故か私に話しかけたそうにしている姿はよく見るのだが、実際には話しかけてこない。私も進んで他の魔法少女には声をかけるタイプではないので、全然印象にないのだ。


 しいていえば「真っ当に魔法少女してんのなぁ」と思うくらいかな。


「あの怪人の能力変わってるねぇ……でも、傍から見ると凄い綺麗」


「能力は特異。でも、かなり強いと推察する。二人が苦戦してる」


 戦いの現場を見ると、なかなか凄いことになっていた。


 一言でいうと、一面色とりどりのお花畑。通行人が着ている服を無理やりお花のドレス姿に変化させたり、建物の看板や店の内装などを無差別にお花で装飾したり変化させたりしている。



 怪人の強さについて大雑把に言うと、だいたい悪ければ悪いほど強い。これは体験談だ。


 だが、あの怪人はそんなに悪いことをしていないように見えるのに、やたらと強い。これは珍しいことなのだ。


 怪人の強さは、変化前の人間の負の感情が大きいほど強くなる。

 怪人の能力は、その変化前の人間の「隠れた欲を強引に叶えるための能力」となる。


 だからあの怪人の元になった人は、なにか強い負の感情を持っており、周りを全て花だらけにしたいという大きな欲があったのだろう。


 ……うーん、なんだその欲。変な欲だな。


 なぜあの欲で負の感情が強いのかは謎だが、そこらへんは私は考えない。そういうのはちゃんとした魔法少女にまかせよう。私は何も考えずに怪人をぶん殴るだけだ。



「長引きそう」


 ユリアがそう呟く。


 確かに怪人はピンピンしている割に、魔法少女達はボロボロだ。


 まあそれでも、魔法少女というのはどんなピンチでも逆転してしまう生き物なので、大人しく待っていれば最終的に勝利するのだろう。だろうが……見ているだけだと暇だ。


「それは困るな……よし決めた! 乱入しよう!」


 通常魔法少女が戦っているところに、断りも入れずに加勢するのはマナー違反となる。でも、そのマナーは普通の魔法少女が決めたマナーだ。普通じゃない私には当てはまらない。


  ……という言い訳も用意したし、心置きなく不意打ちしますかね。


 実は少しやってみたい技があるのだ。この技は隙だらけの相手にしかできないし、ちょうどいい機会ということで。


 ふふっ、基本的に怪人を正面から殴ってばかりだったので、新しい技を試せるというのは、なんだかワクワクするな。


がんばれー!

負けるなー!

信じてるぞー!

ふたりとも頑張ってー!


 水と炎がなんとか周りの応援を力にして立ち上がっている。


 その状況を背に、私は怪人から距離を取る。その距離を助走として全力で走る。その勢いのまま空中に走り幅跳びのようにジャンプ。空中に浮くことでさらに勢いを加速。


 標的は怪人。ロックオン完了。体勢を整えてっと……


「みなさん応援ありがとう! さて、わたくし達の反撃の時間よ! くらいな「ドロップキーーク!!!」


 ドカーン!


 私は隙だらけの怪人の背中にドロップキックをお見舞いしてやった。


 あー気持ちよかった。


 怪人はすごい勢いで吹っ飛んでいく。かなり勢いがあったからね。そりゃそうなるか。戦っていた魔法少女や、周りの二人を応援していた人達も、口を開けてぽかんとしている。


 あ、ちょっとふっとばしすぎて、店の建物ちょっと壊しちゃった。やっちゃったなあ。


 そんなことを考えていると、炎は即座に正気に戻り、私に激しく注意してくる。


「ちょっと! 加勢するのはいいけど、一言くらい声かけなさい! あと魔法少女が不意打ちなんて卑怯な真似をするんじゃありません! あと建物を――」


「あーあー聞こえなーいー」


 私は耳を塞いだ。はいはい私が悪うございました。


 怪人を見るとしっかり倒せたようで、浄化されている証である煙がしっかりと立ち上っている。


……ま、まあ倒せたしいいか! 流石魔法少女!

……結果オーライ!

いつもありがとう!

炎の魔法少女ちゃん俺と結婚してくれー!

水の魔法少女は私がもらいますね。

お母さん、あれが最近噂の魔法少女? なんだかエッチな格好だね。

あの娘が来たってことは……あのちっこい女の子もいるはずだ! 俺はあのちっこい女の子が推しなんだ! 探せ探せ!

私も将来姫ちゃんみたいなかっこいい女の子になりたい!

ヒューヒュー !流石魔王少女だぜ! やることがワイルド!


 倒し終わると、いつものごとく遠くで見ていた野次馬達が騒ぎ出す。


 私みたいになりたがっている幼女、あんたは見る目があるな。幼女のお母さんは苦笑いしていたが……あと最後のやつ! 私を魔王少女とかいうな。誰が魔王だ!


「よし! 終わった! ユリア! 遊びに行こうぜ!」


「ちょっと! いつも言っているけど、倒した後ほったらかしにしない!」


 遊びに行こうとする私のドレスを掴み、止める炎。でもさあ、元に戻った人のアフターケアなんて、わざわざ魔法少女がやらなくていいじゃん。


「私にはそういう心のケアとか向いてないんだから、仕方ないんだよ。なぁユリア」


「うん。絶対に姫にはできない」


「はあ……ほんとにあなた達は……魔法少女なら最低限それくらいできるはずなんですけどね……

 まあ今回は私達がいるからいいでしょう。適材適所とも言いますし。

 でも! 最低限そこで大人しく見ていなさい。あなた達がいつも現場を放置して帰るせいで、わたくし達がアフターケアだけするはめになっているんですからね!」


 炎がまくしたてるように私達に文句をつける。


 へぇ〜、そうだったのか。私の後処理までわざわざやってくれていたのか。よく私達に遅れてくることは知っていたが、何をしているかまでは知らなかったな。


 まあなんというか……お疲れさまです! 今後ともよろしくお願いします!


 というか、魔法少女ってみんなカウンセラーみたいなことができるんだな。魔法少女って戦うだけだと思っていた。まさかそんな能力が魔法少女に標準搭載されているとは……


 やっぱ後天的に魔法少女になったせいで、私には魔法少女として足りないものがいっぱいあるようだ。


 そんな風にしみじみ思っていると、炎は私の肩にポンと手を置き、さっきまで怪人が倒れていた場所を指さす。


「さて、あなた達もいずれわたくし達と同じようにできるように、わたくしの相棒のやり方を見て学びなさい。わたくしの相棒はアフターケアがとても上手なんですのよ」


 炎が自慢げに語る。態度から、水のことを心底尊敬している様子が分かる。だって鼻息荒いもん。


 内心では今後もアフターケアなんてやるつもりはないが、それを口に出すと炎がうるさそうだ。なので、私は大人しく見学しているふりをすることにした。


 私達がこんな言い合いをしている間に、水は倒れた怪人がいた場所に駆け寄っていたようで、浄化された人間を介抱している。


「ううん……あれ? 私今まで何してたんだっけ……私は………はッ!? 思い出した! 私、なんてことをしてしちゃったんだ……」


 浄化されたのは少女だったらしく、浄化され意識を取り戻したようだ。どうやら怪人としての記憶は残っているらしく、深く後悔しているらしい。


 水はこうなった経緯や、少女の細かい心情などを聖母のような優しい表情で聞いていく。水の優しい表情のおかげか、少女はスラスラと懺悔するかのように話し始めた。


 要約すると、本当はデザイナーになりたかったという少女の夢と、親の仕事をついでエリート街道を走って欲しいという親の願いがぶつかって、大喧嘩したのだそうだ。


 夢を頭ごなしに否定されたと思った少女は、その時たまたま私生活もうまくいっていなかった。そういうことが重なったことで自暴自棄になってしまい、怪人に負の心を取りこまれたらしい。


 一通り話を聞き終わった水は、少女をぎゅっと抱きしめ、熱意のある語り口で激励し始めた。


「大丈夫! あなたはとっても凄いんだから! 僕はあなたに凄い才能があると思う! あなたが能力で作り出したお花、本当に綺麗だと思ったんだ! 倒してしまうのがもったいないと思ったのは初めてだったよ!」


 怪人を倒すと、怪人が作り出したものや、変化させたものなどは元に戻る。だから今はお花畑のようだった戦いの現場は、ごく普通のショッピングモールに戻っている。


 水が言うように、いろんな花が色とりどり咲いていて、とても綺麗だった。花の名前なんて三種類くらいしか分からない私でも、花ってこんなに綺麗なんだと感じたほどだ。


 センスとか才能とかは私にはよく分からないが、水の言うことには何故か妙な説得力がある気がする。おそらく、実際に少女にはセンスがあるのだろうな。


 ……というか水ってボクっ娘なんだ。珍しいな。


 そんな関係のないことまでぼーっと考えているうちに、水は抱きしめていた少女を一度離し、少女の両肩に水は自身の両手をのせ、目を見て説得するように語りかける。


「僕が保証するから、何度でも親に言ってみようよ! その夢は簡単に諦めないほうがいい! 親も絶対認めてくれるよ!」


 それにね……と少し首をかしげながら、「内緒話」を話すような雰囲気で水は笑う。


「君を見ていると、僕は君がお花のように生き生きと咲き誇る姿が見たくなっちゃったんだ。君が作り出したお花のようにね」

 

 少女は水の言葉に感動したのか、瞳に涙を浮かべていた。

 

 彼女の言葉には嘘がまったく感じられない。とても純粋な言葉なので、心に響くのだろう。


 その様子を見ていると、何故か炎がドヤ顔をしていた。


「見ましたか! あれがわたくしの相棒ですのよ。凄いでしょう! まさにあれこそが魔法少女の理想像ですわよ!」


 熱っぽい目で水を見つめる炎。


 もはや尊敬を超えて崇拝しているくらいの言葉の勢いに少し引いてしまった。


 よし、炎とは少し距離を開けよう。なんかちょっと怖いし。


「あれは姫が妹を語るときと同じ目」


 ユリアが近づいてきて私にだけ聞こえるような声で呟く。いやいや、流石にあんな見苦しくないって。


 ……ないよな?


 それに、私の妹様は誰と比べるまでもなく圧倒的に素晴らしいし。



 そんな風にユリアと話しているうちに、見事に少女の心を救済し、場を丸く収めた水が近寄ってきた。


 水は私を見るやいなや、手をもじもじさせながら、なにか話したそうな表情を浮かべる。


 この表情を浮かべるのもいつものことなのだが、いったいこんな真っ当な魔法少女が、私みたいなパチモンに何を言いたいのだろうか? 悪口か忠告か、それともなにか他のことか……いや、純粋な魔法少女っぽいので、悪口ではないか。


 実は生き別れの姉妹だとかか? まあそんな人はいないけど。


 いい加減じれったくなってきたし、私から聞いてみようかな。うん、そうしよう。


「ねえそこのボクっ娘。いつも私に何を言いたそうにしてるの?」


「ボクっ子!? えぇ……ま、まあいいか、あのね……」


 水はしばらく言うか言わないかを迷ったような様子だったが、私に言われてようやく決心がついたようだ。


 少しの沈黙の後、水は私に勢いよく、今までずっと言いたかったであろうことを伝えてきた。


「あなたの大ファンです!!! 僕と友達になってください!!!」


 水はまるでプロポーズするときのように、お辞儀しながら私に手を伸ばした。


 まさかそんなことを言われると思っていなかった私は、しばらく唖然として言葉が出なかった。


「また女にモテてる……」


 ユリアがこれみよがしにため息を吐く。いやいや、これはモテてるわけじゃないだろ。言い方こそプロポーズみたいだったけど……


「ちょっと! どうしてこんな珍妙な魔法少女と友達になんてなりたいのよ!」


 炎も慌てたように叫ぶ。


 炎の慌てようから、炎にとっても予想外のことだったらしい。炎は私を気に入っていないので、大好きな水が私に好意を持っていることが気に入らないのだろう。


 そんな中、水はお辞儀して手を伸ばしたままだ。ずっと私の返答を待っているのだろう。


 おっと、わざわざ勇気をだして言ってくれたことを、唖然としていたせいで無視しそうになってしまった。さっさと返事をしよう。


「いいよ。友達になろうか」


 私は水の伸ばした手に握手をした。別に友達になるくらいならなんの問題もない。


「や、やったー!」


 万歳して喜ぶ水。喜ぶときに万歳する人なんて実際にいたんだな。水についてはあんまり印象になかったが、今日で純粋で無邪気な性格なんだろうということが分かった。


 炎はぐぬぬといった表情を浮かべながら、拳を強く握りしめていた。


 この状況、炎の大事な恋人を寝取ったみたいだな。これが優越感か。気持ちいい。


「でも一番の親友は自分だからね」


 ユリアが水に釘をさす。


 私もユリアは一番の親友だと思っているし、それは今後も変わらないだろう。


「ついでに炎のほうも友だちになってやろうか?」


「結構ですわ!」


 挑発するように炎に言うと、叫ぶように返してくる。


 実は炎はいじりがいがあるかもしれない。反応が面白い。


「よし! せっかくここはショッピングモールだし、ここで4人で遊ぼうか」


 場も収まったし、友達になったのだからいいアイデアだろう。


 そんな私のナイスな提案に炎が待ったをかけてきた。


「待ちなさい! 壊した店の片付けはちゃんとしなさいよ!」


「えぇ……だるぅ……戦ってあげてるんだから、それくらいいいじゃん」


「ダメですわ! まったく……これだからエセ魔法少女は……」


 結局、炎に引きずられる形で店の片付けや手伝いなどを4人ですることになり、壊してしまった雑貨屋で損失分を店員として働かされる事になった。


 あーあ。遊びたかったなぁ。


 というか、壊した店の店長も、わざわざ魔法少女の格好で働かせなくても良くないか? こんなのもはや罰ゲームじゃん。まあその格好の御蔭か、魔法少女が働いているという噂で大量の人が来たので、さっさと損失分は働き終えたのは良かったが。


 それだけでこんなにいっぱい人が来るあたり、相変わらずこの世界の皆は魔法少女が大好きなんだなぁ……としみじみ思う。


 私達は働き終わると、少しだけ4人で遊び、帰りに私は水と炎に自分の連絡先を教えた。


 これからも炎と水との付き合いは続いていきそうだ。


 なんだかこれからの暮らしがより賑やかになっていきそうな予感がした。


 魔法少女をやっていていいことなんて、いっぱい食べても太らないくらいだ。


 もしかしたら魔法少女って、どうしても痩せたい少女達の気合が生み出した、都合の良い存在でしかないのかもしれない。


「あなた、ほんとよく食べますわね」


 炎が呆れたように呟く。


「だって魔法少女ってカロリー使うじゃん」


「たしかにそうだけど……それにしたってよく食いますわねぇ……」


 そんな炎と私の会話を、同じ卓を囲んでいるユリアと水も、食べながら聞いていた。


 今は炎と水とユリアを我が家に呼んで、夕食を一緒に食べているところだ。


 今日もそうだが、我が家の料理は基本的に妹様が全て作ってくれている。妹様が作った料理は世界一美味しいので、私はつい沢山食べすぎてしまう。


 そんな私のガツガツとした食べっぷりに、炎は若干引いているようだ。


 そんな炎はというと、とても上品な所作で料理を食べている。見るからに育ちが良さそうだ。実際炎の家は豪邸らしく、親に厳しく育てられているらしい。


 ユリアは周りを気にせず、いつも通りマイペースにちまちま食べている。ユリアは私がよく食べることを知っているので、私の食べっぷりを見ても今更驚かない。


 それは当然として、水も私の食べっぷりを見ても特に驚いてはいない。それどころかニコニコと私の食べる様子を見ている。


「僕、人がいっぱい食べているところを見るのが好きなんだ」


 水は人好きのしそうな笑顔を浮かべたままそう答える。


 あー。たまにそういう人っているよね。私も我が家の愛犬りんたろうがご飯を嬉しそうに食べているのを見るのが好きだ。それと似たような感覚なのだろう。



 あれから水と炎との付き合いは順調に続いていて、最近はちょくちょく4人で遊ぶ。


 水と炎は、私の実家から一駅離れたあたりに住んでいる。通っている中学校こそ違うが、自転車で15分あればたどり着けるくらいの近い距離に住んでいるとのこと。


 なので、4人で遊ぶときは、大抵私の家に集まることが多い。これにはちょっとした理由がある。


 というのも、二人と友だちになったのはいいけれど、私は魔法少女としての正体が完全にバレている。そんな私と一緒にいると、そこから連なって二人の正体が万が一にでもバレる恐れがあるからだ。


 だから、人目のつかない我が家で遊ぶことがほとんどだ。そして今日は、妹様の「夕食も食べていきませんか?」という一言で、夕食をごちそうすることになったってわけ。


 まったく……妹様の料理を食べられることに、孫の代まで感謝しろよ。


「姫の強さの秘訣」


「おいユリア、姫って呼ぶな!」


 ユリアがそう呟く。


 相変わらず微妙に言葉が足りていないが、ユリアが言いたいのは、いっぱい食べるから私は他の魔法少女より強いということだ。


 私の強さの秘訣かぁ……考えたことなかったな。


「たしかにあなたってエセ魔法少女のわりに強いですわね」


「おい私をエセ扱いするな」


 私自身は「格闘技をやっているから強いのかなぁ」と漠然と思っていただけだったが、私の強さの秘訣はよく食べるからだったらしい。


 ということは、私の魔法少女としての力の源はカロリーってことだ。じゃあ、いっぱい食べても太らないってことじゃん。ラッキー!


 ユリアは根拠のないことは言わない。だから、独自に調べたうえでそういう結論を出したのだろう。そんなことまで調べているとは流石ユリアだ。


「合気道やってたから強いのかと思ってたわ」


「あなた、合気道なんてやってたんですのね。 ……似合いませんわね」


「実際、合気道は致命的に下手だったけどね」


 私の言葉に炎は納得した表情を浮かべる。いやいや、納得するのはそれはそれで失礼だからな。


 実は私の父は合気道の師範で、自宅の隣で道場を経営している。今私達が夕食を食べている家も、その道場の離れにある建物だ。そんな家庭環境なので、私と妹も小さい頃から父の道場に所属している。


 父が言うには、合気道というのは“弱者のための武道”らしい。しょっちゅう口癖としてこのことを言っており、その考えを「誰よりも体現している」ような人だ。


 要は父は私生活や社会ではもの凄く弱者だけど、合気道に関してだけはこの国一の強者なのだ。


 父がどのように弱者なのかというと、常に人を怖がっており、目が合うことは決してない。家族以外に父が話しているところを見たことがない。基本的にずっとどこかに隠れている。あまりに存在感が薄く隠れるのがうまいので、透明人間扱いされている。


 そんな人だといえば伝わるだろうか。


 それで道場を経営できるのかというと、もちろんできない。だから合気道を教えるのも、道場の経営も、全て父の側近みたいな人がやっている。


 その時、父はどこかに隠れて見ていて、後でひっそりと手紙を通して技術などのアドバイスをしている。ものすごい徹底ぶりだ。実際、父の姿を見たことがあるのは、その側近の人と家族だけらしい。


 現に今だって、私の友人がいるので姿を見せない。きっとどこかで隠れて見ているのだろうな。


 ちなみに母は現在海外出張中なので、家には私達魔法少女組3人とユリアと妹様とりんたろうと、何処かに隠れている父だけしかいない。


 父はいないも同然なので、水や炎は、我が家は大人に気を使わず肩肘張らずに過ごせる場所と認識している。だから炎や水の家に集まらず、私の家で集まることが多いのだ。



 りんたろうが、私達と一緒の机で食べている妹様のところへ行って甘えたり、私達に順番に愛嬌を振りまいたりと忙しそうに走り回っている。


 そんな中、炎が私に話しかけてきた。


「聞く限り、あなたの両親が変だからあなたも変なのかと思ったけれど……光ちゃんは凄くいい子じゃない! どうしてあなたはああ育たなかったんですのよ」


 馬鹿にするような目を向けながら、露骨にため息を吐く炎。おいおい、私がダメな娘なんじゃなくて、妹様がすごすぎるのだ。そこを勘違いしてはいけない。


「妹様は神が使わせた天使だからね! 料理もうまいし合気道も天才だし、他にも――」

「はいはい分かった分かった。もう何度も聞いたわよ……」


 私の妹様自慢を炎が止める。そんなふうに止めなくていいじゃん。確かに遊ぶようになってから妹様の話題については何度も話したが、私が何度でも言いたくなるのだから仕方がないでしょ。


 妹は合気道が父譲りでうまい。いわゆる合気道の天才だ。


 そんな妹様と対照的な私は、父いわく根っからの力こそパワー体質らしい。“弱者のための武道”という方針とは、とことん相性が悪いのだそうだ。


 でも、そんなパワーだけで戦っているような私だからこそ、合気道の練習相手としてちょうどいいらしく、実戦相手として重宝されている。


 そんな扱いの私だが、私は私で、合気道というテクニックに負けないようなパワーを得たいと思っている。実際私はそこそこ強く、父と妹様と側近の人以外なら、実戦形式で対戦すると、私が勝つ。


 意外と思われるかもしれないが、パワーというのはシンプルゆえに強く、合気道相手でも充分通用するのだ。


 ……まあ、特に父相手ではびっくりするほど手も足も出ないのだが。いずれは父をパワーで倒す、それが今の私の目標だ。だから私は練習台になるのを自ら望んでいる。



「ほら、強くなりたかったら、私くらいいっぱい食えよ」


 私は胸の中心辺りを親指でトンとしながら、炎と水を見下すふりをする。


「そんなに食べれるわけないでしょ! というかそんなに食べたら流石に太りますわ!」


「僕って食が細いんだよね」


 炎は突っ込むように答え、水はまともに答えた。



 今日のメニューは麻婆豆腐と生野菜のサラダと漬物とスープ、デザートにオレンジだ。私の前には肩幅くらいある大皿に麻婆豆腐が盛り付けられ、丼に山盛りご飯という私仕様になっている。もちろんサラダもスープも大盛りだ。


 流石に量が多すぎるので、大抵の人は私の食べるメニューを見るとドン引きする。


 それでなくてもこの世界の人達は健康意識が高いので、この食事を見ると私が暴飲暴食しているように見えるのだろう。実際普通の量にしろと何度も注意されたことがあるもんなあ。


 そんなとき、いつも思う。


「うるせぇな! 飯くらい自由に食わせろ!」と。


 普通の人達がそんな反応をする中、我が家の妹様は格が違う。


 いくら米やおかずが多かろうが、常識外れの量を食べようが、一応一汁三菜の範囲だから大丈夫との考えだ。


 流石妹様! 懐が海より深い!


 私は食べるものにはあまり指図されたくないタチなので、妹様や両親は、その辺りの考えが柔軟でとても助かる。


「ほんと、近所に人やファンから、食材の差し入れしてくれることだけが魔法少女になって唯一の良かったことだよ」


「正体がバレてると大変だね」


 私のつぶやきに水は同情する。同情なんてしなくていいからフェアリーくれない? まあくれないよね。分かってるよそんなこと。どうせくれたとしても私には感じられないしね。


 私は自分の丼の米を食べ尽くしてしまったので、ご飯のおかわりをしにいく。炎に、「まだ食べられるのか」というような目で見られてしまった。


「なんかさー、食事の席って性格出るよね」


 私はふと思ったことを投げかける。


「たしかにあなたの食べ方はガサツですものね」


「私のことは良いんだよ!」


 私の発言に炎が見事なカウンターを決めてきた。私なりに味わってるつもりなんだけどなぁ。


 そんな炎は食べ方も綺麗だし、会話にも律儀に突っ込んだりしている。上品で根が真面目なのだろう。実際、中学校では風紀委員らしい。


 ユリアは知っての通り、私の真横で周りの目を気にせず、食べたいときに食べ、喋りたいときだけ喋っている。ユリアのマイペースさが見て取れる。


 これは見事に食事の席から性格が出ていると言えるのではないだろうか。


「でも、ボクっ娘からは特に食事の席から印象が見えてこないんだよなぁ」


「僕は平凡な普通の人だからね」


 私の言い分に水はニコニコしながらそう答える。


 確かに水は食べ方に特にクセもなく、会話も特に個性はない。


 ということは、水はとことん普通の人なのだろうか?


 だが、水が普通の子というと、少し信じがたい。だって、あの炎が水のことをやたらと尊敬しているからだ。


 水が凄く純粋なことは理解しているが、あの炎がたったそれだけの理由で水のことをそこまで魅力的に感じるのだろうか?


 私はそうは思わない。炎は純粋さだけで水を尊敬しているわけではないと確信している。


 きっと、水には私には見えていない魅力があるのだろう。


 そう考え、試しにより深く水の食事の席でのあり方を思い出してみることにする――



 今日、水はどんな何気ない会話のときでも、食べながらずっとニコニコしていた。水は基本的にどんなときもニコニコしている。


 そういえば、何故か私が水を見るとき、必ず目が合っている気がする。


 そう。必ずだ。


 ……あれ、それってちょっとおかしくない?


 だって、水に話しかけていないときでも、ふと水のほうを見ると、必ず私と目が合っているのだ。


 必ず目が合うってことは、もしかしてこいつ、ずっと私を見ている? 


 今まで自然すぎて違和感がなかったが、そう考えると少し怖くなってきた。


 ……ま、まあ私の気の所為かもしれない。というか気の所為であってくれ。


 怖くなったので一旦考えるのをやめる。水についてより深く知るには、もう少しストレートに彼女に踏み込まなきゃダメっぽいな。


「ねぇ」


 その時、あまり自分から会話にはいってこなかったユリアが、水に向かって口を開く。


「どうして姫と友達になりたかったの?」


「確かに! どうしてこんな珍妙なのと友達になんてなりたかったのよ!」


「おい姫って言うな! あと炎は私を珍妙扱いするな!」


 確かに、どうして水は私と友達になりたかったのだろう。


 うーん、気になるな。これを聞けば水のことがもっと理解できるかもしれない。流石私のユリアだ。いい質問だね。


「ええっとねぇ……少し君と友達になりたいと思ったきっかけがあってね」


 きっかけとはなんだろうか? もう水の魔法少女になる前の姿も知っているが、完全に初対面なはずだが……


 水は視線を宙に彷徨わせながら、少し恥ずかしそうに話し始める。


「君が普通の人から魔法少女になった出来事があったでしょ。そのとき、あの現場に向かっていたのが僕なんだ。空を飛んで急いで現場に向かってたら、遠くから君が魔法少女になる瞬間が目に入ってね、そのときから僕はずっと君と友達になりたかったんだ」


 いやあ……あれを見られていたのか……恥ずかしい。


「あんたが魔法少女になったきっかけって、朝起きたら突然力が使えるようになっていたってことで有名だけど……どうやら真実は違いそうね。詳しく教えなさい」 

 

 炎がきっかけについて詳しく知りたがる。


 うーん……嫌な流れだ。ヤブをつついたらヘビがでてきてしまった。


 私が魔法少女になったその日は、妹を泣かせてしまった日でもあるので、黒歴史なのだ。


 あまり話されたくはないのだが……私が話すのをためらっているのを見て、代わりに水が話し始めた。


「僕は怪人が出た現場に向かっていたんだけど、一般人の君が怪人から子供を助けるために怪人に向かって戦いに行く姿が遠くから見えたんだ。

 怪人が出たら一般人は避難を義務付けられているし、怪人に一般人の攻撃が一切効かないことなんて、みんな知っていることなのに……そんな行動をする人がいるなんて自分の目が信じられなかったよ。

 それと同時に、『なんて無謀なことをするんだ』と、あのときはホント肝が冷えたよ。

 その直後、君の体が突如光り輝いて――それが魔法少女の目覚めだったんだよね」


 炎に請われてその時のことを話し始める水。この話を聞いて、水がその現場を確実に見ていたということを確信した。何故なら、私が魔法少女になった出来事の真実は、国によって情報統制されているからだ。


 基本的に正しくその出来事を知っているのは、私とその現場にいた数人くらいで、その数人もこのことについて話すことは禁止されている。


 情報統制の理由は、私のやった愚かな行動の真似をする人が増えると困るからという、真っ当かつシンプルな理由だ。私が特殊なだけで、私の真似をしても魔法少女になんてなれないからね。


 だから、私が後天的に魔法少女になったきっかけは、「朝起きたら何故か力が使えるようになっていた」という理由で世間に浸透しているのだ。


 そんな中、真実を知っていた水は、あの現場を確かに見ていたのだろう。


 ただ……


「その表現は少し違う」


 ユリアがすかさずそう答える。そうそう、私も途中で止めようとしたけど、少し違うんだよ。


 ちなみにユリアは何故か私から聞いてもいないうちに、事の全貌をすでに知っていた。普通は知らないはずなのだが、まあユリアだしね。


 ユリアなら知っていてもおかしくないと思ってしまう私は、少しユリアに毒されているのだろうか。


 そして私も、「知っているならいいか」と、ユリアとは普通にきっかけについて会話しちゃってたりしている。


 話すの禁止されているんじゃないの? と疑問に思うかもしれないが、国の人に言われたのは、“一般人”には決して話さないでということ。なので、どう考えても一般人じゃないユリアには話してもオッケーだ。


 まあ、しんどくなったら私が信頼する人には自分の判断で話していいとも国の人に言われているし、そんな屁理屈を理由にしなくとも、ユリアには話していただろうがな。


「うん。私は子どもを助けるために動いたわけじゃないよ。子どもを助けたのは私にとってはついでだったんだよ」


「あれ? そうなの?」


 その出来事の全てを知っているユリアと私は、水の言い分を否定する。水は首をかしげ、疑問を浮かべているようだ。


 遠くから見ていた人なら、そう見えていてもまあおかしくないだろう。でも私が魔法少女になったきっかけは、そんな高尚なことではない。訂正するのも恥ずかしいくらいの、もっとしょうもないことが原因だ。


「たしかにあんたが人助けを率先してするなんて、イメージできないものね」


「おい、いつも怪人と戦ってあげているだろ。それだけで充分人助けになってるんだよ」


 ほんと、わざわざ戦ってあげていることにもっと感謝してほしい。応援なんてしなくていいからさ。

「ここまできたら、あんたが魔法少女になったきっかけを一から十までしっかり教えなさいよ」


「うん。僕も知りたいな」


「えぇ~、いいじゃんなんでも……」


 炎と水が顔をぐいっと近づけて追求してくる。


 私の屁理屈である「一般人じゃない人には話してもオッケー理論」では、魔法少女は一般人に当てはまらない。話しても問題ないのだが……


 うーん……話したくねぇな。


 この流れをどうやって誤魔化そうか考えていたところ、今まであまり私達の会話に入ってこなかった妹様が、私に語りかけてきた。


「お姉ちゃん。せっかくなら全部お話したら? もう私も怒ってないし。ね?」


「妹様がそう言うのなら……」


 水や炎は期待した目をしている。


 私が魔法少女になったきっかけなんて別に大した理由じゃないのに。


 まあ妹様が言うなら話しますかね……


「あのときは……


――――


 私が魔法少女になった日は、中学の入学式の前日だった。学年が変わる境目の時期なので、妹も私も学校がない。だから妹とショッピングしたりなど、デートをして過ごしていたのだが……その帰り道、私達のとても近くで怪人が現れてしまった。


 怪人がやろうとしていることは、それはまあしょうもないことだった。というのも、不自然な風を起こして女達のスカートを捲り、パンツを覗くことだったのだ。元の男の欲望、ほんとしょうもない。


 どうやら「告白もしていない女の子からフラれた」というのがきっかけで負の心が育ち、怪人になったようだ。いや何だよその状況。


 だが、怪人は怪人だ。いくらそんなしょうもない怪人でも、一般人にとっては脅威であることには変わりない。


 その場所は一応告白現場ではあるので、人通りが少ない場所だった。だからその当時、周りにいた人は数人ほどしかいなかったのは幸いだっただろう。


 それでも、その数人はパニックになり、その中にはスカートを履いている女性もいたので、皆必死に逃げていた。


 私達二人も逃げようとしていると――告白もしていないのに男を振ったであろう自意識過剰な女が、猛スピードで誰よりも早く真っ先に逃げていき、私達を押しのけて行ってしまった。


 その時、押された衝撃で妹様が持っていた3段アイスが、地面に落ちてしまったのだ。


 しかも、妹様が大事に食べようとしていた最後の1段、一番大好きなストロベリー味を。今まさに食べようと思っていたところで、そうなった。


 妹様が凄く悲しそうな顔を浮かべた。


 これに私は大激怒。(前世の男も大激怒。前世の男は妹キャラが何よりも好きだった。この気持ちがシンクロしてしまう)


 カッとなった私は、その原因である怪人に、無謀にも殴りかかろうとしたのだ。


 そのとき偶然、逃げるときに転んでしまい、避難が遅れてしまった幼女が、怪人になにかされそうになっているところだった。なので、遠くから見ていた水は私が子供をかばったように見えたのだろう。


 私としては、妹様を悲しませた原因をどうしても一発殴りたかっただけなのだ。ホントは自意識過剰女も殴りたかったのだが、その女はやたらと逃げ足が速かったので、仕方なくもう一つの原因である怪人の方に向かったってだけのお話。


――――


「そのムカつきが原因で私は魔法少女となり、今にいたるわけだ」


 ふう……一通り話し終わったかな。


 妹様を悲しませたやつを許せるわけないよなあ。


 まあその後、危険なことをした私が原因で、心配した妹様を泣かせてしまった私も同罪なのだが。


「思ったよりしょうもない話でしたわね……怪人もあなたも」


 炎が素直に思ったことを呟く。そんな反応になるだろうね、だからこんなこと話したくなかったんだ。


 これで水は自分の勘違いに気づいただろう。決して子供を守るために魔法少女になったのではないと。


「どう? 真実はこうだったわけだけど、これでもまだボクっ娘は私と友だちになりたい?」


 私は水に問いかける。


 今まで水は、私が高尚な人物だと勘違いしていたから友達になりたかったのだろう。真実を知った今、私と友達になりたかった理由は消え失せたはずだ。


 ただ……


「もちろんだよ! きっかけは勘違いだったとしても、僕は君が素敵だってことを知ってるからね!」


 私の想像とは反対に、水はノータイムでそう答えた。


 続けて水は目をキラキラさせながら、前傾姿勢で言葉を紡ぐ。


「あの後、僕は君のことがどうしても気になって、独自に君のことをいっぱい調べたんだよ。調べた上で、君が誰よりも真っすぐで、心に太い芯のある人だと分かって嬉しくなったんだ。

 ブレない芯があることは、魔法少女にとって、とっても大事なことだからね。

 僕はそれで君と友達になりたいと思ったんだ」


 真っ直ぐ芯のある人ねえ……自分としては深く考えずに行動しているだけなのだが……


 あと、調べたとはどういうことだろうか? 私の噂でも集めたのか?


 そんな疑問は、水のまくしたてるような雄弁で、すぐに解消することになる。


「君の通っている学校から本名、背格好、家族構成、君の癖や、君がどういうものを好んで、どういったものが嫌いかとか、朝何時に起きて学校へ行くまでの行動とか、休みの日の過ごし方とか、昔の君のこととか……それはもうたくさん調べたんだ。

 あ、君の学校での成績とかも調べたよ。数学が大の苦手だったり、逆に体育のときは生き生きしてたり、絵を書くのは苦手だけど美術の先生を気に入っているから美術史が好きだったり、たくさん聞き込みや張り込みをして調べたんだ。

 それから君のファンクラブを立ち上げたりもしたんだ。いろんなことを発信したり、グッズを作ったり……色々した。

 それは全部君と友達になりたいと思ったからやったことなんだよ」


 水はこれだけの量の言葉を、一息で熱っぽく語った。


 なんかキラキラとした純粋な目で、狂気的なことを言われたのだが…


 こいつ、私のストーカーか?


 細かいことまで調べられすぎてちょっと……いや、かなりドン引きなのだが……


 あと、話が長くて全ては聞き取れなかったのだが、こいつがファンクラブを立ち上げたって言ったか? グッズ作りの諸悪の根源はこいつだったのかよ!


 というかさあ。


「なんで友達になろうと思ってそんな行動するんだよ! まっすぐ私に声をかけてこいよ!」


「えへへ……直接声を掛けるの恥ずかしくて……」


「なんでそれだけ行動力あるやつが、声はかけられないんだよ……」


 水の意外な一面を知り、私はため息を吐く。何故か炎はこんな水の一面を見てドヤ顔している。


 なんでこれで炎が「私の相棒凄いでしょ!」というような顔ができるのかが、さっぱりわからん。


 私が呆れていると、炎が聞いてもいないのに水について自慢げに話し始めた。


「相棒の誰よりも凄いところは、純粋さと、執念深くて欲張りなところなのですわ!

 わたくしの相棒は、一度決めたことは決して諦めない。

 純粋な心で願ったことを決して諦めないのは、持ち前の欲張りさと執念深さがあるから。そういう性格が、もの凄い行動力を発揮するんです。

 まあ今回はその性格のせいで、斜め上の方向に頑張ってしまったみたいですが……そこも相棒のお茶目なところですわね」


 執念深くて欲張りなことを、なんでそんな良いように捉えるんだよ。あとストーカー行為を茶目っ気で済ますな。普通に犯罪行為だ。


 私が非難するような目をしているのを感じたのか、炎が今言ったことの補足をする。


「あら、魔法少女にとって執念深く諦めないことは、本当に凄いことなんですのよ。相手が強くて心が折れそうなとき、隣に決して諦めない人がいるというだけで、わたくしも勇気をもらえますもの」


 その言葉を聞いた水は、少し頬を赤らめながら、お返しとばかりに炎のことを褒めだした。


「それは僕も同じだよ。僕も隣で一緒に戦ってくれる人がいるから、いつも安心して戦えるんだ。それが魔法少女っていう生き物なんだよ」


 炎と水はお互い信頼しているらしい。なんか二人でイチャイチャしだした。


 一緒にいるから安心して戦えるねぇ。そういうものなのかな。


 ……まあそうか。私だってユリアという相談相手がいなかったら、いきなり魔法少女になったことに混乱して、何もできなかった未来があったのかもしれないからな。



 炎と水がふわふわとした二人だけの空気感みたいなものを醸し出しているので、うざったくなって、私は冷やかしをいれることにした。


「おいおい。人の家でイチャつきやがって。後は若いお二人に任せて退室しますかね」


 私のその言葉に、炎はまるで「心の底から思っていたことを叫ぶ」かのように、勢いよく指摘してくる。


「その言葉。あなたには言われたくないですわ! あなた達は気づいていないかもしれませんが、傍から見たら、あなた達は充分イチャイチャしているように見えますからね!」


 ん? あなた達というのは、ユリアと私のことか? 特にお互いなにも意識していないが……


「いやいや……別に親友として普通の距離感だよな」


「普通」


 ほら、ユリアもそう言っている。ただの勘違いだろう。


「いやぁ。僕も二人の距離は近すぎると思うよ」


 水の言葉に炎は大きく頷く。どうやら水も同じ意見なようだ。


 その後も話を聞く限り、なんと水や炎は、私達が当たり前のように距離が近すぎるので、恋人だと勘違いしていたらしい。これは言って良いことか、触れないほうが良いことなのかが分からなくて、ずっとモヤモヤしていたとのこと。


 それを私にからかわれたことがきっかけで、反射的に口に出してしまったようだ。


 本当にずっと思っていたことらしく、言っても良いことだと認識した水と炎は、今まで溜まっていたことをどんどん言葉に出し始めた。一度言葉に出すと、マシンガンのように全然止まらない。


 イチャイチャを見せられているようで見ていて気まずかった。

 たまに自然に手を繋いでることがある。

 今ご飯を食べている場所も不自然なほど近い。

 距離感が近すぎてもはやキスの距離。

 ユリアが言葉足らずなのに私が当たり前のように察しているから会話に入りづらい、などなど。


 ……散々な言われようだ。


 別に私達にとって普通の距離感なんだけどなぁ……そんなに近いかな? 女同士なんだから、これくらいの距離でも問題ないと思うんだけど。


「そもそも二人が恋愛脳なだけじゃないの?」


「自分達は普通」


 私とユリアがそう言うと、炎と水は強く否定してくる。


「わたくし達の認識のほうが普通なんですからね! 実際、世間でも二人は付き合っていると噂されていますわ!」


「うん。どう見ても二人の空気感が愛し合っているようにしかみえないかな……」


 どうやら世間もそう勘違いしているらしい。


 じゃあ、世間の皆が恋愛脳なのだ。確かに距離感は近いかもしれないし、ユリアのことは誰よりも信頼しているが、距離感が近いことイコール恋人って、流石に短絡的すぎないか?


「そもそも思っていたんですけど、ユリアさんは何者なのです?」


「僕も気になる。ユリアちゃんについては調べてもよくわからなかったんだよ」


 炎と水が質問してくる。


 まあ疑問に思うのは当然か。


 親友の私でさえ、ユリアについては分からないことが多いのだ。付き合いの短い二人は、なおさら疑問に思うことだろう。


 ユリアについては……まあ別に言ってもいいかな。後々勘違いされても面倒だし。うん。ユリアも別に隠す気はないようだし、言っちゃおう。


「ユリアは、あんたら魔法少女が“悪の組織のボス”と勘違いしている人の、一人娘だよ」


「「えええええ!!!」」


 私の言葉に炎と水は、目が飛び出そうなほどの驚きを浮かべている。


 まあそんな反応にもなるか。たしかに普通の魔法少女にとって、ユリアの母は「人類の永遠の敵」だもんな。

 

 その後私はユリアについて軽く説明する。まあ危険性がないことだけでも分かってもらえればいいかな。


 私の説明に、二人は納得したような表情を浮かべた。


「確かにあなたの風貌は、しっかり見ると不気味で怖いですものね……ある意味納得ですわ」


「二人でいると印象が違うから、見た目の怖さとか気にならなかったよ。ほら、野良犬だと怖いけど、飼い犬なら怖くないみたいな?」


 となるとユリアが飼い犬か……うん、飼われているユリアなんて全く想像できない。どちらかというと、ユリアが私の飼い主って方がまだ想像はしやすい。ユリアにはいろいろ世話を焼いてもらっているしね。


 衝撃的なことも含めいろいろ話したおかげか、今回の食事のお陰で私達の関係は深まった気がする。これも妹様がわざわざ夕食に招待してくれたおかげだろう。


 これからも二人とは程々の距離感で仲良くやっていきたいものだ。


―――――――


 魔法少女をやっていて一番良かったこと。それは、ユリアが楽しそうなことだ。


 もしかしたら魔法少女って、ユリアが楽しむためだけの存在でしかないのかもしれない。


「結婚して欲しい」


「は?」


 目の前には一本の蝋燭。それだけしか光源のない薄暗い部屋の中。そこで、ユリアから唐突にそんなことを告げられた。


 凄い爆弾発言だ。驚きで心臓がドキドキしている。


 ふうー。一旦落ち着こう。


 えーと……今日はユリアの家で検査を受けていただけだよな。冷静になるために、今日の流れを頭から思い返してみる。



 世情に疎いユリアの母が、私という存在を最近になって知ったらしく、それが娘の友達ということも知り、どうしても体を調べたいとユリアの母がゴネ、それを承諾した私はユリアの家に行って色々検査をした後、今はユリアの部屋でのんびりしていたところ……だよな。



 ユリアの家は基本的に照明の電源を入れておらず、日の当たらない地下にある。どこもかしこも真っ暗だ。そんな中、よくわからない機械が沢山置いてあるので、それはもう悪の組織っぽい住処だった。

 

 照明の電源を入れないなんて、日々の生活が不便じゃないかと思うのが普通だろう。だが、ユリア達はなんの問題もなく暮らしている。


 なぜなら、ユリア一家は、「不便だから」という理由だけで、夜目がきくように肉体を改造したからだ。その御蔭で日常生活に明かりを必要としていないらしい。


 うーむ……ユリア一家は相変わらずなんか凄いなぁ。 


 さらに言えば、ユリアは暗闇のほうが研究の時、アイデアが湧いてきやすいらしい。だから、ユリアの部屋はそもそも照明すらない。


 ただし、今日は私が来るからと、蝋燭を棚の奥から引っ張り出してきてくれた。


 明かりが蝋燭しかない部屋でユリアと二人で話すことは、ただ話しているだけなのに非日常っぽくて、とてもワクワクした。


 と、そんな呑気なことを考えていたところ、「結婚して欲しい」という、爆弾発言が出たってわけだ。


 いくら私が、言葉足らずなユリアの言いたいことをある程度察せられるとしても、この言葉の意図は流石に分からなかった。一体どういうことだろうか?


「全然ユリアから恋愛感情を感じなかったけど……どういうこと?」


「そういう意味で言ったわけじゃない。先走って結論だけ言ってしまった」


 どうやら恋人になって欲しいわけじゃなさそうだ。マイペースなユリアとしては珍しく少し緊張している。一体何が言いたいのだろう?


 蝋燭の炎が軽く揺れる。


「ゆっくり最初から私の思考を説明する」


 ユリアは何故結婚という結論になったのかを語り始めた。



――――――――



 全てを聞き終えた私は、ユリアの長い長い話を咀嚼して理解するために、順番に確認していく。


「もう一回整理すると、まず、遥か遠くの宇宙からやってきたユリアの祖先は、故郷に帰るため膨大なエネルギーを必要としていたんだよね」


「そう」


「で、その祖先は、この星にはない進んだ技術をたくさん持っていた。ただ、それでもこの星に元々技術としてあるエネルギーを利用するだけでは、どうやっても故郷に帰れないことが判明する、と、ここまではオッケー?」


「合ってる」


「だから新しいエネルギーを作り出す必要があり、長い研究の末、怪人の浄化される時の煙から、新たなエネルギーを作り出すことに成功する。祖先はそれを『怪人エネルギー』と名付けた。

 そして、それを集めているところを、祖先の悪そうな見た目のせいで、魔法少女たちから悪の組織のボスと勘違いされると……」


「そういうこと」


「そのユリアの祖先は、故郷に帰るという夢を果たす前に寿命がきてしまったので、クローンを作り、全ての技術と一緒に次世代に託した。で、そのクローンがユリアの母だと」


「うん」


「でもユリアの母は、別に遥か遠くの故郷に帰りたいとは思わなかった。何故ならその祖先とユリアの母は、クローンとはいえ別の人格。ユリアの母にとって、そこは故郷でもなんでもなかった。

 だから、ユリアの母は自分の興味のままに、その怪人エネルギーを自分勝手に有効利用する研究に勤しんでいる。

 祖先から見た目も遺伝しているので、その悪そうな見た目と、祖先と似ていることから、またまた悪の組織のボスと勘違いされる」


「困った母親」


「まあそんなことは一切気にせず、独自に研究に勤しんでいるユリアの母は、一人で研究しているせいで研究の進みが遅いことを問題視する。だから、怪人エネルギーと自分の細胞を使い、クローンとしてユリアを作り出した」


「だから自分は宇宙人の血を引くクローン」


「最初は優秀な助手の役割として作ったクローンのユリアに対して、ユリアの母は想定外なことに『母性』が生まれてきてしまった。ユリアの母はその気持ちをとても大切に感じ、助手として扱うのではなく、我が子のようにユリアを大切に育てることにした」


「母は意外と人間らしさがある」


「この世界の普通の子どもと同じように、それでいて大切に育てられたユリアは、誰に言われるでもなく自然と自分も研究が好きになった。母は怪人エネルギーの利用法を研究することが好きだったけれど、ユリアは怪人や魔法少女そのものを研究するのが好きだった」


「母と自分の研究対象は少し違う」


「そんなユリアは私と出会い、私や怪人を研究しているうちに、魔法少女の力を怪人エネルギーと融合させ、怪人エネルギーを進化させることに成功した。それも最近」


「あなたのおかげ」


「で、そのエネルギーを“融合エネルギー”と名付けたユリアは、その融合エネルギーを調べているうちに、世界のルールを変える事ができるほどのパワーがあると判明した」


「あまりに危険なエネルギー」


「ユリアの母とも相談の上、この危険な融合エネルギーは、これ以上新しく怪人が生まれない世の中にするためだけに使うと決めた。二度とこんなエネルギーが誕生しないようにするために」


「母は今までの研究成果がパーになると嘆いていたけれど、最終的にはそう決断した」


「ただし、ここで問題がある。その計画を進めるためには、推定50年ほどかかってしまう」


「あまりに大きな世界のルールを変えるには、沢山の融合エネルギーが必要だから」


「そんな危険なエネルギーをダラダラ集めるのなんてリスクが高すぎる。なるべく最速で集めたい」


「もし融合エネルギーが悪用されると危険。時間は経てば経つだけリスク」


「さらに、怪人が出た現場に毎回行き、浄化された煙や魔法少女のエネルギーも採取しなければいけない」


「うん」


「毎回怪人が出た現場に行ってそんなことをしていれば、流石に魔法少女は黙っていない。ユリア達は見た目から確実に悪いことをしていると思われてしまう。今でこそ悪の組織のボスと勘違いされているくらいだし、そりゃあ当然だ。

 だから、ユリア達だけではその計画は順調に進まない。でも、ユリアは私といると、何故か怖がられない」


「これは実は凄いこと、自分達が愛される事があるとは思わなかった」


「だからこの計画に私の協力は必須。これから50年ほど、つきっきりでユリアと一緒にいて欲しい。と」


「そう」


「そして50年も私を付き合わせるのなんて、もはや結婚するのと変わらないと考えた。と」


「そう。なんなら結婚していると思われたほうが都合がいい」


 ユリアの話は大体こんなことだったかな。話を繰り返したことである程度理解できた。


 なるほどねぇ……壮大な計画だ。まあまとめて簡単に言うと、ユリアは私のこれからの人生の50年ほどが欲しいということか。


 でもまあそれにしても……


「結婚してって表現はちょっと大げさじゃない?」


 私を異性として愛していると勘違いして、びっくりしたじゃん。


「少し表現を間違えた可能性もある。けれど、決して大げさじゃない」


 ユリアは真剣に答える。


 ユリアいわく、活動の都合上、ユリアの計画を全てにおいて優先してもらうので、自由に恋も仕事もできないくらいに思ってもらったほうがいいとのことだ。


 だから、とにかく計画の遂行には覚悟が必要なのだとユリアは言う。ユリアと一生一緒にいるという覚悟が。


 ユリアの計画に付き合う場合、少なくない報酬を払ってくれるらしい。生活面で困るようなことは決してしないと約束してくれた。



 私はここまでの話を聞いて、少し気になったことがある。


「でもさ、ユリアこそ、私なんかとずっと一緒にいるのは大丈夫なの? ほら? 仲いい人でも、ずっと一緒にいれば、突然嫌な面が気になって仕方がなくなるときとかありそうじゃない? バカップルがいきなり喧嘩別れするみたいな」


「それも考えた。考えた結果。大丈夫と判断。これはその思考の道筋。全部見てほしい」


 そう言ってユリアは私に辞書のような形をしたホログラムを渡す。


 どうやらこれは、ユリアが今までの人生で感じた感情や、考えたりしてきた思考、その全てを自動で言語化してくれる機械だそうだ。なんだその凄い機械。


 ここにはユリアが産まれてからの全てを記録してあるらしく、これを見ればユリアを完璧に理解できるらしい。


 大層な発明品だが……ユリアにとってこれはただの日記らしい。


「うーん……見るのは大事なところだけでいいや。重要なところだけピックアップできない?」


「……可能」


 ユリアは少し苦笑いしながらそう答え、手元にある機械をいじりだした。どうやら肩透かしをくらったみたいだ。


 なにか大きな決心を持って、全て見ていいと言ってくれたのだろうが……自分だけユリアの思考の全てを覗き見るなんて、私はなんとなく嫌だったのだ。



 ものの数秒でユリアは作業を終えた。これで重要なところだけまとめてくれたようだ。


 今から見るのはいわばユリアの脳内だ。心して見させてもらおう。


 私はその辞書のようなものの表紙を捲り、初めから読んでいく。


【50年も一緒にいるというのは、結婚するのと何も変わらないという結論に至ったので、自分が姫と結婚できるかということを考えてみる。


 自分はどういう人となら結婚したいと思うのか……


 自分は意識して行動したことより、無意識での行動を評価する性質がある。


 無意識での行動を評価するには“何をしてくれた”ということより、“何をされなかった”ということに重点を置いたほうが評価しやすい。何故なら、人間は格好つける生き物だと私は認識しているからだ。


 私にとって良い行いをしてくれたとしても、見栄えを気にしてやってくれただけの可能性は否定できない。


 その点、されなかったことには、その人物の無意識が出る。以上のことから自分は姫が自分に“何をされなかった”のかを思いつく限り羅列していくことにする】


 ふぅ……一旦休憩。ただ少し感情を覗き見るだけだったはずなのに、なんか小難しいし、回りくどい。


 私はもっと感覚で生きているので、無意識の行動を評価するなんて凄く遠回りのように思えるが、ユリアにとっては真剣に考えた結果、こういう思考になったのだろう。


 なので、私も難しくとも頑張って読み解こう。


 続きを読む。


【・姫は自分を怖がらなかった

・姫は自分を無視しなかった

・姫は自分を便利な存在として扱わなかった

・姫は自分に挨拶をしないことがなかった

・姫は自分の悪口を言うことはなかった

・姫は自分と関わるときに何の気負いも無かった

・姫は自分を理解することを諦めなかった

・姫は自分に不必要な隠し事をしなかった

・姫は自分の行動を頭ごなしに否定しなかった

・姫は自分との約束を破ることはなかった

・姫は自分の価値観を否定しなかった】


 ふぅ……もう一度一旦休憩。これだけ書き連ねられると照れるな。なんだかとっても嬉しい。


 そうか、ユリアは、私にとってはこんな当たり前のことを嬉しいと感じていたのか。それだけユリアが怖がられていたということなのだろうな。


 少しニヤけながら、再度私は続きを読む。


【どんどんされなかったことが溢れてきて止まらない。無限に羅列しそうなので、一旦10個ほどでやめておく。これだけ苦も無く羅列できる人物を、自分は姫以外では想像できる気がしない。


 改めて羅列してみて分かったが、自分は姫をとても評価している。気持ちでは分かっていたことだが、私なりの理論に落として考えてみても同じだったことが嬉しい。


 そんな姫とならば、どんな大変なことがあったとしても、一緒に乗り越えてみせるという覚悟を決めることができる。


 要するに、「姫と結婚できるか」という問いに対しては、「できる」と答えるということだ。


 よって、自分には姫とずっと一緒にいるという覚悟があり、一生一緒にいたとしても自分らしく苦も無く生きていけるだろうと結論付けた。


 自分は姫とこの先ずっと一緒でもなんの問題もないと確信している。


 

 ただ、これは自分の考えであって、姫の考えではない。思いが一方通行では計画は失敗してしまうだろう。


 なので、自分の気持ちを伝えた後、姫にもしっかり考えてもらおう。


 今の自分にとって、気持ちをすべて口に出して言うのは恥ずかしく、普段から言葉が足りていない自分が口に出して言うことで、全て気持ちを伝えられない可能性がある。


 よって、この日記を読んでもらおうと思う。これを読んでもらうのも恥ずかしいが、自分は覚悟を決めたのだ。自分の全てを見せるくらいの覚悟はある。それくらいの恥ずかしさは乗り越えよう。


 そのうえで、姫に答えを聞こう。

 

 自分は姫にも後悔しない道をしっかり考えて、考えた上で結論を出して欲しいと願っている】


 私はまとめてもらった部分全てを読み終える。かなりしっかり読み込んだから、ユリアの気持ちは理解できた。


「姫にはそのことをゆっくり考えてきて欲しい。別に計画に乗らなくとも今まで通り。なにも変わらないから」


「うーん……よし! 10分ほど待ってて。真剣に考える」


「……分かった」


 おそらくユリアはもっとゆっくり考えてほしいのだろう。日をまたいでゆっくり返事を待つことを想定していたはずだ。


 だが、こういうときの考え事は10分が私にとってちょうどいいのだ。


 そもそも、私は大体のことを悩まずに生きてきたし、大抵のことは悩んでも意味はないと思っているタイプだ。なぜなら、一瞬で決めたことでも、悩んで決めたことでも、結局結論は一緒になると思っているから。


 でも、人生において本当に大事だと思うことは、瞑想しながら10分ほど考えることにしている。


 この時間は、後悔しないようにするための時間であり、自分の覚悟を決めるための時間だ。


 馬鹿な私でも10分ならギリギリ真剣に考えられる。それ以上は集中力も持たないし、10分を超えると、考え事中に他のことを考えてしまうからさ。

 

 私はあぐらをかいた状態で目をつむり、背筋を伸ばし、目をつむる。これは私が一番考え事をしやすい姿勢だ。


 深く深く、自分の心の奥底に潜るように思考していく――



 まずは、ユリアと50年一緒に過ごせるか、それこそ結婚するのと同じくらいの覚悟を持てるかということについて考えてみる。まあこんなこと、いつもなら2秒で結論を出せるのだ。だが、今回はもっとよく考えてみる。


 そうだな……ユリアに倣って、同じように考えてみますかね。


 ユリアはやってくれなかったことを羅列していたが、その考えは捻くれ者の考えだ。回り道しすぎ。


 私はもっと真っ直ぐ、やってくれたことを羅列する。この方が私らしく真っすぐで分かりやすい。


 ユリアが私にやってくれたことなんて、それこそ無限に思いつく。だから、私もユリアに習って10個ほど挙げてみようかな。


・私といるとき、楽しそうでいてくれるところ

・私に興味を持ってくれたこと

・いつも一緒にいてくれるところ

・私の妹話に苦笑いしながらも毎回付き合ってくれるところ

・私には控えめな笑顔を見せてくれるところ

・話を聞くだけじゃなく、しっかり自分の意見も言ってくれるところ

・約束は毎回しっかり守ってくれるところ

・困っているときなんだかんだ助けてくれるところ

・私と遊んでくれたこと

・悩みを聞いてくれて、解決してくれるところ


 うん。10個くらい余裕だな。まあこんなことしなくても分かってはいた。やっぱり改めて確認しただけだわこれ。


 こんなこと羅列しなくたって私はユリアのことが大好きだし、尊敬しているし、感謝している。


 やっぱり2秒で考えたときと結論は変わらない。ユリアと50年一緒に過ごす覚悟なんて簡単に決められる。


 そうだな……後は、今後50年、私は人生を棒に振ってまでユリアの計画に付き合えるか、後悔はしないか、ということについても考えますか。


 まあこんなのは言い換えれば、私の進路を今決めるというだけだ。単純に考えるのが私流。


 改めて意識して、私の心の奥底まで深く潜るように考える。心の深く深く、誰にも言ってない私の感情や、思考を深くまで潜って追求する。


 今までどう感じて来たのか。私は何をしたいのか。どうやって生きたいのか。



 何故か前世の記憶があった私は、決して表には出さなかったが、正直この世界に少し退屈していた。


 特に、学生時代はずっと退屈に過ごすんだろうなぁと思っていた。その理由は、この世界に魔法少女と怪人がいることに原因がある。


 怪人に負の心を魅入られるのは、学生が特に多い。9割以上が学生で、大人はそうそう怪人になることはない。これは、怪人が子供の不安定な心を好むからと言われている。


 そういう怪人から子供を守るために、大人たちは沢山の対策を講じた。


 子供が健やかに健康に育つため、カウンセラーを学校に一人以上置いたり。

 一月に一回は匿名性のアンケートがあり、子供たちの不安や悩みを調べていたり。


 これは義務なので、どの学校でもそうなっている。


 まあそれくらいはいいのだ。アンケートは少し面倒だが、これくらいなら許容範囲。


 私が退屈と感じる原因はここからだ。


 大人たちは、子どもの食事や睡眠、運動までも規則化したのだ。


 具体的に言うと、食事は栄養素をバランスよくとるため、3食きちんと取り、一汁三菜に果物を足した食事を義務とし、おやつは一日200キロカロリーまでと決められている。


 睡眠も子供は10時間も寝ることを義務付けられているし、毎日20分以上の運動も心身の健康のため、義務付けられている。


 まあ義務と言っても努力目標のようなものなので、守らなくとも注意されるだけで何もないのだが……ほとんどの大人達は子供にこれを守らせているのだ。


 結果的にそのようなことを規則としたことで、怪人の出る頻度は以前より明らかに減った。


 でもさ、いくら効果があろうと、私はこの規則にどうも退屈さを覚えてしまうのだ。


 だって、食事や睡眠、運動を義務付けられてするのって、なんか気持ち悪いじゃん。人間らしくないっていうかさ。


 そういう生活が理想的なのだとしてもだよ。おやつをいっぱい食べて、夕ご飯が食べられない日があったり、面白いマンガを徹夜で読んでしまったり……そういう「生活のブレ」のようなものにこそ、人としての個性や、人間らしさが出てくると思うんだよ。


 私はそういうことに人間らしさを感じてしまうので、どうも今時のしっかりルールを守っている子供達を見ると、個性がなく面白みのない人間に見えてしまう。


 ……きっと私が面白みのないと感じている人も、そう見えるだけで、その人物を深堀りすれば、また色々な個性が見えて来るのだろう。そんなことは言われなくても分かっている。


 でも、私はそういうのが不得意だ。


 これは、ハンバーガーを食べるときに置き換えると分かりやすい。


 この世界の人は素材の味を楽しむことが得意だ。ハンバーガーを食べるときでさえ、野菜のシャキシャキ感とか、肉本来の甘味だとか、小麦の香ばしい香りが良いとか言うのだ。そんな人達ばかりだから、人を深堀りして個性を見出せるのだろう。


 だが、私はそれが全く理解できない。ハンバーガーなんて脂っこいジャンキーな具材に、マヨネーズやケチャップドーン! みたいな、素材の味を殺しかねない濃い味付けこそが醍醐味じゃん。


 なんだよ素材の味を楽しむって? 大人みたいなこと言うな!


 私は分かりやすい味付けが好きなのだ。そんな私だから、人を深堀りするのがしゃらくせえのだ。


 今ふと思ったが、私がギャルっぽい格好を好んでしているのは、普通の格好なんてしていてもつまらないと思っていたからかもしれない。


 単純に可愛いから着ていると思っていたし、それも正解なのだが、深く考えるとそういう要素も確かにある気がしてきた。服装で分かりやすく個性をアピールをしていたのかも。


 まあ、なんだ。私にはそういう考えが根本にあるのだ。


 だから私ははみ出し者が好きなのだと思う。ジャンキーなハンバーガーみたいに、個性が分かりやすいから。


 でも、皆怪人になりたくないので、規則を守っていい子でいようとする。故に学生にはみ出しものなんてそうそういない。


 だから私は、学生時代は少なくとも人との関わりに関しては、退屈に過ごすことを受け入れていた。


 実際に小学校時代は退屈だった。退屈そうにしているのを表に出すのもなんかカッコ悪いと思っていたので、そういう態度は決して見せなかったが。



 そんな思いを持っていたところに、流星のごとく現れたのがユリアだ。


 ユリアは分かりやすくはみ出しものだった。


 変わっていながら周りを気にしないし、とても自由に生きているように思えた。そんなユリアが私には光輝いて見えたのだ。だから猛烈にアプローチしたのだ。


 ユリアといると安心感がある。自然と息ができる。自分らしくいられる。


 ユリアが孤独だったように、私も内心では孤独だった。私には人付き合いはまあまあできたので、ユリアほど本来の意味で孤独だったわけではないが、それでも孤独だった。


 そんなユリアに「今後50年一緒にいよう」と言われて、私はどう思ったのか。


 それはやはり、嬉しかった。ものすごく嬉しかった。それこそ、飛び上がりそうになるくらいに。


 正直「いいよ」と即答しそうだった。ユリアは考えてほしそうだったので、結果、即答はしなかったが。


 私は、ユリアとの将来の暮らしを思い描くだけで、凄くワクワクしてたまらない。ワクワクしてたまらないのだ。


 

 でもまあ、これだけ考えても、私は将来その道を選んだことを後悔するときが来るかもしれない。もっといろいろやりたいことだってできるかもしれない。


 ただ、現状どう考えてもユリアの提案を断るという選択肢は私にはない。だから、これも結局覚悟の問題だ。今この道を選ぶという覚悟だ。


 

 ……よし! 決めた!



 私は病める時も健やかなる時も、生涯ユリアと支えあうことを誓おう。


 ふふ、それこそ結婚みたいな誓いだな。ユリアが言った「結婚と似たようなもの」と言うのが間違ってないということだろう。


 覚悟は決まった。



 そんなところで、ちょうど10分が経った。私は瞑想を終える。


 私史上一番真剣に集中して考えた。その御蔭か頭の中が妙にスッキリしている。


 さあ、返事をしよう。


「結論は出た?」


 ユリアが珍しく不安そうな眼差しを私に向ける。だからこそ、私は即答してやった。


「うん。いいよ。結婚しようか」


 そう返事したついでに、いたずらっぽく笑いながら、ユリアの手を取って跪き、軽く口付けを落とす。


「ちょっと。結婚は例え話」


 ユリアが咎めてくる。私の返事の軽さと、少しふざけたように言ったことが原因だろう。


「実質結婚するようなものでしょ。それを踏まえても、まあ良いかなって」


「……軽いね」


「沢山考えても、別にそんな気負うことじゃないってことに気づいてね……まあ覚悟は決めたから、大丈夫」


 そうなのだ。いろいろ考えた結果、気楽に行くのが一番だと最後に思ったのだ。


 今まで通りの距離感でのんびりやっていけば、50年なんてあっという間だろう。


 それに、別に周りに結婚していると思われてもいいかなって。どうせそれくらいお互いのことを大事にしているんだから。


「ほんと……姫は阿呆少女だね……そう。分かった。姫が覚悟を決めてくれて嬉しい」


「おい! だれがアホウ少女だ! あと姫って呼ぶな」


 そんなふざけたやり取りをしながらも、ユリアが笑顔を見せる。今まで見たこともないような、花開くような笑顔だ。


 ふふっ、幸せだなあ……



「じゃあ、いまから少しすることがある。少し待ってて」


 そう言って、ユリアは部屋から出ていってしまった。


 あーダメだ。いまはワクワクしていて、大人しく待っていられないわ。


 無意味に軽くストレッチなんてしてみながら待っていると、3分後くらいに戻ってきた。


「ねぇユリア? 何をしてきたの?」


「ちょっとした世界のルールを変えてきた」


 ユリアがちょっと散歩してきたくらいの話しぶりで、凄いことを言った。


 え? そんなことして大丈夫なのか? というか、計画にしか融合エネルギーは使わないんじゃなかったのか?


「大丈夫。計画を遂行しやすくするための、ちょっとしたルールしか変えてないから」


 どんなルールを変えたのだろうか?


「姫が魔法少女でいられなくなる条件を変えた」


「それってつまり……」


 私はこれからユリアが言うことをなんとなく察した。なんだかとても嫌な予感がする。


「姫は年をとっても一生魔法少女。良かったね」


「良くないわ!」


 魔法少女は年を取ると変身できなくなる。少女じゃなくなるからだ。これは世界のルールだ。ユリアはそのルールを私にだけ適用しないように変えてしまったらしい。


 こいつ! 融合エネルギーに必要な魔法少女のエネルギーを、一生私から採取するつもりだ!


 私はここから50年、魔法少女として活動し続けることが決まったらしい。まあ他の魔法少女から採取するよりリスクはないし、合理的ではあるのだろう。


 それに、今までも知らないうちにちょっとづつ採取されていたらしく、私はそれに全く気づかなかったので、問題はない。問題はないのだが……


 やりやがったな!



 これからも私はユリアと一緒に、魔法少女として働いていくのだろう。


 確かに魔法少女になることで、少ないながらも良かったこともある。だが、最後にこれだけは言わせてくれ。



 魔法少女になんてなりたくなかった!



 終わり!



姫達の物語を楽しんでくれてありがとうございました!



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