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『それって女子力的にどうなのかな、って』


 朝八時。出勤に駅へと流れて行く人々を眺めつつ、僕は待ち人を探し続ける。


 といっても、約束の時間は九時。あと一時間は来ないだろう。僕は欠伸を噛み殺しながらスマホに目を落とす。


 久しぶりの遊園地ということもあって、舞い上がってほとんど眠れなかった。今日だってアラームが鳴る前に起きてしまうほどだった。


 我ながら子供みたいだ、と苦笑してしまうけれど。楽しみだったものはしょうがない、と自分の幼さを正当化する。


 改めてスマホの時計を確認する。時間は八時十分。


 まだまだ時間はある。何処かで座って待っていようか。


 僕は駅構内から出て、駅前のロータリーへと足を向ける。


 ガヤガヤと耳に届く駅の喧騒を聞き流しつつ、広告に目をやる。すると、そこには今日行く予定の遊園地の広告が大きく表示されていた。


 思わずそれに目を持っていかれ、よそ見をしたまま歩いてしまう。


「たっ!?」


「あっ!」


 よそ見をした所為で、目の前の人と肩をぶつかってしまった。僕も相手もお互いに尻餅をついて、痛む腰を擦りながら謝罪をする。


「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」


「いえ、こちらこそ……………………って」


 僕も、ぶつかった相手の人も目を白黒とさせて、お互いの顔をよく確かめる。


 約束の時間まで一時間近くある、まだ来ているはずがない。……というのを、相手も思っているのかな?


 兎にも角にも、ぶつかった相手というのは僕の待ち人で……。


「早乙女さん!?」


「五十嵐くん!? じ、時間までまだまだあるよね?」


 左手首に巻いた腕時計で時間を確認する。うん、予定の時間よりも早く到着してる。


「ええ……なんか、待ち切れなくて」


「そ、そうなんだ…………私も」


 何故か二人とも恥ずかしがっていた。しかしここは駅構内、人々が行き交う場所。そんな場所で二人はまだ尻餅をついていて、赤面していて。


 だから注目を集めていることは間違いなくて。


「い…………行きましょうか!!」


「そ、そうね、うん!」


 僕も早乙女さんも同時に立ち上がり、改札の向こう側に視線をやると、そこには。


 休日にひしめく人、人、そして人。


「あ~……」


 早乙女さんが声を漏らすのも無理もない。この中に入るのは……ちょっと……。


「……予定の時間まで、何処かで時間でも潰す? 朝食でもどうかな?」


 駅の外へと足を向ける彼女の背中を追って、駅前のロータリーへと舞い戻ってきた。構内とはまた違う、車も追加された喧騒に包まれる。


 何処で食べようかとキョロキョロ見回し模索している彼女に向けて、僕は手に持っていた袋を見せる。


「早乙女さん。僕、早く起きすぎちゃって、それで……サンドイッチ作ってきたんですけど………………あっ」


 そこまで言った所で、盲点があったことに気付く。


 僕と早乙女さんは友人で、仲が悪いなんてこともない。だけどお互いに知らないことはまだまだ沢山ある。


 作っている最中には思い至らなかったけれど、もしかしたら。


「えっと、なんでもないです」


「……五十嵐くん?」


 慌てて袋を背中に隠し、何もなかった風に装う。けれど、一度見せた物が無かったことになんて出来ないわけで。


 早乙女さんの興味は完全の僕の背中へと向いていた。


「それは?」


「ちょっと、浮かれちゃってサンドイッチを作っちゃったんですけど、よく考えたら人の手作りを食べない人だっているわけですし、それに僕の作った物なんか食べたくないですよね、ごめんなさい」


 早口でまくし立て、頭を下げる。けれど、返ってきたのは呆れた声などではなく、笑い声だった。


「あははは、ええ? なんでいきなり卑屈になるのよ。作ってきてくれたんでしょ? 食べましょ?」


 頭を下げた僕の肩に手を置いて、早乙女さんは空いているベンチを指差す。


「イヤじゃ、無いんですか?」


「イヤなわけないじゃない、五十嵐くんのことは信用してるもの。あ……それとも、なんか怪しげなもの混ぜたとか?」


 からかうような笑みを見せる早乙女さん。僕は慌てて否定する。


「そ、そんなワケないです! 普通のサンドイッチです、ほら!」


 袋を差し出して、中身を検めてもらうことに。


 ビニール袋の中には使い捨てのランチボックス。荷物にならないように食べたらすぐに捨てられるように考えておいた。


 中には二種類のサンドイッチが所狭しと詰められており、一種類はゆで卵を潰したオーソドックスなたまごサンド。


「美味しそう……」


 ランチボックスを開くや否や、早乙女さんがぽつりと呟く。その言葉に嘘は無いみたいで、彼女の瞳は吸い寄せられるように輝いていた。


「ね、食べて良い!?」


「どうぞ……口にあえばいいんですけど」


 サンドイッチ用のパンにぎっしりと詰められた卵。塩コショウとマヨネーズで軽く味付けをした、簡単な物だ。


 早乙女さんは一口で半分くらいかぶりつく。口に入れた途端、彼女の目は大きく見開かれる。


「おいひい!!」


 咥えたままなので聞き取りにくかったけれど、表情から何を言いたいかは理解できた。


「良かった……」


 思わず笑みが零れてしまう。無駄にならなくてよかった、の安堵感と。喜んでもらえた嬉しさから。


「………………」


 そんな僕の顔を、食べながら覗き込む早乙女さん。


「な……何か?」


 もう半分も口の中に放り込み、僕の顔を見ながらもぐもぐと咀嚼。飲み込んだ後、もう一つに手を伸ばしながら。


「可愛いなあと思って。喜び方も女の子っぽくて」


「な……っ!」


 これは怒りなんだろうか、それとも恥ずかしさ?


 一つだけわかっているのは、何故か顔が熱くなって早乙女さんの顔が見れなくなったということ。


「ね、もう一つは?」


 手に持ったたまごサンドを食べながら、まだ開けていないもう一つのランチボックスに興味を向ける。


 残りの一つを自分の膝に乗せ、開くとそこには残りの一種類のサンドイッチが入っていた。


 レタスとハムという、これまたオーソドックスなサンドイッチ。味付けはパンにバターを薄く塗っていて、レタスとハムの素材の味を強く楽しんでもらうために。


「んー! 私そっちも食べたい!」


 片手にたまごサンド。もう片手にハムレタスサンドを持って頬張る姿は、とても可愛らしく。その姿を目の前にすると、作ってよかった、と心から思える。


「五十嵐くんも食べなよ?」


「は、はい。いただきます」


 朝の駅前ロータリーのベンチで。二人でランチボックスを広げてサンドイッチを頬張る姿は、休日出勤により荒んだ人の心を癒やしていたとか、いないとか。


 ………………


 …………


 ……


 少し作りすぎたかな、と思っていたけれど。あっという間に綺麗に空っぽに。


「ごちそうさまでした、美味しかったよ」


「喜んでくれたなら良かったです」


 満面の笑顔だったのだけれど、早乙女さんの顔が一瞬で曇る。


「ど、どうかしました?」


「…………いや、男の子に作ってきてもらうって、それって女子力的にどうなのかな、って……。私も、料理できないわけじゃないんだし……」


「そうなんですか?」


「うん……って、あー、疑ってる?」


 疑ってる、というわけじゃないんだけど。


 何でも出来る女性を目指していただけあって、ある程度のことなら一通りは出来るのかもしれない、うん。


「じゃあ今度は私が何か作ってくるから、約束ね?」


 早乙女さんの手料理。それは……。


「はい、楽しみにしてます」


 言葉に偽りはなく、本当に楽しみだった。


「じゃあ……そろそろ行こっか?」


 時間を見れば既に九時過ぎ。駅に向かう人の波も落ち着いている様子。


「はい、行きましょう」


 食べ終わったランチボックスをゴミ箱に放り込み、僕たちは向かう。


 いざ、遊園地へ。

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