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『友達にならない?』


 引き続きファミレスの店内。


 店員さんに注意された後、僕とお姉さんは少し小声で会話するようになった。


「……それで? 男らしくなりたい、ってどういうこと?」


 零れた水を拭き取りながら、お姉さんは憮然としながら言う。


 僕はというと、先程までの話で言う予定だった言葉を出し尽くしてしまい、二の句が継げない状態に。俯いてしまい、両手を膝の上に乗せて黙り込む。


「…………その格好で、男らしくなりたいって言われても……」


「……え?」


 言われて初めて自分の姿を確認する。


 つま先は肩幅まで開いてはいるけれど、膝は揃えるように内股。両手を膝の上に乗せて俯く姿はまるで……。


「女の子みたい」


「ううっ」


 目の当たりにしたくない現実。


 どれだけ変えようとしてみても、気を抜いた瞬間にいつもの癖が出ちゃう。やっぱり人に言われると余計に恥ずかしさが出てしまい、僕としては赤面して俯くしかなくなってしまうのだけれど。


「ほら、その仕草だって」


「あ……」


 言われてみれば。慌てて手をテーブルの上に乗せ、背筋を伸ばす。


「うーん」


 肩ひじをついて、僕の顔を覗き込む。まじまじと見られているのが、とても落ち着かない。


「顔立ちも女の子みたいだし……諦めた方が良くない?」


「そんなっ」


 無慈悲な一言に、僕は立ち上がる。他のお客さんからの注目を浴びてしまうのが嫌らしく、お姉さんは僕に座るように促した。


 言われた通り座って、お姉さんに助けを求める表情を送る。


「僕、こんなんだから……男の人とかに絡まれるのとか多くて、いつも友達が助けてくれるんですけど、この前はいなくて……それで、その」


「…………それで、たまたま私が通りがかった、って?」


 コクリと頷く。お姉さんはまたも僕の顔を覗き込んで、大きな溜め息を吐いた。無茶なお願いだっていうのは重々承知してる。だけど、僕だって男なんだ。男らしくなりたい。


 だから、恥を忍んでお姉さんにこうして頼んで…………って、あれ?


 男らしくなるために、お姉さんに? おかしくないかな。


「あ…………」


 どうして、僕はお姉さんに頼んでいるんだろう?


 男らしくなるために、女性に頼み込むなんて、変じゃないかな? ううん、変だ。絶対変だ。


「あ、あの……すみません、僕……お姉さんに頼むなんて、どうかしてました……え、えっと……えっと」


 隣に置いていたリュックから財布を取り出し、千円札を取り出す。


 ドリンクバーだけだったから……足りるよね?


 それをお姉さんの前に置いて、立ち上がる。


「し、失礼しました、それじゃあ!」


 頭を下げて、逃げるように……いや、実際逃げているのだけれど、とにかく走り去った。


「え!? ちょっとっ……!」


 お姉さんの声に止まることはなく、早足でファミレスを出て行った。お店を出た瞬間に顔にそよ風、浴びた途端自分が言ったことが恥ずかしいことだと自覚し始めてきた。


 ……帰ろう、帰ってお風呂に入って忘れよう。忘れるために、いつもと違うちょっと良い入浴剤を使おう、うん。


 気を取り直すために、僕は早足で家路につく。いや、つこうとした。


「ちょっと待って……っ!」


 肩が掴まれる感触。前に進んでいた足が力ずくで止められた。振り返ると、そこにいたのはやっぱりお姉さん。


 追いかけて上がった息を整え……。


「キミ、足遅いのね」


 上がっていなかった。自分の運動神経の無さをまざまざと見せつけられた気分。


「ホント、すみませんでした……どうして僕、女性に頼んでたんだろう……」


 捕まったことで諦めた僕は、改めて頭を下げる。


「ん~……」


 お姉さんは自分の指を片手で揉む仕草をしながら、言葉を探しているようだった。


「まぁ……それだけ、切羽詰まってたってことなのよね……それが解るから、このまま帰しちゃいけないと思ったけど……引き止めた所で何が出来るって訳でも無いし……ん~」


 やっぱりと言えばやっぱりだけれど、困らせてしまっているみたいだ。変な頼み事をしたのは僕だけれど、困らせたかった訳じゃない。だから……うん、もう良いんだ。


「大丈夫です」


「え?」


 僕は上手く笑えてるだろうか? 上手く笑えていればいいんだけれど。


 お姉さんは僕を助けてくれた恩人だ。恩人を困らせたくはない。だから空元気、いや嘘だとしても、お姉さんに笑ってみせるんだ。


「僕、自分で頑張ってみます。……まぁ、ふとした時に男らしくない動作をしちゃうみたいですけど……頑張って治します! だってほら、僕……男ですから!」


「…………」


「し、失礼します。服、ありがとうございました……それじゃ」


 最後に深々と頭を下げて、僕は踵を返す。


 そう、これで良いんだ。僕が頑張ればいいのであって、お姉さんを巻き込んじゃいけない。そんな単純なことにすら気付けないなんて……。


 まずは喋り方! 声が高くて女性っぽいのであれば、頑張って力強い言葉を喋るようにして、それからそれから――


「と、友達にならないっ!?」


「……へ?」


 背後から突然聞こえてきた言葉は、僕にとっては思いも寄らない言葉であって。


 振り返ると、お姉さんは何故か真っ赤になっていて。


 だから僕も、さっきまで考えていたことが口に出てしまって。


「…………良いんだぜ?」


「…………………………ぜ?」


「あ」


 力強い喋り方をしようと考えてたから、思わず……っ。


「……ぷっ、あはははははははっ!!」


 僕の失言に、お姉さんは大笑い。とても恥ずかしい、恥ずかしいけど……。


「あはは、ぜ、って! 似合わないわねー! あははははっ!!」


 さっきまでの困っていた顔よりも、とっても似合う、そんな笑顔だった。


 僕はお姉さんの笑顔を見ながら、思っていた。


 とっても、魅力的な笑顔だって。



――――――――――



「は~、凄いわね。女子でもそうはセクハラされないと思うけど……いや、男子だからこそかな……?」


 公園のベンチで並んで座る。温かい缶ジュースを買って、暖を取るように手のひらで転がしながら、僕の悩み相談に乗ってもらっていた。


 同じクラスの男子や、女子からのからかい交じり……いや、からかい全振りの接触や。お姉さんも見ていた街でのナンパ。


 家のお風呂が壊れて銭湯に行こうものなら……この先は話したくない。


「でも、女子からだと嬉しいもんじゃないの?」


「嬉しくないですよ、僕に好意を持ってくれているんじゃなくて、あれはなんというか……」


「おもちゃ?」


「ですです。だから、本当なら辞めて欲しいんですけど……」


 誰も言ってもやめてくれない。友達が助けてくれるまで、僕はされるがままだった。


「あー、笑い事じゃないんだろうけど……笑っちゃうわね、あは」


「本当に笑い事じゃないですよ……」


 僕にとっては今最大の悩みのタネなんだから。


「それで、友達っていうのは……?」


 話題も少し尽きた所で、お姉さんがさっき言っていた内容に移ることに。友達って、僕がお姉さんと?


「私、別に男らしいと言われても嬉しくないの」


「……そ、そうですよね」


「だから、教えてくれって言われても、困る」


「わかります、はい」


「なら、友達になって勝手に見て学べば良いんじゃない? と思ったの、はい。以上!」


 急展開ではあるけれど。男らしくなれる機会があるなら、僕は手放したくはない。


 それに、お姉さんは良い人だ。見ず知らずの僕を助けてくれて、汚れた制服を洗ってくれてお風呂にまで入れてくれた。全部女性と勘違いしての行為だったみたいだけれど。それは優しさから来ている行為なのは間違いないと思う。


 そんなお姉さんと友達になれるなら……僕が拒否する理由なんてない。


「僕からも、お願いします……是非、友達になってください」


「……あれぇ? 友だちになってくださいだぜ、って言わないの?」


「あ、あれはっ……!」


「あははっ、冗談じょーだん」


 またひとしきり笑う。笑い終えるまで僕はお姉さんの笑顔に……見惚れていた。


「あはは…………ふう……私、アカリ。早乙女 灯。よろしくね」


 そういってお姉さん……早乙女さんは手を差し伸べる。


「ヒカル……五十嵐 光です」


 僕も手を差し伸べる。


「……見た目の割りに、ゴツい名字なのね」


「言わないでくださいよ……気にしてるんですから」


 そして、笑顔で握手を交わす。


 男らしくはなれなかったけど。


 新しい友達が、出来ました――

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