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『一番大きなラッピングバッグください』


 電車で一時間ほどの距離、向かった先はとても大きな遊園地リゾート。


 人気のテーマパークで休日ということもあって、開園前だと言うのに人は長蛇の列を作っていた。


 まずは入園チケットを買うべく、入園する列とは違う列に並ぼうとするのだけれど……。


 進もうとする僕を、早乙女さんの手が腕を取って止める。どうかしたのかと振り向くと、少し微笑んでポケットから何かを出す仕草。


「もう買ってあるんだ」


 出したのはスマホだった。液晶にはこの遊園地のアプリの名前が見える。


「さあさあ、五十嵐くんもスマホ出して、アプリインストールして」


 言われるがままスマホを取り出し、インストールしていく。


 早乙女さんのQRコードを読み込み、同期して……共有。


「はい、おしまい」


「え、これで終わりですか?」


 友だち登録するみたいに、あっさりと終わってしまったんだけど。


 僕が目を白黒させているのを見て、早乙女さんは楽しそうに笑う。


「でしょー? 私もビックリしたんだよね、最近の遊園地って進化したよね」


 たしかに凄い。ファミレスとかもそうだけど、なんでもスマホで済んでしまう辺りが。


 ……あれ? っていうか、僕払ってないんだけど……?


「あ、あの、早乙女さん。僕の分払います、いくらですか?」


 僕は財布を取り出すけれど、早乙女さんはゆっくりと首を振る。


「こういう時に奢れるのは、社会人の特権なのよ。今日は私が出してあげる」


「でも……」


 入園料は決して安くない。むしろ高い方と言えるだろう。


 そんな金額を出してもらうわけには……。あ、そうだ。


「じゃあ、僕にも考えがあります」


「…………なーんか、嫌な予感が……」


 開園するまで詳細は伏せたまま、後ろの方の列に並ぶ。


 時間ピッタリくらいを狙って電車に乗った為、そんなに待つ時間は無く。並び始めて数分で開園する。


 華やかな音楽の音量が徐々に大きくなっていき、非日常感を演出していく。


「…………確かに、非日常感あるね、あれ」


「そうですね……」


 噂に聞いていた開園ダッシュ。まさか生で見れるとは思わなかった。


「私たちはのんびり楽しもう?」


「そうですね」


 さっきと同じ返事だけど、含んだ意味合いはぜんぜん違う。


 小さい頃以来の、何年振りかわからない遊園地、焦って走り回るよりのんびり楽しもう。


 そして入園すると、そこは本当の非日常感がそこにはあった。


 様々な形のトピアリー、出迎えてくれる沢山の着ぐるみ……じゃなくて、キャラクターたち。


 走り回っていた人たちはもはや遥か彼方、僕らと同じくらいに入園した人たちは辺りを見渡しながらのんびりと歩いている。


 それは僕たちもそうだった。見慣れない景色、ゲートをくぐれば日常感あふれる駅があるというのに、ゲート一つでここまでの異世界を作り上げられるなんて。


「まず何処に行こうか? 適当に歩く?」


「いえ、まず行きたいところがあるんです」


「へえ、何処?」


 ………………


 …………


 ……


「いやいやいやいや」


 向かった店は雑貨店。


 小物から、大物まで幅広く取り扱うファンシーショップなのだけど、僕がそこで目をつけているのは、大物だった。


 抱えないと持てないほど大きな……ぬいぐるみ。


 遊園地のマスコットを象徴するキャラクターで、小、中、大と様々なサイズが所狭しと並べられている。


 その大、大。一番大きなぬいぐるみを僕は抱きかかえた。


「これ、早乙女さんにプレゼントします」


「いやいや、私の部屋には……合わないよ」


 あれ、そうかな?


「でも前にお邪魔した時、寝室には三つくらいぬいぐるみが――」


「わぁー! わー!!」


「いきなり大声を出すのは良くないと思いますよ? 周りの人に迷惑かと……」


「周りの人がいるのに、人の寝室事情をあけすけに話すのはやめないかな……?」


 ……確かに。ちょっとデリカシーが欠けていたかもしれない。


「と、いうわけで、ですね。入園料金を受け取ってもらえなかったので、似た額のこちらをプレゼントさせてください」


「え、本気なの?」


 本気も本気だった。僕は至極マジメな顔をして頷く。


「ごめん、受け取る。入園料受け取らせて?」


 早乙女さんは溜め息ひとつ。俯き気味に手のひらを僕に向けるけれど。


 僕は…………レジへと向かった。


「五十嵐くん!?」


 驚く早乙女さんの声を尻目に、僕はレジ対応をしてもらう。


「あ、一番大きなラッピングバッグください」


「ちょっとっ!?」


 会計は既に始まっていた。早乙女さんに出来るのは制止の声を上げるだけ。


 その声を聞こえていない振りをしながらレジを済ませてしまえば、彼女に出来ることはもう何も無い。


「お待たせしました」


「…………どうして、変な所で男らしく突っ走るのかしら……」


「早乙女さんにプレゼントしたかったんです」


 そして、ラッピングバッグに詰めた大きなぬいぐるみを、早乙女さんに手渡す。


「連れてきてくれて、ありがとうございます」


 出来るだけ、明るい笑顔で。


「…………」


 手渡された早乙女さんは息を呑み、おずおずと手を伸ばした。


「ずるい。そういう言い方されたら、受け取るしかないじゃない」


 受け取った大きなぬいぐるみを胸に抱いて、ジト目で睨まれる。


「あはは……受け取ってもらえて、嬉しいです」


 流石に持ち運ぶにはかさばるため、それ単品で配送手続きをした後、ようやく遊園地内を回ることとなった。



――――――――――



「あははは、早乙女さーん!」


 メリーゴーラウンド、コーヒーカップ。


 空をゆっくりと旋回しながら眺めを楽しむ乗り物や。


 川をクルーズしたり。


 あらゆるのんびりとした乗り物を楽しんでいた。


「はしゃぎ方が女の子よね」


「うっ……」


 早乙女さんに痛いところを突かれながらも、次に向かったのは。


「……ジェットコースター」


 実を言うと苦手だった。とても速いのに、上下運動や回転運動までするあの乗り物が。


 子供の頃は身長制限があって乗れなかったけれど、見ているだけで恐怖を感じたのを覚えている。


 しかし、向かったのは早乙女さんだ。彼女は好きなのかもしれない。


 緊張で溜まる唾を飲み込んで、早乙女さんの横顔を見てみると。


「………………」


 真っ青だった。


「……あの、早乙女さん?」


「…………五十嵐くん、って平気なほう?」


 なにが? とは聞かない。


 どうしよう、ここは男らしく平気だと胸を張って言うか。苦手だって正直に言うか。


 だけど、怖いものがあるとなると男らしくないと思われるかもしれない。うう……。


「………………実は、苦手です」


 正直に言うのも男らしいんじゃないかな?


 という変化球の言い訳を見つけ、怖いと正直に伝えることに。


「……私も」


「え、じゃあなんで……」


「久しぶりだし、平気かなと思ったけど……近くで見たら、やっぱり怖いね……」


 確かに。僕も数年振りだっていうのに、恐怖だけは覚えている。


 乗ったこともないのに、トラウマのように根付いているような、そんな感じ。


「やめておき……ます?」


「…………うー……」


 悩んでいる様子。僕は黙って成り行きに身を任せてみる。


 ……出来れば、やめるって言って欲しいなあ。


 だけど。


「――――頑張る! 頑張ろう!」


 僕の願いとは逆を言った早乙女さんだった。


「……そ、そうですね。頑張って……みましょう」


 そして、その後のことはあまり語りたくはない……かな。


「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」


「いやああああぁぁぁ!!」


 どっちがどっちの悲鳴なのかは、男の沽券に関わるので詳細は伏せさせてください……。

見ていただきありがとうございました。


次の更新は2/07(金)で、それ以降は月・水・金の予定です。


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