〈翠玉の宝石姫〉フィオレッラ
大国・シェインジェル王国。
初代国王の第三王子が婿入りされた
王族のひとつ、エンツォール辺境伯家。
若くして、16代目のエンツォール辺境伯
となったリオネールとアングラード侯爵家の
長女〈翡翠姫〉レティツィア夫人の間には、
艶やかな黒髪にエメラルドのような緑の目の
持ち主の娘が誕生しました。
〈翠玉の宝石姫〉フィオレッラ・フォン・
アングラード・エンツォール
そう呼ばれている彼女こそ、16代目
エンツォール辺境伯当主の一人娘なのです。
私は、フィオレッラ。
海の街、国防の要、エンツォール辺境伯家の
一人娘として生まれました。
〈翡翠姫〉と呼ばれているお母様と似たような
瞳の色彩だから、〈翠玉の宝石姫〉と呼ばれて
いるけれど、いたって、平凡な娘です。
この度、私に可愛いらしい義妹が出来ました。
両親が養女を引き取ったのです。
レティーナ叔母様、エルヴィール叔母様
という前例がありますけれど、まさか、
17歳になってから、7歳の義妹が出来る
なんて、本当に、驚きましたよ。
義妹は、ヘンリエッテ。
スージャー侯爵家の長女、ヘンリエッテ・
フォン・メリサディオ・スージャーです。
スージャー侯爵夫人として嫁入りした方が
アルディオンお祖父様の御生母と同じ国から
やってきたお方らしくて、お祖父様と同じ
黒の長髪に黒い瞳の持ち主です。
「あら、まるで、〈黒玉の宝石姫〉ね。
私は、このエンツォール辺境伯家の長女
フィオレッラ。貴女の義姉になります。」
「は、初めまして。スージャー侯爵が長女
ヘンリエッテです。宜しくお願いします。」
「ゆっくり慣れていくと良いわ。宜しくね。」
スージャー侯爵家は、初代国王の
第二王女が降嫁された王族のひとつです。
我が家と立場的には似ていますね。けれど、
非常に身分差を気にする貴族らしい貴族なの
ではないでしょうか。
なんせ、彼女の産みの母親は、アルディオン
お祖父様の御生母様、セレスティーネ王妃の
母方の親族にあたる伯爵令嬢ですから。
「あ、あの………
フィオレッラ様は、親戚なのですか?」
「ええ、貴女とは遠い親戚にあたりますよ。
だから、アルディオンお祖父様とお父様が
保護者として、名乗り出たのでしょう。」
「それで……… ありがとうございます。
お母様が亡くなられてからは、お父様は
まるで、別人のようになられて怖くて………
本当にありがとうございます………」
「ヘンリエッテ………私のことは、どうか
お姉様と呼んで頂戴な。大丈夫よ、貴女の
お父様は、休養中だから、辺境伯領までは
来られないと思うわ。大丈夫よ。」
「は、はい! フィオレッラお姉様……!
本当に、ありがとうございます………!」
スージャー侯爵は、ダンターナ侯爵の妹の
キャシーと再婚することが決まりました。
あのキャシーは、性格がきついお方なので
再婚する情報を知ったレティーナ叔母様が、
ヘンリエッテを預かることになりました。
しかし、王都だと気が休まらないだろうと
エンツォール辺境伯家にやってきたのです。
「今日は、私と、ゆっくりお話しましょ?」
「フィオレッラお姉様とお話したいです!」
「まあ! ふふ。可愛いわ。」
「フィオレッラ」
「あら、シルヴィー様
ヘンリエッテなら、寝ましたよ。」
実は、ひとりの青年が、ひっそりと
私たちの様子を見ていました。
彼は、私の婚約者となった
アンリーノ公爵の次男坊、シルヴィー・
フォン・スヴィーター・アンリーノ様です。
後に、エンツォール辺境伯家の長女である
私に婿入りして次期辺境伯となる騎士です。
リュミレーヌ王妃の甥でもあります。
「そうか。 新しい妹、ヘンリエッテとは
うまくやっていけそうかい?」
「ええ、とても純粋そうね。ただ、男性が
苦手かもしれないから、貴方の存在には、
ゆっくり、慣れていく必要がありそうよ。」
「やはり……… それならば、まずは、君と
レティツィア夫人、ラウレンティア夫人に
慣れるところからだな。」
「ふふふ。ラウレンティアお祖母様の方が
適任かもしれないわ。レティーナ叔母様と
エルヴィーラ叔母様を育てた方ですもの。」
「確かに。〈黒玉の宝石姫〉ヘンリエッテか。
エンツォール辺境伯家に、彼女を任せたのは
正解だったようだ。助かる。」
「ふふふ。可愛い妹が増えて、嬉しいわ。」