後編
大国・シェインジェル王国。
初代国王の第二王子が婿入りされた王族の
ひとつ、海の街・エンツォール辺境伯家。
14代目のエンツォール辺境伯夫妻の元に
美しい艶やかな黒髪にサファイアのような
瞳を持つ娘が誕生しました。
〈蒼玉の宝石姫〉ラウレンティア・フォン・
シーテレータ・エンツォール
そう呼ばれている彼女こそ、
このエンツォール辺境伯家の一人娘です。
わたくしは、ラウレンティア。
海の街、国防の要、エンツォール辺境伯家の
一人娘として生まれた者です。
この国のアルディオン王弟殿下を婿に迎えて
今や、二児の母親となりました。
長女のレティーナは、様々な事情から養女
として引き取った可愛い10歳の娘です。
嫡男のリオネールは、アルディオン様との
間に産まれた、可愛い3歳の息子です。
「そちらの美しいお嬢さん
一緒に踊りませんか?」
「いいえ、わたくしには、夫がいますので。」
本日、王家主催の社交会がございまして
夫のアルディオン様、養女のレティーナと
共に参加しております。
夫娘ふたりが、ちょうど、離れていた時に
なぜか、声が掛かりました。25歳ですが、
これでも、二児の母親なのですよ?
「えっ? 貴女に、夫………?
それにしては、同伴者がおりません。
嘘はいけませんぞ。」
「嘘ではないよ。 久しぶりだね。
私の妻に何か用かな? ドンテニオ?」
「ア、アアアルディオン王弟殿下………!
貴方の奥方様と知らず、お声を掛けて
しまい、申し訳ありません………!」
「こいつ、今は、ケイリスの部下なんだ。
挨拶周りとはいえ、離れていて、すまない。」
「いえ、大丈夫ですよ。彼は、王都騎士団に
所属する騎士なのですね。ケイリスお兄様が
お世話になっております、エンツォール次期
辺境伯、アルディオン様の妻にあたります、
ラウレンティアと申します。」
「もしかして、ケイリス様が、激愛している
従妹の………? 申し訳ありません………!」
こちらの方、ドンテニオ様は、騎士団長の
ゲイール伯爵のご子息、20歳だそうです。
わたくしは、年下だと思われていたのね。
25歳なのですけれど。
「お、お養母様! 大丈夫ですか?」
「ふふ。レティーナ、養母は大丈夫ですよ。
ご心配をおかけしましたね、ありがとう。」
「ラウレンティア、レティーナ、行こう。
エリックに挨拶しに行かなくては。」
「ええ、そうね。行きましょう。」
「エリック殿下」
「おお、叔父上、ラウレンティア夫人!
お久しぶりでございます!」
このエルジェール王国の次期国王となられる
第一王子、エリック・フォン・クィーンズ・
シェインジェル殿下。13歳。
国王陛下は、クィーンズ王国の第三王女を
妃に迎えまして、二児の父となりました。
アルディオン王弟殿下の甥っ子です。
「エリック殿下、この度は、
ご婚約おめでとうございます。」
「ラウレンティア夫人、ありがとう。
リュミレーヌと共に頑張ろうと思うよ。」
エリック殿下は、まだ13歳ですけれど
次期国王として勉学に励んでいます。
今回は、早くも、婚約者が決まりました。
お相手は、宰相アンリーノ公爵閣下の長女
リュミレーヌ・フォン・アイデンレント・
アンリーノ公爵令嬢。13歳です。
「リュミレーヌ様、おめでとうございます。」
「はい、ラウレンティア夫人、お祝いの日に
来てくださって、ありがとうございます。」
幼い頃から、リュミレーヌ様は、
次期国王、エリック殿下の婚約者と
なるべく育てられたようなのです。
私から見ても、おふたりは、不思議な
関係なのですが、違和感を感じていない
みたいなので、未来の国王陛下と未来の
王妃の婚約をお祝いいたしましょう。
「あ、もしかして、そちらが
僕の義理の従妹になった子かな?」
「はい、そうでございます
エンツォール次期辺境伯様の養女になり
ました、レティーナ・フォン・ディーナ・
アルバ・エンツォールでございます。」
今日は、エリック殿下の義理の従妹として
養女のレティーナをお披露目する日です。
エリック殿下、リュミレーヌ様の妹分的な
存在になれると良いのですけれど。
「レティーナ、私は、君にとって、義理の
従兄になるエリック・フォン・クィーンズ・
シェインジェルだ。こちらは、僕の婚約者、
アンリーノ公爵閣下の長女リュミレーヌ・
フォン・アイデンレント・アンリーノ。
リュミレーヌと共に、宜しく頼む。」
「エリック殿下、並びに、リュミレーヌ様、
宜しくお願い致します。」
あら?まだ、ちょっと、固いのかしらね。
それは、そうね。なかなか、次期国王となる
殿下に会える機会、普通なら無いものね。
「今度は、弟のライアンも紹介するよ。
君と同い年なんだ。とても優しい奴だから
話しやすいと思うよ。」
「はい、ありがとうございます。
わたくしも、いずれ、弟のリオネールを
ご紹介いたします。」
「ああ、そうだな! その時は、お互いに
弟を紹介し合おうではないか!」
「やあ、エリック」
「ああ! ちょうど良かった!
紹介するよ! ジルヴェータ王国の
次期国王、レイナート兄さんだ!」
こちらの少年は、初めて、お会いしますね。
しかし、彼の、レイナートの名前を聞いて、
すぐに分かりましたよ。アルディオン様の
お姉様、ミルシャーナ様のご子息です。
「お久しぶりです、叔父上。」
「ああ、久しぶりだな、レイナート。」
ミルシャーナ様は、ジルヴェータ国王陛下に
嫁いで、二男三女のお子様がいるそうです。
一番年上、17歳になる第一子、次期国王の
少年、レイナート様でございますね。
「初めまして
ラウレンティア夫人、レティーナ
僕は、レイナート・フォン・クリスチャー・
シェインジェル・ジルヴェータ。宜しくね。
レティーナは、兄と呼んで良いよ。」
「宜しくお願い致します。レイナート殿下。」
「は、はい、宜しくお願い致します。
レイナートお兄様。」
その後は、王都にあります
エンツォール辺境伯家の別邸にて
ゆっくりと過ごしました。
レティーナは、慣れない社交に疲れて、
リオネールと共に早めに寝たようですね。
「ミルシャーナ様は、どんな方なのかしら?」
「ああ、姉上は、お淑やかなおっとりとした
人のように見える、けれど、強かな人だよ。
シュテファン兄上と私は勝てたことがない。
いずれ、紹介できたら、嬉しい。姉上なら
ラウレンティアをとても気に入りそうだ。」
「ええ、いずれ、ご紹介して下さいませ。
ミルシャーナ様に、お会いしたいです。」
「ありがとう。宜しく頼む。」