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プロローグ

 100番(アイツ)へ『追放する』と言い放ったのは、俺だ。


 俺はあの時、お世辞にも冷静だったとは言えないだろう。が、我を忘れ切っていた訳ではない。

 俺は俺の意思であの時、100番へ『お前を追放する』と言ったのだ。



 公平に言ってアイツはそれまでよくやってくれていたし、当時の俺がちょいと……いやそこそこ以上、いい気になっていたのは否めない。

 言い訳にもならないが、当時の俺はまだまだガキだった。

 聖母神に言祝がれた『聖別されし者』・『勇者』様だったかもしれないが、潜在能力はともかく中身は17~18歳のガキなんだから、ある程度は仕方なかったかと、あれから十年ばかり経った今の俺は、羞恥と共に思い返す。



 ガキだった……それが一番の理由だろう。

 だが、多少は大人になったであろう今の俺だって、アイツのしたことを思い出すとやはり、怒りで瞬間的に血が逆流する。

 しかしそうであったとしても、アイツの話を一切聞かず、すぐさま追放と断じたのは勇者を名乗る者(名乗らざるを得なかった者、が俺の正直な気分だがまあ、それはそれだ)として公平ではなかったと、今の俺なら思わなくもない。

 もっとも、聞いたところで判断が変わったとも思えないが。

 何しろ俺はガキだったのだから。



 俺は気配を大岩と一体化し、目をつぶる。

 俺という個を薄め、世界全体と溶け合う感じになる。

 岩に、空気に、空に、己れを溶かす。

 大いなるすべてと我が身が重なり合う瞬間、俺は、それこそたなごころを指すように体感できた。

 半里 (約2km)ばかり先に、()()()はいる!


(……しっかし。こんなところに何の用があるってんだ? アイツ)


 魔導士と呼ばれる連中にこういう疑問を持っても無駄だと知っているが。

 それでも思ってしまう。

 何が目的で奴はこんな、岩だらけの荒涼とした荒れ野へわざわざ来たのだろう? と。


 連中の行動は、連中でないとわからないことが多い。

 そもそも聖母神の欠片たる【封印石】をその身に持つ者に、世間の常識など通用しない。

 連中の行動が突飛だったり理解しにくかったりしても、一般人は黙認することしか出来ないもの。

 連中の不可思議に見える行動はすべて、畏くも聖母神たる女神様の思し召しに基づくもの……なのだから。


 ま、そうとでも考えないと、並の者には理解できないからな。



 もしかすると、岩の中に潜む女神の欠片を取りに来たのかもしれないなと俺は思い付く。

 俺の教育係だった魔導士・50番(フィフティア)が昔、そんな話をしていた覚えがある。

 ヒトの手が入っていない未踏の大地には、女神の欠片が眠っている場合が多い。

 大地の女神たる聖母神の欠片は、たとえ小指の先ほどであったとしても魔導士にとってこの上ない栄養になるらしい。


50番(フィフティア)……)


 アル、と呼びかける彼女の声が、耳の奥で優しくこだまする。

 少し低い、柔らかな笑みを含んだ声。

 目頭が熱くなる。

 彼女は俺にとって、師匠であると同時に母や姉のような存在であり……ほのかに憧れを募らせていた、淡い淡い初恋の相手。

 当時はっきり自覚していなかったが、つまり彼女は俺にとってそういう人だった。

 その人を、アイツは


(……問答無用で殺した!)


 許せる訳がない!



 アイツの気配は不意に、とある一点から動かなくなった。

 どうやら、本当に『女神の欠片』を掘り出しにきたのかもしれない。

 俺は呼吸を調える。

 俺という存在の内側へ、すさまじいエナジーが渦を巻く。

 巡るエナジーにつられるように、俺のこれまでの人生が、さながら走馬灯のように見える気がする。

 ああ。

 これでようやく……俺は、終われる。

 終われるんだ。

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