乗るか反るか
〈私は貴方の魔法です、貴方の利益にならないことは決して致しません…そこだけは何があってもお忘れなきように〉
……コイツ本当に時々俺に対して滅茶苦茶謙るよなぁ
なんせ、俺がタメで良いという前から滅茶苦茶タメで話して来たかと思えば
たまにコレでもか?というほどに敬語で喋りかけてくる
コイツの正体は一体なんだろう
そんな好奇心が心の奥底から湧き出てくるが
「…まぁ、今はどうでも良いか」
そう言いながら座り込み壁面の方に視線を向ける
今回敵を倒したことでスピアーが〈スピアーII〉に進化してポイントを一つ貯まった
今後必要になるかもとノアに忠告されたので今の所はまだ使い勝手の良いスピアーIIにしておくが
個人的には進化系にも興味があった
まぁ…戦いの最中で殴る蹴るしか手段がなくなったら本当に嫌だからね
そう思いながら待っていると隣の森を一つの場所が通り抜ける
ノアと話している最中に一つ思いついたことがあったのだ
今現在俺は一人で森を出たりした際に王国から攻撃を受けることを恐怖している
なら…他の証人もしくは商人達と一緒に入り込めが無駄な追求を逃れられるのではないか?
特に王国に頼まれて誰にも見せてはいけないような禁断の秘宝を運んでいる輩のような
まぁ…正確には破滅の秘宝だけど
「フッ!」
場所の後ろの布に向かって思いっきり足を踏み出して走り出す
今回の目標は誰にもバレずに馬車に乗り込んでうまい具合に王都に潜入するということ
つまり…誰にもバレずに入り込んで誰にもバレずに馬車から降車するのがベストだが
必要に応じて運転手との対話(絶対穏便じゃないやつ)をしないといけなくなるのが少々面倒臭いと言ったら面倒臭いのかもしれない
まぁ…此処まで来たらソレすらも些事に思えてくる
というかヘラクレス達の相手が本当にめんどくさすぎてコレからやることに対して特に感情がなくなってしまった
本来であれば仕事人間になれたと喜ぶべきであろうが
本来の俺の想定している異世界転生とかけ離れすぎてげんなりしている
なんせ…俺の理想の異世界転生はなんか特別な何かに選ばれる
そして特定の強者を倒す為に冒険する
倒す
ハッピーエンド
コレが理想だが…恐らくこの世界はそんな単純な終わり方を認めてくれないだろう
というか認めない
なんせ…異世界というのは勿論初めて来たが
この世界に来てからずっと感じる背中に嫌な予感というのがいつも張り付いている
そんな状態で異世界を冒険しろ?冗談も大概にしてくれないか?
そんな風に一瞬文句を言いかけてしまったが
「…まぁ、そもそも異世界って俺たちの勝手なこじつけが生み出した理想郷……シャングリラって感じかね?」
溜息を吐きながら台車に飛び込む
台車に飛び込んでみたところ俺の予想の半分は当たっていた
更に半分はクソ気分が悪くなる奴であった
「…たくっ…人ってどうしてこんなに簡単に同じ人である人を傷つけるのかね?」
そう呟いてしまう、本来であれば決して声をあげてはならない状況なのに
そうして薬漬けになっている檻に入れられている人物達を見て
「…ツチノコ…収納しておいてくれ…後で治療をしておく」
……此処で俺の堪忍袋の尾が切れた
幾ら…幾らこの世界が腐っていようとこういうのを平気顔でやっている奴らには反吐が出る
俺とて聖人君子じゃない
手の届かない悲劇には一切手を出さないと決めている
自分が救えるのは自分の手の届く範囲の人間だけ
ソレ以外を無理して救おうとすればいつか破綻するのは目に見えてしまっているのだ
だから俺ができるのは可能な範囲の人間をできるだけ救うこと
「…けどな?此処まで外道な奴らを見て何も思わないほど人間終わっちゃないんだ…俺」
そう言って馬車の荷台に乗っている片方の人物を蹴り飛ばされる
今のこれで死んだかもしれないが知ったことか
「…今から俺のいう通りに動け、さもなくばお前は二度と日の目をみれないぞ?」
そう刀を当てながら脅す
どうやら…俺は想像よりも堪忍袋の尾が短いようだ
廃人になった数人を見た程度で感情のメーターが振り切れてしまった
「…全く……俺もまだまだだな」
異世界だからと言って綺麗なモノを考えていたのか?
此処にいるのは人間の集合体
もし…ソレのうちの一つでも悪意という毒を放てば伝播するのは想像できるだろ?
俺は…お前はどこまでお人好しで…そして浅慮なんだろうな
そう思いながら自分のアホさ加減にホトホト呆れてしまう
「じゃあ…街に入ったら適当なところで降ろしてくれ」
そういうと台車の奥
麻薬の箱と思われるソレの奥へと入っていく
こうすることで自分から視線を外そうと考えている
そうしてほんの少し馬車に揺られながら待っていると
「……」
「………………」
外から何やら話し声が聞こえるので多少興味があったが
コレを聴きに出たら囲まれるのは簡単に想像できるので多少待っているとすぐに街の中に入れたらしい
街の中を複雑に走りながら待っている
「つ、ついたぞ!」
そう叫んでくるので一旦馬車から降りて来たので
「…そう、コレ手間賃な」
そう言って硬貨を六枚手渡す
「な、コレだけかよ!お………!」
彼の言葉が最後まで紡がれることはなかった
開きっぱなしの口と目を塞いで熱を放つ骸を暴食者でくらい骨にする
「……一応墓くらいは作ってやる、今回はソレで勘弁してくれ」
そう言って即興の墓を作ってその場を離れる
これで晴れて俺も犯罪者か……
…こんなん…ガキが感じるべき感情じゃないな…本当に
こんな最悪な気分になることを九露にやらせようとしていたのか
本当にバカだな俺は
こんなんを想像も出来ないなんて………
そう思いながら手に跳ね返った血を見つめる
「……罪を背負っちまったなら全て背負うか…」
もし…此処で麻薬を更に広げればこの王国は簡単に世界侵略を開始するだろう
その時…どれほどの血と涙が流れるだろうか?
ソレなら…俺がこの王国を血の海に変えて
〈…この王国には革命を起こそうとしている人物がいます…まずは国王を見てから彼を頼るのが一番いいかと…あとあの二人はまだ死んでません、一応私が蘇生を行なっておきました、記憶は私の能力で弄って消しましたけど…あと死に際に与えるのが六銭文って安直すぎません?〉
「…本当に小憎たらしい奴だよ…テメーはよ」
そう言いながら一番でかい城に向かってあるていく
今度の足取りは少し迷いながら
「…全く…お前は俺に何に至って欲しいんだ?神?仏?ソレとも…」
悪魔か?
ソレを敢えて口に出さないで歩いていく
本来なら聞かなければいけないこと
考えなければいけないことがたくさんあるはずなのに
何故かどうでも良くなってしまう
だから一旦自分の考えは無視して歩いていく
そうして歩いていくとやがて装飾が華やかになっていく
出店の数も質も増えていき先ほど見つめてみた城門あたりとは全く違う雰囲気が広がっていた
「へぇ〜案外みんな楽しそうだね」
この下に麻薬の犠牲者の血と涙が広がってなければ楽しい城下町で済ませられただろう
この国の王様はどんなクソヅラをかましているのかを確認する為に歩みを進めていく
歩いていくほどに騒乱さと密集率が上がっていき
やがて地上を歩くことは諦めて幾らの客がやっている屋根を歩くのを倣って俺も屋根に飛び乗る
こちらの方が速く走れる
そして屋根を全力疾走しながら王城の元へと辿り着く
全く…屋根から王城遠いわ!
そう叫びたくなるが王城の展望台を狙うには何やかんなで家の屋根や住民に紛れて魔法を放つのが一番効率的であるからな
そう思いながら屋根の上をトコトコ歩いていくと
「ん?あれか?」
遠くに豆粒ほどの赤い点が見えたので何となくソレが王様かな?と思う
「…なるほど…こんだけ遠けりゃ王城に向けての狙撃はほぼ不可能だろうな…」
なんせガチガチに固められた防御壁に数人の護衛
しかも…実力自体は低いが完全に肉壁となるような人物達が並んでいるのだ
そんな奴らがいる近くで魔法を放てば完全に此方に察知される
全く…コレをどうやって暗殺…もしくは説得すりゃあ良いんだ?
まぁ…暗殺の方に関しては最終手段である
そもそも現代日本人は殺人に極端な忌避感があるんだよ
まぁ…そりゃあ何処でも一緒か
そう思いながら胡座をかきながら演説が始まるまで待っていると
「皆の者!今日はよく集まってくれた!」
…これ長くなるパターン?
そう思ってすぐに意識をシャットダウンする
もう一ついいことを教えておくと日本人『も』かもだけど
昔の学校行事の節目に始まる大人の凄く長く面倒なスピーチが嫌いだったんだよね…
そう思いながら話半分に聞いていると
「…そして…クイーン・ザ・ガーデンや…他の気の抜けた弱者どもを蹂躙する為に!我々は力を手に入れた!」
…………あの王様顔面陥没して生死の境を彷徨ってくれないかな
しかし…俺は忘れていた
こういうフラグは割と簡単に回収されるということを
「キュー!」
今、この瞬間に限って…いつもなら可愛く鳴いてるはずのツチノコの声が酷く悪魔の鳴き声に聞こえてしまったのは俺の聞き違いではないだろう
そして奴の口から放たれた凶弾という石ころは凄まじい速度と衝撃を保ちながら防護壁に衝突して
突き破った
「「「はあああああ!?」」」
俺も思わず叫んでしまうほどの高威力
そして肉壁に引き寄せられた全員を風圧だけで部屋の奥に吹き飛ばして
王様の顔面にめり込んだ
あれ?完全に入っちゃいけないようなところまで入ってない?
……なぁ…ツチノコ君
君…いつも俺の顔面やアソコに当ててくるくせに
本当に当てて欲しくない時にドストライク入れるのなあぜなあぜ?
…ふー…言語値数がガキいかになってしまった
いけない、いけない……さてさて
俺はコレからどうやって逃げようか
完全に囲まれちゃってるね
というか皆さん王様の治療に行かれてはどうですか?
え?蘇生薬にエクリサー完備?
魔王に挑むの?すごいね〜
「チクショーー!!」
極貧ポケットの自分が悔しくなり王城を後に逃げる
何でだろう
俺は確かに王城観察のために入ったのにモノの数秒で逃亡者なんだけど?
しかも真犯人俺の頭の上で一仕事終えたって目で眠ってるんですけど?
この人本当にトラブルメーカーかすぎない?
トラブルメーカーツチノコって名前で売ったら案外金になるか?
〈…主……〉
「じょ…冗談だって!そんなことするはずないだろう!?」
そう言いながら一瞬本気で考えてしまった自分の浅ましさを確かに恥じた
「…ん〜俺もうこの国にいられなくなっちゃったかな?」
〈いいえ…逃げ道ならあります、そして腐敗した王権を倒し革命を起こす方法も〉
「だから…何でお前はそんなことまで知ってるの?俺は今日此処にきた…しかも…お前の知識もこの世の全ての人の考えや感情を読み取れるわけじゃないだろう?」
〈……取り敢えずいきますよ〉
完全に無視された
……まぁ…いっかあ
そうおもいながら走っていくと…やがて建物が閑散となっていく
「…なんか同じ王国なのにびっくりするぐらい顔が違うな」
〈此処は…この王国の闇です〉
一瞬ノアの言っていることがわからずに疑問に思ったが次の瞬間に何を言いたいことが分かった
「…ッッ!?!?」
鼻がもげそうなほどの腐臭があたりに立ち込めているのだ
一瞬喉の上までソレが登ってきたが何とか飲み込む
「…どうやら…此処に住んでるのはとんでもないメンタルの持ち主らしいな…」
この最悪すぎる臭いの中生活?
馬鹿言え…VRフィルターをかけたって……耐えられるかどうか怪しいぞ?
しかも…先刻から視界に映さなようにしているが
あちこちに遺体が置かれている
ノアに解析を頼むと全員が麻薬中毒で死んだ奴ららしい
いつだって麻薬の最初の被害者になるのは経済力を持たない最下層の弱者達であるから
貴族に蔓延するのはいつも国が崩壊する寸前
自分たちは高みの見物をかまして上からいろんなことを言ってくる
「それで?…肝心の革命を起こそうとしてる人はどこにいるの?」
そういうと肝心のノアは
〈…どこ…と申されても正直半分くらいわかりかねるというか、決まった定位置はあるのですが…ないとも言えますし〉
「最近お前謎かけみたいな発言が多いな」
コイツが言いたいことは正直理解できる
普段決まった場所にいるけど
毎日そこにいるわけじゃなく行ってみないと所在がわからないかもしれないという感じであるのは理解できる
けど…そこまで悩むことか?
そう思いながらノアに
「まぁ…いてもいなくてもそこで待ってるから案内してくれない?」
そういうとノアは少し申し訳なさそうに声を落としながら了承の意を示した




