進化 中
怖いのは最初だけ、とはよく言ったもので一旦無理な戦いに身を投じてしまうと自身の価値観が一気にひっくり返るのが感じて取れたしかし、今は其れすらも心地よいと感じてしまうのは何故だろう?
この高揚していく気分を誤魔化せないしかしながら『死』の危険性のみはいただけない、そう、死にたくはない
「ふっ!!」
しかし、この御仁を相手にそうも言っていたら此方の命が危ない、と言うか白露が変なことを言わなきゃ、アイツに相手をさせていたのだが……まぁ、仕方ないか、アイツも移植されたばかりでは全力を振るえない…って言う感じかな?
鱗の硬度を意のままに操りながら相手の殺人的な拳を危なげに尚且つ安全に捌いていく、其れにヒヤヒヤしながらも確かに相手になっていると言う実感を伴わせて
相手も攻めきれなくなっている現実に焦るところがあるのか少しずつ動きに精彩が無くなってきた
しかし、だからと言って舐めて良い相手では無いのでしっかり、注意しながら捌くべき相手ではある、もしかしたら奥の手とかスキルとかがあるかもしれないしな
相手の拳を受け流し逆カウンターを喰らわせる
蹴りをいなしながら距離をとる
拳に覇気らしくモノを纏わせながら殴られた時には流石に焦りはしたが相手の覇気に同調させることでダメージを最小限に抑えることに成功した
そして現在、お互い示し稽古みたいな千日手に突入してしまう
どれだけ時間が経過しようが、強力な技を出そうが疲弊する様子を見せない絶壊の紅蓮騎士と
どれだけ強力な技を繰り出されようがいなし、躱し続ける此方
一見すると勝負は危なげなく成り立っている様に思えるが、そんなことは一切ない
まず、この勝負には其々の勝利条件が存在している
まず、相手方からしてみると戦闘に参加してない『ジャガーノート』もとい白露と俺を倒すか殺すかで勝利なのに対して
此方は何故か白露が援護に入ってくれないので殺しに来ている相手を捌きながら気絶か無力化する隙を探さないと行けない、出来るなら殺すのが一番効率が良いのだが流石に現代人として殺人には激しい抵抗が存在する
おまけにこの戦いの中で此方も相手の技術を此方のモノにしてきているが、其れでもいなし、躱しを繰り返すと疲労とダメージを蓄積していく
仕方の無いことと割り切れば楽なのかもしれない
けれど、コレはピンチでもあるのだ
相手からしてみればどれだけ攻撃しようがダメージも無くなって無限に復活する様なゾンビと戦っている気分なのだろう、しかし其れは此方のセリフである
「お前いつになったらガス欠になるの!?」と
なんせ相手はカレコレ30分以上の戦闘をかなりの数の技を繰り出しながら続けている
相当の燃費の良さだ
対して此方はどうだ?
此方は命の源泉を利用して体の再生の代わりに体力を回復させているが、其れもいつまでも続くわけでは無い、なんせ、コレに関しては精神面も大きく影響してくるのである相手の一撃一撃をしっかりと躱し、いなし、次手の組み立てを素人ながらに考えなければならない、勿論マーリンさんも立案には協力してくれる、が、戦士というのは時には計算や謀略では考えられない様な力を出すことがある、油断すると足元を…と言うこともありえなく無いのだ
しかも、相手は十把一絡げではなく『クイーンズ・ブレイド』(?)でかなりの名を挙げた武人であるらしい(恐らく)
そして、此方は完全にトーシロなので戦闘における機微を見逃す可能性も否めない
機械的な思考では見逃す点というのも確かに存在するかもしれない
〈その様なことがない様に常に観察を怠っておりません〉
そうは言ってもなあ…警戒するに越したことはないんだよ
と言うか本当はこんなことを考えてる暇は全くないのだ、こんな雑な考え事をしていると防御の方が疎かになってしまうこうやって大き_____こうやって?
「チッ!!」
完全に現実逃避してたわ、おかげでこうやって無様に隙を晒して大きな一撃を頂戴したのだからな
「ゴフッ…」
肋に良いのを貰った、と言うとなんか変に感じるかもしれないが、本当に威力が可笑しい相手が此方の焦りをしっかりと見抜いて着々と準備をして、そして止めにやったのがこの攻撃だと言われても文句は出ないと言うかマジでその可能性はある気がする、まぁ、この程度が奥の手なら……まぁ、あり得ないだろう
確かに掠った、けれどソレがどうした?
それ以上の衝撃を向こうに与えればいいだろう?
と馬鹿な思考が一瞬頭に浮かんで、一瞬で漂白する
元々の戦闘力の差を考えろって、自分に言い聞かせるのも変な話だが思ってしまったものは致し方ない
けれど、本当にこのままだと泥沼で此方の未熟さから足を取られてエンドが見えてしまう
くそ、せめてアイツが此方に加勢してくれねーかな最初と立場違うし
〈現在適応に忙しい様です、先刻の一撃はすんでの所で出せたラッキーパンチとでも言うのでしょうか…まぁ、ソレに類するものだと思っていただいて〉
と流暢に話し出すのでげっそりとするのは無理ない話であった、ラッキーパンチであの威力出すなよ
まぁ、喰らってないけど
ああ…降参してー、と馬鹿な思考を繰り返していると
ふと空間に違和感を感じる
ソレから足をもつれさせそうにしながら距離を取ると
ソレは顔を出した
最早長すぎる戦闘に実況を諦めた司会者
移り変わりのない試合に飽き飽きした貴族連中
長時間の声援で喉が潰れた平民
そのどれもが混乱の境地に陥った
恐怖は平穏から出でて平穏に紛れる
ソレをこの日初めて教訓として刻み込む
ーーーーーーーーーーーーーーーー
主人公には預かり知らぬことであるが
『傀儡』の世界には本来飛来することのなかった文化や人が来て様々な運命を紡ぐ様になる
そこには愛も有れば絆もある
友情も、憎悪も、憧憬も、衝動も
全部が混合した運命の中を歩んでいる
そして、その中でも特に有名なのが
『十大魔王』
十大魔王というのは、この世界の戦乱期が特に激しかった時に台頭した十人の魔王である
二人の裏切り者を含めた人類の脅威
しかし、彼の二人の裏切りの魔王は他の八人の魔王を各地に封印し自身も各地の人類に力を貸して長き眠りについた
コレが人類の妄想である
事実は
『邪竜ファブニール』と『絶対防御の巨悪魔王』
裏切りの魔王の内一人はご存命だ
しかし、もう一人は……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最初に反応したのは誰であろう地龍であった
「は?」
唖然とした声が喉から声帯から溢れるが今はソレどころではないと本能で理解した、つまり危険が迫っていると
「ふむ……合格だな」
そう一言告げた人物を形容するならば
病弱なマッドサイエンティスト
である、白髪の蓬髪に疲れ切った様な鈍い光を絶え間なく目から覗かせる橙黄色の瞳そしていっそ死んでるのか?と思わせるほどの生気の無さ
それだけでコレが論外級であると言うのがわかった
「ぜ……全員安心してください!!此処は彼のファブニール様が守護せし場所で____」
……………………何故だろうフラグにしか聞こえない
そう考えてると言うことは……まあ、そう言うことなんだろう
と言う思考をしていると
「ふむ……貴様らの夢の時間もそろそろ終いだ」
そう一言告げると徐に指を鳴らす
異変は劇的であった
試合会場を半球場に覆っていた更に上にある純然たる力の結晶ととも取れる結界に一瞬で綻びが生まれ始める
結界が割れることで起きる不協和音はまるで
そう、まるで結界が悲鳴を上げてるかの様で
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
そう、誰もが沈黙を混乱を……そして絶望を孕んだ表情をしていた
しかし、まだ寸前で止まっていた
けれどあと一手、彼等が絶望するだけの情報を……一石を投じられたのなら、彼等に正常な思考を続けろなどと無理があるだろう
「…………」
しかし、恐怖があるのはこちらとても同じであるコチラだって意思のない木偶というわけではない自分の意思で考え行動を繰り返す純然たる人間だ
だからこそコイツの怖さも強さも全てとは行かないが、多少は理解できるはずだ
今此処で動かなければ何も変えられない
突如としてそんな思考浮かんだしかしながら困惑しながらも、コレに反論できずにいた
そして、微笑をその口元に浮かべて
「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」
と側から見れば錯乱した馬鹿に見えるだろうまぁ、馬鹿ということは否定できないな
しかし、今は少しネジを外すくらいが丁度いい
マーリン勝率は?
〈皆無です〉
じゃあ、時間稼ぎは?
〈0.1%程成功率が〉
ソイツは重畳、ならやるぞ!!
「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」
と急に大声笑い出す地龍は今日一番の驚倒を皮肉にも攫っていた誰彼の目にも
「嗚呼、コイツも……」
と思ったのだろう、しかし、寸前まで試合を共にしていた二人の見解は違う
『やはり、我が主は興味深い』
『コイツ……マジか、此処で動くつもりなのか?』
二人は彼が為さんとしていることを正しく理解していた
つまり、あの不可思議な相手を前に下がらずに、更に此処にいる全員の避難を敢行しろと言外に告げているのだ、と
本来で有れば気づくことすら困難な行動に二人は気づいて見せた、コレが彼等の分岐点となるのであった
〈主の力を借りに100とした際に相手の力は数100億倍は軽く超えます……しかも能力の全貌が判明していない不可解な敵なので十分に警戒してください〉
と言う警鐘がなされるが
「貴様らは……どうでもいい、我が興味はまだ何色にも染まっておらぬ若き魂のみ。」
と言う此方を完全に興味なしと判定した敵さんの言葉であった
ほお?調子乗ってんなあコイツ
と考えて一撃入れてコイツの意見ひっくり返させてやると言う思いが湧いてきた
「お、おい、お前何やってんだ!!」
と遠くからの防衛戦を想定した紅蓮騎士は完全に困惑していた
しかし
「おお、あの気配を前に一歩も引かずとは流石です。」
と反応は二手に分かれていた
余談ではあるが観客たちは腰が抜けすぎて歩けすらしていない、名誉の為に黙っておくが、やってしまった人もチラホラいる
今の地龍にはソレを知る余裕も気もないのだが
そして、更なる恐怖が会場を襲う
ソレは虚空から現れた
地底から響いてくる鈍い響き声が此方に響いてくる
くそッと言いたくなる
大部分の人が飲み込まれた
まぁ、ソレは仕方ないだろう何せ目の前にいるのが
腐食したドラゴンなんだから
そう、あの雄大で強大なドラゴンである
白濁し腐食して落ち切った目で此方を見られた瞬間体が硬直する
(これやばいんじゃねーの?)
と硬直した体をほぐしながら考えてると
「………」
突如として今まで静観の構えをとっていた白髪のマッドサイエンティストが悠然と此方を見つめてくる
なんだ?と思った時には時すでに遅し
相手が此方をしっかりロックオンして僅かに思案げに見ている、そして
「ふっ」
あっ、終わった
そう感じた、なんかヤバい気配がしっかりと感じられる
そんな思考す______
「うぉっ!!」
と思わず仰け反る、そうして辛うじて九死に一生を得たわけだが
「成る程貴様は、そうか、成功したか!はは、今日は人生最良の日だ!!」
といきなり狂った様に笑い出す
その狂気に触れた……否、すでに狂気の溝底に突っ込んでいる者は高笑いあげながら
「ああ、ああ、素晴らしいコレだから生命は興趣が尽きないのだ!!ああ、嗚呼、コレほどの高鳴りを未だかつて感じたことなどないよ……わかるか?私の歓喜が!!」
と剥がれ落ちた心の仮面を凝視しながら一歩も動けずにいた
物の比喩ではなく完全に体が硬直している恐らく奴が無意識に出してる気配に圧迫されているのだろう
なんせ奴の気配はそんじょそこらの人間から感じられる気配など既に超えている、超越者やバランスブレーカーと言われる類の人物ですら彼の前では児戯に等しいことしかできないだろう、しかも、此方のことを知っている様子であった…此方は知らないが何か浅からぬ因縁がありそうだ
そして相手が狂った笑みを形取りながら腕を鞭の様にしならせ此方に攻撃してくる光景をスローモーションで他人事の様に観察しながら一瞬呆けていると
一撃が完全に頭に入る
そして、一瞬の逡巡を過ぎて
「いってええええええ!!」
と完全に子供みたいな泣き言を叫んでいた
「ふむ、死なぬか…流石に再生能力は一級品か…」
と誰にも取られぬ様な独り言を呟くがソレは誰にも聞こえない
しかし
「まぁ、死にゃあしないだろうし…」
と一言言ってから体を思っいきり体を傾けてから相手に突っ込むと
「そうだ、お前は_______」
「?」
少しの間静寂が辺りを包み込む
その違和感に気づくのに一瞬遅れたが
そこは、ソレは別次元の何かであった
わお、アザトースさん一時間どころか一ヶ月以上早めの出勤ですね!
いや出てくるのが神速すぎる……