空に届け
そうして相手が体の動きを止めた瞬間に
「んじゃ……そろそろお終いだ」
そう言って足で顔面を蹴り飛ばすと相手はスパーボールの様に簡単に跳ね回る
そして数回の余韻の後に潰れたカエルの様な姿で着地すると同時に止まった世界が動き出す
『え?あれ?どう言うこと?なんでクイン様が地面に?』
あまりに衝撃的すぎる光景に司会ですら本来の仕事の役目を果たせていない
けど俺からしてみれば疲れがピークに達しているので早々に勝利宣言をしてほしいものだ
何せダメージが嵩みすぎてるせいで今は立ってるだけで精一杯なのである
しかし司会の人はいまだに硬直した状態なので何時迄も宣言がなされない
仕方ない…本来は声を上げるのもギリギリであるけど自分で宣言を…
「此処に…地龍のクイーンズブレイド適正試験合格を表明する!全員敬礼!」
自分で勝鬨を上げようとしていると客席から一際大きな声が放たれる
ソレは隣にもう一人のクイーンズブレイドを侍らせた女王であった
ヴィ、ヴィオめ!!結局アイツ俺の試験に一切合切協力してねーじゃねーか!!
そう叫ぼうとした瞬間に張り詰めいた気が緩み世界がひっくり返った様な感覚を味わいながら体が崩れ落ちてゆく
あんにゃろー……起きたら覚えておけよ
試合後
「ねえ?クイン?」
女王が最初に訪れていたのは地龍の対戦相手のクインであった
現在地龍の病室はヒーローインタビューの十倍くらい観客が押し寄せている
全く酷い話である
試合後は蓄積していた疲労が完全に爆発して気絶してしまった彼を起こして話を聞き出すなんて酷いことをしようなんて
現在は前世の彼の『妹』という人物が扉の前で威圧を放って誰一人…ソレこそ蟻の子一人通さないほど気を張り詰めて待ち構えているらしい
結果として彼に近づく人物がいないらしいが……
その話は置いといて
「貴方……今回の試合わざと負けましたよね?」
そう私が一番の関心を集めていたのは地龍が…彼がクイーンズブレイド最強のクインを打ち破ったことである
地龍の実力は勿論理解している
奴隷闘技場でアザトースと言う理外の化け物を退けたという化け物
報告は聞いていましたが想像していたよりかなり弱いという印象を受けましたが
本人が言っていたことを整理すると
魔法が使えない上に魔力が封じられているので恐らくその影響であまり強さを感じないと思っていましたが
彼の強みは瞬間的な状況判断能力とタフネス、そして継戦能力
コレらが合わさることで他の闘士達を退けてきたという事実
しかし…今回ばかりは相手が強かったでは済まない
何せ今回の試合クインは一つ不合理な手段を取っていた
「…貴方…どうして大魔法の行使に移ったのですか?」
そうコレである一番の問題は
クインが大魔法の行使に移行しなければ彼は彼女の能力に気付かずに負けていた可能性すらあり得ていたのだ
と言うか…彼女は最初から自分の能力は【時間停止】ではないと公言しており
自分の能力を見抜かせることに注力していた様に見受けられる
そう考えると自分から隙がデカく当たる可能性が極端に大きい大魔法の行使を行ったことも確かに頷ける
「………良いでしょ?あの時はそんな気分だったから」
気分…という言葉で説明されて仕舞えば此方は簡単に何も言えなくなってしまうが
あの時のアレは完全におかしい
「……下手な嘘を吐くのはやめなさい…貴方が昔から一度でも私に嘘をつき続けられたことなんてありましたか?」
そう言うとクインは少し気まずそうにしながら体ごと顔を背けて
「……アイツの熱意に負けた」
そうボソリと呟く、そして更に
「…アイツの一番凄い所は『力』じゃない…自分の持てる全ての力を放出して勝ちをもぎ取ろうとする『根性』…しかも戦っててわかった…アイツはこの世界の住人じゃない…恐らく異世界の住人だ…更に言えば戦争や戦闘を全く経験してこなかった平和ボケしている人間母さんが今…一番望んでいるものを体験してきた存在だ…だから最初は軽く絞ってやろうと思って多少の手傷を負わせるだけにしようとした…けどアイツはどれだけ傷を負おうが決して崩れなかった…まるで不屈の闘神でも相手してるのかと途中から思った…しかも問題があるとすれば…正直途中まで大分痛ぶってたはずなのに…アイツは決して倒れなかった…本当なら致死量の血液を抜いたはずなのに倒れなかった……危険だよアイツは
恐らく大切な人のためなら自分どころか世界も滅ぼす」
珍しく義娘が長文で喋ったと思えば確実にやばいことを言っている
けど…あの精神力は異常である
戦闘の心得は決して無い私であるが確かに彼は致死量の血液を撒き散らしていた
ソレなのに倒れない
ソレどころか一歩、更に一歩を刻んでいく
側から見れば不死身の神が自身の体を刻まんとしようとしている様に思えるかもしれない
そんな相手と対戦していれば心が折れるかもしれない
けど…
「どうして異世界の住人ってわかったの?」
娘にそんな機微はないはずである何せ義理とは言え養子として引き取ってくれた私に異常なまでの敬愛を抱いており何事も私の次にすると公言しているくらいである
「………殴る時の感触と殴られた時の感触…」
私は戦闘民族ではないんだけどね…
そう溜息を吐き出しながら娘に話を続ける様にジェスチャーをする
「…アイツの攻撃は何処かおかしかった、絶好のタイミングであるはずなのに決して攻撃してこなかったり敢えて隙を晒して罠に嵌めようとしている時に自分から飛び込んで傷だらけになっても此方を殺そうとしてくる…しかも殴ると盛大に痛がるのに対して此方を殴ると少し嫌そうな表情をするんだ…アレは完全に戦闘に慣れてない証拠だよ」
そうして話された内容には僅かに頷きを返さなければならない内容であった
確かに…戦闘に生きる彼女であれば戦闘経験が富んでいるのか乏しいのかはわかるであろう
そう思いながら…また一つ質問をすることにした
「で…結局彼はどんな熱意を持っていたのかな?」
半分はわかっている…けどソレに傾倒することは彼の精神的にはあり得ないと私は踏んでいる
「……恐らく『アザトース』をトラウマを倒そうとしている…拳から伝わってきた熱意は『アザトースを倒すには…こんな所では止まれない』…恐らく彼自身は気づいていない」
そうだろうなと思いながら聞いていく
なんせ彼はアザトースを心から憎んでいるが心から尊敬しているというジレンマに囚われているのである
しかし………自分の目指すべき道が潜在的にわかっている人は強い
それこそ生まれて間もない赤子とも取れる人物が本来勝てるはずもない相手に精神力のみで圧倒することも可能である
今回の試合を総括すれば今回彼と当たった人物たちは決して地龍より弱かったわけではない言うなれは彼の精神力で負けてしまったというわけである
まさか「勝ちたい」その一念がなかったゆえに全員が敗北してしまうのは流石に予想外ではあったが
全員にとって今回の試合は良い経験になったであろう
今回の経験をしっかりと自分のものにして成長の糧にできれば必ず今いる地点から成長できる
「ねえ母さん」
そう言われて首を傾げていると
「今心の中で考えていること………言葉にしないと意味ないと思う」
部屋の中にはしばらく気まずい雰囲気になったそうだ
「ん?」
なんだろう最近目が覚めたら天井の景色が違うって経験が多すぎる気がするんだけど?
そう思って体を起こそうとすると体に鋭い痛みが走り抜ける
どうやら命の源泉や暴食者は傷は治せても痛みまでは完治できないようである
こう考えると二つの能力だけでなく痛覚無効とかも欲しいと思う今日この頃ではあるが…
ソレをやってしまうと体に悪影響を及ぼしたりする可能性がゼロとは限らないので黙っておく
そして現在扉の向こうから魔王の気配が感じられるんだけど
いや……正確には魔王じゃないんだけど
扉の向こうから真っ黒い瘴気を放つ人間なんて大抵の場合は魔王サイドの人間だろ?
だから外から人を呼ぶのが怖くて怖くて
「別に怖がらなくて良いのに」
そう言っていも………………
「うおおおおおおお!?」
扉の向こうからワープしてきたのか……
どうやって突入してきたのかは知らないけど俺の感知できない速度で中に入ってきた妹はなんてことのないように
「大丈夫扉を破って瞬間的に走ってきただけだから」
人はソレを大丈夫じゃないっていうんだよ?
そう心の中で笑っていると
「まあ……今回は必要に応じて魔力を多少開放したけど、いつ見ても禍々しい魔力になっちゃたよねえ」
と感慨深げに呟く妹を眺めていると彼女がこの世界で生きてきたのだと実感することができる
けどソレとコレととではでまるで話のベクトルが違う
「………結局なんでそんな禍々しい魔力を放つようになっちゃったの?」
そう質問すると妹はこちらで会ってから初めて少し困った顔をしてくるので少し首を傾けて疑問思っている顔を作り出すと
「昔………一時期邪術系統の魔法を探っていた時に邪術の魔法に踏み込みすぎて魔力が完全にそっち側に行きそうになったことがあって………本当に大変だったんだよ?」
そう言いながら此方を見てくる妹の顔には珍しく疲労感が募っている
まあ………人生誰しも人に理解されない苦労があるもんだ
そんな風に考えながら体を起こしていると
「お、地龍起きたか?」
と鈴山がひょっこりと顔を見せてくる
そしてその顔の上に白と音山が頭をのせてこちらのことを伺ってくるので
「漫才やってないで入って来い」
と言うと三人が苦笑しながら入ってくる
「そういや…………今回の敵は結局どんな能力だったんだ?なんか俺たちが予想した能力じゃなくて地龍一時期マジでやられそうになったじゃん………まあ今回は結局お前の機転で乗り越えられたらしいけども」
そう鈴山が当時の光景を思い出しながら話しているのか途中途中体を不自然に震えさせているので苦笑していると
「まあ………確かに、あいつができるどんな能力かは半分くらい予測がついているけど………お兄の口から言ってくれると情報の信憑性が上がるんだよね~」
そう妹が問い詰めてくるので一旦溜息を吐き出しながら
「恐らくだけど『強力な念力で世界を止める』能力だと思う………けどあくまでも試算だし…………時間停止の能力だって言われたら半分くらい反論ができない」
そう言いながら本当に時間停止の能力ではなかったか?というのを自分でも考え直していると
「あの子の能力は貴方が想像したようにサイコキネシスによる世界の停止です」
そう凛とした声が辺りに響き渡る
この声は聞くだけで背筋が伸び、心に調和が齎される
一見すると矛盾しているように感じるかも知れないが決して矛盾はしてない
多分………………………………
そんな風に考えながら声の主を見てみると
「あ、俺のことを散々ボコボコにしてくれたクイン君と試合中終始俺の手伝いをしてくれなかったヴィオ君ではないか~」
頭の中の血管が幾つか切れた音がした
「あ、そう言えば…………うちのお兄はマジギレすると私より危険だよ?」
妹が爆弾発言をした直後音山達が「じゃあ俺たちはこれで失礼」と言いながら一瞬で逃げていく
だからあいつらは俺のことを何だと思ってるんだ?
と問い詰めたくなるが…………最初は………
「なーんでヴィオ君は俺の手伝いに来てくれなかったのかな?俺が試験受けている間?」
と久し振りに苛立ちを一切合切隠さずにぶつけるとヴィオは困ったように視線を彷徨わせるので何かあるな
と感じながら何を隠しているのかを問い詰めるために口を開こうとすると
「…………………私が彼女を言いくるめて手伝いに行かないようにさせていたのです」
そう女王が告げてくるので冷ややかな視線を女王に向けると当の本人は何でもないかのように
「……今回ヴィオという助っ人を承認したのは現物支給などのためではなく戦闘初心者であるあなたのために………精神的に安らぎを与えるために承認したのですが…………貴方が予想外のスピードで試験を終了させるのと、あなた自身が想定外に強すぎたのでヴィオを言い包めて行かないように言明していたのです………まあ通知しないせいで此処まで修羅場になるとは想像していなかったのでソレは完全に此方の落ち度です…………申し訳ありません」
と素直に謝罪をしてくるので何とも言いにくい微妙な雰囲気になっていると
「私から話してもいい?」
とクインが戦闘中とは違い穏やかな口調でこちらに言ってくるので本当に同一人物か?と疑心暗鬼になりながら見つめる
とうとう一章の終わりに近づいてきました
想定ではあと……二話くらいです




