空に届け
拳が此方の顔を捉える前に紙一重で避け切る、拳は火花を散らすほど加速しており、もし回避ができていなかったら確実に此方の顔面はお釈迦になっていただろう
しかし、ソレが原因で前のめりに戦えなくなって仕舞えば本末転倒も良いところなので決して後ろには引かない
そう考えながら相手の拳を服の紙一重を見極めながらなんとか躱し続け相手に攻撃をし続ける
そして相手はつまらなそうにため息を吐きながら此方に向かってやる気の無い拳を止めとして放ってきた
本人からしてみれば俺程度のレベルでアレば俺程度の相手にはこの程度の攻撃で沈むのだろう
だが……俺は確かに弱いがテンションファイターの利点を教えてやる!!
「!?」
人はいきなり数秒前迄とは遥かに隔絶した動きを見せられるとどうしても動きに齟齬が生じてしまう
そして、そういうタイミングは決まって早々に終わってしまうが、その隙を見逃してしまうほど俺は甘くは無いぞ!!
そんな風に思いながら相手の懐に一息に潜り込む
相手は予想だにしない動き方に驚いて一瞬反応が遅れたが牽制の為に全体に無差別の範囲攻撃を行う
本来であれば有効打たり得ただろう
確かに、この技には必殺の威力と範囲が備わっていた
けれども一撃でも当たらなければ必殺は必殺たりえない
全ての凶悪な槍を出る角度と出る速度を一瞬で把握して、死角となりえる場所を探し出して、そこに滑り込めば万事解決である
「おいおい?どうした?お前は割と激しいスキンシップをお好みの様だな?」
そう言いながら槍の側面を軽く小突く、そして内部構造を把握して
「まぁ、俺は大人しい方が好みなんだよ、悪いけど、な!」
そう言いながら槍を豆腐を握り潰す様な感覚で潰す
まるでガラスが割れる様に一箇所が崩壊すると、連続して一気に連鎖崩壊が巻き起こる
「……お前のやり方だとどうやら連続させることで大地により根深く繋がせてるみたいだけど、一回崩壊しちまうと面白いくらい簡単に崩壊するよな」
そう言いながら相手のことを正面から見据える
先刻まではなかった此方を『同格』として見据える相手の目にはコレまでにはなかった剣呑さを孕んでいた
「………どうやった?」
先程とは簡単に立場が変わったことに一瞬笑いそうになってしまったが、相手は真面目なのである、此処は正直に答えてやる
「まず、お前の槍を全方位に出す技だけど……タメがでかい上に、最初の必殺技の種が地面に盛りだしてからワンテンポ挟んで必殺技に繋がるから、その種を見ていれば簡単にどこにどう言う風に槍が飛んでいくのかは簡単に判別できるんだよ、そしてそこから槍に手を入れて内部構造を把握すれば簡単に崩壊させることは割と難しく無い、一番驚いたのは一つの槍を崩壊させると全てが簡単に崩壊するとは考えていなかったから少し驚いたかな、まぁ、お前の大地の作りが甘かったんだろ」
そう言いながら自身の拳の調子を確認する意味合いで少し振っていると
「ワタシの魔法の作り込みが甘い?」
…………あれ?もしかして地雷を大幅に踏み抜いてしまった?
後悔した瞬間には時既に遅し、相手は一瞬で荒れ狂い全てを壊さんとして後方に龍の土塊を創成しており先刻より更に洗練された作りであることは見た瞬間には簡単に分かった
どうやら製作者としてのプライドが俺にあーだこーだって言われて完全に爆発したみたいだ!
あっはっは!!
えっと、コレって戦犯カウントですか?
ですよねー、やっちゃいましたよねー
そう、相手の現在の姿を言い表すなら完全に荒ぶる戦争の神とでも言うのか
怒髪天を衝くなどの正しくガチギレの言葉がよく似合う顔をしているので少しおっかなびっくりの状態で荒れ狂っている相手の状態を観察しておくとまるで俺を今すぐにでも殺したいって顔してるね
というか武器も何か禍々しく変形しているね
……………あれ?もしかしなくてもヤバメのフラグ立てちゃった?あっれえ?そんなつもり毛頭無かったのに
そう考えながらも「まあ流石にやりすぎたか」と反省している自分もいるので今回は素直に反省しようと思っている、うん、流石に言ってはいけないことをサラッと言い過ぎたすんません
と相手に聞こえない心の中で謝罪しておく、そうだな今の状況は別の意味で修羅場だな
こう言うマジで強い人が切れると何が起きるか知っているか?
「シイイイイイイイネエエエエエエエエ!!」
バーサーク化そして潜在能力解放
強者が一番やっちゃいけない土壇場での、ご都合覚醒ですよ
これが主人公とかの場合だったらご都合覚醒をした後は能力が使えなくなって修行とかに入ると思うけど、この人はご都合覚醒しても普通に力を使ってきそうで怖いんだよね
なんせ一応ギルドマスターを任じられる程度には強い筈ではあるから
そしてギルマスさんの発光エフェクトが終わり、目を見開くと、自分の目が腐っているのではないかと疑う光景が広がっていた
目の間に立っていた相手の武器はいつの間にか片手で持てるほど柄が短くなっており、そして、その攻撃部分をより凶悪に変形させている当たったら確実に御釈迦になるだろう
そして、鎧の一切を纏っていなかった体はいっそのこと魔王の服を強奪したと言われても何ら違和感のない服装をしており警戒心は増すばかり………けどなんだ?この高揚感は………?
いや、今だけではない俺は毎回戦闘の時、頭では嫌がっていたのに何処かえもいえぬ謎の高揚感に襲われていた
この感情を言葉にすることは難しいが、前世でもこの感覚は確かに味わったことがある
が、どんな時でどんな風に感じたかははっきりとは思い出せない、けれども人生の中で確かに何度も感じたことがある
………これはゲームする時の感覚?
いや、今はそれにかまけている暇はない、相手は今現在「魔王」みたいな感じになっており
確実に放って置いたら此方の命はすぐに刈り取られてしまうであろう
そこまで考えて少し行動が遅くなってしまった瞬間に
「隙ありいいいいいいいい」
うん発光エフェクトの前後で性格変わりすぎいいい!?
一瞬行動を遅くしてしまった弊害から相手の絶対に当たってはいけないような部類のハンマーが容赦なく体の側面に叩き付けられる
「ガ、ハッ…………!?」
右腕に到達したあまりの衝撃波に一瞬意識が飛びかけ脳の裏側には赤い光がチカチカと明滅する
…………完全に想定外だ、最初俺はギルマスをS級よりも多少強い程度と認識していたが
どうやら認識が大幅に甘かったようだ、あの一撃を放つまでのモーションを俺は一切合切認識できてなかった
奴が傍に来たのも大声に気づいたからに他ならない
「カヒュー、カヒュー」
全身で息をしながら腕を鋭く走る痛みにもう機能してない右腕が震える錯覚を覚える
どうやらあの武器には特殊な属性が込められているようで本来なら瞬きをする間に傷は修復するはずだが
今この状況下においては回復する気配が微塵も感じられない、そして刻一刻と過ぎるほどにこちらの情勢は不利になる
本来であれば傷口を焼くべきであるのだろうが、小心者の俺にはそんな勇気はない
そして、そんな隙を相手は決して見逃さないであろう
「全く………………そんな奥の手があるなら最初から出し惜しみすんなよ」
思わず小声で呟きながら心の中で
(じゃなきゃ最初から油断しないで相手していたのに………)
そして、俺はここから勝てるのだろうか?
「其方から来ないのであれば、こちらから行くぞおおおお」
そう発狂しながら一瞬で姿をかき消してしまう
これだ、コレの種を理解しない限り俺は決して奴には勝てない
そして、瞬きする暇もなく相手は音もなく背後に立っている
「ッッッ!!」
やはり相手が背後に来るまでの全てを察知できない!
相手が背後にハンマーを溜めているのを視認した瞬間に大地の壁を緩衝材がわりに生成したが
「無駄あああああああああああ」
そう砲声するのを聞きながら一瞬で自身の失敗をさとる
寸秒前に生成した壁は見えない牙に喰われたかのように一瞬で消え去り凶悪なまでの光を灯すハンマーが此方のーーー無防備な体にーーー隙を逃さないという武器自体の意思すら垣間見え闘技場の壁に放り投げられる
激しい轟音と暴風を纏いながら瓦礫の中で辛うじて意識を保ちながら相手に悟られないように静かに体の無事な部位を探していく
現状、直接攻撃を受けた右腕以外は辛うじて動かせている状況ではあるが、着々と瓦礫を赤く染め上げている血液の量は決して看過できないものである
まず、【命の源泉】というのはあくまでも体、内臓等々を修復するのであり、体力、気力、あれば魔力、そして血液などの一切は決して再生してくれない
俺は不死身であって不死身ではない
不死身であるのはあくまでも『意識がある』状態でのみであり
寝ているとき若しくは気絶している時は効果の対象たりえない
しかも血液に関してはどんな時にでも対象にはなりえないので攻撃を受けすぎて血液が不足してしまうと簡単に戦闘不能状態に陥ってしまう
ソレを考慮すると今現在の状況は非常に芳しくないが……
(【ノア】………何かわかったことはあるか?)
辛うじて突破口を導き出せるとしたらコレしかない、が
〈申し訳ございません、辛うじて空間魔法の応用で移動しているか、未知の『技術』で移動しているか………この二つしか仮説を立てられませんでした〉
おいおいおい!まさか【ノア】までもが仮説立てられないとか
「今回はマジで強い相手ってことか………」
ソフィアのネタバレでは唯一戦闘情報が皆無であったギルドマスターは昨日や今日戦った全員と見比べても戦闘能力においては「凶悪さ」という一点のみでは圧勝している
そして殊更洗練された能力は新参者の俺には到底理解出来ない遥か高みに存在した
…………俺は心の中で何処か「異世界の奴ら何てアザトースや本当に強い奴以外楽勝だろう」と思っていた
が、その考えは半分当たりで半分外れであった
確かにS級冒険者と言っても割と余裕で勝てる相手が多かったが今現在戦っているギルドマスターや初戦のソフィアそしてバーサークロボット
全員がしっかりとした強さを持っており正直今現在戦っているギルドマスター以外は勝てたのが幸運であった
だから
「俺はもう、お前らを『格下』と思わない」
そう言って出さないと思っていた全力に手を出す
「!!??」
相手はそこまで傷ついているのにそこから加速するのか!?という驚愕に顔を染めていた
本来は体調が万全の時に使いたいが今の状況では四の五の言っている間に沈められてしまう可能性を考慮して最初から全力全開でエンジンをかけているが
「クソッ!!」
そう悪態づいてしまう程度には最初に貰った攻撃が響いて来ている
攻撃には精細さはなく通常時であれば簡単にかわせるはずの攻撃を身に受けてしまう
そして一番の問題が
「ガハッッッ!」
時々起こる不可視の移動からの攻撃、これだけはいただけない
幾ら周りを観察してようが一瞬でその場に出現して攻撃してくる
これが他の奴であったのならば「テレポート」による現象だと言ったかも知れないが
コレは前後の動きがしっかりつながっている「移動」による現象であると睨んでいる
そうでなければ瞬きする間にいきなり石など砕けていない
そう考えるとコレはれっきとした「移動」による現象であるはずなのだが………
「まだまだあああああああああああ」
……この苛烈過ぎる攻撃の嵐の中で思考しながら全力出すのは最早無理かな
そう決めてからは思考を放棄し………
「……!!貴様あああああああああああ!」
「うるせえよ!いい加減黙れ!」
全力のなじりあいと罵倒と拳での戦いが幕を開く
が、この戦いは後五分で閉幕する流れになった
相手の加速する拳をまだ動く拳で弾きながら足で今にも繰り出そうとしている相手のハンマーを地面にめり込ませて動かせないように封じる
そして相手がハンマーを持ち上げようとした一瞬の隙を突き相手の顎を拳で打ち抜く
本来であれば『暴食者』の能力で『瞬震拳』を繰り出したいが此処に来るまでに随分と血をまき散らした影響で頭が半分靄がかかり『暴食者』をコントロールしきれなくなっていた
そうして打ち出された拳は相手を僅かに仰け反らす留まり尚且つ逆に強烈なカウンターを食らわさせられた
ただでさえ血液が足りずに足がふらついていて尚且つこんな風に考え事をしているということはかなり集中力が途切れてきている証左に違いない
追撃を受けないために壁際まで後退してからゆっくりと息を整えて口から血の混ざった痰を吐き出す




