隠してある手
相手を拘束した瞬間不人は一瞬確かに笑みを浮かべたが
俺は落ち落ち笑みを浮かべられていない
この世界の住人はアザトースを始め、上げてからハシゴを落とす輩が多い
多分この程度では沈まないと思っている
そう考えているいきなり鯨人間もどきの口が大きくなっていき
自分を喰らっていた
別にどこかに大きな口が出現して食ったわけではない
自らの口を裏返らせて自分ごと『食べた』だけである
言葉にすれば酷く…そう酷く簡単な話であるが
正直気味が悪いというほかない
なんせ…もしそんなことができる生物がいるのならソレは最早
生物としての規格を破っている
何故自らを喰らって口だけ残るのか?
違和感と警戒心が焦りとなって玉の汗を浮かばせる
もしかしたら…俺たちはとんでもないモノを相手に回していたのかもしれない
一瞬本気で撤退するために足に力を込めて不人と召喚士を掴んで離脱しようと試みるが
視界の端で僅かに動く黒い影に先を越されて
既に倒壊済みの建物を幾つも巻き込んで王城の一室に飛び込んでいく
全く…コイツが出て来ただけで復興が遥か彼方に感じてしまう
そう考えながら痛む全身を堪えながら立ち上がる
一瞬でも足を止めれば待つのは凄惨な死のみ
正直…鯨人間もどきまでならどうにかなった
しかし……自分をも喰らう口は不気味がすぎる
まだ教えてなかった【暴食者】の絶対普遍のルール
自分の体は傷意外喰らってはならない
理由としては自分の体を喰らえば果てしない快感で
自我を失い最後には全てを破壊するまで自分を止められないから
とノアに告げられている
まぁ…はなから人肉(俺の場合は龍肉か)を喰らうつもりはない
しかし…【暴食者】ですら、そのような制約が課されているのに…
奴は何でもないように自分の体を食らった
まるで…自分の進化のために必要な段階だというかのように
一瞬果てしない恐怖が押し寄せて来て恐慌状態に陥りかけたが
此処で幸運だったのは
更に強い恐怖が背後からやって来たことである
「………」
その人物は無言であった
まるで自分はこの世界に最低限の干渉しかしないと言うかのように
無愛想に見える表情からは何処か優しやと逞しさが覗ける
そして一瞬此方に向き直ると
「……まぁ…なんだ、さっさと立て」
なんか励ましの言葉をくれるかと思ったが罵倒を頂いた
まぁ…こんな所であっただけの地龍なんて罵倒のたいしょ……
「え!?」
あまりのインパクトに一瞬忘れていたが此処に人がいるはずなど無いのだ
鯨モドキが出て来たタイミングで住民の殆どは避難をしており
此処には俺たちの人以外は居ないはずなのである
一瞬警戒すらもかなぐり捨てて、あの人へ警告を送ろうとした瞬間
外には地獄が広がっていた
いや…正確には地獄の悪鬼羅刹、閻魔大王たちが驚きすぎて逆立ちして逃げる惨状が広がっていた
しかも王城には傷一つつけないで
血の雨と称するにしてもあまりにも悲惨な状況に声すら出ない
しかし…ソレでも、此処までしても奴は崩れない
恐らく一瞬で鯨形態に戻ったのであろう
体積を大きくして削られても多少生き残れる方に賭けたのであろう
ソレ自体は成功していた
相手が理外という言葉すら生ぬるい『最強』でなければ
そして、この惨憺たる光景に一人ポツリと白い姿が浮かび上がる彼
最初はしっかりと見ていなかったが
彼の顔はどちらかと言うとありふれた一般顔
言い方は悪いが優男にしか見えなかった
しかし、簡素で尚且つ豪奢という矛盾を孕んだ服装から見え隠れするのは
ありえないほどの肉の鎧を纏った姿である
アレは…本当の戦士しか辿り着けない姿であると一瞬で理解した
そして此方が見つめているのを理解したのか優しげな笑みを浮かべて『その場を離れた』
どこかに消えたのでは無い
離れただけである
そう考えると何処かで高みの見物をかましているのか?と思うが
あの顔からそんな悪意のある考えが浮かぶとは正直考えづらい…
まぁ、この惨状を作り出した血も涙もない人物がそんなことあるのか?と言われそうだが…
あ、そうそう昔見た映画で「血も涙もないとよくいうが、そもそも涙は血を濾過した成分が…うんぬんかんぬん」って言っていたから正確には「お前には血が流れてないのか?」と問う方が正解らしい
まぁ…そういうこっちゃないやろって言いたくもなるが…
さて、あの人のおかげで状況が相当好転した
今までは絶対に勝ち目がないと思っていた相手が絶賛弱体化中なのだ
正直多少気の毒だとは思わなくもないが此処で討伐する
まぁ…欲を言えば武器があれば百点満点だったんだけどな?
正直鯨人間もどきが王城に俺を蹴り込む時
ソレを防ぐために闇の防壁を全開にしてガードしていたのだ
だから現在闇の刀の能力は使えない
コレは果てしないデメリットである
…全く、コレだから戦いは嫌いなんだよ
そう思って地面に降り立とうと身を空中に踊らせると
空中から何かが落下してくるの感じる
上空に視線をやると……
数秒前
「…いやー、少しはしゃぎ過ぎたかな?
……後で他の奴らから文句が飛んできそう……
俺の仲間…人が良いのは良いんだけど
『お前は強すぎるから過干渉しすぎると時代すら歪めて本来あるはずだった幸せすら奪っちまう』
…ソレすらも拾えば問題なくない?
…ま、そういう問題でもないか…
でも、今回のコレは少し干渉しなかったら大変なことになっていたし
…まぁ、今回は後おせっかいを二つ焼いておこうかな」
そして当然と言うかのように太陽に座っている彼は
地龍が砕いて能力の糧とした闇の刀を眺める
「…まさか…奇縁が繋がってコレがアイツの手に渡るとはね…
ふふ…今回俺良い仕事したんじゃない?」
そう気分良くワームホールに手を突っ込んで取り出したのは
明らかに人間が素手で触ってはいけないような炎である
え?ならコイツは何なんだ?
此処からは神視点(作者視点)で語らせてもらおう
かつて…彼は一人の人族の少年であった
のどかな村で楽しく過ごしてい所
自分の村が馬鹿みたいな宗教色の強い王国の御告げや何やで
村を一片すら残さず焦土と化していた
それだけではない…村の人達の魂を繋ぎ大いなる神の御霊を降臨させるために
永劫の苦しみを与えていると知った時
彼の内なる感情は爆発した
本来得られない能力は全てを超越して
不可能を可能に
希望を絶望に
悪意には世界最悪の絶望をもたらしい
理不尽な悪に打ちのめされる人たちには聖母すら霞ほどの祝福を
彼は知っていた
力の恐怖を
そして、自分の力のあり方を
だから…彼は全宇宙で…否全ての存在の上に立てるほどの最強の実力を兼ね備えていた
しかし…彼一人で全て救えるには救えるが
どうにも自分は覚醒してから人の感情に疎い部分がある
なら自分と同じ程の力を持ち志を共にできる人物たちを集めて
理不尽を怖そう
そう思い
『十二人の神々を蹂躙して人々を救う王』…略して
『十二神王』を設立した
彼の実力は他の十一人と比べても頭百個以上抜けていた
しかし…十一人は知っていた
彼は自分の力を悪の方へと傾けないと
救うためにのみ扱い、悪には凄惨たる結末を
絶望という言葉すら生ぬるい存在を体現した存在を
そう…彼こそが化け物達の王
十二神王『全』安須 真也である
そして取り出したの炎は宇宙空間であるといういうのに太陽より燦々と輝きを放つが
見るものが見ればソレは…
とても邪悪な存在に見えたであろう
なんせソレの正体は
『邪悪と光が鬩ぎ合う時生まれし混沌の深炎』
簡単に言えば混沌が体現した炎である
能力自体はシンプルで一生消えない炎を相手にエンチャントするというものである
…しかし此処で問題があるとすれば
その炎は触れた相手の一番触れて欲しくないトラウマを一生触れ続けるのだ
ソレを使えば地龍は苦労せず世界で一番最強になれるだろう
しかし
「…アイツがそんな道を選ぶはずもないか」
そう言って炎から邪悪な球を取り除く
そしてソレを口の中に放り込んで飴玉を砕く感覚で食べている
これ…他の一般人が食べれば輪廻の輪に乗っても未来永劫苦しみ悶える代物なのだが
彼にとっては本当に飴玉感覚で食べられる代物なのである
そう考えるとコレを掴んでも一切どうじていなかった彼の真の実力が伺い知れる
「んじゃ、一つ目のお節介といきますか」
そう言って太陽を地面として立ち上がり
地龍の現在位置を観察してからタイミングよく放つ
此処で本気で投げたら惑星を貫いて超新星爆発まで辿り着くので投げられないのが少し残念である
そう思って剣の尻を僅かにデコピンすると
音速や光速を超えた速度で飛んでいく
「な、何でコレが!?」
そう自分で叫んで何となくわかってしまった
あ…コレ、あの人からの餞別だ
恐らく今のでわかったが…あの人死ぬほどお人好しである
困っている人がいれば自分の不利益など鑑みず
いや…鑑みる必要すらないのか
あの人恐らく全ての逆境を一人で覆せる
チェスでいきなりレールガンを持ってきても
あの人がやっているならば…ただポーンを一コマ動かしているのと何ら変わらない感覚なのである
簡単にいうと物事の尺度が大きく違っている
他の人にとって苦痛と感じられないことでも
あの人にとっては「ソレは苦痛を感じ過ぎて苦痛と思えていないだけ」と言って救いの手を差し伸べ
悪には容赦ない制裁を笑顔で課すだろう
けどね……
あの人が幾ら親切だと言ってもね……
「刀逃げる速度くらいもう少し調節しろやアホンダラあ!!」
そう叫ばずにはいられないほど
刀を握った瞬間地面に激突した
ソレは地面を操作する間も無く地面に激突した
まさか……かの有名な野菜星人を多数輩出して
頬に十字傷のあるヤから始まるアレが
畑で栽培されてやられたシーン
ネットで笑い物にされている姿と全く同じ姿で地面にくたばることなんて誰が想像できた?
全く…本当にコレ異世界か?
俺だけ実はギャグ漫の世界に放り込まれたとかない?
そう考えながら何故か味方からのとんでもないダメージに困惑しつつ立ち上がる
まさか…王城の近くにこんなクレーターを作る羽目になるとは
今度会ったらアイツに賠償してもらおう
そう思いながら一気に地面をせり上がらせる
そうすると目の前には幾つも血溜まりを作っている鯨もどきが
しかし…今までとは違うのは
ソレが鯨から人に近づいているという点である
最早鯨もどきとかいうレベルではなく
魚人に近い感覚である
鰭や鰓ついてる点は鯨と変わりないが
顔に関しては人間であり
その全貌は血だらけでわからない
そして相手は大きくを開いて
「貴様らは何なんだ!!」
頭が割れんばかりの発狂が辺りに響き渡る
一瞬彼の姿がブレたように見えたのは
人の聴覚には捉えられない強大すぎる超音波が視覚に効果を表すほどに発散された影響か……
全く…疑問を問いかけるだけで超音波が放たれるって終わってんだろ
そう思いながら妙に力が入りにくい手を無理矢理奮い立たせて刀を構える
恐らくデカすぎる音に当てられて筋肉が弛緩しているのだろう
結局地龍も人も多少姿形が違うだけで基本構造は同じ脆い存在である
という事実をまざまざと見せつけられてある気分がしてあまり良い気分はしない
全く…コレじゃあ何で地龍に転生されたか全くもって意味がわからないぞ?
そんなことを思いながら鯨に刀をむける
恐らくコイツにも譲れない何かってのがあるのだろう
そういうのは言葉じゃ分かり合えない
時には血を流して誰がしのうと止まらない強靭な…いや狂人な心が必要になる
人というのは難儀である
そう思いながら刀を握っていると
「き、貴様らは、な、何故、わ、我らが、し、進化、す、するのを、さ、妨げる!!」
進化……確かに言われてみれば触手鯨は何を吸収するのに都合が良さそうだよな
ソレに喰らった人に入り込んだのだって俺たちを殲滅する為である
つまり、より効率的にエネルギーを搾取するためにアレに入ったのであって
俺たちが大人しくアレの腹の中に入り込んでいればアイツは変な形態変化をしなかったということだ
……しかし、俺以外は簡単に死ねるとして
俺は…どういう判定になるんだ?
恐らく消化液にやられるっていうのは死ぬほど痛いであろう
そして、俺の【命の源泉】は魂に影響が出ない限り
延々と再生を試みる
ソレは自分の意思で止めることはできるが
あの時は正直緊急事態で感覚で止めたので
また同じ芸当ができるのか?と問われれば正直自信がない
アザトースの時は明確に死のヴィジョンが見えたが…
コイツの消化液だと死亡の確率は
半々な暗い気がする……
そして、恐らくコイツの腹の中は死ぬほど臭い
何となくであるが
先刻コイツが腹から這い出た時に吐き気を催すほど臭かったから…




