転生
能力発動
ソレだけ聞くと何かとんでもないことをしているかのような気分になってくるが実態は
ただ自分の能力に深く潜って能力の本質に迫っているだけである
え?ソレだけで十分凄い?
何を言っている?コレは瞑想に近い感覚である
世界と自分の境界線をなくして自分を溶かしていくイメージ
ソレと現在の状況は近い
三十秒
たかが三十秒…されど三十秒
俺はいま一秒が数分に感じるほどの緊張に苛まれている
もし万が一にでも鯨にコレを邪魔されて仕舞えば転生している対象は二度と元には戻らない
当然であろう、転生するまえの人間を理に反して転生させようとしているのだ
人間の魂のサイクルに反して
ラノベとかで感覚が狂ってる人ほどよくよく考えて欲しい
天性というのは本来ソレほど重大で危険性を伴うものなのである
ソレを簡単にできるだろ?とか言われても俺からしてみればソレは完全な驕り
なら実際自分で死んで転生してみろって話である
今回は全力が一人でもいなくなると他のところにも被害が飛び火しそうなので速攻で転生させると決めたが
本来なら絶対にこんな危険な判断はしない
だって…俺は殺人者になりたくないから
そう思いながら一瞬ため息を吐き出して考える
もしコレが失敗した時のリカバー……
あんまり考えたくないが逃走して他の場所の人達に避難勧告
もしくはリュエルを呼び出して多少の足止めを……
はたしてリュエルはアレとやり合えるだろうか?
正直リュエルと妹が揃えば討伐自体は簡単であると思っている
何でか?ソレはアイツの実力が現在俺と同格程度の召喚士に足止めを喰らっている時点で勝てるとは思う
けれど…奴の根源的な恐怖を想起させるような姿は正直生きている心地がしなかった
しかし…アレと今回戦う羽目になるのなら何か心にロックをかける方法を考えなければいけない
しかしなあ…正直言ってしまうと心云々カンヌンの話ではない気がするのだ
アレはもっと心の奥深くから
原始から生きる人間が持っている一番古い感情に訴えかけるタイプの恐怖だと俺は思っている
…さて、とこんなバカなことを考えていたらいつのまにか三十秒が経過しそうになっていく
そして残り数秒になった瞬間に
「どおおおおん!」
近隣の民家から轟音と共に白煙が湧き立つ
一瞬何が起こっているのか把握できなかったが
不人の顔を見てわかった
「…くそッ!そんなにこの王国を乗っ取りたいのか!!クソ王様が!!」
このタイミングで一番動かれたくない相手に動かれてしまった
正直コレが鯨の足止めに失敗した程度ならノアの足止めでどうにかできたかもしれない
しかし…人間の強欲というのは際限がない
もし俺が人間が神より優れてるものは何か?と問われれば
確実に『悪意』と答える程度には人間はとてつもない悪意を抱えている
そして…俺はソレを極度に恐れている節があるが
どう考えても現在王様が無手で出てくるわけがない
何か俺を嵌める策があって出てきたということである
しかし…俺は今現在決して動いてはならない
もし途中で転生を中止して仕舞えば不人は二度とこの場に戻って来れなくなる
そう考えるだけで体が震えて手を離してしまいそうになるが一瞬だけで
その後しっかりと意識を保ちつつ
「……頼んだ」
そう一言告げると、異世界に来てから一番付き合いが長いノアは即座に動き出す
ノアは王様の相手をしている間に何とか転生は完了させることは出来だろうが
正直妨害だけに徹して決して反撃しないという条件を持たせれば人間はかなりウザい
正直俺だって妨害してくる人間からは逃げ出してしまうほど
悪意の塊である
そして一瞬別のことを考えていたが今は不人のことである
数秒の間に転生の準備を終わらせていく
着々と魔法陣を内部に組み立てて内部の全てに適応させていく
しかし…ソレでも悪意は一番悪いタイミングやってくる
「ドゴオオオン!!!」
一瞬体が浮かびかけたと思った瞬間
後ろからとてつもない衝撃をキャッチする
正直皆俺に対しての扱いが酷くないか?
だって俺一応最弱種族の地龍でありぶてば傷は癒えにくいし
怪我すれば死んでしまうかもしれない
【命の源泉】がある現在はまだ何とか生き残っているが
いつかコレが取り上げられて仕舞えば俺は簡単に死んでしまう輩になってしまう
そして一瞬自分が死んでしまう光景を目の前に浮かべて嫌な顔をしてしまうが
今は後ろの問題だ
今現在吹き抜けとなってしまった家屋の後ろを見てみると
そこには筋骨隆々の老人がいた
破戒僧…もこんなには筋肉はついてない
というか筋肉が鎧のように光を放ちながら全身から黒いモヤをだしている
恐らく邪法の瘴気である
一応闇魔法の使い手の端くれであるために闇に関しては多少目が効くのだ
そして闇魔法を使っていて、あのような禍々しい闇を取り扱ったことなど一度たりとてない
そうして一瞬どうするか悩んだのちに転生を敢行することにした
ノアには悪いがコイツにぶっ飛ばされた傷を何とか無視して戦ってもらおう
そうしないと俺はコイツの転生を敢行できない
そう思いながら一瞬固まっていると
後ろから魔法が放たれる
あと、あと一秒
果たして着弾するのが先か…ソレとも転生が先か…
たくっ…俺っていつからギャンブラーにジョブチェンしたんだ?
俺の職業は器用貧乏の進化系だったはずだぞ?
そんな馬鹿なことを考えながら一瞬長い長い一秒間を感じながら目を瞑る
正直俗世で死ぬ直前は走馬灯を見ると言われているが
正直ソレに関して俺は信じていない
昔交通事故に遭遇した時、俺は長い長い一瞬で
「あ、死んだ」と思った程度で走馬灯など見ていないのだ
だからどちらかというと引き延ばされた一瞬を延々と味わうというのが俺の認識である
そうして長い長い一瞬を味わい
ゆっくり目を開けると俺の下から一本の細長い腕が伸びて
延長線上にいたクソ王様を地平線の彼方に弾き飛ばしていた
正直…体を取り替えるだけで此処までのスペックが出るとは思っていなかったので少し怖いが
…まぁ、俺も万が一どうしようもなくなった時には転生って手もありだな
そう考えながら半裸の不人を引き上げる
「…さて、行こうか不ひ……」
「ああ、そうだ……」
引き上げた瞬間お互いの時間が確かに硬直した
理由は何か?ソレは簡単である
不人の膨らみかけのソレである
男である不人に本来ソレは必要ないはずである…
だが異世界転生すると性別が変わるというのも
お決まりである
正直今現在ソレをされると困るのですぐさま闇の服を作り出す
正直そんなに頑丈でないし即座に壊れる可能性を孕んでいるために鎧を探して来させたい気分であるが
…真っ裸で鎧を着るのは人としてどうなのか?という微かに残っている人間の部分が告げているのと
単純に鎧より体の方が頑丈なのでは?という持論である
…まぁ、ずっと真っ裸で戦っている俺が何をほざいても
「お前何言ってんの?」って言われておしまいだが……
せめてコイツは常識の範囲に収めておきたい
なんせ…俺の近くで唯一と言っていいほどの常識人なのだから
まぁ…こんな話は置いといて
「…不人、今全部流して戦うぞ」
「…ああ」
何故だろう?恐らく世界で一番不幸な人が出せるオーラを不人が纏っている
まぁ…転生前はヤクザみたいな漢だったのに転生したら完全に美少女と言われる感じの綺麗な少女に転生しているんだから
背中から腕にかけての阿修羅の刺青はしっかりと残っている
今はソレが何故か光を放っているように見えるが……
まぁ、ソレは無視しておく
そして何故か女になってしまった不人を連れて召喚士の元へと走っていく
そして、ビームを放って召喚士を殺そうとしていた鯨の前に相対する
正直召喚士のことを少し侮っていたかもしれない
だって…まさかあそこまで戦えるとは思っていなかった
正直二十秒程度戦えれば御の字だとすら思っていた
しかし…現にコイツは俺が言った眺めの五十秒をしっかりと守りきる、そして戦い抜いた
そんなコイツの信頼を…こんなところで裏切ったら人間失格…だよな
そう思いながらツチノコの口から砕けた闇の刀を引き抜く
幾ら壊れていようが…壊せる部分が残っているのなら俺の能力の範囲として認識することは…可能である
そう思いながら闇の刀を壊して腕に闇を纏う
コレで一時的に俺は闇の刀と同じ能力を素手で扱える
そう考えながら目の前にいる化け物相手にどう立ち回るべきかを考えながら立っていると
相手の体が前のめりに倒れてくるので
即座に俺と不人は召喚士を抱えて飛び退く
まさか此処で物量に物を言わせて突進をしてくるとは思わなかった…しかし、ソレならソレで勝ち目は……
そう思った瞬間であった
鯨の体から何かが這い出して来た
ソレは空を見上げると大きく醜い口を開けながら咆哮を上げた
そして建物を見れば歪に飛び出した眼球を伸ばしながら観察している
そして何本にも枝分かれをし鰭の様な指を動かしながらあたりに残っていた召喚士の領域をズタズタに引き裂く
まるでこの世の全ての災禍を詰め込んだ醜い獣が生まれ落ちた
そんな題名の絵画として出回っていてもおかしくない光景であった
もし俺が異世界に慣れてなく前世の住人のままであったのならコレは確実に吐いていたであろう
なんせ…目の前のソレは肉が所々落ち、腐臭を漂わせ、眼球は歪に飛び出した、膨らんだ腹からは時折ガスの様なものが飛び出している
そして肝心の足はドロドロに溶けており消化液に浸かっていたのか?と問いただしたくなる様な光景であったが
一瞬考えて本当に腹の中にいたのかもしれない
なんせ、コイツが出て来たのは鯨もどきの体の内部
どこにいたまでかは外部からの観察では一切わからなかったが…
もし召喚士の召喚が、その時みたモンスターの内部状況まで再現して召喚しているのであれば
内部に食した冒険者か民間人がいても何ら不思議な話ではないのだ
そう…奴は鯨の体を用いていては完全に押し負けると思って内部の人間の体を奪い出て来たのだ
…正直に言うと
民間人が近くにいなくてよかった
もしいたら混乱が混乱を読んで群衆事故が起こっていた可能性すらあるから
そう思うと住民が全員丸ごと避難していたのは矢張り行幸である
そして、此処に来ていたのが俺であることも
なんせ…コイツは完全に理外の化け物である
俺が知っている限り…こんなに戦闘に対して純粋な興味を抱いた敵はいない
アザトースですら何か目的を持って手合わせをしていた
そう考えると相手は自分を見失っているとも言えるかもしれない
なんせ…完全に目が白濁しているから
しっかりと自我があるのならば…アレほど悲しい目はしない
そして…自分を見失ったりしない
恐らくだがアレは本物も予想外の進化の仕方をしているのではないか?
俺が見た限り…人化するにしてももう少し別の方法がある様に感じられる上に
アレは鯨を潰して作り上げた様な歪さがそこかしこに存在する
…結局自分に合わない方法で無理やり強くなったところで何もなせない…アレはそう表している気がする
そうして数秒の逡巡ののちに闇の球体を奴の上空に浮かべる
出来ればあいつとも分かり合える道を作りたかった
…けれども、アレはもう人類が手に負えるソレではない
なら俺は今此処で奴を葬り去る
それが俺たちの都合で生み出してしまった哀れな怪物に対する慈悲である
生み出したのならば責任を持て
何かのゲームで誰かがそう言っていた気がする
何事においても自分がやったのならば全て自分の責任であり
ソレを別の何かに押し付けることなど人ではない外道のすることである
そう、何故か今ソレを思い出しながら何処か苦しい感情を抱きながら悩んでいると
相手が不気味な声を…地響きの様な声を響かせながら此方に向かって突進してくる
今までの様な単調な行動ではなく不思議と視線が外れやすく一瞬でも気を抜いて仕舞えば簡単に攻撃を喰らってしまうであろう
今までの獣の思考のソレではなく『人』の思考を展開して来ている
恐らく進化を果たせば本家にも劣るとも勝らない化け物がこの世に爆誕してしまうだろう
全く…俺に何を背負わせようとしているんだが
そう思いながら腕から闇の波を作り出す
相手はこれしきの薄い霧…とでも思って突っ込んでいるのだろうが
コレは攻撃のために出したのではなく…
そして相手の体が闇まみれになって来た頃
相手の体が錆びついたブリキのようにぎこちなくなって来ている
そう…コレはただの闇ではなく相手に付着して行動を極限まで縛る拘束系の魔法
チリも積もれば山となる
コレはまさにソレの体現であるが……
まだ…隠してある手があるんだろ?全部出し切りな、とことん相手をしてやる




