進化 深
違和感に気づいたのは大地を操りハメ技を相手に繰り出そうとした時である
地面は迫り出すどころか陥没し、相手に出した槍は此方に叛逆してくる
そう全てが逆になっているのだ、しかも、体も徐々に崩壊している
原理はわからないがコレは…
「そう、今貴様が思索している様に此処は『虚数空間』だ……そうだな馬鹿な君にもわかる様に簡単に説明すると虚数というのは否定する数のことを言い、私はコレを操る術を身につけている、そして、この空間に入ったものは全てを否定されるのだ………まぁ、精神までを操るには至らなかったがな。」
と何でもなさそうにいうが…コレはヤバいのでは?
そして思考回し続けて
「そうか…やはり貴様は面白いな。」
と満面の笑みを浮かべながら此方を見つめて来る
本当なら逃げる方法を考えたいが…こんな状況なら逃げるどころか生きられるかどうかわかりゃあしねぇけどね、まぁ、死ぬんなら華々しく散ってやるよ
まず、此処では魔法が此方を害する毒となる
体外に出す毒ならば相手に薬を送り
体外に出す薬ならば自身に毒を盛ることになる
体の内部ならこの不可思議な空間の影響を受けずに済むのかもしれないが…
もし【命の源泉】に牙を剥かれようものなら此方の敗北は必定のモノとなってしまうだろう
しかし、この空間の特性上自分だけバカスカ爆弾となり得る魔法を放つ…なんてことはそうそうないと思いたい
そう考えて
(念の為)
と思いながら皮膚と筋肉の僅かな隙間に【暴食者】を発動するコレで筋肉などにダメージをいくのを防ぎつつ魔力や体力の回復を図ろうと考えたのだ
まあ、肉弾戦になるから魔法を吸収するなんてことはできないだろう…
と考えてた時期が私にもありました、けど
「クッ……」
辛うじて漏らせたのがこの一声で今は回避に専念してないと攻撃が当たってしまう
一体どうなってんだ?
此方は攻撃できずに無様に逃げ回るだけなのに
相手は優雅に魔法を放つって……此処の虚数空間は事象を反転させるんじゃねーのか?
と投げやりに思考していると
「貴様が不思議に思っている様に此処にいる限りは全ての存在…私も含めて逆転現象が起こるが…私の場合は錬金術を極めていてな、たとえ逆転現象が起きようか自身の求める結果を作り出すなど訳ないのだ。」
と自身たっぷり、嫌味たっぷりに言うのでイラっ!とする
が、此方に攻撃手段が存在しないのもまた事実
クソ…と悪態も付く間も無く瞬きの間を縫ってやって来る多種多様な柱を足で砕き、拳で砕き魔力を足に乗せて脚力を上昇させて回避に専念する
恐らくだがこの領域は永遠に続く類ではない
事象の反転など完全に常軌を逸している上に錬金術まで極めているので魔力も膨大だろうが魔力を創造することは不可能ではないかと考えてる
だからお前との鬼ごっこ付き合ってやるよ
そして、時を同じくして此方も戦闘に入る
「んで、アイツは何なの?」
「さあ?強大な蜥蜴の気配など私は知りませんが?」
「知ってるじゃねーかよ」
と気心が知れたように会話する二人はどこまでも平和に見えるが
「さあて、アイツどうやって潰す?」
「そうですね、まずはアレの核を探すところから始めましょうか。」
とジャガーノートが此処まで行って気づく
(慣らしには丁度いいかもしれませんね、交代ですよ)
そう言った後に意識体を主人核と交代する
すると、変化は劇的であった
「いや、ちょっ、ジャガーノートさあああん!?」
「は?」
誰もが疑問に思った、しかしながら誰も口にしない筈であった
「ああ、成る程ジャガー何ちゃらって奴と本体が入れ替わったんだな…」
と一人勝手に納得する人物がいた
「えっと紅蓮…」
「ヴィオで構わん」
と通り名で問おうとしたらそういう風にかるく遇らわれてしまった
「ヴィオ…さん?今貴女が言った通り今までジャガーノートさんが主導でしたけど、いきなり交代だって言われて………」
混乱の極みとでもいうかの様に弱りきった表情を覗かせる白露の表情には母性を刺激する何かがあった
しかし、ソレを悟らせないのが騎士としての務め(コイツも馬鹿です)
まぁ、馬鹿な考えは終わらせてコイツをどーするかだな
見たところかなりの実力があって隠し球も相当数あるだろう、外皮は腐っていて骨剥き出しとは言え、と言うか何なら骨の方が硬そうな予感がするのはコレ如何程に?
と思考を回していると
「フッ」
と言う風切り音が耳に到達したのを皮切りに白露とヴィオは横に飛ぶ常人には二人飛んだ後に斬撃が飛んできた様に見えただろう
しかし、実際は
(何だ!!いきなり現れたぞ!!)
(まるで時間みたいな斬撃だ…)
反応の仕方はそれぞれ違うが其々の正解に辿り着こうとしていた
(何にせよただ殴り合いをするだけだ!!)
(攻めずに相手の出方を見るか)
しかし、二人が真反対の行動をした結果二人を救う結末となった
「おい、お前作戦と行動二手に分かれるぞ!!」
といきなり命令して来るので体を派手に揺らしながら命令を反芻、メリット・デメリットを考えてから
「了解!!」
と言ってから戦闘区域から一旦離れて安心…出来る場所はないがギリギリまで戦闘に巻き込まれなさそうな場所に滑り込む
「………」
観察に徹する
命令を下してから殴ることに全力を尽くしている魔力の残量も気にせずに殴り合いを敢行している
此方が一撃でも喰らえば死ぬ試合のもと
ドラゴンの毒のブレス
広範囲に及ぶが抵抗が高ければ問題なし突っ込む
尻尾の薙ぎ払い
一段飛んでから尻尾を砕くが、直ぐに再生される
眼光が鋭く光って体が言うことを聞かなくなる
コレは一瞬まずいと感じたが直ぐに動くことができる
見えない斬撃
恐らく空間系列の魔法だろう触れなければ問題なし
とまあ、しばらく殴り合いを繰り返して得た情報だ
よし、そろそろ攻勢に出るか
そして、体を思い切り前に倒して攻めようとした瞬間
「ヴィオさん下がって!!」
反応することは出来たが回避には時間がいる
そう思って一撃をこの身に甘んじようとすると
白い影が滑り込んでくる
そして
「ふム、コの時代のニんげンは脆いな」
酷く無機質で醜悪な声がゆっくりと此方に殺意を向けてくるが
此方の意識は下の人物に向かっている
此方を庇おうと滑り込んできた白露を殺さず無力化した……つまり殺しはしない主義か?
いや、わからない同じ龍だからかもしれないし……情報が少なすぎる判断材料が少なすぎる
そう考えているといきなり相手の姿がブレた
最初は目の錯覚かと相手にしなかったが今までの勘から出される警鐘が最大級に鳴り響き腕を目前に交差させる
するとすんでの所で相手の一撃を受け止めることに成功する
「ほオ、コレを防グか。」
と褒める様に此方を見やるがその目に賞賛の色はなく寧ろナニをやっているだ?
と此方を責め立てる色すら窺えた
心中で盛大に相手を罵倒しながら
「お褒めに預かり光栄だね。」
と相手を煽ることにする、コレで怒って集中力を欠かしてくれれば万々歳なんだけどね
「フむ、ワシの買い被りすぎジャッたか……今の所キサマからはナンノ魅力モ感じん」
ブチ…
「ソレに実力もアソコで転がっている白龍ヨリしたジャカラのう」
ブチブチ…
「アマツさえコウヤッテワシの慈悲を無碍にシテイル時点で死罪ものよ?」
ブチブチブチブチ…駄目だ戦闘中に冷静さを失えば死ぬ…ソレはわかっているけれどこのクソ野郎こっちが言い返さねえのを良いことに…わかっているけれど相手の実力は未知数悔しいが相手の言い分に一理ある…それでも、相手に言われて黙ってる理由になるのか?…どうした今日はやけに機嫌が悪いな?
「さぁ、ワシのキガ変わらん内にキエロ。」
よし、このジジイコロス
「フンッ!!」
油断しきった相手の顔面に蹴りを入れるが
「フム、儂の心意気を無駄にすると言うことで相違ないか?」
……………
「なーにが『儂の心意気』だ、煽るだけ煽って此方の尊厳を傷つけて楽しいか、老害?テメェは遊びのつもりでも最初からコッチは本気なんだよ、テメェもしかして重度の認知症か?あ、ゴメーン、君重度のナルシストだったよね?じゃあ、合併症って言った方が良かったかな?ねえ?…………取り敢えず二度と出て来るなバーカバーカ。」
「ほお?貴様死にたいらしいな」
一気に解放される圧が増えたコレが本気か?
「ふーん、まーだ余裕ぶってんだ流石ナルシストの合併症だね。」
とギリギリを図りながら煽るとまた数段階圧が上昇した…たく一体何時になったら本気になるんだコイツは?
「死ね…」
残像すら残らないほどの超高速で薙ぎ払われた腕は此方が気づかなければ為す術なく胴と首を泣き別れにさせていたであろう
その事実に恐怖しながらも相手の間合いに無理矢理入っていく、下手に距離を取れば一瞬で詰められてお陀仏になるのは目に見えてる
そう思って超接近戦を演じる
相手の鳩尾に拳を放ちながら同時に足を顎に入れようと限界まで放ち上げる
しかし、相手は顎を限界まで上げて避けて鳩尾は拳を掴むことで対応をする
そして
「ふむ、アレだけ言った割にこの程度か」
そう言われた瞬間今まで一番危険で濃密な気配を感じて無理矢理拳を相手の掌抜く
その際一撃を貰ったが、その後に起きたことに比べれば幾分かマシである
ソレは目に見えぬ覇気に近いイメージでありながら完全に視界に捉えられる程の濃密かつ濃厚な死の香りを醸し出しており、もし素人が不用意に触れたのならば永劫の苦しみを進呈されたに違いない
そして、ソレが先刻まで自分がいた場所に落下してそこの見えぬ大穴を開けるにいたる
「…………」
絶句するしか出来ない格が違いすぎる
コレは人類の手の出していい存在ではない
今までの経験上コレは逃げた方が良い
そう魂までもが叫び出しそうになるが
体は一歩も引かなかった
魂も黙り出す
でも、此処で逃げたらソレこそアイツらと同じだ
私を嵌めたアイツらと
クイーンズブレイドを辞めさせられるキッカケになった事件
ソレ以来私の心は汚れていった
前は確かに存在していた矜持と尊厳
騎士としての誇りすら私の荒んだ心にはナニも響かなかった
私が尊敬していたのは
信頼していたのはこんなんじゃない
そう魂が悲鳴を上げて王都を去った
そして、酒に溺れ金に溺れ
此処まで来てしまった
もう二度とナニを為せるとも思っていなかった
本気でぶつかって成長を得られると思っていなかった
人生の絶頂を迎えた私はただ、ただ落ちていくのがサダメと受け入れようとした
けれど、アイツが
地龍が目の前に立ちはだかり
本気でぶつかった
心はまだ荒んだままだが前よりは澄み渡っている
此処で成さずにナニを為す?
正義を…騎士道を守れずして何が騎士だ
私は
俺は!!
「ほお、此処に来てその成長……成る程奴が入れ込むの理解したわい…ふふ、久方振りに沸るのう」
「ふん、アンタの評価なんていらねえ、オレは俺のやりたいようにする」
そして、二つの閃光がぶつかる
激しい轟音に揺られながら白露は
『君は一体何を望むんだい?』
力
『力と一口に言うが君の願望は複雑過ぎるよもう少し簡略的に言ってくれないか?』
全てを惑わし混乱させて味方の力になれる力
『うん、捻くれた力の願望だね』
そう?
『本来は全てを壊す力とか全能とか、そんなんを要求するんだよ彼女のようにね?』
……彼女と僕は違う
『そうだね皆違う、けれど無欲も罪だよ?』
どうして?
『例えば……そうだね一人の男が居たとする』
うん
『その男はとある村人に言われて村を救った』
うん
『そして、何も受け取らずこれと似た様なことを死ぬまで続けて最後は誰にも信頼されずに死んだ』
え?
『そう思うよね?でも、コレには理由があるソレは、無償のものより怖いものは無いってね』
?
『人は難儀な者でね助けられる分には良いけどソレが何度何度も繰り返されるとソレが罠じゃ無いかって疑うんだ』
何ソレめんどくさい
『うん俺も思う、でね、そうならない様にする為には報酬を要求するんだよ』
なんかせこくない?助けてくれって言ってる人に『金はあるのか?』って聞くのは
『まぁ、そうかもだけど、そうやって変に疑りを入れられるよりかは良いでしょ?』
まぁ、そうだねあと
『わかってる、今外で戦ってるのは【魔王ファブニール】の成れの果て、あのアザトースが実験に実験を重ねたある意味の進化の果てとも言えるね』
ファブニール?
『まぁ、ソレは今度知るとして、君には此処から出たら彼を解放して欲しい……僕の唯一の友人を』
どうして?
『彼は…俺の唯一の友でライバルでな、あんな奴に操られるのは癪に触るからだ』
そう、わかった解放するよ
『頼んだぞ』
「来い幻惑乃王【ファントム・パレード】」
此処から戦闘は混迷を極める
ファブニール
こんな形で出す予定では
なかったのに…




