黒い物体
ヒッチコックの「鳥」が名作であることは有名だったが、テレビのロードショーやスクリーンでしない限り観ることもなかった。
家に八ミリフィルムや映写機はあったが、ヴィデオはベータのテープはなかったから。
たぶん昔にやっと、恐怖映画として観た。
ちょうど、鳩のふん公害やら酸性雨で銅像も頭皮も剥げると言われた時期に、トラウマを植えさせることに使命感を燃やすテレビ局のお陰だろう。
今ならバイオハザードのカラスの目の方が怖い。
学生時代、高架下に夕方になると大量にたむろしている姿を「あの道は恐怖だ」と誰かしら言っていた。
「わたりだよ。北にいるはしぶととちがって怖くはない」
先生はそう言われた。
はしぶととはしぼそ。
害鳥として愛されはしない。
貧弱で肉食もまともに食せないような、おろかな学生にとってのこたえは
「食えますか?」
だった。
こいつら羽毛のダウンを着て羽毛布団を買ってもらって4年で棄てる。そいつらが羽をむしる?そいつが捌くのか。
しりとまんことちんこをやおい穴と誤解する馬鹿どもが?
そうだ、ここにいる連中は知ることはない。
8割の推薦組。
残りの滑り止め国立組。
全員が全員「ぼくはもっとアタマがいい大学へは入れたはずなのだ。そうだ、仮面浪人だ」と自分自身を偽りさいごに「卒業者3人」とかの現実を知るのを知らないでいる。
「カラスはばかで篭にかかる。足を括って田んぼに吊るすまでが大変」
年よりは笑うんだ。
生きて喧しいと近所迷惑といわれるほど鳴く。だが、その間はアタマのいいカラスは近づいてはこん。ウチの土地には。
さっきばかだと言ったのに……。
鳥避けのお守りは目玉だったりカラスのおもちゃだったり風船の虎だったりする。
おおとしよりは「そんなもん効きやせんわ」と笑っていた。
わたりは時期が来たら行ってしまうのに。と、先生は残念なものいいしかしなくなっていた。全部が全部余裕がない時代になったから。それはとても寒い夏の季節でキャベツが1000円したり米を輸入したり棄てたりするひどいひどい欺瞞なじきと重なったのだ。
そして私はその高架下のやつらがからすではなくコウモリだと気がついたときに絶叫した。どおりで羽尾とはしないと思った。