いつも一緒にいる幼なじみが俺に激重感情を抱いていた
・日常シーン
金曜の放課後、俺は自分の席に座り窓の方を見て1人考え事をしていた。
「友紀、お前何黄昏てんだ?」
声のした方向へ振り向くとそこには友人の大我が立っていた。この時間はいつも部活に行っているはずなのに珍しい。
「そう言うお前はサボりか?」
「バカ、今日は部活休みなんだよ。昨日まで大会があったから体休めろって言われているの!」
確かにコイツは昨日まで大会かなんかで学校を休んでいた気がする。
「なら休めるためにとっとと帰れ」
「冷たいなぁ。お前だって帰宅部だから学校にいてもすることないだろ。せっかくだし一緒に帰るか?」
「悪いが先客がいるからお前1人で帰れ」
「先客? ああ、長内さんか」
コイツはいつも変なところで察しがいいな。
「そう、あいつが用事を済ませるまで待ってなきゃいけないんだ」
「なるほどね。じゃあ、長内さん来るまで俺とおしゃべりしようぜ。最近大会で話せてなかったし」
「今更話すことも特にないだろ帰れ」
「つれない奴だねえ。なんかいい話題……。そうだ、お前の待ち人である長内さんの話でもしない?」
「嫌だ」
「なんでそんな嫌そうな顔してんだよ。文武両道、完全無欠、綺麗で優しく男女共に人気が高い。そんなスーパーガールな君の幼なじみのお話よ」
それはさっきまで考えていた俺の幼なじみのことだった。コイツの言い方だと大げさに聞こえるかもしれないが内容はあながち嘘ではない。試験ではどの教科もいつも5位以内にいて、体育祭に出れば運動部を差し置いて活躍し、文化祭ではバンドのボーカルの代打として出て大盛況。どこをとっても非の打ち所がない才女であることは否定できない。
「そのスーパーガールについて今更何を話すんだよ」
「いやさ、なんか俺もたまに聞かれんのよね長内さんの好みとか趣味とか。長内さんって自分の事そこまで話したがらないからさ。お前、長内さんの幼なじみの友達なんだから知らないのって」
「本人が話したがらない内容を俺が言うわけないだろ」
好物は分からなくもない。俺が好きな物やプレゼントする物をアイツは好む傾向がある。だが、それ抜きでアイツが好きな物はと聞かれると分からないと言うのが本音である。まあそこまで律儀に伝えてやる必要はないだろう。
「ちぇ~。口の堅い奴め。お、来たみたいだぞお前の待ち人」
そう言われ教室のドアの方を見るとそこには顔の側で小さく手を振る俺の幼なじみの長内美弥の姿があった。
数分後、俺は美弥と一緒に帰路に着いていた。俺はいつも通り美弥の話の聞き役に徹していた。聞いているうちに美弥はまた新しい話題を持ち出してきた。
「そう言えばさ、進路希望調査来たよね? とも君はどこにするか決まった?」
「……それ聞いてどうするつもりだ」
「え? 同じ大学を書くに決まってるじゃん。高校を決める時もそうだったでしょ?」
やはりそのつもりだったか。心の中でため息をつく。1年の時はなあなあにしていたが2年に上がった今、進路希望調査はこれからの進路を決めるうえでそれなりの指標となってくる。なのにコイツは何を当たり前のことをといった表情で俺のことを見てくる。
「あのな美弥、大学に行くのは遊びに行くんじゃないんだぞ。お前の将来を決めるうえでとても重要な事なんだ。お前なら俺が行く大学よりもっといい大学に入れるはずだ。お金の面でもお前の家金持ちだから問題ないだろ。俺のことは考えずにもっといい大学に行け」
美弥は高校に上がるときももっといい高校に行けるのに教師の反対を振り切って俺と同じ高校を受験した。ここらで強く言わないとコイツはまた同じことをしかねない。
「とも君が言ういい大学に受かってもとも君がいなくちゃ意味ないよ。とも君小さい頃に言ってくれたよね? 私ととも君はいつまでも一緒だって」
俺の説教は美弥の心には響かなかったようだ。仕方ない、少し厳しく言わなくてはいけないらしい。
「美弥、小さい頃はそう言ったかもしれないけど俺たちはずっと一緒にいれるわけじゃないんだ。いつか進む道が別々になって離れ離れになる。だから将来についてもう1度よく考えてみてくれ。大丈夫、別々の大学になったとしても俺の方から休みになったら必ず会いに行くから」
美弥は何も話そうとしない。今度こそ俺の思いは伝わっただろうか。
「……私の考えている将来について話したいから私の家まで来て」
「ここじゃだめなのか?」
「他の人には聞かれたくないから」
確かに自分の進路はあまり知らない人の前で話したい内容ではないかもしれない。
「分かった。行けば教えてくれるんだな?」
「もちろんだよ」
こうして行き先を決めた俺たちは美弥の家へと向かった。
「お邪魔します」
「ただいま」
声は帰ってこない。美弥の両親は共働きで2人とも夕方になっても家にいないことが多い。平日は家事を代行するお手伝いさんが家にいることもあるが今日はいない日みたいだ。
「さあ、私の部屋に行こ」
「そうだな」
俺と美弥は足早に美弥の部屋へと向かった。
「それで家まで来たから教えてもらおうか。お前の未来設計を」
正直、あまり考えてなさそうに見える美弥にそんな大層な計画があるとは思えないが本人が言いたいのであれば聞こう。俺が部屋に入るなりそう聞くと美弥はベッドの端に腰かけた。
「話すからこっちに座って」
美弥に従いベッドの上で胡坐をかく。相変わらずデカいベッドだなと思っていると美弥が俺にじわじわと近づいてきていることに気づいた。
「美弥少し近く……」
それ以上言葉を続ける前に完全に油断していた俺は美弥によっていとも簡単に押し倒された。
「は?」
意味が分からない。俺は美弥の家にコイツの将来について聞くために来たはずだ。それが何故ベッドで美弥に馬乗りされているのだろう。
「おい、美弥ふざけるな。早く解放しろ」
俺と美弥は身長差はあまりないはずだが普段から運動している分、美弥の方が筋肉量が多いようだ。要するに力では全然敵わない。一応抵抗を試みるがうんともすんとも言わない。
「ふざけてないよ。私言ったでしょ? 私の考えた将来について話すって」
自由に動かせる首を動かして肯定する。それを聞くためにここまで来たのだ。
「だから教えてあげる体を使って」
今、美弥はなんて言ったんだろうか。俺の耳が正常なら体を使って教えると言っていた気がする。
「いや待て、なんで体を使う必要がある」
「だってそれが1番分かりやすいかなって」
そう言うと美弥はワイシャツの着ているボタンに手をかける。
「待て待て頼むから手を止めてくれ」
「さっきからとも君待てばっかり。もういい加減に覚悟決めなよ」
「覚悟って何の」
「え? そりゃパパになる覚悟だよ」
美弥は何を当然と言った風にそう言い放った。
「うぉぉ……」
「ちょっととも君暴れないでどの道とも君の力じゃ私をどかせないよ」
抵抗しないわけにはいかない。今から狼に襲われることが確定していて逃げようとしない子羊なんていないだろう。ただ力の差は歴然で数分経って俺は息を切らしていたが美弥は笑顔で俺に跨っていた。
「ぜぇぜぇ、美弥一旦話をしないか?」
力での抵抗は失敗に終わったため今度は会話することで解放される道を探ることにした。考えてみれば人は考える生き物だ。力で解決するより話して解決する方がずっと簡単なはずだ。美弥もきっと間違った思考に陥った結果、泣く泣くこのような暴挙に出たに違いない。というかそうであってほしい。
「そうだね。無理矢理よりお互いに合意があった方がいいもんね。いいよ何から聞きたいの?」
美弥にも理性が残っていてくれたようでひとまず延命した。脳みそをフル回転させ疑問を絞り出す。
「そもそもどうして将来について聞いたら俺とその……子供を作ることになったんだ」
「まず私ってとも君の事好きじゃない?」
「まあ嫌いではないだろうな」
嫌いな奴と10年以上ずっと一緒にいるほど美弥も物好きではないだろう。
「ああ、好きって恋愛的な意味というか異性としてって意味だよ?」
「なっ」
頭をトンカチでガツンと殴られたくらいの衝撃だった。美弥が俺を異性として好き? 今までそんな素振りあっただろうか。少なくても俺は分からなかった。
「やっぱり気づいてなかったか。私がずっと隠していたのもあるけどとも君鈍いね」
「……それが本当だとしていつからそうだったんだ」
「もう幼稚園の頃にはそう言う意味で好きだったよ」
ほとんど出会った当初じゃないか。そんな昔から好かれていたなんて。
「そうだったなら告白して恋人になりたいとか思わなかったのか」
「もちろん数えきれないほど思ったけど、とも君は私を異性として意識してないじゃん? だから告白しても成功する確率低いかなって」
恋は盲目とよく言うが美弥は計算して恋愛していたようだ。
「そこまで分かってるなら今こんな状態で想いを伝えても意味ないって分かるんじゃないか」
なんか挑発しているみたいになってしまった。美弥の表情を伺うと余裕そうに笑みを浮かべている。
「そんなことないよ。私に好きって言われてとも君揺れてるでしょ。なんで俺なんかを好きなんだって」
図星だった。美弥は頭がいいし美人だ。その気になれば俺よりいい男と簡単に付き合えるはずだ。
「分かってないなとも君は。前提が間違ってるよ。私が頑張るのは全部とも君のためなんだから。とも君に綺麗だと思われたいから美容に気を使ってるし、とも君に賢いと思われたいから勉強を頑張るし、とも君にカッコいいところ見せたいから運動も頑張るんだよ」
「美弥……」
言葉が上手く紡げなかった。知らない所で俺が美弥の原動力になっていたのか。
「で、頑張ってここまで来たから後はとも君と赤ちゃん作るだけだなって」
「結論まで飛躍しすぎだろ。どうしてそうなった」
先ほどの俺の感動を返してほしい。で、じゃないが。
「だって私たちの両親に許可もとったし後はとも君だけだよ」
「今何て言った」
なんか信じたくないワードが聞こえた気がする。
「え? だから私ととも君の両親に子供作っていいか直接聞きに行って許可貰ったから後はとも君だけだって」
「俺たちの親はなんで許可出しているんだ」
「どちらも孫の顔が早く見たいって」
気が早すぎだろ。せめて成人するまでは待っていてくれ。
「俺たち高校2年生だぞ。これからどうするつもりだ」
「大丈夫、私子供産んで安定したら時間見つけて株始めるから。今お父さんに教えてもらいながら準備してるの。成果も出始めてるし私たちの子供育てる頃には実際に仕事に出来ると思う」
美弥はデイトレーダーとやらになるつもりか。だがそうすると疑問が残る。
「仮に美弥はそれでいいとして俺はどうするんだ」
「とも君料理とか掃除が得意だから専業主夫として私を支えてほしいな」
こう言っているが料理や掃除は美弥も並み以上に出来る。そして俺と過ごしている時の美弥はわりと率先して自分の出来ることはするタイプだ。だから美弥の言う通りにしたら俺は専業主夫とは名ばかりのヒモに成り果てることは目に見えている。
「断る。お前に飼い殺しにされるわけにはいかないからな」
「私の側にいてくれたらずっと不自由にはさせないよ」
「でもそれ相応の自由もなくなるだろうが」
「そこは目をつぶってほしいな」
美弥がウインクしてくる。そこは頼むから否定してほしかった。
「つぶれるか。俺だってまだ自由を謳歌したい。せめて大学卒業してそれでも美弥の気持ちが変わらなければ考える」
今の俺が出来る最大限の譲歩がこれだ。せめて大学生活までは楽しみたい。出来れば恋愛もしたい。今まで美弥以外の女性に縁がなかったので難しいとは思うが。それで駄目だったなら俺も腹をくくるつもりだ。美弥の方を恐る恐る見ると美弥はとても冷たい目をしていた。
「それは困るよ。大学入ったら行動範囲が増えて流石にとも君に近づく女の子全員に釘を刺すの難しくなってくるし。万が一他の女の子と恋が始まっちゃったら私おかしくなっちゃう」
「……ちなみにいつから釘を刺してた?」
「幼稚園の頃には始めてたかな」
早すぎだろ。美弥の執着心を舐めていた。俺がこれまでの人生で美弥以外の女性に縁がないのは俺だけの問題ではなかったらしい。
「お前、それ俺じゃなかったら完全にアウトだからな」
正直、俺でも完全にアウトだと思うが幼なじみ補正でギリギリセーフ判定にしている。
「とも君以外にそんなことしないよ。私が今までとも君が出会ったどんな女の子より幸せにするから許してほしいな」
「俺は幸せを押し付けられるつもりはない。それに……幸せっていうのは2人で協力して作っていくものだろ」
正直、俺はまだ恋とか知らないから恋に夢見ているところはあると思う。すると美弥は目を輝かせ俺に抱き着いてきた。
「やっぱりとも君好き。2人で幸せになろうね」
「ちょっと離れろ。別にお前ととは言ってない。いい加減諦めて俺を解放しろ」
美弥が俺から上半身を離す。その顔は少しムッとしているように見える。
「とも君もそろそろ観念したら。とも君からしたら後の人生働かずに美味しい物食べて美人なお嫁さんと気持ち良いことする毎日だよ。どこが問題なわけ」
自分のこと美人って言うな。いや、美弥は贔屓目抜きにしても綺麗な部類ではあるが。美弥の提案は魅力的だが乗ってしまったら最後、ダメ人間になることが確定する悪魔の甘言だ。
「もしお前に捨てられたら俺は何も残らなくなるだろ」
「とも君を捨てるなんてありえないよ。とも君がどうなっても私は一生愛し続ける自信があるから」
美弥の目から再びハイライトが消える。怖いからさっきからその目やめてくれないだろうか。
「もう諦めて楽になろうよ。私初めてだけど精一杯気持ち良くするから」
美弥の顔は僅かに赤みを帯び妖艶な笑みを浮かべている。なんだかこちらも今更ドキドキしてきた。まずい、退路を悉く塞がれて美弥とそういう行為をするのも仕方ないと思えてきた。しっかりしろ俺。このままではパパになってこれからの人生全て決まってしまう。
「待て、話し合えば分かる」
「もう十分話したでしょ。往生際悪いよとも君」
そうなのである俺が聞きたいことも聞きたくなかったことも全て美弥から聞いてしまった。時間を引き延ばすために話をするのも限界が近づいている。何かないか何かないかと頭を働かせ俺が至った結論はなんとも馬鹿げた作戦だった。
「分かった。俺も覚悟を決める。だから美弥その前に俺とキスしてくれないか」
美弥が口元に手を添える。目は心なしか潤んでいるように見える。
「とも君からキスしたいって言ってくれるなんて……。分かった。いつでもいいよ」
そう言って美弥はその目を閉じる。俺は呼吸を整え美弥の顔に自分の顔を近づける。俺たちの距離は少しずつ縮まりやがて1つに重なった。
「はぁはぁ、と、とも君そろそろキシュはもう……むぐっ」
ファーストキスから何分経過しただろうか。いや、もう何十分も経っているかもしれない。俺と美弥は未だにキスを続けていた。正確には俺が美弥を離さずその唇をずっと奪い続けていた。最初は軽く触れ合うくらいだったキスも今では俺が舌で美弥の口内をこじ開け蹂躙するようになっていた。美弥もはじめは余裕そうにうっとりとしていたが現在はその余裕は消え肩で息をしている状態だ。美弥が残った力を使って俺を何とか引きはがす。
「はぁはぁはぁ、もう大丈夫だから次の段階にいこ? じゃないとこれ以上したら私……」
そう言う美弥を俺は鬼気迫る勢いで抱きしめ再び口を塞ぐ。美弥は悲鳴にもならない声を出そうとしている。顔はもうこれ以上ないくらい真っ赤になっていることだろう。そうしてまた気が遠くなるくらいの時間キスを続けていると美弥がこちらにだらんと倒れてきた。慌ててキスを中断し美弥を受け止める。
「……もう駄目。力が入らない。頭がとけちゃうよ……」
この瞬間、俺は作戦の成功を確信した。俺の作戦はキスで美弥をダウンさせるというものだった。童貞の俺には不可能に思えるこの作戦だが相手である美弥だって経験豊富なわけではない生娘である。こちらの理性さえ強く持てば勝率はゼロではないはずだ。途中、何度か理性が死にかけそのまま美弥を襲いたい気持ちが吹き出したが最後にはなんとか成功させることが出来た。俺は美弥をベッドに寝かし立ち上がる。
「力で勝てなくても口で勝てなくても美弥の言う通りには動かないからな」
いや、力では勝っていないが、キスでなんとかしたのである意味口では勝ったといえるかもしれない。美弥は肩で息をしながら悔しそうな表情を浮かべている。
「むー、いいもん。今日はとも君からいっぱい熱々なキスしてもらったし。それにとも君だって私のこともう異性って意識しちゃったでしょ」
それは否定できない。今も煽情的な姿でベッドに寝ている美弥に興奮しないかと聞かれればしないとは言えない。今日人生最大の危機は回避したがそれでも美弥が恋人になる確率はゼロから一気に現実的な数字まで跳ね上がった。
「だからと言ってお前と付き合うとかましてや結婚とか子供作るとかはまだ思ってないぞ」
「まだでしょ? もう私の想い知られちゃったからもう手加減しないよ。全力でとも君を手に入れてみせるから」
「やれるもんならやってみろ」
あまり挑発してはいけない奴な気がするが余裕を持ったようにそう答え美弥の部屋を後にする。実際は理性カツカツで今からでも美弥を襲ってしまいそうなのだが。ドアを閉める前、最後に見た美弥の顔には笑みが浮かんでいた。
「友紀今日も黄昏てるな」
月曜の放課後、窓の方を見ていると今日も大我に声をかけられた。
「今日もサボりか?」
「いつもサボってるみたいに言うなよ。今日は今から行くから」
「で何の用だ」
「お前今日なんか調子悪そうだったからさ。ちょっと心配したわけよ」
俺の不調はコイツにも見抜かれていたのか。俺もまだまだだな。
「金土日と美弥に付き合ってて少し疲れただけだ」
「おお、長内さんとお熱いね」
「お前そろそろ行かないと遅れるんじゃないか」
大我が壁にかけてある時計の方を見て顔を青くする。
「やべ、遅れる。まあ詳しい話はまた明日教えてくれ。じゃあな」
俺の返事も聞かず大我は急いで教室から出て行った。そうして開けっ放しにしたドアの側に俺の待ち人である美弥が立っていた。視線が合った美弥が教室に入ってくる。
「とも君帰ろ」
美弥の顔を見て昨日までの記憶が蘇る。俺は金曜に美弥に襲われかけたわけだが土曜、日曜と美弥は俺の家に襲来した。美弥は俺に積極的にアタックしてきてそのせいで体力のない俺は疲れ果ててしまった。
「今日は俺の家行かないぞ」
「じゃあ私の家行こうよ。夜まで誰もいないし」
「おい、馬鹿」
放課後とはいえまだまばらに人はいる。だが運良く誰も聞いていた人はいなかったようだ。
「大丈夫だよ。聞かれても問題ないように外堀は埋めてあるし」
周りに何と言っているのか非常に気になるが内容が怖いので聞かないことにしよう。
「もう俺も色々限界なんだ。勘弁してくれないか」
そう言うと美弥はニヤリと笑い俺の耳元に口を近づけた。
「はやく限界になって私をママにしてよ」
俺は思わず美弥から距離をとる。美弥は先ほどと変わらず笑ったままだ。俺はパパになる前に無事高校を卒業できるだろうか。俺は不安に駆られながらリュックに荷物を詰め始めた。