初めて願いを叶えられてしまった
例えば、『何でも願いを叶えてあげる』と言われたら。
俺は真っ先に、「コイツを消してくれ」と頼むだろう。この、周りには何故か姿が見えない、コイツの事を。
「あー、今私の事コイツ呼ばわりしてたでしょ!」
「言ってねーよ、えっと…なんだっけ。イヨだったか?」
「私の名付け親であるのになんで忘れかけてるの!」
“ぷんぷん”という擬音が周りに溢れんばかりに不機嫌そうなコイツ、通称イヨとは、何とも不思議な出会いをさせられたものだ。
「ただいま_って言っても、誰も居ねぇか。」
朝起きる、学校へ行く、授業を受けて、帰ってくる、そして寝る。毎日ひたすらこの繰り返しだ。夢があるわけでもねぇけど、こんな只ひたすら同じことの繰り返しな日々には飽き飽きだ。俺の家族である父親と母親は、去年亡くなったから、飯やら家事は俺一人でしなきゃならない。最初は親戚を頼りにしようとも思ったが、何せ親戚と言えど、育ち盛りな俺を引き取ったら食費やらが嵩んで迷惑になること間違い無しだ。そんなこんなで、俺、彼方一織はこの家で一人寂しく暮らして“ガタッ”…。
「わわわっ、帰ってきちゃった!?どどどーしよう…!?」
「な、なんだお前!?どうしようも何も、此処は俺の家だぞ!?不法侵入してんだろーが!さっさと出て行けよ!!?」
空き巣か?いや、でも俺は鍵を掛けて家を出たはずだ。じゃあ、なんで俺の家の中に中学生くらいのガキが居るんだ!?
「あ、あの、キミ、彼方一織くんでしょ?私、今行く宛が無くって、此処に泊めさせてくれないかな?」
「良いわけねーだろ…って、なんで俺の名前知ってんだよ。」
「え、えとー…そりゃあこのお家の持ち主さんでしょ?この中にキミの名前が書かれたプリントとかあったし!知ってるに決まってるじゃん!」
「それもそうだな。…いや、『知ってるに決まってるじゃん!』じゃなくてここ俺の家!知るも知らないも、それ以前になんで俺の家に居るんだよ!」
訳が分からない、何を言ってるんだ?このガキ。そもそも行く宛が無いって、家出か?だとしても、なんでよりによって俺の家に来るんだよ…。
「あのっ、えっと、わ、私!私、ね。キミのお願い事叶えるから!その代わりにこの家に当分住まわせてもらえないかな?」
「願いを叶える?んな、子供じみたこと言われて“そーですか、じゃあ泊まってください!”なんて言うわけがねーだろ!」
「そんな…だって、ほら!私お料理は出来ないけどお願いを叶えられるし…。」
「だから、願い叶えるとか言われても嘘なの分かりきってんだよ!じゃあ、アレだ。試しに夕飯を出してみろよ!作るんじゃなくて、このテーブルに急にパッと出してみろ!」
出来る訳も無いお願い事だ。キョトンとして、『やっぱり無理です、ごめんなさい。』とでも謝るのがオチだ。
「ほら、やってみろよ。どうせ出来ねーんだろ?」
「いや…そんな事で良いんだ?まぁ、コレでお家に居させてもらえるなら全然するよ!ちちんぷいぷい〜…えいっ!」
コトッ、コト、コトッ。
「は…?マジ…かよ。」
テーブルの上には、ハンバーグやら味噌汁やら、美味そうな飯が置かれていた。
「よーし!これでお願い事叶えたから、住んで良いんだよね!」
「いやいやいや待て、お前、何者だよ!?」
「んー?私は…キミのお手伝いをしに来たんだよ、一織くん。」
訳が分からない、なんだって言うんだ。俺の手伝い?何の?
「さっきまで行く宛が無いって言ってたのは…?」
「そうでも言わないと話聞いてくれなさそうだなーって思って!それに、急にそんなこと言われても頭こんがらがるだろうし!」
「既にこんがらがってるんだが!?はぁ?マジ訳わかんねー…。」
ニコニコとした笑顔で俺を見つめる謎のガキ。ここで俺が“やっぱり今の無し”とか言っても意味ないだろうし、こんなガキが不法侵入したって周りに言っても、逆に俺が誘拐したんじゃないかって疑われるんだろうな…。
「あー!もう!!!分かったよ、少しの間だけ此処で住んでいいわ。だけど、俺が誘拐したって思われたくねーから家から出たりすんなよ!あと、お前の親御さんに叱られてもお前が説明しろ。分かったな。」
「勿論、その辺は任せてよ。…それよりも、私、お前って名前じゃないんだけど。」
一々口うるせーガキだな。
「じゃあ、自己紹介しろよ。俺はお前が知ってる通り、彼方一織だ。お前は?」
「私はキミのお手伝いをしに来たんだ!名前は無いよ!」
「は?」
名前が、無い?何言ってんだ、もう本当に頭がまわんねぇ…。
「俺に名付けろとでも言うのか?」
「出来るなら!」
「はぁ…じゃあ、“無いよ”って言ってから、イヨでいいんじゃねえか。」
「…とっても良い名前!ありがとう!一織くん。」