第7話「自発的」
A組は準備を終えると、俺が指示を出した通り練習を行っていた。
「あ~」
「いや~難しいな」
選手から色々な感想が聞こえてくる。
そんな中、柏木が他の選手にアドバイスを行っていた。
「ダッシュしている中で気を付けるポイントって、
やっぱりボールが出てきてからの歩幅を意識してのスピードの減速が最初だと思うんだ。
ボールを上手に止めるはその先じゃないかな。」
A組のメンバーが練習を止めて聞き入っていた。
すると佐藤も
「俺もそう思う。
やっぱりどこでスピードを落とすかが難しいな」
「そうか?
俺は意外とわかるぞ。
なんかここらへんからスピード落とせばボールを止められるって感覚がある。
まぁ、ボールを止める技術が足りないんだけどな」
橋本が発言する。
佐藤が橋本に向かって言う。
「橋本、その感覚を言語化できるか?
たぶん監督が言ってることはそういうことだと思う。」
橋本は困った顔をして、
「う~ん。
俺は元々中学の時は陸上部も兼部してて、短距離走だったから
なんとなくわかるんだよな。
ただ、自分のストライドで50mを何歩でいけるかなんかは把握してる。」
そう説明している最中、何かに気づいた顔を橋本がした。
「みんなにアドバイスできるとすると、
100%で走るダッシュの感覚をつかむことと50%のダッシュの感覚をつかむこと。
そしたらその差をギアチェンジするやり方を各自でつかめるんじゃないかな。
そこまでできたらボールが来たら減速できるんじゃないかな。」
「なるほど」
A組全員が納得した顔をしている。
「そしたら監督に提案したいことがあるんだけど」
柏木がそう言うと
「何を提案するんだ?」
佐藤が質問する。
「俺たちの現在のレベルではこの練習よりも先にやることがある。
それはダッシュの質をあげることだ。
まずは、10mダッシュをやらないか?
橋本に100%と50%の出力のやり方を聞いてコツをつかみたい。」
橋本に向かって柏木は言う。
「俺は別にいいけど」
橋本的には問題ないようだ。
「いい提案だな。
柏木、お願いしてもいいか?」
佐藤が申し訳なさそうに言う。
「もちろん」
へっちゃらな様子で柏木が答える。
「じゃあ、監督のところに行ってくるわ」
そういって鳥海監督のもとに走っていった。
「監督」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
「なんだ柏木」
呼ばれたほうに体の向きを変える。
「相談があります。
監督からのメニューをA組でやってみたのですが、
まずボールを止める技術の前にボールに追いつく際のダッシュの減速の必要を感じています。」
そう言う柏木に
「それで?」
俺は問う。
「なので練習メニューを10mダッシュに変えて、まずはダッシュの質をあげたいとA組全員で提案したいです。」
こちらを伺う柏木
「誰が教えるんだ?」
俺も走りまでは教えられない。
「橋本が元陸上部で教えてもらいます。」
それを聞いた俺は
「そこまで考えているのか。
もちろん止める理由はない。
いいぞ、やってみろ。」
柏木に了承する。
「ありがとうございます!」
柏木はA組のメンバーに練習メニューの変更を伝えに走っていった。
「柏木か。
あいつは確か学級委員だったな。
みんなをまとめるのが上手なんだな」
後ろ姿の柏木に素直に感心していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
柏木亮
身長180cm やせ型でひょろっとした印象の選手
学校生活では学級委員を任されている。
サブ組キャプテンの宮本をサポートする副キャプテンとして
活躍する。
橋本和也
身長174cm 筋肉質でガタイが良い
元陸上部で走りに自信がある。
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