表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doubt common sense ~名選手が必ずしも名監督とは限らない~  作者: ぷやっさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/72

第6話「日本的な上手さ」

「集合」

俺の声に、サブ組が一斉に集まる。

昨日よりも声が揃っている。

目つきも違う。

“変わりたい”という空気が、確かにそこにあった。

「今日は、今のトレーニングメニューを続けながら、俺のアドバイスを加えていく。

そのうえで、プラスアルファの練習も追加する。

じゃあ始めよう」

「はい!」

サブ組が一斉に動き出す。

ウォーミングアップの声が、昨日よりも力強い。

十五分後。

「よし、二人一組でパス練習だ。

十五メートル離れて始めてくれ」

パス練が始まる。

俺は一人ひとりの動きを細かく観察していく。

やはり、ベスト16とはいえサブ組だ。

技術的には粗い。

宮本も高橋も、決して“上手い”とは言えない。

だが――

一人だけ、異質な選手がいた。

端のほうで淡々とパス練をしている小柄な選手。

佐藤守。

身長165cm。

目立たない。

声も小さい。

だが、ボールタッチだけは――

異常に美しい。

右足でも左足でも、ボールが吸い付くように止まる。

パスは一直線に味方の足元へ滑り込む。

音が違う。

質が違う。

俺は宮本を呼んだ。

「宮本。なんで佐藤はサブ組なんだ」

宮本は気まずそうに答える。

「いや……実は、みんな理由がわかってないんですよ。

ただ、走らないやつで……強度が低いって前監督が嫌がってたって噂です」

「なるほど。テクニックがあるのはみんな知ってるんだな」

「そりゃそうですよ。

もともとJの下部組織にいたらしいですから」

宮本は誇らしげに言う。

だが、その表情の奥に“悔しさ”が見えた。

「でもサブ組、か」

「……はい」

宮本はうつむいた。

俺はしばらく佐藤を観察し続けた。

そして、ある違和感に気づいた。

「佐藤」

呼ぶと、佐藤は少し驚いたようにこちらを向いた。

「トラップするとき、何を意識してる?」

佐藤は少し考えてから答える。

「ボールが来るとき、近いほうの足を判断して……

リラックスして、ギリギリまでボールを見て……

足をクッションのようにして止めます」

「パスは?」

「軸足をボールの横に置いて、出し先を見て……

まっすぐ線を引くように押し出します」

完璧な答えだ。

だが――

それは“綺麗な技術”であって、“試合で使える技術”ではない。

俺は深く息を吸い、サブ組全員に声を張った。

「集合!」

選手たちが驚いて集まってくる。

「今からパス練習のデモンストレーションをする。

佐藤、宮本。前へ」

二人が前に出る。

佐藤の技術に、他の選手たちは目を輝かせている。

デモンストレーションが始まる。

佐藤のトラップは美しい。

パスも正確だ。

周囲は感嘆の声を漏らす。

俺は同じ質問を繰り返す。

佐藤は同じ答えを返す。

宮本も他の選手も、今にもメモを取りそうな勢いだ。

その空気を切り裂くように、俺は言った。

「佐藤。お前のプレーは上手いのか?」

空気が止まった。

佐藤が驚く。

サブ組全員が驚く。

「この練習は、試合ではありえない状況だ。

だから“上手く見える”だけだ」

俺は佐藤に指示した。

「佐藤、二十メートル下がれ。

そこから全速力で俺に向かって走ってこい」

佐藤は戸惑いながらも従う。

「行け!」

佐藤が全速力で走り出す。

十五メートル、十メートル――

俺は強めのパスを佐藤に蹴った。

「トラップ!

右サイドにはたけ!」

佐藤は反応しようとするが――

ボールは足元から大きくこぼれた。

転がるボール。

止まる佐藤。

静まり返るサブ組。

俺は静かに言った。

「これのどこが“上手い”んだ」

誰も答えられない。

「サッカーは止まってボールを受けるスポーツじゃない。

走りながら、相手が迫りながら、選択肢を持ちながら止める。

それが“本当の技術”だ」

佐藤は悔しそうに唇を噛んでいる。

「佐藤を責めてるんじゃない。

むしろ、佐藤の技術は土台として素晴らしい。

だが――試合で使える技術に変えなければ意味がない」

俺は深く頭を下げた。

「見せしめみたいにして悪かった。許してくれ」

佐藤は驚き、そして小さく笑った。

「大丈夫です。

自分でも……わかりました。

状況が違うと、全然できないんだって」

「ありがとう」

俺は顔を上げ、全員に向き直った。

「いいか。

佐藤ですら状況が変わればミスをする。

だからこそ、練習しかない」

俺はチームを二つに分けた。

「佐藤を中心にしたA組は、走りながらのトラップとパス。

宮本を中心にしたB組は、まず“止める・蹴る”の土台を固める」

宮本が力強く頷く。

佐藤も真剣な表情で準備を始める。

サブ組全体の空気が変わった。

“ただの練習”が、“戦い”に変わった瞬間だった。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ