第57話「決着」
年末年始は不定期連載とさせていただきます。
宜しくお願いします。
コーチの長瀬の一言から変化した北川学園。
相沢を本当の意味で中心に置き、あの川辺も佐治もチームの為に走っている。
結局、選手は勝ちたいものだ。
「鳥海監督」
マネージャーの長峰が話しかける。
「ここからが勝負所だ。
水樹もわかっているし、うちが同点に追いついた以上負けるはずがない。」
南東京高校は水樹を中心にぶれることないサッカーを展開。
後半残り15分。
ボールを持ったのは北川学園の相沢だった。
川辺の献身的な守備からのカウンター。
佐治を含めて攻撃陣の人数は揃っていた。
「チームが連動するとこんなにもサッカーって楽しいんだな」
ドリブルしながら相沢はマジマジと思っていた。
長瀬コーチの一言から激変したチーム。
わすか5分しか立っていないが、相沢は高揚していた。
こんな時にスーパーなプレーが生まれる。
水樹をあっという間に抜き去り、1人、2人とどんどん抜いていく。
南東京高校は選択肢が複数北川学園にあるため、容易にドリブルを止めに行けない。
柏木・森山も抜かれる。
あとはGK高橋だけだった。
相沢は前から出てくる高橋がスローモーションに見えていた。
いわゆるゾーンに入っていた。
「左にかわして、決めるだけだ」
相沢は笑っていた。
この1年間、たぶん笑ってサッカーをやったことはないだろう。
「相沢、決めろ!!!」
川辺・佐治をはじめ、北川学園のチームのすべてが相沢に託していた。
「わかっている。
俺が決めてチームを勝たす!!」
今までとは違いチームの命運が本当の意味で相沢にのしかかる。
ドクン
心臓の鼓動が早くなる。
そして急に体が重くなる。
今までスローだった高橋の動きがいきなり速くなる。
今更重圧が相沢にかかっていた。
「決めさせるかよ」
シュートコースを完全に防ぐ高橋。
くっ。
横にドリブルするしか選択肢がなくなる相沢。
先ほどのイメージとやっていることは一緒。
しかし、ここで経験の差がでてしまう。
横にドリブルしたボールに少しだけ触れた高橋。
ボールが相沢の元から遠ざかる。
「やっぱり2年坊には荷が重いか」
そのボールを後ろから奪い取る影。
南東京高校キャプテンの宮本だった。
「そんなすぐにチームを背負えたらあいつが怒るわ」
そう言うとゴール前まで戻っていた水樹にパスを出す。
「くそ~」
奪われたボールに向かって凄い勢いで相沢がプレスをかけに行く。
「相沢、惜しかったな。
でもなお前が今まで背負っていたものは本物じゃなかったんだよ」
追いかけてくる相沢を後目にドリブルを開始する水樹。
相沢とまったく同じことをやり返し始める水樹。
佐治を抜き、川辺も抜く。
そして、最後にいる軽井沢をも簡単に抜く。
「なんでこんなにちがうんだよ」
あと一歩で追いつきそうな相沢。
しかし、GKとの1対1までもう時間はなかった。
だがここで水樹のスピードがゆっくりになったような気がした。
「追いつける!!」
相沢は後ろからボールに触ろうと足を伸ばす。
「相沢、やめろ~!!!!」
北川学園ベンチの長瀬が大声で叫ぶ。
「この経験を糧に頑張れるかはお前次第だな」
そう相沢に言い放つと、水樹はボール少し前に出して倒れる。
ピィー。
主審が笛を鳴らし、指さした場所はペナルティスポットだった。
ファールの場所はペナルティエリア内、決定的な場面の阻止。
胸ポケットから出されたカードは黄色だった。
一瞬ほっとした北川学園だったが、
相沢の顔が真っ白になっていく。
2枚目だ。。。
ほどなくして主審が出したカードは赤色。
「きみ、残念だけど2枚目だ。退場してくれ」
無情な宣告。
厳しい言い方になるが、南東京高校が後半狙っていたことは相沢の退場だった。
狙った通りになったが、鳥海も水樹も喜ばしいことではなかった。
ただ、勝つには相沢を狙うことが一番だった。
必要以上に水樹が相沢と対峙していたのはその為だった。
11対10になる以上の痛手。
グラウンドを去る相沢のその姿が現すように勝負が決まった瞬間だった。
その後の展開は一方的。
相沢を失った北川学園は結束こそあったがただボールを追うだけだった。
結果は、6対2
スコアの上では南東京高校の圧勝だった。
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