第55話「背負う姿」
後半、北川学園のボール回しが変わっている。
川辺を中心としたロングキックメインから、ショートパスでのつなぎに変化。
1点リードしている北川学園からしたら至極当然。
ボールをできるだけ保持したいに決まっている。
そのボール回しの中心が相沢と軽井沢だ。
後ろ4バックから軽井沢がボランチの位置にあがり、
もともといた川辺がトップ下の位置へと動く。
相沢と軽井沢が横パスを使いながら、時間を有効に使い、
縦パスを川辺に入れることで攻撃のスイッチが入る。
そこから先は川辺と佐治次第で先ほどの二人は攻撃参加はしないようだ。
これもひょっとしたら何かに配慮している影響かもしれない。
「長瀬」
北川学園監督の北沢がコーチの長瀬を呼ぶ。
「はい」
呼ばれた長瀬は北沢の近くに寄る。
「なぜ川辺を使わずに軽井沢が中盤で相沢とボールを運んでいるのだ?」
自分のプランを変えられていることに不満なようだ。
「前半のように川辺からのロングパスだとボールを失いすぎます。
それに低い位置で川辺を使っているようだと川辺の攻撃力が生かしきれないので
変えました。」
言っていることは間違ってはいない。
「ならいいが、勝手に変えて負けたらどうするのだ」
ぶつぶつ言いながら、長瀬に元の場所に戻るよう伝える。
長瀬からすればベストな選択なのだが、
理解できない人にはいつまでたっても理解されないのであった。
北川学園のポゼッションの形が変わったのを見て、南東京高校のプレスが変わる。
相沢に水樹がマンマーク。
軽井沢には一番近くにいる選手がマークを行う。
「相沢、カラクリがわかった以上自由にさせないぞ」
攻撃の要である水樹自らマンマーク。
「お手柔らかにお願いしたいです。」
相沢ももちろん負ける気はない。
後半はどちらが自由にプレーできるかが勝負のカギになる。
北川学園は相沢を中心にポゼッションを
南東京高校は奪ったボールを水樹に預けてカウンターを行う対照的な展開。
後半もう15分は立とうとしていた。
両チームとも想定済みのシチュエーションだったが、
一人この状況にしびれを切らした選手がいた。
北川学園の川辺だ。
「相沢、いいから寄こせ」
相沢が迂回経路を作った軽井沢へ横パスを出そうとしたボールを途中でカット。
センターサークル付近から佐治へ向けてロングパスを出そうとする。
「川辺さん何するんですか」
さすがにこれは許容できない。
「うるせえ。
もう一点取ればいいんだろ」
そう叫びパスを出す。
「相沢も苦労するな。」
水樹は相沢の状況を憂いていた。
そんなシチュエーションを無視したパスが通るわけがない。
後ろからプレスをかけた加藤に川辺はボールを奪われる。
相沢と軽井沢は両サイドに広がっているし、
変形した3バックの両サイドもパスを受けれるようにひらいていた。
つまり加藤の前には一人しかいない。
加藤自体はドリブルが得意な選手ではないが
ドリブルを仕掛けるフリをする。
対峙したCBはリトリートするしかなく、後方へ下がる。
下がるということはオフサイドラインも下がるということだ。
「しまった」
相沢は川辺の勝手な行動にあっけを取られていた為、
マークしなければいけない選手を見失っていた。
「まぁ、俺に抜くのは無理だしな」
後方から上がってくるのを待ってスルーパスを加藤は出す。
後ろに下がったDFの後方へ出たパスは、
トップスピードで上がってきた水樹へ渡る。
DFは追いつくことができず、
GKと1対1。
水樹がなんなく決め、同点になった。
決めたボールを持ちながら水樹は相沢の横を通ると
「いつまでもこんなサッカーじゃうちには勝てないぞ。
もっと本気で来いよ」
歯がゆい想いは敵である水樹も一緒だった。
「どんまい、まだ同点だ。」
相棒の軽井沢が相沢に声をかける。
天を仰ぐ相沢。
あまりにも多くのものを背負うその姿は、相手監督の鳥海からしても痛々しかった。
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