第54話「全容」
森保監督が未だに指揮していることが日本サッカーの評価制度の限界だと感じています。
後半が開始する。
選手たちがボールを追いかけている姿を見ながら
南東京高校ベンチでは、鳥海と長峰が後半の展開を話し合っていた。
「選手にはごちゃごちゃ言うと混乱すると思っていたから、
端的に相沢と軽井沢のチームと伝えたけど、君にはしっかり説明したいと思う。」
鳥海がいかにマネージャーの長峰を信頼しているかがわかる。
「まずは、守備面だ。
川辺を中心に動いているように見えるが、彼自身の動きに注目するとむちゃくちゃだ。
水樹に食いつくだけで後ろとの連携はない。
声だしの指示もよく聞くと自分のミスを消すための指示しかしない。」
「それに比べて相沢は賢い。
川辺が勝手に動くのを的確にフォローしている。
前半も一番危ない場面は彼がファールで止めたりしている。」
本当に理解している人間からしたら、川辺が相沢に意見を言っていることが不可思議だ。
「前半うちの攻撃がオフサイドに結構なっていたのも意図的ですか?」
長峰が気になっていたことを質問する。
「そうだね。
現象だけ見るととても不思議だった。
相沢というピースが見えていなかったからね。」
「普通FWがDFの後ろのスペースに走り出す際は、
当然味方のMFなどがボールを蹴れる状態でスタートする。
だから、それに合わせて相手DFはラインを後ろに下げる。
逆に相手DFはボールが前方に出てこない状況ではラインを押し上げる。
このラインの上下を行うのが基本だ。」
「確かにうちの父もそう言っていたと思います。」
長峰は父とは今ではサッカーの話はしないが小さい頃からよく戦術論を聞いていた。
「そんな基本がある中でどんなシーンでも加藤が決定的な走り出すたびに
DFラインがオフサイドトラップを仕掛けることで防いでいた。」
「はい」
「普通はそんなリスクは冒せない。
だが今思えば当たり前だ。」
「当たり前ですか?」
思わず聞き返してしまう。
「ここで出てくるのは川辺の動きだ。
バランスを勝手に崩す為、パスの出しどころの防ぎ方が後方のDFにはわからない。
その苦肉の策が相沢と軽井沢の動きだ。」
「相沢が相手のパサーにプレッシャーをかけることがイコール危ない場面という風に
DF陣の共通認識になっている。
その瞬間に全員がDFラインをあげる。」
「でもそれだと相沢くんのプレスが間に合わなかったら、裏に簡単にパス出されちゃいますよ。」
もっともな疑問を長峰は問いかける。
「その対処はSBの軽井沢が行う。
彼がオフサイドトラップが間に合わないと判断すれば、
彼自身がラインを下げる。
それに彼の本職は多分CBだろう。
裏抜けしたFWとの1対1に負けない自信がないと成り立たない。」
「なるほど。
だから加藤くんや佐々木くんみたいに裏抜けが上手な人ほど
抜け出るタイミングはわかりやすくて
オフサイドトラップにいっぱいひっかかったってことですね。」
納得した顔でこちらにうなずく。
「相手としてセオリー通りな方がサッカーIQの高い相沢も軽井沢も対処しやすかったみたいだな。」
格闘ゲームでも最初の一戦は素人のほうがわけわからずやりづらいもんな。
「それで相沢くんがグラウンドの外にいたタイミングでラインがどうしていいかわからず、裕馬のドリブルに対処できなかったってことですね。」
「まぁ、水樹の個人技があってだけどね。」
実際6人抜きなんて誰でもできるわけじゃないからな。
「相手の守備はわかりましたけど、攻撃はどうですか?」
貪欲に質問してくる。
「攻撃は川辺と佐治のホットラインは脅威だ。
それは相沢も認めているだろう。
基本は二人にお任せだ。
ただ、相沢は常にボールを引き出す動きは秀逸だ。
それと連動して軽井沢が上がっている。
はたから見ると軽井沢の無駄走りが目につくが、
ちゃんと二人にフォーカスすると川辺と佐治がダメなことに気づく。」
「得点シーンもシュートのこぼれのフォローに左右からの揺さぶりでのアシスト。
二人は常にベストの選択をしているよ。
この二人が表立って活躍出来たらかなり上位に進出できると思う。
まぁ、うちは東京を制覇するチームだけどね。」
「だいぶ理解できました。
後半でうちはどうしたらいいですか?」
「水樹には伝えたが、
後半の狙いは・・・」
うちの後半の狙いはなんなのか。
上手くいかなければ南東京高校の勝利はないだろう。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!




