第53話「後悔」
<北川学園サイド>
北川学園がなぜ今年のシード権を失ったか。
それは昨年北沢監督が起こした体罰問題だった。
行き過ぎた指導。
長年監督の座に座り続けた北沢を止めるものはいなく、
やっと明るみにでた問題だった。
学校側は即時に対応。
北沢を半年の謹慎および当チームをインターハイ予選の自主不参加を行わせる。
昨年の3年生は、冬の選手権予選を待たずに全員引退。
どの学校よりも早い新チームの結成となった。
学校側は北沢を監督に戻すつもりだったが、2年生を中心とした選手側が拒否。
北沢が謹慎中から戻ってくる間にどうするかを議論していた。
その時に新チームを任せられたのが、今のコーチである長瀬だった。
北川学園卒業生で北沢の教え子でもある。
現役中は北沢の指示に従わずに干されていたが、
同級生から評価を聞けば長瀬が一番だと口をそろえて言うだろう。
長瀬は母校の危機に駆け付け、わずか3カ月でチームを立て直した。
決して結果はついてこなかったが、それでも選手たちは満足していた。
サッカーを楽しんでいた。
北沢が戻ってくるまでは。
学校側が出した結論は北沢の監督復帰。
これに反発したのはもちろん主力の2年生たちだった。
長瀬ももちろんできる限り選手たちに寄り添ったが、
あくまで雇われている長瀬には限界があった。
理事長に呼び出された長瀬は、
北沢の監督復帰に首を縦に振るしかなかった。
そんな長瀬にも失望した2年生は、佐治と川辺を残して全員が退部を選択。
1年生であった相沢・軽井沢などはどうしてよいかわからずに全員が残留を決め、
今の北川学園サッカー部が出来上がる。
学校側は、北沢の長年の監督業の功績を評価するとともに、
選手としても実業団などで活躍した経歴を重視し、
何も実績がなかった長瀬を監督として昇格させることはなかった。
北沢は監督として戻ると、残留した川辺・佐治を重宝し
1年生はいつも通りにフィジカルなど目に見えてわかる部分を評価しての
選手選考でチームを形成していった。
結果はそこそこの強豪校として相変わらずだったが、
学校側としてはそれで十分だった。
学校側も火中の栗を拾った長瀬をさすがに切ることはせず、コーチとして残留させた。
これで北沢と長瀬の力関係は決まり、川辺・佐治を中心としたチームの出来上がりだった。
それでも長瀬は相沢と軽井沢を中心とした1年生に陰で戦術を教えていく。
彼らが主力になったときに後悔がないサッカーをしてもらうために。
去っていった2年生の為にも。
本当の姿を見せるのは来年だった。
北沢が来年違うチームへ移籍することが決まったからだ。
それまで我慢するつもりだった。
つもりだったが・・・
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「南東京高校はいいチームだよな」
長瀬は久しぶりに1年前を思い出していた。
自分が理想としているチームが目の前にあった。
後半はある程度北沢に反抗することがバレてしまう。
ただ今回は逃げたくない。
こんな良いチームにこのまま負けたくない。
その一心で長瀬は選手を送り出したのだった。
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