第52話「やっと」
<北川学園サイド>
前半終了間際の失点。
点差はまだ1点あるが、雰囲気はさらに悪化していた。
監督の北沢は選手を集合させて非難の嵐だ。
そこには川辺も含まれ、守備陣が許した6人抜きゴールがさらに怒りをよんだ。
一通り怒ったことで満足したのかミーティングが終了。
貴重な修正時間である15分が残り数分になっていた。
「ったく、こんな所で負けるようじゃ私の経歴に傷がつくのをわかっているのか。」
選手たちがいなくなり、コーチの長瀬にしか聞こえないよう北沢はつぶやく。
「確か北沢監督は来年から埼玉県の強豪校に呼ばれているんですよね?」
長瀬しか知らない情報だ。
「そうだ。
だからこそこんな所で負けるのは困るんだがな・・・
まぁ、決定しているから結果は関係ないとはいえな」
そう言い残しどこかへ行ってしまった。
「長瀬さん」
北沢の話に呆れていた長瀬に後ろから声がかる。
「相沢か・・・」
声の主は南東京高校から中心人物と把握された相沢だった。
「すいません。
自分がグラウンドの外にいる間に守備のバランスがくずれてしまって」
頭を下げる相沢。
「いや、あれは相手を褒めるべきだな。
たぶん向こうはうちの本当の姿に気づいただろう。
後半は、川辺・佐治よりおまえにプレッシャーをかけてくるはずだ。」
長瀬としては当たり前の考察だ。
「だいぶ早いがあのバカ監督に気づかせてやるしかないな。
本当の北川学園のサッカーを」
今までなんとか隠してきたが、とてもじゃないが南東京高校相手に勝つには限界だった。
「いいんですか?」
相沢は驚いた顔でこちらを見てくる。
「ああ、俺も腹をくくる時が来たようだな。」
長瀬がある選手を呼ぶ。
「後半からポジションを偽SBに変える。
相沢と二人でボールを運べ。」
「いいですけど、それだと川辺さんはどうするんですか?」
前半は川辺が中心だったため、自然に出る質問だ。
「あいつは佐治へのロングパスだけでいい。
そのタイミングの時だけボールを預けろ」
「わかりました。
やっと本当の姿が出せますね。」
「本当はお前も本来のCBに戻して、守備陣をまとめてほしいが、
監督は背が高いとかで決めてしまうからな。」
「それはしょうがないです。
今は攻撃参加を勉強していると思っていますし。
まさか点まで取れると思っていませんから、喜び方わからなかったですけど。」
呼ばれた選手はSBの軽井沢だった。
「CBの位置からの軽井沢のビルドアップが使えない以上、偽SBでなんとか頼むわ」
覚悟を決めたとは言え、全部は変えられない。
「了解です」
そう言うと同時に後半開始をうながす主審の姿を見てグラウンドに戻っていった。
「相沢頼むぞ」
「もちろんです」
力強い返事をした相沢も戻っていった。
「本来ならお前の左腕にキャプテンマークがあるはずだったんだがな」
相沢の後ろ姿を見て自分の不甲斐なさを感じずにはいられない。
今から1年前、俺がちゃんと対応していればこんな歪なチームになることはなかった。
あいつを戻さなければ。。。
いくら悔やんでも悔やみきれない。
長瀬はこの1年間後悔しかしていなかった。
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