第51話「意識の方向」
急にドリブルのギアをあげた水樹。
その視線の先に北川学園のボランチ相沢がいるのを確認した。
そしてゴール後の水樹の様子。
なんとなくだが、監督の俺にも状況は理解できた。
それならと早速後半の修正に取り掛かる。
「水樹」
認識のズレがないように手早く確認したい。
「はい」
給水をしながらこちらを見る。
「違和感の正体は・・・相沢だな。」
核心にせまる。
「はい。
すべてあいつを中心に連動しています。
たぶん、川辺と佐治以外は。」
つまり下級生は川辺と佐治に従っていなかった。
「そうか」
なら考え方はシンプルだ。
「集合」
後半にむけて選手を集める。
「今から北川学園の本当の姿を伝えようと思う。
ひょっとしたら何名かは気づいているのかもしれないが、
最初から説明させてくれ。」
「まず、北川学園の中心は川辺・佐治ではなく
相沢と軽井沢を中心にしている下級生中心のチームだ。」
選手の顔を見ているとほとんど気づいてはいなかったみたいだ。
「グラウンドの外から見ていて、
川辺を水樹が攻略しても慌てないDF陣に違和感を覚えたことが始まりだ。
その後も無駄走りが多かったSBの軽井沢の1点目。
今振り返るとフェイクの意味でもあるし、
何手か先を読んで走ったタイミングが周りと、
この場合は川辺と佐治だがと合わな過ぎて逆に軽井沢が下手に見えていたんだ。
それに点を決めたあとの驚きぶりも演技だったみたいだしな」
「もちろん2点目も相沢と軽井沢に左右に振られたわけだから。
改めてあの二人にやられたわけだ。」
「ここからは憶測だが、たぶんこちらを騙す意図ではないんだろうな。
川辺と佐治、ひょっとしたら自分のチームの監督に
気づかれちゃまずい理由でもあるのかもしれないな。」
「じゃなければあそこまで川辺が相沢に怒ることもないはずだからな。」
時間がないため、一気に話したがまだ消化しきれない選手が多い。
「ここからが重要だ。
まず、攻撃陣は相手守備陣が相沢の動きと連動していると意識しろ。
川辺の声は無視だ。
相沢の動きをスイッチにDF陣は動くからな。」
「守備陣は、引き続き川辺と佐治をマーク。
この攻撃力は無視できない。
ただ、点につながる時は必ず相沢が動く。
じゃあ、全員わかったな。」
「はい!!!」
選手たちに伝わったことを確認してミーティングを終える。
後半の修正はポジションや戦術ではない。
意識をどこに集中させるか。
やっているサッカーが問題ない以上その1点につきる。
「水樹」
最後に頼みたいことを伝える。
「おまえにはやってもらいたいことがある。」
内容は簡単だ。
伝えた内容に水樹もうなづく。
「自分もそうするつもりでした。」
どうやら水樹も同じ意見だったようだ。
「監督。こんなところで負けませんよ」
水樹がらしくないことを言う。
「俺だってここで負けるチームだと思っていないさ。」
監督と選手がしっかり同じ方向を向くチームが
監督にも隠さないといけないチームに負けるはずもないだろう。
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